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| 特集／2024年6月号 |
2023年11月18日から、発行から１年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| 【お店拝見特集】皆の憩いの場でありたい。地域を支える力になる - ブーランジェリー ソラ±ハナ | |||||||||||||||||||
東京駅から快速電車を乗り継いで１時間ほどで辿り着くのが千葉県大網白里市にあるJR大網駅。その大網駅からバスまたはタクシーに乗り、県道83号線沿いを海岸方面に向かって10分ほど走ると左手に見えてくるのが「ブーランジェリー ソラ ± ハナ」だ。 「地域の人口はやや減少気味で、特に若い世代の比率が減ってきている印象ですね。開店して15年経ちますがそれに合わせて、ある程度店の規模や形態も変えていかなくてはと思っています」と店長の長尾大さんは話す。 コンビニエンスストアによくあるような平屋の幅広の建物で、20台ほどが停められる広めの駐車場が店の正面から右側にかけて広がっている。パンを抱えてコック帽を被った男の子のイラストと、その隣にある「ｂｏｕｌａｎｇｅｒｉｅ ｓｏｒａ±ｈａｎａ」の店名が書かれたロゴ、青と白のストライプの庇（ひさし）が印象的だ。入り口前の向かって左横にはテラス席とベンチがあり、店内にもイートインスペースがある。 取材当日は平日の水曜だったが、近くにある体育館で卓球を行う地域住民の集まりがあり、その帰りに寄ったという人たちがイートインで談笑していた。 平日の客層は高齢者が中心だ。若い世代は土日に近隣の広い範囲から車で訪れる事が多く、平日と土日は客層が全く変わるという。売り上げも、土日は家族連れで客単価が高いので平日の２倍近くになる事も多い。商圏は半径６キロ以内と広めだ。 「一番人気はカレーパンですね。でもハード系もなかなか評判がよく、高齢の方もよく買ってくださっているんです」（長尾さん） 長尾さんはここ大網白里市の出身だ。自分が好きで勉強したハード系のパンを地域の人にも食べてもらいたいと、積極的に試食提供を行った結果、口コミなどでリピーターがつくようになった。 自家培養酵母は独学で作り方を学んだ 長尾さんはこの町で育ったが、進学を機に、一時故郷を離れ、パン職人になってからは横浜や千葉県のベーカリーで修業したのち、故郷であるこの地に戻り独立を果たした。 自家培養酵母は、自分が好きで憧れていたベーカリーのルーツを辿ってレシピを調べたりしながら独学で学んだ。開店当初からずっと継ぎ続けている種を15年間、今もずっと育て続けている。粉も17種類を仕入れ、それらを、用途に応じて独自にブレンドして使っている。 「食パンや菓子パンは口溶けの良さにこだわった生地を、ハード系は自家製酵母からくる熟成された旨味がある生地を作っています」（長尾さん） 天候や季節によって、微妙にブレンドの比率を変える事もあるが、基軸となる部分は変えず15年守ってきた。 一方、具材もなるべく自家製でボリュームがあるものにしている。人気のカレーパンはカレーの具が大きめで、そのままカレーライスのルーとして使えそうな位、ボリュームがある。カレーを包む生地は張りがあってしっかりしている。 同店の売り場は木の質感を感じさせる温かみのある空間だ。中央の平台を中心に多くの商品が並べられているが、焼き上がり時間は商品によってばらつきがある。カレーパンのようにこまめに何回か出るものもあるが、あえて焼成回数を絞っているものもある。 ４年前のコロナ渦が始まった時は事業の縮小と効率化を余儀なくされたが、最近スチームコンベクションオーブンを導入した事で製造効率が上がり、仕込みも負担なくできるようになって、店として大事なものは守る事ができた。商品数も以前よりは減らしたが、それでも１００種類位は展開している。 店の壁に掲げられた「17種類の小麦とルヴァン種の自家製酵母を使用し、手間と時間をかけて焼いています。具材も自家製でゴロゴロ牛肉のカレーパンは丁寧に心を込めて作っています」との文言が、この店の核となる思いを伝えていた。 | |||||||||||||||||||
