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特集/2020年3月号

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その後の食パン専門店




専門店として、職人の技を生かせる食パンを、最良の状態で提供したい - セントルザ・ベーカリー
食パン専門店「セントルザ・ベーカリー」の外観。焼きたての食パンを求めて開店前から行列が絶えない
ル・スティルの統括グランシェフの奈良晴之さん
焼き上がった食パンを型から取り出す製造スタッフ
併設のイートインスペースで人気の高い奥の部屋。書斎のような空間が広がっている
オープン時からの姿勢を崩さない

 東京・中央区の地下鉄・銀座一丁目駅から徒歩3分ほどの場所にある食パン専門店「セントルザ・ベーカリー」は2013年のオープン以来、行列の絶えない食パン専門店として話題になる一方、現在の食パン専門店ブームの先駆けとなった店としても注目される事となった。同店を運営するのは、姉妹店として、バゲットで有名な東京・渋谷の「ヴィロン」やエシレバターの専門店「エシレ・メゾン デュ ブール」、昔ながらの日本のパンを提供する「みんなのぱんや」などを運営する会社、ル・スティル(西川隆博社長)だ。
 同店の成長に追随するかのように、ここ数年、ベーカリー業界は食パン専門店ブームに沸き、現在まで続いている。
 同店は、基本的にはオープン当初からの姿勢を崩さず、ぶれない方針という。販売する3種類の食パンやイートインのメニューはほぼ変わらず、北欧調の雰囲気でまとめられたインテリア・内装も当初からずっと変えていない。
 「当店にとっては、食パン専門店として、職人の技を生かす事ができる本当に品質の高い食パンを焼きたてで色々な方に提供したいという目的自体は、ずっとぶれず変わっていません」とル・スティルの統括グランシェフでオープン時から「セントルザ・ベーカリー」の現場を作り上げてきた奈良晴之さんは話す。
 2018年11月には、より幅広い層に同店の商品を提供したいと、東京・青山店をオープンした。そのため現在は「角食パン」(1本=2斤=税別900円)など3種類の食パンを、銀座店で1日約1100〜1200本、青山店で約700本販売するようになった。
 青山店では、銀座店とは違った客層と人の流れの中で「焼きたて」の商品を届けるため、銀座店とは少し異なるオペレーションを展開している。銀座店では毎日15回ほど焼成し、焼きたてが出る決まった時間まで客に並んで待っていてもらうというシステムをとっているが、青山店ではそういったシステムがまだ固まっていないからだ。
 「青山店は、時間によってお客様が来る数に差が大きく先が読みにくいのですが、お客様が来る頃にタイミングよく商品を出せるようにしなければなりません。製造と販売が常に話し合えるような場を1日に1回は持つ事を大切にしていますが、オペレーションの工夫を取り入れる事を常に考えていますね」(奈良さん)



食パン3種類にバターとジャム、スプレッドを合わせた「セントルトーストセット」(税別1800円)
イートインレストラン内ではトースターを借りる事ができる
「角食パン」(税別900円)
「プルマン」(税別900円)
「イギリスパン」(税別800円)
食パンのみの製造でも新しい発見が常にある

 奈良さんは、「食パンのみという限定された範囲での業務ですが、不思議な事に、毎日が新しい発見の連続です」と話す。
 同店では2013年のオープン時から、「角食パン」(1本=2斤=税別900円)、「プルマン」(1本=2斤=税別900円)、「イギリスパン」(1本=2斤=税別800円)という3種類の食パンのみを販売。
 「食パンは、パンの世界の基本を凝縮していて、毎日、食パンのみ作り上げていくことが、パンの世界を総合的に見る事、その奥深さを知る事につながっていると日々感じています」(奈良さん)
 中でも「角食パン」は、北海道美瑛産の国産小麦「ゆめちから」を使用し、湯種・液種を掛け合わせて作った食パンで、焼かないそのままの状態が食べやすい「しっとり・もっちり」の食感が特徴。「日本の気候と文化に合った作り方とおいしさを凝縮させた製品です」と奈良さん。
 一方、「プルマン」は、アメリカ、カナダ産の小麦を使用。「角食パン」とほぼ同じ製法で作ったものだが、材料のみ変えている。「イギリスパン」は、同じく北米産の小麦を使用した山型食パンだが、36時間低温発酵させており、薄く切ってカリカリに焼いて食べるのに向いている。
 「季節的には適度な温度と湿度がある時が一番おいしく焼き上がりますが、なるべく安定した品質のものを提供することを目指しています。意図しているのは流行り廃りのない昔ながらの美味しい食パン、普遍的に愛される『普通の食パン』ですが、そこに職人の技術を駆使し、ちょっとした製法の工夫を取り入れることで、高品質と言われるような価値を認めてもらえる食パンを作り上げているのです」(奈良さん)
 ただその品質の高さは、単純にレシピだけの問題ではないという。技術的には液種と湯種を使用しているが、それを巧みに扱う職人技は、同店での教育から生み出されている。
 そのため同店では積極的に人材を採用している。新卒の採用も行っており、一から職人として育てることで、これまで多数の人材を輩出してきた。
 「食パンのみに焦点をあて徹底的に技術を学ぶ事になるのですが、おそらく数多くの種類のパンを作る店で学ぶのとはまた違う体験をするでしょう。同じ作業の中でも日々変化がある事に興味を持ち、考えながら作業をすることで、パンをより深く知ることができると思います」(奈良さん)



