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特集/2023年1月号

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ベーカリーの焼き菓子




パン屋だから作れる焼き菓子がある - ブーランジュリー ボネダンヌ
フランスの定番の焼き菓子を中心とした商品が並べられた陳列棚。ヨーロピアンレトロを感じさせる内装は、フランスのベーカリーそのままだ
店主の荻原浩さん
東京・世田谷区の三宿エリアにあるベーカリー「ブーランジュリー ボネダンヌ」
毎朝焼く焼きたてのものを出す「パン屋のマドレーヌ」(税込160円)
「シュトレン」(大きいサイズ税込2400円、小さいサイズ税込1200円)
石窯で焼くことによるしっとりとした食感が特徴の「パン屋のガトーショコラ」(税込330円)
仏での日常の記憶に残る焼き菓子

 東京・世田谷区の三宿エリアにあるベーカリー「ブーランジュリー ボネダンヌ」は、2013年のオープンから約9年の間に焼き菓子の売上比率が徐々に増えていったという。
 「焼き菓子はパンに比べると伸び率が顕著に出ている感じです。今は売上全体の2、3割位を焼き菓子が占めるようになりました」と話す店主の荻原浩さんは20代の頃、10年近くパティシエとして働いていた経歴を持つ。
 しかし2回の渡仏と計5年半にわたるフランスでの修行を経験しながら、途中でパティシエからパン職人へ転身した。フランスでの日常生活の中で食べたパンのおいしさに驚き、その魅力に強く引き寄せられた事が理由だが、同時にパンを作るベーカリーで売られている焼き菓子が人々の日常に自然と寄り添っている姿にも関心を持つようになったという。
 「向こうでは洋菓子店のお菓子は敷居が高い高級品で、普段食べる日常のお菓子はパン屋で売られています。でもパン屋の焼き菓子は庶民的だけどすごくおいしくて、パン屋で作るものならではの魅力があるんです」(荻原)
 フランスでは、朝食で甘いものを食べる習慣があり、昼食や夕食でもメインの食事の後にデザートをとるなど、日常食の中に菓子や甘いものを取り入れる文化がある。日本とは大きく異なる食文化を抱え、独自の感性や価値観を持つフランスの人たちと接していく中で、フランスのパン屋が作る焼き菓子にもパンと同じくらいの興味を持つようになったという。
 「僕の記憶の中にあるフランスのパン屋が売っていた焼き菓子をなるべくそのまま再現して揃えました。その中で思い入れの強いものには全て『パン屋の』という冠を商品名につけて販売しています」(荻原さん)

一番人気のマドレーヌは常に焼きたてを提供

 荻原さんはフランスから帰国後、東京・品川のベーカリー「パン オ フゥ」の立ち上げに携わるなどした後、2013年に独立して「ブーランジュリー ボネダンヌ」をオープン。以降、荻原さんがかつて修行していたフランス・パリのベーカリーを体現した店として、ベーカリー激戦区として知られる三宿エリアの中でも高い支持を得てきた。
 注文してから作るバゲットサンドや「バゲットトラディショナル」(税込340円)などの食事系のパンが看板商品として定着しているが、焼き菓子も根強い人気がある。
 中でも人気なのが、必ず毎朝焼いた焼きたてのものを出す「パン屋のマドレーヌ」(税込160円)だ。
 萩原さんによると「パン屋の焼き菓子」に独特の魅力があるのには主に二つの理由があるという。一つはパンに使う石窯を用いて焼成している事。そしてもう一つはパン用の小麦粉を使っている事だという。「パン屋のマドレーヌ」はこの二つの強みを存分に発揮した製品だ。
 質感はしっとりしていて、軽さも程よく、一口食べると、小麦の風味にバニラビーンズの香りが重なった程よい甘さが口の中に広がる。舌触りで感じられる口溶けの良い質感がなんとも心地よく、味をじっくり堪能する事ができる。
 「洋菓子店で使われるコンベクションオーブンではなく、高温の石窯で一気に焼く事で風味を閉じ込めながらしっかり焼く事ができます。『へそ』と呼ばれる真ん中の膨らみも綺麗に出す事ができますね」(荻原さん)
 同店ではフランス産の小麦粉を使っているが、口溶けが良く小麦の風味を前面に出した独特の食感はここからもきている。
 「焼きたてが一番おいしいという強い思いがあるので、当店では作り置きは一切せず、必ずいつもその日の朝に焼いたマドレーヌを出しています。フランスの国民的焼き菓子として自信を持っておすすめしたいですね」(荻原さん)