長尾さんがベーカリー業界に入ったのは24歳の時。当時住んでいた町の近くに、好きで通っていたベーカリーがあり、そこが出していた求人広告にふと目が止まった。 「大学を卒業後、自分ができる仕事を模索しながら生活している最中にパン屋の求人広告を見てピンときたんです。もともとものづくりに興味があって料理が好きでした。最初は軽い気持ちでしたが、やっているうちに、パンは生き物みたいで面白くなりました」（長尾さん） その店で３年間働いて店長になった。さらに別の店でも働き修業を重ねたが、だんだん自分の店を持って独立したいと思うようになった。そして店を持つなら自分の地元で持ちたいと思うようになった。 「自分が育ったこの町にはパン屋がなかったですから、パン屋で、個人店で、イートインがあって、町の皆が集まれる場所を作りたいと思いました」（長尾さん） その後、ベーカリーの開業支援を行う会社へ入社した。そこで全国各地の新規オープン店舗を回り、派遣の製造指導員として働きながら、独立のための知識を得て、開業資金も貯めていったという。 そして４年後の２００９年に「ブーランジェリー ソラ±ハナ」をオープン。足掛け８年の修行時代を経ての独立だった。 経営の分岐点を経て昨年リニューアル 長尾さんの場合、オープンした２００９年当初から５年目位までは、オープン後の勢いがあり、開業支援の会社で培ったノウハウもあって店は順調だったが、途中から地域住民のニーズも変わってきて、そこに原材料と人件費の高騰などが重なり、分岐点に立たされることとなった。当時は今より従業員の数も多かった。 その頃から支店を出したり、移動販売や百貨店などへの外販なども増やすなどして模索を続けていったという。 特に２０１５年からは都心部に近い遠方でのイベントにも参加するなどして外販に力を入れるようになった。今でも千葉駅で頻繁に開催されるベーカリーに特化したマルシェイベントに参加している。 ただコロナ禍でこうしたイベントも中止になり、合わせて原料高や、高校生のバイトが集まらないなどの人手不足が重なり、３年前には千葉県山武市の成東地区にあった支店を閉じた。代わりに本店近くのスーパーに販売のみを行うインストアベーカリーを出したが、全体としては事業規模は縮小。 昨年の２０２３年１月には、原料高に合わせて商品の値上げをしたかった事もあり、規模を若干縮小した形で本店をリニューアルしたという。 店のレイアウトを見直し、スチームコンベクションオーブンを入れて効率化を図る事で、限られた人数でもパンの品質を落とさず店舗運営ができる体制にした。ただパンの生産量は以前よりある程度減らし、そのぶんロスも減らした。閉店時刻も午後７時半から５時へ早めた。 紆余曲折を繰り返し、今に至った同店だが、平日は近所に住むリピーターが多く来店し、土日は九十九里浜に向かう観光客も含めた若い世代の人々が数多く訪れる人気店には変わりない。 「必要とされている実感はあるので、無理のない形でずっと続けていきたいですね。形は変わっても、これからもずっとこの町の人たちの憩いの場であり続けたいと思います。パンを焼き続けたいという思いだけはずっと変わらないですね」（長尾さん） SHOP DATA 店名：ブーランジェリー ソラ±ハナ（本店） 住所：〒２９９‐３２２１ 千葉県大網白里市富田２１２５−３ 電話：０４７５‐７１‐１３１３ 営業時間：午前９時〜午後５時 定休日：月曜、火曜 品揃え：約１００品目 スタッフ：製造常時2人、販売常時1人、販売兼サンドイッチ製造常時1人 店舗面積：厨房30坪、売り場20坪、イートイン16席、テラス席6席、駐車場20台 日商：平日12万円、土日祝16〜20万円 | |||||||||||||||||||
| この記事の読みどころ
●一番人気はカレーパンだが、ハード系も高齢者からの評判が高い。
●粉は17種類を仕入れ、それらを用途に応じて独自にブレンドして使っている。 ●スチームコンベクションオーブンの導入で、パンの製造効率が上がった。 ●規模を縮小する形で本店をリニューアルし、効率化と増益化を図る。 |
2023年11月18日から、発行から１年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