国産小麦の需要を増やすことも、果たすべき使命だと考えている
イギリスパンを使った「BLTサンドイッチ」(税別1400円)
「プルマン」を用いた「ハムステーキサンドイッチ」(税別1600円)
「角食パン」を使用した「たまごサンドイッチ」(税別900円)
国産小麦の需要をさらに掘り起こす

 同店は、食パンを最良の状態で消費者へ届ける事のほか、内麦の需要を高める事も店舗運営の使命としている。
 これはオープンした2013年当時はまだ国産小麦にスポットが当たる前だったこともある。当時は限られた農家が国産小麦を生産していたが、生産効率の面で厳しい状況で、高値の割にはパン用としては使いにくいなどの問題も多かったので、まだ一般的に流通はしていなかった。
 実は同店の運営会社であるル・スティルは北海道の美瑛町に自社運営の牧場を保有。同牧場で作られた牛乳を使用した製品づくりを行っているが、小麦は美瑛町の農家と専属契約し、高品質な国産小麦「ゆめちから」を必要量手に入れることができるようにしている。
 同店が率先して国産小麦を使用した食パンを出す中、その後、他のリテールベーカリーでも国産小麦を使用する動きが生まれてきた。今後もさらに内麦の需要喚起のために「ゆめちから」を使用したパン作りをしていく考えだ。

専門店としての役割を果たしたい

 また、同店は食パンの食べ方を提案する場所になることも目指し、イートインのレストランを保有しているが、朝10時の開店時から出している食べ比べセット「セントルトーストセット」(税別1100円〜1800円)では、1枚の皿に2種類または3種類の食パンのスライスをのせている。3種類のバターや数種類のジャム、スプレッドも一緒に提供され、店内にあるトースターも自由に借りて使うことができる。自分の好みの焼き加減でパンを焼きながら、じっくり基本の食パンの味を堪能することができる。
 また、角食パンを使用した「たまごサンドイッチ」(税別900円)や「プルマン」を用いた「ハムステーキサンドイッチ」(税別1600円)、イギリスパンを使った「BLTサンドイッチ」(税別1400円)など、それぞれの食パンの特性を生かして具材を合わせたメニューも人気だ。
 客が食パンの食べ方を選べるよう提案している。「専門店ならではの役割を果たしていきたいのです。だから、やっぱり第一にはおいしいパンを作り続けていきたいですね」と奈良さん。

確かな品質を伝えるブランド力はブームが落ち着いても変わらない - 高級「生」食パン専門店 乃が美 麻布十番店
「高級『生』食パン専門店 乃が美 麻布十番店」は、今なお連日行列が絶えない人気ぶりだ
「高級『生』食パン」は、「レギュラー(2斤)サイズ」(税込864円)のほかに、「ハーフ(1斤)サイズ」(税込432円)もある
開店前から並んでいた大勢の客が順番に「高級『生』食パン」を買っていく
「麻布十番店」開店前の売場の様子
「年越し高級『生』食パン」
金色のジャムセット「マーマレード、ストロベリー、ブルーベリー 3本セット」(税込3240円)
「高級『生』食パン」を商標登録

