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| 特集/2020年9月号 |
2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。

| 米西海岸発のムーブメントを実践。より近い場所の小麦を求めて - クロフトベーカリー | ||||||||||||||||
2009年までアメリカ西海岸のベーカリーのパン職人だった久保田英史さんは、定期的に毎年1、2回ほど渡米し、1週間ほどの滞在を繰り返している。現地のベーカリーや製粉所を見て回り、今、世界的に注目を集めつつある西海岸を中心とした米国のベーカリー事情を探るためだ。 久保田さんは現在、出身地である群馬県前橋市に2012年12月にオープンした店「クロフトベーカリー」で、アメリカ西海岸のトレンドをとり入れたパン作りと店舗運営を展開している。 インスタグラムは2016年から開始したが、最初はアメリカの友人達と繋がるために開設したものだった。 個人的な事を目的にしていたため、投稿するメッセージは英語で書かれている事が多く、久保田さんのプライベートな出来事の発信が中心だった。 ただ最近は店のほうから伝えたい情報や近況が多くを占めるようになってきている。 アメリカで製粉の現場を見て回るうちに、地域ごとに、なるべく近い場所で収穫され製粉された小麦を使ってパン作りをするという取り組みに強い影響を受けるようになった。 米国西海岸の小麦粉の甘い香りに驚愕した 実は、久保田さんが米国西海岸へ渡り、現地のベーカリーでパン職人になったきっかけは、大阪のレストランでパンを作っていた修業時代、知人に声をかけられてたまたまアメリカでの仕事を紹介されただけの事だったという。 しかし、その仕事で出向いて行った先で、アメリカ西海岸発のパン文化を大きく変えた「タルティーンベーカリー」との出会いがあった。 より近い場所にある地元産の小麦を挽きたての状態で持ってきて、素材の新鮮さをパンに求める西海岸発の大きなムーブメントを作った「タルティーンベーカリー」だが、久保田さんはそうした「挽きたて」を重視するムーブメントを自分の地元、群馬のベーカリーにも取り入れたいと考えるようになった。 久保田さんが米国で繋がった知人でワシントン州スカーギットにある小さな製粉所「ケルンスプリングミルズ(cairn spring mills)」を運営するケビン・モース(Kevin Morse)氏に出会い、彼が運営する製粉所を実際に見せてもらったのは2019年の6月のことだ。 その前の年に久保田さんは同製粉所の粉を手にし、その甘みと香りに衝撃を受け、以来何故そうなのかずっと知りたいと思っていたという。 「ロール挽きした後シフトして石臼2台を通して玄麦を全部挽く工程は、驚くほどシンプルです。小麦も米と同じくふすまの部分に油分が沢山あるんですが、僕も含めてよく手にする粉は、油分があると酸化しやすいためにそこを取り除いてしまうんです。傷ませないため、流通のため、人知れずそのおいしい部分を省いてしまうのですね」(久保田さん) 「ケルンスプリングミルズ」では、油分が多い部分も含めて全挽きするため、甘みと香りが残るのだ。そしてその挽きたては、理解のある近場のベーカリーへ直接届けているのだという。また小麦の品種は、「ヘリテージグレイン(heritage grains)や「エアルーム品種 (heirloom wheat)」などで、20世紀前半に時間をかけて交配して作られたものや、フランスで2〜3世代にわたって栽培され、実際にパンに使われている品種を、契約した農家に作ってもらう。 「ここでは、農家さんから食べ手まで会話ができて、お互いの存在を感じられるヒューマンサイズの大切さを学びました。大事なのは気持ちなんですね。ケビン氏に感謝です」(久保田さん) | ||||||||||||||||

| 仏産石臼挽き粉に別れを告げる | ||||||||||||||||
久保田さんは、アメリカで得た知見をもとに、群馬県の自分の店で、様々な製品を開発し販売している。 「古代穀物のパン」(税込550円)はキヌア、アマランサス、ファッロを混ぜた全粒粉のパン。見た目は硬そうだが、水を粉に対して93%加えることで、中身はしっとりとした柔らかな質感を実現。穀物はたっぷりの水で炊きプチプチと粒をたたせる事でクセのない味わいに仕上げている。 「お互いの顔が見える距離でやりとりがしたい」という久保田さんの思いを実現した形で、小麦は地元・群馬県にある「すみや農園」(高崎市)の小麦全粒粉「農林61号」を40%使用。「すみや農園」は「クロフトベーカリー」まで車で30分ほどの距離にあり、挽きたての小麦をすぐに使ってパンにする事で、自然な甘みと穀物の香ばしさを残したパンを作る事ができる。 