ベーカリーの個性の正体は何か? - 普通のパン屋さんが普通に頑張れば繁盛出来る話(39) - ブランスリー電子版


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連載/2020年9月号

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ベーカリーの個性の正体は何か? - 普通のパン屋さんが普通に頑張れば繁盛出来る話(39)
 私は、考えてみると、かなりの量のパンを消費していると思います。近所の行きつけのベーカリーで日常的にパンを購入しますし、仕事や私事で出かけた時も、多くの場合、帰りに、出向いた先の有名ベーカリーでパンを購入して帰ります。
 ただ、「愛は盲目」というように、あまりにもパンが好きすぎて、客観的にパンが見られなくなるのは、仕事上よくないと考えているので、自分の生活を愛する平均的な人たちの感性を常に持とうと心掛けています。
 変に背伸びをせずに、ありのままの状態の自分を、そこはかとなく満足させてくれるような食生活を送りたいと常々思っている私ですが、パンについては、仕事柄、特にいろいろな想いがあります。
 ふと気が付くと、何軒かのベーカリーが私のレパートリーの中にあって、それぞれが長い付き合いになっています。長い付き合いの友人たちと同じように、それぞれに個性があって、その個性が私の中で、心地よく響くから、一定の頻度で通い続けるのだと思います。
 その個性の正体は何かと考えてみると、そのコアの部分はやはり、食べ物としてのパンだと思います。
 食べ物としてのパンについて改めて考えてみると、例えばAベーカリーのクロワッサンのバターの香りとか、Bベーカリーのバゲットの深い味わいとか、個々のパンについての感情はもちろんありますが、個々のパンを次々と味わっていく中で、店単位の個性の絵画が、私の心の中に描かれていきます。Aベーカリーのパンが与えてくれる心の安らぎと、Bベーカリーのパンが与えてくれる心の安らぎは、確かに違う種類のもなのです。
 ひとつのベーカリーのパンの数々が全体として発するオーラみたいなものの正体はいったい何なのでしょうか。私がこれまで、色々なベーカリーのパンを食べてきて思うのは、その正体は、そのベーカリーが仕込む生地とその焼成技術に由来するのではないかということです。また、パン生地や焼き上がったパンに絡ませる様々な食材に対する審美眼と、その調理技術にも由来するのではないかということです。
 私が日常的に通っている近所のベーカリーのこしあんパンは、口に運んで噛みしめると、艶のあるきつね色の表面とそのすぐ下の柔らかなクラムのかすかな反発の後に、脳味噌までがとろけそうになるような滑らかなこし餡が口に中に広がります。そして、周りにあったパンの部分が、口の中に広がったこし餡と心地よく響き合いながら、その中に吸い込まれていきます。
 口に中で繰り広げられるこうした名シーンは、それを演じるパンとこし餡という役者たちのレベルが高くなければ、成り立ちません。役者たちを育て、ストーリーを考え、名シーンを演出するのは監督であるオーナーシェフです。
 店で製造販売するパンの一つ一つについて、その生地の配合と捏ね方、発酵のさせ方、焼成の仕方などを深く考え、それに絡ませる食材やその調理法についても深い想いをめぐらせるという作業を地道に繰り返した結果として、そのオーナーシェフの哲学に彩られた様々な名シーンからなる物語が生まれてくるのだと思います。そして、この物語こそが、ベーカリーが持つ個性の正体ではないかと思うのです。
 その物語の各シーンは、「輝くメロンパン」「夏野菜のカレーパン」「完熟バゲット」などというタイトルを付けられて、店内の陳列棚で待機しながら、来店客の口の中で、上演される時を心待ちにしているのです。(RO)







原価計算女王
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