ハード系最前線 - ブランスリー電子版


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特集/2014年12月号

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ハード系最前線




時代の波も手伝ってハード系の存在感が増す - メゾンカイザー
看板商品の「バゲットモンジュ」(税込303円)
6月にオープンした虎ノ門ヒルズ内に構える「メゾンカイザー虎ノ門ヒルズ店」
ブーランジェリーエリックカイザージャポンの木村周一郎社長(右)とMD本部マネージャーの木村寛さん(左)
食事ができるスペースもあり、ランチのセットのパンは、おかわりができる
クリスマスにバゲット売上が急増

 国内に24店舗を展開するメゾンカイザー。フランスのパン職人エリック・カイザー氏の製法を忠実に守り、フランスの伝統製法で作るパンのおいしさを日本で再現すべく、木村周一郎社長が開業したのは2000年。それから14年が経ち、フランスパンの代名詞、バゲットなどハード系のパンは、日本国内に随分浸透してきた。
 「東京・高輪に本店を構えたのは2001年。当時バゲットなどハード系のパンは、ベーカリーにとって売れなくて困るアイテムの上位でした。そんな時期でしたが、日本人向けにアレンジを一切加えることなく、フランスの伝統製法だけで作るパンには、確かな需要があるはずだと信じていました。しかし最初は全然売れなかったですね。バゲットは1日14本でした」(MD本部マネージャー木村寛さん)
 外国人や海外駐在経験者以外の人に興味を持ってもらうのは至難の業。販売に苦戦する日々が続いた。
 「多くの人が、食べたことがない、食べ方がわからないということで、試食をどんどんやりました。カゴにひと口大に切ったバゲットを入れて、スタッフがお客様に手渡ししました。その際必ず行っていたことは、会話です。『スープと一緒に食べたり、お肉料理のソースを付けて食べるとおいしいですよ』などと、食べ方を伝えたりして、興味を持ってもらえるように努めました。そして店で待っているだけではお客様は来てくださらないので、パンを持って店先の交差点まで出ていき、試食を勧めたりすることもありました」(木村寛さん)
 こうした努力が実り、オープンした年のクリスマスから年末にかけて、売上げが急上昇した。
 「12月23日まで全然売れなかったのですが、翌日のクリスマスイブに予約が200本近く入ったんです。イブ当日は、予約なしで400本出たので、合計で600本超のバゲットが売れました」(木村寛さん)
 客1人当たりの平均購入本数は、約2本。イブの日は、約300世帯の家庭に同店のバゲットが存在したことになる。
 「クリスマスや年末年始などは、家族以外にも親戚など複数の世帯が集まります。そのような機会に食べていただくと、例えば1000人が購入すれば、少なくともその倍の2000世帯の人々が口にすることになります。クリスマスから年末年始にかけての約10日間が、潜在的なお客様にアピールする良い機会となったんです」
 そしてその頃、ワインやオリーブオイル、洋風の総菜を扱う店が充実してきていた。これらはハード系のパンとの相性が良い食品だ。こうした時代の波も手伝って、食卓におけるハード系のパンの存在感が高まっていった。同社の売り上げは開業からうなぎ上りだ。




ショーケースにパンを陳列。向かって右側にハード系パン、左側にペストリーと大まかに分かれている
ハード系パンの美味しい保存方法や、クロワッサンとバゲットの温め方などが書かれた「KEEP FRESH(キープフレッシュ)カード」
客にスタッフが「バゲットモンジュ」の試食を勧めていた
オリジナルの発酵バターを使用した「クロワッサン」(税込206円)
パンの鮮度管理にとことんこだわる

試食を勧めたり食べ方を紹介するほか、同社が販売において重視していることは、客との会話だ。
「例えば、焼きたての状態でも、お客様からスライスを頼まれることがよくあります。そこで、『焼きたての状態ではスライスできません』と紙に書いて掲示しておくと親切だと思うのですが、それは、最小限に留めています。頼まれたときこそ、会話をするチャンスだと思うようにしているんです。ですから、パンのPOPも、直接質問して下さるように、あまり多くのことを書かないようにしています」(木村寛さん)
各パンの焼き上がり時刻の掲示もしていない。
「目当てのパンがあるお客様にとっては、掲示がある方が便利だと思います。しかし、当社では、決まった時刻に焼き上げるのではなく、常にフレッシュなパンが並ぶように焼き上げていくようにしています。お客様には、『いつ来てもフレッシュなパンが買える店』という安心感を持っていただけるように努めています。バゲットなどハード系は1日単位ではなく数時間単位で風味や味が変わってきますから、1日に最低でも5回は焼いて、常にフレッシュな状態で提供できるようにしています」
 鮮度が大事なハード系のパンは、自宅での管理の仕方によっても、おいしさが左右される。
 そのため、同社では、9センチ四方の厚紙でできた「KEEP FRESH(キープフレッシュ)カード」を配っている。両面にプリントされた同カードには、一方の面に、「ハード系パンの美味しい保存方法」と題し、常温保存する場合と冷凍保存する場合のそれぞれについての保存の仕方と温め方が書かれ、もう一面には、雨の日や湿度の高い日における、クロワッサンとバゲットの温め方が書かれている。同カードを渡すことで、パンは、天候や気温、湿度によって状態が変化するため、味わい方も変わってくるということが、客にも伝わるよう努めている。