またファッロは先史時代のまだ人為的に収穫量を増やす種の選択を行う前から存在した小麦だが、藤岡市の福田農園のものを使用。近年スーパーフードとして注目を集めているキヌアとアマランサスは、中南米でスペイン征服前から栽培されてきた古代穀物だ。 「古代穀物のパン」の開発の背景には、改良種を使う事がアレルギーの原因になっていると言われるようになり、代わりに在来種の小麦や穀物を使う事が米国西海岸では一種のブームになっているという事がある。 久保田さんも2017年に8年ぶりに西海岸を訪問した際にここ10年のそうした変化を実感したことが、このパンを、生み出すきっかけになったという。 2019年3月には、群馬県高崎市にあったコミュニティスペース「MOTOKONYA」(2019年3月に閉鎖)で、同スペースの閉鎖前に行われたイベント「ハム男くんが来るよ!『食は原点』〜食べる、楽しむ、知る、行く、出会う〜」に参加し、様々な料理に合うカントリーローフや、その場で焼いたソーセージをはさんだサンドイッチなどを販売。 その際に揃えた全てのパンの粉はライ麦粉も含めて全て国産だったという。 「当たり前のことがようやくできるようになった気がしました。国産でもより近い長野県産や栃木県産の粉。そして直接農家さんからわけてもらう香りのいい小麦全粒粉。以前は、パンを持って畑の風景の中にいるなんて想像もできませんでした」(久保田さん) 歴史に裏づけされたビール工房とのコラボ商品 2019年9月16日、久保田さんは、それまで使っていたフランスの石臼挽き粉に別れを告げた。 職人になりたての修業時代から使っていた愛着のある小麦粉だったが、なるべく地元に近い所で収穫された小麦を使用するという取り組みを早く実践するため、久保田さんは、インスタグラムへ次のような投稿を残した。 「さようなら、フランスの石臼挽き粉。ずっと使い続けてきたけど、今年の初め頃から使う意味を失いました。なんでも教えてくれる先生のような存在でした。高い月謝を払ってしっかり学ばせてもらいました。まだ地元で手に入るこれ以上の粉は見つからないけど、次に向かうふんぎりがつきました。いつかこれを超える粉をこの地域で手に入れます」 久保田さんは渡米中いつもカリフォルニア州ロサンゼルス郡にある海に面した小さな町、エル・セグンドを訪れ、そこにある卸専門のベーカリーで仕事を手伝う。 2019年1月に訪れた際は、この町の中心地にあるビール醸造所とコラボして開発中だった「ビアブレッド」の試作のため、醸造所を訪ねていた。 完成した「スペントグレインのビアブレッド」は、久保田さんの店でも税込480円で昨年11月に発売した。 製造過程で水の代わりにビールを使うことで、ビール由来のほろ苦さを生地に付与し、さらに、黒ビールを醸造する時に出る「スペントグレイン」と呼ばれる麦芽のカスを練り込んで焼き上げるパンだ。 歴史上、ベーカリーとビール醸造所は、どちらも麦を使った発酵食品のためか、密接な関係で運営されている事が多かったという。歴史に裏づけられた奥深い商品だ。 SHOP DATA: 店名:クロフトベーカリー 住所:〒371-0017 群馬県前橋市日吉町2-5-1 みずき館1F 027-257-9052 営業時間:午前10時〜午後6時(売り切れ次第閉店) 定休日:日曜、月曜、木曜、不定休あり 品揃え:約50品目 スタッフ:製造常時2人、販売常時2人 店舗面積:厨房6坪、売り場5坪 | ||||||||||||||||

| 出会いの中心地でありたい。店名に込められた想いを体現 - コンセントマーケット | |||||||||||||
関西の中でも「住みたい街」として人気の兵庫県西宮市の夙川エリアは、人気も実力もハイレベルな店が揃うベーカリー激戦区として知られる。 その中でも特に人気で、小規模な店舗ながらも種類豊富なパンを求める人々の姿が絶えないのが、今年開店10周年を迎えたベーカリー「コンセントマーケット(Concent Market)」だ。 同店のパンは「コミュニケーションするパン」がコンセプト。そのため店長でシェフの岩井直人さんは、自らを「ディレクター」と称し、パンそのもののみならず、パンを通じた人と人とのつながりを大切にしているという。 今から3年前の2017年3月には、7周年を迎えたことを機に店の内装を一新。同時に顧客とのコミュニケーションツールのひとつとしてインスタグラムのページを開設した。 更新作業は専ら岩井さんの妻で同店スタッフである由紀子さんの仕事だ。同店のファンを中心にフォロワーの数を増やしている。 同店ではそれぞれのパンに合わせて小麦を複数ブレンド。そして低温で14時間以上ゆっくり発酵熟成させている。