マレーシアでパン文化を広めた日本人シェフ - 一粒の麦から42(文・本行恵子) - ブランスリー電子版

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連載/2018年3月号

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マレーシアでパン文化を広めた日本人シェフ - 一粒の麦から42(文・本行恵子)
松原裕吉さん(2011年一時帰国)
賑わうB‐LABの店内
左から、松原裕吉さん、娘の蒼ちゃん、妻のZENNさん
 銀座木村屋家、ブーランジュリー パティスリー マディなどで活躍したマレーシア在住の松原裕吉さん(B‐LAB=マレーシア・クアラルンプール=オーナーシェフ)が一時帰国し、インタビューすることができました。松原さんとの出会いは、パンニュース社に在籍していた時のことです。ユーロパン視察ツアー参加者座談会を取材し、その後もいろいろな場面で応援してきました。

大学進学をあきらめ上京する

 兵庫県西脇市の織物工場を営む両親のもとに生まれた松原さんは、高校卒業後大学に行くことを考えていました。しかし経済的な理由で進学を断念し、社会に出て働く道を選びました。東京に住む母の親友が銀座木村家のパン職人募集を見つけ、母の勧めもあり入社します。「この選択がなければ、パンの世界に入ることはなかった」と松原さんは振り返ります。
 パンのことは全く知らない松原さんに、あんぱんからハード系の食事パンまで職人さんたちは徹底的に教えてくれました。その教えが基礎となって、今に生かされています。
 松原さんは当時、銀座木村家のパン職人として働きながら、将来の目標のために資金を貯めていました。その目標のひとつが、海外旅行でした。先輩からフランスで開催されるユーロパンの視察旅行があることを聞き、早速申し込みます。ユーロパンで開催されるパンの世界大会に日本が初出場ということもあり、世界一のパンを見られるという期待でいっぱいでした。参加メンバーのほとんどが会社から海外出張として参加していましたが、松原さんは個人参加でした。そしてこのツアーで得たいろいろな人との繋がりが、その後の人生に大きな影響を与えました。

コンテストで世界が広がり海外活動へ

 ツアーで知りあった先輩のブーランジェは、カリフォルニアレーズン協会のコンテストに挑戦する助言と勇気を与えてくれました。旅行に行く前は社内の仕事に満足し、コンテストなど考えてもいませんでした。しかしフランスの世界大会で刺激を受けた松原さんは、行動に移したのです。1回目は一次審査で落選し、2回目で審査員特別賞を受賞。そして1997年の「カリフォルニア・ウォルナッツコンテスト」では、グランプリを獲得し、自信もつきました。それをきっかけに念願のパリ修業が実現し、パリの人気店「ブーランジェリー・オー・ソン・キャロント」で半年間現場の仕事を学びました。そして帰国後、それまでの実績が実を結び、「ブーランジュリー・パティスリー ・マディ 代官山」のブーランジュリー・シェフに就任します。そして2004年には、「カリフォルニア・レーズン カルネリーチャレンジコンテスト」で世界一に輝き、製パン学校やアジア各国の講習会で講師も務め、世界が広がっていきました。また2005年9月には、旭屋出版から『ブーランジェ菓子最新スタイル』を出版し業界内でも注目を集めるようになりました。銀座木村家からスタートしたパン職人としての人生は、山あり谷ありの連続でしたが、父親から贈られた「努力無限」を座右の銘に乗り越えてきました。また岐路に立たされた時、多くの幸運に恵まれてきたと振り返ります。

マレーシア人との結婚で永住を決意

 国内外の活躍によって、マレーシアのマハティール元首相と日本人実業家が共同経営する「The Loaf」の運営に関わるようになります。マハティール氏の願いである高品質のパンを売る店に、松原さんの技術と経営手腕が生かされました。2006年にマハティール氏の出身地、ランカウイ島に1号店を出し、さらに店舗を拡大していきました。マレーシアにパンの食文化を定着させた「The Loaf」に続き、今では多くのベーカリーが出店しています。
 マレーシアに行くことを決めた時から日本に戻るつもりはなかった松原さんは、マレーシア人のZENNさんと結婚し新しい道を歩み始めます。
 日本企業の駐在員たちが暮らす高級居住区、モントキアラに、2014年10月8日、「B‐LAB」をオープンしました。食事とパンを楽しむビストロ風の店は、モーニング、ランチ、カフェ、ディナーとそれぞれのシーンに合わせたメニューが登場し、固定客も付いています。
 マレーシアの暮らしがすっかり板についた松原さんは、これからもマレーシアと日本の友好に役立つ仕事を続けていきたいと語ってくれました。

本行 恵子(ほんぎょう けいこ) パンと食のライター。家庭製パン教室を10年間主宰した後、パン業界専門誌『B&C』の編集記者、編集長として勤務。16年間の在職中、日本各地のリテールベーカリーや欧米、アジア諸国を訪問し、パンと食文化を取材。現在はフリーの立場で、業界専門誌や企業ホームページでの執筆活動、業界関連団体への企画提案などを行っている。ライフワークは、パンのある食卓の提案。









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