クロワッサンも食感が重要

 同社はハード系パンのほか、パリでも評判の「クロワッサン」(税込206円)など、ヴィエノワズリーも充実している。人気の秘訣は、使用しているバターにあるという。
 「クロワッサンに使用しているバターは、当社オリジナルの発酵バターです。一般のバターと比べ、製造効率が悪く手間がかかるのですが、風味が澄んでいて、バターそのままで食べても、重さがなくておいしいのが特徴です。ですので、このバターを使ったペストリーは、焼成したときバター特有の臭いが、逆に少ないんです。食べると、発酵バターの澄んだ風味と口どけの良さをお楽しみいただけます」
 オリジナルの発酵バターは、製造メーカーと開業当初から契約しているため、市場の影響を受けずに、必要量を確保できているという。そのため、商品価格の値上げも、最近は増税時以外にはしていない。
 「クロワッサン」も、「キープフレッシュカード」に記してあるように、味わい方が重要なアイテムだ。いい状態で味わうことで、より良い風味と食感が楽しめる。
 「ハード系のパンやクロワッサンは、食感の良さが重要です。スーパーやコンビニで販売している袋入りのパンでは、なかなか難しいと思います」(木村さん)
 しかし、小麦粉使用量ベースでみると、パン市場のリテールのシェアは減少していて、大手メーカーのシェアは増えているという。
 「スーパーやコンビニで、朝食用のパンを買う人は多いと思います。夜の8時前に閉まってしまうベーカリーが多いので、夜遅く会社帰りに買う人はベーカリーを利用できません。また、あるコンビニではハード系のパンが近頃充実してきています」
 また、食習慣の変化で、ハード系パンの需要拡大が難しくなってきているという。
 「核家族から、『核個人』へと移りつつある現代、食べるパンは、惣菜パンや菓子パンなど、袋を開けたらすぐに食べられるというものが重宝がられます。しかし、ハード系のパンを作りたいというベーカリーは増えてきていると思うので、小さな市場の取り合いになってきているのかも知れません」

メゾンカイザー
住所:〒105‐6390 東京都港区虎ノ門1丁目23‐3虎ノ門ヒルズガーデンハウス2F
電話:03‐6257‐3975
営業時間:午前8時〜午後10時
定休日:不定休
品揃え:50品目
スタッフ:製造4人、販売6人
店舗面積:厨房10坪、売り場5・5坪、カフェスペース15・5坪
日商:45万円



感性に訴える提案でハード系を普及させる - PAUL(ポール)
看板商品の「アンシェン・ポール」(税抜420円)
ポール神楽坂店の外観。正面入口横にショーウインドウがあり、実際に販売する商品が置かれている
ポール神楽坂店店内の様子。入って右側が対面形式の売場でテイクアウトできる。左奥がカフェレストラン。その先の奥には客席から中の様子が見える焼成室がある
「アンシェン・ポール」などのハード系生地を使用したサンドイッチ類も充実している
こだわりを伝えるぶれない姿勢

 日本にハード系のパンを普及させようと業界全体でさまざまな取り組みが行われる中、ひときわ筋を通したアピールを続けているベーカリーがある。
 「フランスは哲学の国ですから、食文化ひとつとってもそこにはさまざまな歴史の経緯から生まれたこだわりがあります。当社は、パンそのものも勿論ですが、パンを通じて、フランス文化全体の魅力にふれて頂きたいと思っています」と話すのは、フランス発のフランチャイズベーカリー「PAUL(ポール)」を運営するレアールパスコベーカリーズ(東京・目黒区)のPAUL事業部マーケティング部の林さん。
 ポールは今から120年以上前の1889年に北フランスの町、リールでシャルマーニュ・マイヨ氏により創設され、現在では、フランスのほか、イギリス、中近東、アジア、欧州など32カ国で展開。フランスで350店舗を運営。日本へは2001年12月に初出店し、現在は20店舗を展開。全体では540店舗ほどを世界各地で展開している。特徴的なことはフランスの食文化から生まれた「ポール」の誇りを絶対に失わないこと。その時々のトレンドやある方面での需要の高まりの影響を受けることはありながらも、「ポール」として核にある考え方はけしてぶれず、独自の路線を貫いている。
 ハード系の提案1つとっても、多くのベーカリーが日本人向けの食べ方提案や商品づくりに力を入れる中、「ポール」は徹底してフランス流の食べ方、フランスの食文化から生まれるものを訴求し続けてきた。
 「もともと日本人は多様な食文化を受け入れ楽しめる民族です。『ポール』のお客様には本当にリピーターが多いんです」(林さん)