生地そのものの風味をじっくり味わえる食事パンの品質が確かだが、そこにフルーツやオリーブオイルなどの素材をほんの少し練り込んだ菓子パンや惣菜パンの商品が人気だ。 中でも、オリーブオイル漬けのしらすとあおさを練り込んだバゲット「しらすとあおさのプティバゲット」(税別140円)と、西宮の日本酒メーカーが作った酒粕とオレンジピールをチャバッタ生地に練り込んで焼き上げる「パンミヤッコ」(税別180円)が人気になっている。 バゲットやチャバッタなど海外から伝播して来たシンプルな食事パンに和の素材を少し加える事で、何とも奇跡的な味が生まれる。「パンミヤッコ」は、「西宮の名産品」と言われるまでになっているという。 パンを通じた交流イベントを開催 パンを通じた人との交流を大切にしている岩井さんは、オープン以来、店内のスペースを利用して、客との交流の場としてのイベントを開催したいと考えていたが、2018年3月にようやく定期開催の交流イベント「CONCENT SESSION」を開始した。 第1回は2018年3月に、1日だけのサンドイッチショップをオープン。「自家製ローストビーフとストロベリーのチアシード入りキャラメルカンパーニュサンド」などの特別メニューのサンドイッチを5アイテム用意した。 その後は2018年10月に第2回を、第3回を2019年8月に開催。第2回は同店隣のイタリアンレストラン「アルテシンポジオ」の荻堂桂輔シェフと、「マダムノリ」の愛称で知られるオリーブオイルソムリエの荻堂紀里さん、岩井さんの3人によるサンドイッチの製造実演を行い、第3回は小学生の子供達を招き、家庭で作れるサンドイッチとフレンチトーストの講習会を行った。 思いがけないうれしい出来事もあった。「コム・シノワ」での活躍を経て、現在はベーカリー「サ・マーシュ」のオーナーシェフとして活躍する西川功晃氏が突然来店したのだ。 「HYOGOシュトレンフェスト」というシュトレン文化の発展を目的としたイベントの発足メンバーになって欲しいという誘いだった。その後、岩井さんは発足メンバーとして「HYOGOシュトレンの会」に参加。 | |||||||||||||

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家ごはんの提案は由紀子夫人が担当
インスタグラム上では由紀子夫人考案の「家ごはん」レシピを定期的に配信。パンと合わせやすいおかずの作り方や、バゲットやカンパーニュなどを使用して作るサンドイッチメニューの紹介などを行っている。 豆腐など、普段のサンドイッチ作りではあまり使わない食材を取り入れたレシピも発信。また冷蔵庫の中に残ったものやコンビニの惣菜などを取り入れた斬新なメニューも紹介している。鮮やかな紫白菜を取り入れた「家ごはん」を投稿した時は、特に大きな反響があり、多くのコメントが寄せられた。 インスタグラムには、新商品の試作段階の写真も投稿している。 オープン以来10年間、多くの仲間に支えられた 「コンセントマーケット」は、今から10年前の2010年3月15日に西宮市夙川の地にオープンした。 岩井さんはそれまで、同じ西宮市のベーカリー「ブーランジュリー ムッシュアッシュ」の店長として働いていたが、その親会社が倒産し、突然閉店するという事態に見舞われ、それから約半年という速さで同ベーカリーから数百メートルの場所に「コンセントマーケット」を開店したのだった。もう西宮で20年以上パンを作り続けていることになる。 「コンセントマーケット」の10周年記念イベントを予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大から、延期が決定。 10周年記念イベントを予定していた日に、いつもと変わらない作業をしながら閉店させた後、店を立ち去ろうとすると、10周年のお祝いのケーキと温かいメッセージボードを持ったスタッフたちが突然休憩室から登場した。 「人生最大のサプライズで、嬉し涙でした。みんな休憩室に隠れて閉店を待っていてくれたんですね。全く気づかなかったから、本当に驚きました。そして心に沁みました。この日のこと思い出し、このメッセージボード見返したら、あと10年は余裕で頑張れそうです」(岩井さん) SHOP DATA 店名:コンセントマーケット 住所:〒662‐0047兵庫県西宮市寿町5−15 電話:0798-23-0707 営業時間:午前8時30分〜午後7時 定休日:月曜、火曜 品揃え:約60品目 スタッフ:常時製造7人、常時販売2人 店舗面積:厨房11坪、売り場4坪 日商:平日25万円、土日35万円 |
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