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特集/2022年3月号

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原材料の高騰について




値上げは商品の真の価値の見直しになる - パンアトリエ クレッセント 福島俊史店長
「パン・アトリエ クレッセント」店長の福島俊史さん
茨城県龍ケ崎市の小規模ベーカリー「パンアトリエ クレッセント」
「ゆめかおり全粒粉」100%の「ゆめかおり全粒粉カンパーニュ」(税込1080円)は小麦のうま味が堪能できる逸品
「メロンパン」は税込120円だったものを150円へ値上げし、今回価格変更したものの中では値上げ幅が最も大きかった
茨城県産小麦「ゆめかおり」100%(うち全粒粉5%)の「ゆめかおり食パン」は税込290円だったものを約10%増の税込320円へ値上げした
毎年1月に期間限定販売する「ガレット・デ・ロワ」(税込780円)も値上げしたが、数量的に見ても例年通りの売れ行きだった
 茨城県龍ケ崎市のベーカリー「パンアトリエ クレッセント」は1月から全商品を対象に8〜15%の値上げを実施。2017年から全商品で国産小麦を100%使用している同店は、外麦の高騰には影響されないものの、もともと高値傾向だった国産小麦の価格がさらに値上がりした際に、それを商品の価格に反映させなかったという。そこで、今回適正価格への値上げに踏み切ったが、店長の福島俊史さんは「リテールベーカリーのお客様は基本的にその店の商品が好きだから買いに来ます。業界の衰退を避けるためにも適正価格で商品を売る流れは必要だと思います」と話す。

1月に値上げを実施

──今回値上げすることになった経緯についてお聞かせください。輸入小麦は政府引き渡し価格が19%上昇するなど価格の変動が大きかった一方、国産小麦の相場は比較的安定してきているようにも見えますが。
福島
 輸入小麦との価格差は徐々に縮まってきてはいますが、まだまだ国産の相場は高く、相場もここ1〜2年の範囲では安定していないのが現状です。
 当店は2017年に「新麦コレクション」(新たに収穫した国産小麦の粉を使用して作ったパンの魅力を伝えていく事を目的としたプロジェクトでパンラボの池田浩明氏が主宰)の活動の一環で、茨城県産の小麦「ゆめかおり」の麦畑を見学し、その事をきっかけに全ての商品を国産小麦100%に変えたのですが、国産小麦に切り替えた後のパンの価格は、あえて僅かな値上げにとどめました。国産小麦のパンとしての適正価格よりも安めに設定しました。
 ただ当初は試行錯誤した国産小麦でのパンづくりも徐々に自分が納得できるものが作れるようになり、外麦と同じ商品を国産小麦で製造すると同時に、「ゆめかおり」ならではの特性を生かした商品というものも出せるようになりました。
 また加えて「ゆめかおり」は汎用性が高いので、ハード系や食パンなどの食事パンだけではなく、例えばクリームパンなどソフトな菓子パンもおいしく作る事ができます。
 「ゆめかおり」が持っている本来の価値を考えるともっと価格を上げるべきで、今は小麦のほか色々な原材料や物流費が値上げしていますから、今回のタイミングで思い切って値上げさせて頂いたのです。

顧客からは理解ある反応

──今は、近くにある安部農園が栽培している「ゆめかおり」の全粒粉も使用していらっしゃるのですよね。
福島
 安部農園さんでは有機農法でかつ無農薬で栽培しており、安部さん自ら原麦を丁寧に磨いてから、石臼を使って自家製粉しています。この全粒粉を鮮度の落ちない2週間に一度くらいの頻度で製粉してもらっています。当店では、ほとんどのパンにこの全粒粉を50〜60%練り込んでパンを焼いているのですが、30%入りのバゲットや50%入りの食パンなどは麦の旨味が絶妙で本当においしいですね。
 また全粒粉100%のカンパーニュや食パンは、販売している店が少ないのもあり、全粒粉パンを嘱望されるお客様からは、おいしさも含めて好評をいただいています。
──値上げ後のお客様からの反応はどうでしょうか。
 福島
 当店はやはり常連の方が多いのですが、皆うちのパンを好きでいてくれるので、値上げは必要な事だと理解してくれている感じはあります。客数も大きく減っている様子はありませんが、かりに客数が減っても、値上げにより商品あたりの粗利が正しく増えるのであればその方が良いと思います。
 大切なのは、値上げしたのであれば、さらにその商品の価値を高められるよう良いものを作っていく事だと思います。

