おいしいパン作りと効率化は、両立できる-玉木潤社長に聞く たま木亭・京都府宇治市五ケ庄新開14-91、電話0774-38-1801 - ブランスリー電子版

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インタビュー/2012年4月号

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おいしいパン作りと効率化は、両立できる-玉木潤社長に聞く たま木亭・京都府宇治市五ケ庄新開14-91、電話0774-38-1801
玉木潤社長
 京都府宇治市にある「たま木亭」は、日本中から多くの人がパンを買いに来る人気ベーカリーだ。その評判は、インターネット上でも語られ続け、いまや「伝説のベーカリー」ともささやかれるようになった。しかし、玉木潤社長は、「自分は一般人だし、パン作りは、生活の一部でしかありません」と淡々と語る。「マスコミに頼った売上の急上昇は、危険です。自分の身の丈にあった店舗運営をしていかなければならないと、いつも自分に言い聞かせています」とも。そんな玉木社長だが、淡々とインタビューに応じる言葉の向こうには、パン作りに対する並々ならぬ情熱が見え隠れしていた。



よりおいしいものを食べてほしい

―――玉木さんがパンに関わるようになったきっかけは何ですか?
玉木 あるステーキハウスで、パートのおばちゃんと冷凍生地を使ってフランスパンを焼く仕事をしたのが最初です。それから父親がやっていたベーカリーで2年間働き、次に東京・西葛西のパン技術研究所で勉強しました。さらにセンチュリーホテルのベーカリーで働きました。それから、福盛パン研究所で学びました。そして、ドンクです。ドンクでは9年間お世話になりました。特に仁瓶利夫さんには本質的なことを教えていただきました。厳しい人でしたが、とても紳士的な方です。仁瓶さんはドンクの中でも偉い人だったのですが、新幹線で移動のときなどは、京都で途中下車して、僕が働いていた京都の店に寄っていただいたりもしました。一緒に厨房に入って教えていただいたこともありました。
―――独立したのはいつでしたか? また、きっかけは何でしたか?
玉木 2001年に独立しました。自分がやりたいようにやりたかった、というのが最も大きな理由でした。大きな組織だと、好きなようには動けませんから。あと、信頼している人から、「独立してもやっていける」と言ってもらえたことも大きかったですね。
―――最初の品揃えはどんな感じでしたか?
玉木 商売が成り立つかどうか不安だったし、やはりあたふたしていたと思います。だから、品揃えがどうかなどと考えている余裕はなかったですね。
―――でも今は、日本全国からお客さんがやってくる超人気店ですよね。
玉木 今振り返ると、毎年少しずつ売上が伸びてきました。商品については、お客さんにははっきりとわからないようなマイナーな改良も常にしてきたし、売れ行きがぱっとしないアイテムについては、大きく内容を変えることもありました。「よりおいしいものをお客さんに食べてもらいたい」という気持ちはずっと維持してきたし、これからも持ち続けていくと思います。
―――少しずつ洗練されて、今の品揃えになったのですね。1品目についての販売数量はどれくらいですか?
玉木 大体は200個単位で売れます。カレーパンも一日中揚げている感じです。土日で500個以上、平日だと300個ぐらいですね。でも1日十数個の商品もあります。最低天板1枚分売れれば、なるべく残すようにはしています。その商品が好きな人もいるわけですからね。客単価は1700円ぐらいですね。
―――多分販売スペースは、4〜5坪だと思いますが、店の広さと売上を考えると、坪効率は驚異的にいいですよね。
玉木 当然、製造方法や販売方法は、智恵が及ぶ限りの効率化は図っています。お客さんにおいしいものを提供することと、効率を追求することは両立するものだと思います。例えば、カレーパンは、かなりの量なので、日程を決めて生地とカレーを仕込んで、カレーを包んで成形までしてから、冷凍しています。冷凍といっても長期の冷凍ではありません。数日のうちには使い切ってしまいます。クロワッサンも2日に1回仕込んで、成形した状態で冷凍しておきます。
 パンは基本的に温かい方がおいしいと思っているので、意識的に焼きたてがどんどん追加できるようなやり方で作業工程を組んでいます。厨房が狭いのでドウコンは1台しかないのですが、そのほかに冷蔵庫などもフル活用して、1次発酵やホイロ時間を調節しながら、焼きたてをどんどん追加していくようなやり方をしています。5年以上いるベテランのスタッフが3人いて、彼らが段取りを知り尽くしているので、スムーズに店がまわっています。