本物の味を伝えること

 実は「ポール」はフランス本国では食事パンが中心の他のベーカリーに比べて、比較的ヴィエノワイズリーや総菜パン、菓子類などが多く、商品構成が幅広いと言われてきた。そのためまだハード系が日本にそれほど普及していなかった13年前の日本上陸当時は、日本人の嗜好に合わせやすい品揃えだったこともあり、特にハード系に限定して試食や販促に力を入れてきたわけではない。
 しかし今ポールでヴィエノワイズリーやクロワッサンではなく、ハード系の商品を購入したいという客が増えてきている。「ポール」をきっかけにフランスの食文化の要であるハード系のパンの魅力にとりつかれる人も後をたたない。
 その理由はシンプルだ。「必要なことは『本物』を知ることです。何かを広めようと思ったら、とにかく『本物』の味を伝えなくてはなりません。よくいわれるのは、ポールのハード系のパンはどんなワインにも合うということ。フランス文化そのものを表現しているのです」(林さん)
 ポールの最も代表的なハード系の商品は、香ばしいクラストとは対称的なもちっとしたクラムが味わい深い食事パンの「アンシェンポール」(税抜420円)だが、カンパーニュのシリーズの「パン・ド・カンパーニュ(ロン)」(税抜420円)や「カンパーニュ・オ・フィグ・ノア」(税抜600円)、バゲットの「フルート・アンシエンヌ」(税抜280円)なども引き合いが強い。
 それらは、それぞれフランス産の小麦、塩(セル・ブランジェリ)、硬水(コントレックス)などのこだわり食材を使用し、北フランス発祥の職人の技による自家製酵母をベースにした低温長時間製法で作られ、「ポール」の世界観の中核に位置し続けており、ホールの本物を伝えるための徹底した姿勢を象徴している。

左から「パン・ド・カンパーニュ(ロン)」(税抜420円)、「カンパーニュ・オ・フィグ・ノア」(税抜600円)、「カンパーニュ・オ・レザン・ノア」(税抜600円)
客席から様子が見える焼成室の様子。ハード系専用のオーブンが見える
ショーウインドウ越しに見えるカンパーニュなどの商品
「文化」そのものを伝える大切さ

 ただし、「ポール」でハード系の人気が高まってきた背景には、同社がこれまで「食」に限定されないフランス文化を伝える努力を続けてきたことがあるという。
 「例えば、冬には生牡蠣と一緒にライ麦のセーグルパンを食べるのがフランスの伝統的な食べ方ですが、フランス本国ではその際に、やはり『ポールのセーグルを』という声がよく聞かれます」(林さん)
 セーグルは日本でもだいぶ普及が進んできたとはいえ、まだ「食べ合わせが難しい」「どのように食べてよいのかわからない」という声も聞かれる。こうしたフランスの食文化と掛け合わせた食べ方を広めることは普及促進の面では重要であり、そのためにはフランス文化そのものへの興味を換気する必要があるという。
 同社は「フランス文化そのもの」であるという「ポール」ブランド全体の世界観を伝えていくために、店の外観から、インテリアやアンティークの家具などを含めた内装、商品の香りまで、全てにこだわりを持ち、フランス本国の店舗を再現した店舗運営を行ってきた。
 「『ポールの店舗に来れば時間を忘れ、いつも同じ空間で落ち着ける』と言っていただけるような空間の提供を心がけています。各店舗でそれぞれの街の雰囲気に合わせたコンセプトの店にしているのですが、新店出店の際は、ポールの哲学から生まれるデティールを大切にしたフランス流の方法でレイアウトを決めていきます」(林さん)
 「ポール」のコンセプトを体現する代表的な店舗の1つとして2011年2月にオープンした神楽坂店(東京・新宿区)がある。店の正面入口横で通行人が見える場所に設置されたショーウインドウに焼きたてのハード系のパンが綺麗に並べられているのが印象的な店だ。近づくと焼きたてのパンの何とも言えない香りが漂ってくる。
 店内は対面形式の売場とカフェレストランが広がっているが、本場フランスの店舗を再現した内装がランプやカーテン、床材まで施され、落ち着いた上品な雰囲気の中でパンや飲み物を楽しめるようになっている。
 最大のポイントは、販売する商品を、外の通りからも見えるショーウインドウに陳列していることと、店の奥に、客席から様子が見える焼成室があることで、焼成室でオーブンからパンが次々と焼き上げられてくる様子は、客への効果的なプレゼンテーションとなっている。
 店舗全体でフランス文化の醍醐味を体現しているわけだが、こうした演出の巧みさも含めてフランス文化なのだという。ショーウインドウのカンパーニュは店の前の通りを歩いている人々の足を止め、中を除き見る人達を「ポール」ブランドの世界へ引き込んでいく。
 理屈ではなく感性と情緒に訴え、本物志向の味を提供することで、自然と人が集まる空間になっている。

PAUL(ポール)神楽坂店
住所:〒162‐0825東京都新宿区神楽坂 5‐1‐4
電話:03‐6280‐7723
営業時間:午前10時〜午後9時(カフェレストランのラストオーダーは午後8時30分)
定休日:不定休
品揃え:100品目

原価計算女王
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