適正な値上げは必要

──小麦以外に副材料も上がっていますよね。
福島
 そうですね。特に最近当店では地元産のものを取り入れた菓子パンや惣菜パンにも力を入れているのですが、例えば苺や餡などもすごく上がってきているので、今回はそれを踏まえながらも値上げしています。
 ただ今回値上げの比率が最も高かったメロンパンは、相場を調べ直したところ、意外に160円台で売っているところも多かったので、もともと120円だったものを思い切って150円まで上げました。
 また単価の高い「ガレット デロワ」は例年通り1月に販売しましたが、値上げした価格でも通年通り売れたので、商品の性質的に価格が影響しないアイテムだと認識しています。
──値上げについての福島さん独自のお考えが何かあれば改めてお聞かせ下さい。
福島
 私もそれなりの年齢になってきて、生産パワーが減ってきています、そのために生産数が減っても利益が出るように値上げが必要だという側面もあります。そのためには、時間をかけてより良いパンを作り、専門店としての価値のあるパンを作り、そうして商品の付加価値を高めることにより、値上げの妥当性を持たせないといけません。
 原価を下げ効率を追求するのではなく、いかに付加価値を高めて値上げして売るかという事に力を入れて考えていかないといけないと思います。
 他の飲食店にありがちな「安売り合戦」に参加してはなりません。ちゃんとしたものをちゃんとした値段で売れるような流れを作ることが当たり前になれば、業界で働こうという若い人たちが長く続けていけると思います。
──ちなみに今回定番の角食パンを例に挙げれば、貴店ではどれくらい値上げしたのでしょう。
福島
 当店では「ゆめかおり」100%使用の定番の角食パンを今回290円から320円と約1割値上げしました。食パンについては地域性を考えるとこれ以上は上げづらいということなのですが、本音ではもっと上げたかったですね。
 食パンをどれくらいで売るかという事についての興味深い話があります。高級食パン専門店の草分け的な存在として知られる銀座の「セントルザベーカリー」の方は、食パンの価格を決める際に、「小麦を使用した様々な商品が値上がりしていく流れの中で、かけうどんの値段は1杯400円位に落ち着いたが、食パンはまだ1斤200円位で抑えられている。だからいっそのこと食パンもかけうどんと同じ400円で販売しても良いのでは」と考え、食パンの価格を思い切って400円にしたそうです。
──そもそも安易にパンを安く売りすぎていないかと考えさせられるお話ですね。

原価を抑えるより、付加価値を上げることに注力

規模を絞って再スタート

──店をオープンしてから20年以上経つとのことですが、ここ数年で大きな変化がありましたでしょうか。
福島
 実は7年前位から規模を絞って再スタートしました。もともと100種類位扱っていた商品を40種類くらいまで絞り、それまで行っていた出張販売や卸売なども一旦全てやめました。最近はこうしたことがプラスに働いて、利益も安定して取れるようになってきたので色々な方向に目が向けられるようになり、3年くらい前からロスパンの通販サイトである「リベイク」に参加するようになりました。またしばらくして外販でパンのサブスクサービスの「パンスク」にも参加するようになり、店頭販売以外の部分でも安定した収入が得られるようになりました。
 現在、生協への卸売や「パンスク」への出荷で売上全体の2割を占め、作業量もそれなりに増えたので、今後は人手ももう少し増やそうかと考えています。

パンアトリエ クレッセント
住所:〒301‐0853 茨城県龍ケ崎市松ヶ丘1‐19‐3
電話:0297‐64‐0144
営業時間:午前10時〜午後6時
定休日:月曜、火曜
品揃え:約40品目
スタッフ:常時製造1〜2人、常時販売1人
店舗面積:厨房12坪、売場5坪
売上:日商平日8万円、土日12万円