 大阪市天王寺区に総本店を構え、「高級『生』食パン」を専門に製造販売を行う「乃が美」は2018年11月に直営店として「乃が美 麻布十番店」をオープンし、東京都内へ初出店を果たした。
 2013年の創業から、直営店のほか暖簾分けされた「はなれ」も含め全国各地へ瞬く間に店舗を広げてきた「乃が美」では、「麻布十番店」が「乃が美」の記念すべき100店舗目となった。オープン直後から連日のように店頭に並んで行列を作る人々の姿が絶えず、当時は「麻布十番店」だけでレギュラー2斤サイズの「高級『生』食パン」が1日で約1300本も売れた。
 それから1年以上経過した今も同店だけで1日で約1000本近くの「高級『生』食パン」が売れているという。
 一方、ここ1年間で東京都内にも高級食パン専門店を謳う新規参入や店舗拡大が過熱するようになってきたが、「乃が美」は「高級『生』食パン」を商標登録し、他社との差別化を図っている。
 食パン1本で展開する究極の単品ビジネスで全国へのチェーン展開に成功した「元祖企業」として、「乃が美」は、「高級『生』食パン」を今後も広めていく姿勢だ。

品質重視の姿勢をさらに強化

 「乃が美」は2020年1月現在で、全国に151店舗を展開し、全国1日総販売本数は多い時には約8万本、「乃が美」と「乃が美 はなれ」を合わせた全体の全従業員数は約2200人。秋田県を除く全国46都道府県への進出を果たしている。
 「食パン専門店のブーム自体はやや落ち着いてきた印象があります。今後は飽和状態となった市場で確実に生き残っていくためにも、さらに品質を高めていきたいですね」(専務取締役の中井裕之さん)
 そのため、全国の店舗で作られた商品は毎月1回本部へ送ってもらい品質に問題がないかどうか厳しいチェックを行っている。もし、その際に問題があれば直営店で研修し直してもらう仕組みだ。また本部側も定期的に全国を回り、製造、販売の両面を視察し、問題があれば直ちに本部で吸い上げる体制をとっている。さらに各店舗のスタッフは、直営店で定期的な講習会や勉強会も受けられるように研修体制を充実させている。
 「我々の商売にとっては、商品のクオリティーの維持が大きな信用につながる生命線です」(中井さん)
 信頼できるおいしさを届けられる商品である事を知ってもらうため、「乃が美」のHPや店内の掲示物、商品購入時に同封するチラシなどには、「高級『生』食パン」の3つのこだわりについての説明を記載している。
 3つのこだわりは、卵を使用していないことと、「最高級カナダ産小麦粉」を100%使用していること、そして、焼かずにおいしく食べられる『生』食パン作りにこだわり、職人がひとつひとつ丁寧に焼き上げていることだという。
 さらに、保存の方法を紹介したり、1日置く事でより味が落ち着き、本来の甘みや風味が引き立っておいしいことを紹介したりと、食べ方に関する説明も積極的に出している。

オーブンから焼き上がったばかりの食パンを取り出す
焼き上がったら扇風機で表面だけを冷ます
冷まし終わった食パンは包装され、そのまま売場へ運ばれていく
食パンをお土産の定番にしたい

 実は同社は年末最後の3日間に販売する「『生』食パン」を「年越し高級『生』食パン」とし、年末年始の帰省の際などの土産物として提案する企画を毎年行っている。
 創業当時から「食パンをお土産の定番にしたい」と考え、「乃が美」ならではの和テイストの紙袋で内側に透かし文字を施すなど細部までこだわり、贈り物としての高級感を出している。
 その際には、「『生』食パン」に合うように作ったジャムを3種類詰めた金色のジャムセット「マーマレード、ストロベリー、ブルーベリー 3本セット」(税込3240円)を合わせて贈ることも提案。
 さらに期間限定品で鳥取県産二十世紀梨100%使用の「和梨ジャム」(税込1080円)や「チョコレートジャム カカオ55/カカオ73」(税込各1080円)なども販売し、使用レシピを発信するなど、提案の幅も広げている。
 一方、「もともとはお土産需要が圧倒的に多い商品でしたが、最近は日常生活で抵抗なく取り入れ毎日食べてくださる方も増えてきたように思います」とも中井さんは話す。
 現在同社は、各都道府県に「乃が美はなれ」を出店することで、全国に「乃が美」の「『生』食パン」を届け、さらに近隣工場から直送出来る距離に、パン工場を持たない販売専門店を置いて、少しでも多くの人の手に「『生』食パン」を届けられるように努めている。
 「今後も『乃が美』の食パンが世代を超えて愛されるパンになるよう努めてまいります。そのためには、『当たり前だけれど大切なこと』を維持し続けることが大事だと考えています。100年後、食パンと言えば『乃が美』と語り継がれることを楽しみにこれからも初心を忘れず『ほんまもん』の味をお届けいたします」と中井さんは語ってくれた。

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