アーモンド、ヘーゼルナッツなどを使用した「パン屋のサブレ」(税込400円)
蜂蜜で煮詰めたアーモンドをのせた「パン屋のフロランティーヌ」(税込240円)
ショコラのダコワーズの「マロニー」(税込280円)も静かな人気商品
パイ生地にアーモンドクリームだけを挟んだ「パン屋のガレット・デ・ロワ」
バニラ風味のクッキーにフランボワーズジャムを入れた「マルゲリート」(税込350円)
「パン屋のフイナンシェ」(税込200円)も人気商品のひとつ
良いものは普遍的で世界共通

 同店では、マドレーヌ以外にもフランスで日常的に食べられるサブレやクッキーなどを含む様々な焼き菓子や、パイやクロワッサンを含んだヴィエノワズリーも種類豊富に販売している。入り口を入って正面がパンを中心とした商品を陳列するショーケースの対面式の売り場になっていて、焼き菓子は左手の棚を中心に並べられている。内装はフランスのベーカリーのものをそのまま再現したと思われるシャンデリアや幾何学模様の床が広がり、木馬やアンティーク調の小さな本棚など小洒落た調度品が所々に配置されている。
 「フランスのお菓子は種類が豊富だし、ずっと食べ続けられてきた中で生まれた普遍的なおいしさがあります。加えてバターや小麦粉、チョコレートなどの素材の品質も高いですね。日本人には真似ができない独特のセンスや感覚を持つフランス人が羨ましいと思いますが、日本人とは生活習慣も価値観も大きく異なる国民だというのも事実です。しかし、良いものやおいしいものは普遍的で世界共通だと思うんです」(荻原さん)
 取材した当日は、クリスマスまであと1カ月を切った時期だった事もあり、「シュトレン」(大きいサイズ税込2400円、小さいサイズ税込1200円)が真っ先に目についた。冬に人気のチョコレートを用いた「パン屋のガトーショコラ」(税込330円)や「パン屋のサブレ」(税込400円)、「パン屋のフロランティーヌ」(税込240円)、「パン屋のフイナンシェ」(税込200円)などフランスでの日常を感じさせる定番の焼き菓子はその後方に、ヨーロピアンレトロを感じさせる濃い茶色の棚の中で主張すぎず、落ち着いた存在感を放ちながら静かに並んでいた。

雑なのに何か魅力がある独特の感性

 荻原さんはこれらの焼き菓子をバゲットやカンパーニュなどの食事パンを作る合間に仕込み、パンを焼いた後の石窯の余熱などを利用して焼成しているという。
 「パンを作りながら焼き菓子を作る事はオペレーションの面ではそれほど負担にならないですね。窯が空いているときにパン用のものと同じ材料で作れるし、パンと違って日持ちするからロスを起こすことはなく、確実な利益になります。頑張れば今までとは別の層のお客様の獲得にもつながります。お客様から見ても、訪れたパン屋の中にお菓子があると、買い物自体が楽しい気持ちになると思います」(荻原さん)
 荻原さんの心の中に常にある理想のパン屋は、「フランスにあったオーソドックスなパンがちゃんとおいしいベーカリー」だ。荻原さんは、そんなベーカリーで売られている、フランスの伝統文化の中で受け継がれてきた本当においしいと感じられる定番の菓子を、できる限り完璧に再現したいと考えているという。
 「今作っている商品を根気強く作り続ける事でさらに良くしていきたいと思います。商品を育てる事をとても大切にしています」(荻原さん)
 今は中にチョコレートを入れた商品を見直し、色々と試している。12月から2月にかけてよく出る定番のガトーショコラはもちろんだが、静かな人気商品の「マロニー」(税込280円)についても同じだ。 「チョコレートと言っても原材料として高すぎないものを取り入れ、商品の価格は子供がお小遣いで買えるくらいに抑えたいですね」(荻原さん)
 年が明けて1月になるとフランスでは当然のように「ガレット・デ・ロワ」があちこちのパティスリーやベーカリーで売られるようになるが、ベーカリー の「ガレット・デ・ロワ」はシンプルな材料で小麦粉の風味を出しながら価格は低め。一般庶民が気軽に買って食べられるものになっているいう。同店の「ガレット・デ・ロワ」もこれに近いものを再現。日本ではまだ敷居が高いイメージがある「ガレット・デ・ロワ」とは異なるものを出していきたいという思いがある。
 「フランスのパンや焼き菓子づくりでは、おいしさにダイレクトにつながる作業以外の工程は必要ないという考えがあります。だから形を綺麗に作るなどということは重要ではないんです。むしろ雑なのに何か魅力があるという独特の感性が主流です。そんな感性を少しでも吸収したいと思っています」(荻原さん)