原材料高騰には売上を伸ばして対応 - すぎうらベーカリー杉浦忍社長
「すぎうらベーカリー」の杉浦忍社長
北海道美唄市の「すぎうらベーカリー」本店
看板商品で一番人気の「お米のシフォンケーキ(プレーン)」(税込238円)
看板商品で一番人気の「お米のシフォンケーキ(プレーン)」(税込238円)
「はるゆたか小麦の塩パン」(税込162円)
「すぎうらベーカリー」本店の店内の様子。ガラス越しに厨房の様子が見える
 北海道美唄市の小さなベーカリーから発祥した「すぎうらベーカリー」は、「お米のシフォンケーキ」などの看板商品の伸長と販売チャネルの拡大とともに、家族経営的な店から株式会社としての組織へ変化。製造業務を行わない管理職専門の社員も採用するなどし、会社経営のあり方について模索してきた。「経営上の数字で最も大切なのは減価償却費。原材料高騰に対しては上げ幅より自分の会社の状況を把握する事が大事」と語る杉浦忍社長に最近の原材料高騰に対する考えについて話を聞いた。

減価償却費がポイント

──米粉をおよそ85%使用したシフォンケーキやパンを主力商品とし、国産小麦の「はるゆたか」を使用した商品群にも力を入れている御社ですが、今回の外麦高騰の影響はどの程度まで受けていらっしゃいますでしょうか。
杉浦
 外麦は商品ごとにみた使用比率は少ないものの、全体の商品のうち6割くらいの商品は多少なりとも使用しています。米粉シリーズも約85%は米粉ですが残り15%は主に外麦をミックスしたグルテンですから影響は受けます。また米粉も国産小麦ももともとが外麦を大きく上回った価格ですし、油脂類全体や物流費などあらゆるものの価格が上昇していますから、その影響は大きいですね。
 ただ当社の場合、2年前に一度従業員の給与を上げる目的で値上げしているのと、9月決算なのですが、第1四半期10〜12月は過去最高売上を記録し、原価上昇分は売り上げの増加分で吸収できたため値上げの必要はありませんでした。今後の値上げについては、まだすべての原材料の値上げが出揃っていない状況なので、出揃った時点で、春先以降に3〜8%の幅で値上げを実施すると取引先銀行には伝えてあります。
──内容量を変更したリニューアルによる実質値上げなどは予定されていますでしょうか。
杉浦
 既存商品の内容量変更はするべきではないと思いますし、当社の場合は北海道内のイオン全店舗へ卸しているので、容量変更などは簡単にできない事情もあります。しかし価格変更には応じて頂けますので特段問題はないと考えています。
──今回の原材料高騰については総じてどう感じていらっしゃいますでしょうか。
杉浦
 まず弊社の場合、自店向けの商品、量販店向けの商品、百貨店やネット通販向けの商品というように、各チャネルで価格帯と内容量を変えて商品展開をしているのですが、原材料を卸す問屋側の苦労もわかるので値上げ自体は否定するわけではありません。ただし、原材料が高騰したからといって値上げを実施すれば良い、人件費を削減すれば良いなどと短絡的に考えるのは違うと思います。
 原材料高騰の問題において、本当に大切なのは上げ幅よりも自分の会社の状況を把握することです。製造業においては「売上」「原価」「人件費」「減価償却費」の4つのバランスを取る事が大切だと言われますが、中でも「減価償却費」が大切だと考えています。「投資のキャッシュフローは、将来の営業のキャッシュフローを決める」と言いますが、設備や店舗への投資額によって、その投資を回収できる売上が決まり、売上が決まることによって、その売上を達成するためのスタッフの数およびそれに基づいた人件費も決まり、その人件費が決まる事で原価をどのように設定するかが決まるのです。
 そのため投資を回収できるだけの売上がない限り、値上げしようが経費を節減しようが全く意味がないと考えています。また回収できるだけの売上があったとしても、それに見合う人件費や原価を設定しないことには始まりません。