自分が食べたくなるパンだけを作ってきた
たま木亭は、京都駅からJR奈良線に乗り、黄檗駅下車徒歩5分の場所にある。1日中人が絶えることがないという
厨房で製パン作業をする玉木潤社長
シート生地に、カンパーニュの生地を薄くのばして貼り付けて成形するクロワッサン
1日中揚げ続けるという人気の「カレー」(210円)。カレーフィリングは、牛すじをワインで煮込んで作る
―――クロワッサンは2日に1回仕込んで、成形した状態で冷凍しておくということでしたが、冷凍することによるデメリットを克服するための細かな工夫がたくさんあるのでしょうね。
玉木 クロワッサンの生地を冷凍すると味が落ちるという感覚がよくわからないんですよね。老化はどんなクロワッサンでもしますから、クロワッサンに何を求めるかじゃないですかね。3、4時間経ったらどんなクロワッサンでも味は落ちますよ。時間が経っておいしくなくなったクロワッサンは、食べたことがないので良くわかりません。
 うちのクロワッサンは、シートにしたときに、その上にカンパーニュの生地を薄くのばして貼り付けているんです。食感が微妙に違ってきて、自分としてはいけていると思っています。4年前に本を出したときに試作で作ったのですが、それがとてもよかったんです。
―――パン作りについて心がけていることは何ですか?
玉木 僕はパンを作って、人に提供する仕事をしていますが、自分が食べる立場になったら、パンに限らず食べ物は、おいしいものを食べたいと思います。単純にうまいものが食べたいんですね。レストランに入って「外れた」と思うのは嫌なんですよ。
 そして、自分がうまいものを食べたいように、お客さんもおいしいものを食べたいはずなんです。だから、お客さんのその欲求を満たしてあげたいと思うんです。
―――でも、食べ物を作って提供する仕事をしている人は皆そう思っていると思います。それでも成功している人とそうでない人がいるのはなぜだと思いますか?
玉木 どうなんでしょうね。本気かどうかじゃ
ないですかね。気持ちの問題だけだと思いますよ。
―――材料選びについてはどうですか?
玉木 変な材料を使わないようにしようということですね。変な匂いがする香料とか、マーガリンは使いません。手に付いたら匂いが消えないようなマーガリンがありますよね。
 要するに、おいしいものが食べたいと思っている自分が、自分が食べるパンには、これは使ってほしくない、と思う材料は一切使わないんです。
 後味がすごく悪い材料を使ったら、当然後味がすごく悪いパンになりますからね。



作りたい商品を作って販売できる商売
販売スペースは4坪ほどで、常に客でいっぱいの状態。外には順番を待つ人の列ができることもしばしばだ。
カスタードクリームや生クリームをたっぷりと使った商品は、冷蔵ショーケースに陳列している
狭い店内には、様々な商品がぎっしりと並んでいる。どんどん売れていくが、常に追加をして、商品を切らさないようにしている
「おかきのクーニャマン」(189円、左)、「レストランテ・フリュイ」(399円、中央)など
壁面には、畑を耕す道具類が飾られていた
―――味の感性を維持するために何か意識的にやっていることはありますか?
玉木 意識的にやっているわけではないのですが、普段、レストランなどで食事をするとき、「これは何が入っているのだろう」とか「これはどうやって作っているんだろう」とか、いろいろ考えますね。週休2日なので、家族で小旅行に行ったりしますが、旅先での食事なども楽しみですね。食べ物に興味がない人がパン屋をやっても難しいと思いますね。
―――でも食べ物に興味がありすぎて、一人よがりになってしまう人もいますよね。仕事で扱うものには興味がない方が、逆に客観的に見られてうまくいくという話を聞いたことがあります。
玉木 いや、パン屋が食べ物に興味がなかったら絶対にだめだと思いますね。要はいろいろな側面を見られるかどうかだと思いますね。もし、興味がありすぎてひとりよがりになってしまう人がいるとしたら、その人はその部分が欠けているんじゃないですか。どこに目線を置いているかだけの問題だと思いますよ。興味があるからこそ、奥深さがわかるし、お客さんがおいしいといってくれるパンが作れるんだと思いますよ。
―――玉木さんは、売上は追及していますか?
玉木 スタッフには、毎年昇給もしてあげたいし、休みもきちんと取らせてやりたいというのがあるので、売上が毎年同じだったらだめですよね。ですから、売上は追求しますよ。
―――従業員の育成にはどのように取り組んでいますか?
玉木 育成以前に、長くいてもらうには、労働条件がよくないと難しいですよね。週休2日制にするとか、残業は1日4時間以内に収めるとか、健康保険や厚生年金をきちんとするとか、そういう当たり前のことがきちんと整備されていなかったら難しいですよね。その辺は少し意識していますね。
―――玉木さんが作るパンは、すべてかなり高いレベルだと評判ですが、玉木さんのおすすめのパンはありますか?
玉木 あまり考えたことがありませんね。すべて自分なりにいけていると思っています。しいてあげるとしたら、通年の商品ではありませんが、シュトーレンですかね。ほろほろっとして、バターの香りがふわーっとして、すごく口溶けがいいですよ。ザラザラした感じはまったくしません。黒豆入りとフルーツ入りの2種類をやっていますが、東京からも多くの人が買いに来ますね。1個1100円で、ワンシーズンで、1000個以上売れます。普通のシュトーレンとは配合も製法もまったく違います。パン屋という商売は、自分の作りたい商品を作って販売できるのですから、みんなが同じものを作っても仕方がないと思っているんですよ。おのおのが頑張って独自の商品を開発したらいいと思っています。
―――玉木さんにとってパン作りとは何ですか?
玉木 普通の生活ですね。





原価計算女王
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