入って左側の棚には、フランスの定番の焼き菓子を中心とした商品が並べられている
「ブーランジュリー ボネダンヌ」店内の様子。入って正面にパンを中心とした商品を陳列するショーケースがあり、対面式の売り場になっている
店の一角に置かれた木馬のオブジェ
ブーランジュリー ボネダンヌ
住所:〒154−0005 東京都世田谷区三宿1-28-1
電話番号:03‐6805‐5848
営業時間:午前9時〜午後6時
定休日:月曜、火曜、第2、第4水曜
品揃え:パン約30品目、菓子約20品目
スタッフ:製造常時4人、販売常時2人
店舗面積:厨房約9坪、売り場約3坪
日商:25万円

スコーンが、売上の大きな柱に - キィニョン武蔵小金井ののみち店
売場に並ぶスコーン。定番4種のほか、季節商品4種があり、常時8種類のスコーンが販売されている
東京・小金井市の「キィニョン武蔵小金井ののみち店」
最も販売量が多い「プレーン」(税込190円)
アールグレイの茶葉を練り込んだ「紅茶スコーン」(税込210円)
チョコチップが入った「マーブルチョコスコーン」(税込230円)
メープルシロップをコーティングした「メープルスコーン」(税込270円)
生クリーム仕立てで人気のスコーン

 東京西部の小金井市や立川市などを中心に7店舗を展開するベーカリー「キィニョン」は、ベーカリーでありながら人気商品である焼き菓子のスコーンの製造と販売に大きな力を入れている。
 「キィニョンにとってスコーンは『焼き菓子』という分類を超えた太い柱となっています。現在、JR中央線の武蔵小金井から立川までの各駅に店舗がありますが、これらの地域のお客様の要望にもっとお応え出来るよう、既存店を充実させていきたいと思っています」(キィニョン本部)
 同ベーカリーの中で唯一の路面店である小金井市の「キィニョン武蔵小金井ののみち店」のスタッフ、重永静花さんは「当店のスコーンは地域のちょっとした交流の場で配られたりすることもあるようです」と話す。
 広いイートインスペースを持つ「キィニョン武蔵小金井ののみち店」では昼過ぎに子供を連れたママ友同士が集まり焼きたてのスコーンを食べながら和やかに談笑している姿がよく見られる。地域の人たちの自然な日常の風景の一部に溶け込んだ人気のスコーン。その秘密は独自の製法が生み出した優しい味わいにあると言えそうだ。
 「当店のスコーンは通常のスコーンと異なり、バターの代わりに生クリームを使用しています。そのため口溶けのよい独自のしっとりとした味わいになるのです」(同社本部)
 見た目は、少しコロっとした形の三角形で硬そうにも見える。ただ一皮噛んだ中味はしっとりとし、味はほんのり適度な甘さが感じられる。そのためボソボソした食感が特徴でジャムやクロテッドクリームをつけて食べるのが一般的な英国発祥のスコーンと違い、そのままでも食べやすいという声を聞く事が多いという。

おやつ用としても食事用としても人気

 「もともと午後の紅茶の時間に食べるイメージが強いスコーンですが、当店のスコーンの場合、パンと同じように、朝食などに取り入れて食べているという声を頂く事もあります」(重永さん)
 そのため、常時販売している8品目の中で最も売れているのは、「プレーン」(税込190円)だ。
 2022年11月24日の取材当日は、通年販売商品の「プレーン」「紅茶スコーン」(税込210円)、「マーブルチョコスコーン」(税込230円)、「メープルスコーン」(税込270円)の4品目に、季節商品の「かぼちゃマロンスコーン」(税込250円)、「ラズベリー&ピスタチオスコーン」(税込270円円)、「カフェモカスコーン」(税込250円)、「スイートポテトスコーン」(税込230円)の4品目を加えた合計8アイテムが販売されていた。
 「従来のスコーンがもそもそしていて苦手でも、当店のスコーンなら食べられるという方もいます。焼き菓子としても食事の一部としても、色々な場面に取り入れられ、なんでもありで万能なのが当店のスコーンですね」(重永さん)
 最近ではギフトとしての需要も伸びてきているという。
 「一般的な焼き菓子と違い常温では3日しか保存できないのですが、近場へのちょっとした手土産にはなるし、冷凍すれば1カ月もちますので、冷凍保存が可能な人には、十分な賞味期限の贈り物として使えます。ギフト向けのボックスに入れる形での購入をおすすめしています」(重永さん)
 取材当日は、可愛らしいキィニョンのイメージキャラクターが描かれたオリジナルギフトボックスの「スコーン手みやげ8個セット」(税込1800円)や「スコーン手みやげ5個セット」(税込1080円)などがレジに近い場所でおすすめ品として陳列されていた。
 「もともと女性に人気のスコーンですが、最近は男性の方で購入される方も増えてきているように思います。スコーン自体の知名度が上がって様々な方が召し上がっていただけるようになればとは思いますね」(重永さん)