従業員の質を高める機械化

──機械化は大きな投資ですが、会社にとってやはり必要な事でしょうか。
杉浦
 機械化は人手不足であるかどうかに関係なく絶対に必要だと私は考えています。この5年間で、毎年1000万円単位で、会社として設備投資し、「お米のシフォンケーキ」もほぼ一連の工程で機械による自動化を実現しました。それにより量産化と効率アップが実現し、労務削減によるスタッフの負担軽減にもつながりました。
 手作りの部分で残すべきところは残す必要がありますが、機械化できるところはしたほうが、品質も維持できるので良いと思います。
──原材料が高騰し、機械化により減価償却費も残る中で、人件費はどの程度まで維持していかれるのでしょうか
杉浦
 当社で言えば、社員、パート関係なく、全員に対して昇給を実施しております。これは絶対に必要だと思いますし、今後も変えるつもりもありません。昇給額の多い少ないは問題ではありません。
 社員において年収200万円台は、新卒者しかおりません。可能な限り、労働に対して高い報酬を出せるように経営していかなければなりませんし、そのためには、継続的な設備投資も必要となるのは言うまでもありません。補足ではありますが、全店舗の製造・販売の社員において、昨年1年間で月間の時間外勤務を30時間以上超えた者は誰一人おりません。年間で平均したら、一人当たり月間12時間前後の時間外勤務です。
 有休も消化してもらいますし、この1月も3日間ずつ取得しています。
 ただ休みも給与も多い代わりに、どのポジションに入っても、そつなく出来るように全員に日頃からトレーニングをしてもらっています。
 今は、将来、いつか独立して自分の店を持ちたいという若者はほとんどいない印象ですので、ずっと勤め上げる中で成長し目標を持てるよう、会社としてそれぞれのキャリアデザインを描いてあげないと業界としてはこの先はないと思います。

単価と利益率が高い製品で勝負する

規模拡大で変わる労働環境

──貴店は1996年の創業当時は、家族経営的な小規模ベーカリーでしたが、2006年に杉浦さんが3代目として社長に就任されると同時に株式会社化されたとのことですが、それ以降の変遷についてお聞かせください
杉浦
 パン職人だった父がガレージを改装した場所で創業した当初は、家族経営的な小さな店でした。しばらくして父が亡くなり、母が継ぎましたが苦しい時期が続きました。そのため私は東京で会社員生活を送っていたのですが、家族から頼まれ地元・美唄へUターンし3代目として店を継ぐことになりました。
 そこから猛勉強と修行を始めたのですが、2008年に美唄市から規格外の米を活用するための施策として、米粉を使ったパン作りの依頼があり、以降米粉を使用したパンやスイーツ作りに力を入れるようになりました。中でも「お米のシフォンケーキ」は年間約80万個を販売する看板商品へ成長し、現在会社の売り上げの4割ほどを占めています。
 同商品は単価と利益率が高い上、賞味期限の長さによるロスの削減と機械化による労務削減の両方を実現した高付加価値商品でもあります。
 また先代の時から力を入れていた北海道産小麦の「はるゆたか」を使用したパンや焼き菓子の他に、米粉パンも主力商品として強化していくことで売上を伸ばしてきました。
──株式会社化し規模も拡大していく中で、大企業のように第3者の視点も入った管理しやすい組織にし、週休二日制の導入など労働環境の見直しにも早くから取り組んできたと聞いています。
杉浦
 当社では人事専門の中間管理職を採用することで、適正な人材の採用と育成ができるようにしています。銀行にも家族的な経営はもう行わないと伝えているし、人件費はしっかり出すことは企業の成長にとって必要不可欠です。
──原材料高騰を乗り切る秘訣は何だと考えますか。
杉浦
 今回の原材料高騰は家族的経営のベーカリーにとって大変悩ましい問題です。リテールベーカリーは商品の質を下げたら絶対に生き残れません。ただ既存商品での値上げが厳しいようであれば、利益率の高い新商品を開発し売上を増やす事で高騰分を吸収するのができればベストだと思います。
 また、外販にも力を入れるなど、販売チャネルを増やす事も売上を増やすことにつながります。当社もこれまでずっと過去最高売上を更新してきていますが、「お米のシフォンケーキ」の伸長とともに、美唄の本店のほかに、札幌の円山に支店も出し、店頭での直販のほか量販店、ネット通販、催事出店と拡大してきたから、今では億単位の年商が取れるようになりました。
 ベーカリーは設備費にお金がかかりますので、粗利は70%位ないといけないという事をよく言います。原材料高騰の問題に関しては経費削減だけでは対応しきれませんし、結局のところ売上を伸ばさないと銀行もお金を貸してくれません。何年もかけて実現した夢をお金の問題で潰してしまうのは本当に残念だと思います。

すぎうらベーカリー本店
住所:〒072‐0009 北海道美唄市字美唄1192‐5
電話:0126‐64‐2089
営業時間:午前9時〜午後6時
定休日:不定休
品揃え:約70品目
店舗面積:売場33坪、製造スペース122坪(パンの製造スペースとシフォンケーキの製造工場を含む)





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