季節商品の「かぼちゃマロンスコーン」(税込250円)
季節商品の「ラズベリー&ピスタチオスコーン」(税込270円)
季節商品の「カフェモカスコーン」(税込250円)
季節商品の「スイートポテトスコーン」(税込230円)
明るい光が差し込み清潔感あふれる売り場
広いイートインが特徴的な「キィニョン武蔵小金井ののみち店」店内の様子
セントラルキッチンで生地を一括製造

 同店のスコーンは、「ベーカリーの焼き菓子」という枠を超える人気商品となった。
 当然、パンの製造オペレーションの中にスコーンの製造工程を組み入れていかなくてはならず、相応の手間はかかるという。
 「パン製造の合間に作るという感じではありませんね。スコーンの成形は全部手作業で一つ一つ分割するからパンとは別のスペースがある程度必要ですし、仕込んでいる間はミキサーもふさがってしまいます。さらに生クリームの配合率が高いので原価もかかります。しかし発売当初からのレシピを変えることは厳禁です。お客様は、このレシピのスコーンを求めているので、そのニーズに応え続ける必要があるのです」(キィニョン本部)
 スコーンは現在、「エキュート上野店」や「国分寺マルイ店」では売上全体の5割位を占めるという。「武蔵小金井ののみち店」など他の店でも平均で3割位をスコーンの売り上げが占め、スコーンはキィニョン全店舗での大きな屋台骨になっている。
 そのスコーンの生地は立川市内にある厨房のみのセントラルキッチンから各店舗に毎日送られる。「武蔵小金井ののみち店」では、その生地を店内厨房のコンベクションオーブンで一回60個ずつ何回にも分けて焼成。1日合計で平日は500個位、土日祝日は800個位のスコーンが売られている。キィニョン全店では1日3000〜4000個ものスコーンが作られているという。

スコーン以外の商品にも力を入れていく

 キィニョンにとってスコーンは売上の最も大きな柱に育ったが、同店はもちろんベーカリーとして食事系のパンや惣菜パン、菓子パンなどのスコーン以外の商品も力を入れている。
 イートインスペースが広い「武蔵小金井ののみち店」では、客との距離感が近いので、接客で直接話すことも多く、色々な提案がしやすいという。
 「お客様が求めていることを考え、その結果、心が通じ合ったと感じた時が一番嬉しいですね。スコーンは常温で3日間しか日持ちしないので、お客様に合わせてギフト用としては他の焼き菓子をおすすめすることもありますね」(重永さん)
 スコーン以外の焼き菓子ではクッキーやサブレ、シフォンケーキなどが人気だが、いずれもパンやスコーンと合わせて「プラス1品」の要望に応えるのには、最適な商品になっているという。
 「スコーンもかつてはそうした『プラス1』の需要に応えていた商品ですが、その後の様々なニーズに応えていった結果、今や『プラス1』を超える大きな存在になってしまいました。今はパンのついでに買うのではなく、スコーンそのものを買うことを目的に来られるお客様が多くなっています。ただベーカリーとしてパンを中心にしたスコーン以外の商品を出すことも大切にしていきたいですね。スコーンとパンの両方がより良い相乗効果を生むように、どちらにも力を入れていきたいと考えています」(キィニョン本部)

キィニョン武蔵小金井ののみち店
住所:〒184‐0003 東京都小金井市緑町5‐3‐45
電話番号:042‐316‐3917
営業時間:午前8時〜午後7時
定休日:年末年始
品揃え:約70品目
スタッフ:製造常時5人、販売常時5人
店舗面積:厨房20坪、売り場11坪、イートイン18坪(24席)
日商:平日30万円、土日祝50万円

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