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| 特集／2024年6月号 |
2023年11月18日から、発行から１年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| 【お店拝見特集】画家の道から転身してベーカリーを開業 - Ｙ・Ｍ・ＢＡＫＥＲＹ | |||||||||||||||||||
神奈川県横浜市の国道沿いにある「Ｙ・Ｍ・ＢＡＫＥＲＹ（ワイエムベーカリー）」。ＪＲ鶴見駅からバスで20分ほど、最寄りの停留所からすぐのところにある。 通りでひと際目を引く鮮やかな青色の外観は、フランス・パリのパン屋をイメージした。ひさしと看板には一見天使のようなイラストが描かれているのだが、よく見ると、コック帽を被り髭を蓄え、羽にはバゲットとクロワッサンが付いている。そして手には、絵筆とパレット。 同イラストをデザインしたのは、店主の松山洋一さん。松山さんは約10年間、アニメーションの背景美術を制作する会社に勤務していた。ひさしのイラストは、パンを作り絵を描く松山さん自身を表現しているようだ。 「イラストの横にある店名が入ったロゴも作成しました。外観のデザインも店内のレイアウトやデザインも、自分でイメージしたものをもとに、施工会社さんにお願いしました」（松山さん） 店内は、入って右側がイートインスペース、左側が売り場、中央にレジ、その奥がガラス窓と壁で仕切られた厨房となっている。イートインスペースの壁には松山さんが描いた絵画の大作が３点飾られ、美術館の雰囲気が漂う。 床は白と黒の格子模様、天井はダークブラウンのレンガ模様にそれぞれ装飾され、レジカウンターは天井からつるされたシンプルな形のランプに照らされている。 「ゲームの『ドラゴンクエスト』に出てくる道具屋や映画『ハリーポッター』の世界観が好きで、それらが感じられる空間になるようデザインしました。こだわる分、費用が嵩みますが、使う材料や施工方法を色々と検討し、予算内で実現させました」（松山さん） パンが並ぶセルフ販売用のショーケースもオーダーメイドだが、施工方法を工夫し低コストで設えた。客が簡単に開閉できるような取っ手を付け、ダークブラウンの木枠のデザイン、売り場にぴったり収まるサイズにするなど、随所にこだわりが詰まっている。 「工場に注文して完成品を搬入するよりも、職人さんを一人呼んで、この場で作ってもらう方が低価格でできることがわかりました。ショーケース以外にも、イートインのソファの土台や焼きたてのパンを置く台など、色々作っていただきました」（松山さん） 天気の影響が大きく、作るパンは毎朝決める 現在一日に並ぶパンの種類は約20ほどで、半分以上は日替わりだ。手書きのプライスカードがいくつかあるのも、都度作成しているからだ。 「雨の日は自分の定休日だと思うようにしているくらい客足が減ってしまうんですよ。ですので、製造量や種類はその日の朝決めていて、パンはほとんどストレート製法で作っています。計画を立てるより、その場その場で決めていく方が自分に合ってるんですよね。また、ストレート製法は粉の香りが強く感じられるところが気に入っています」（松山さん） 一番人気は、予約が増えてきたという角食「ＹＭ（ワイエム）ブレッド」（税込３３０円）。 「店舗の電気容量が足りずガス窯を入れたのですが、ガス窯の良さが引き立つアイテムです。ふっくらと焼き上がりますね。おかずと合わせたくなる白米のような味わいを目指して作っています。想定以上に、常連様に気に入ってもらえているようで嬉しいです」（松山さん） 「ＹＭブレッド」の人気が定着してきた一方で、実は、総菜系や菓子系などのアイテムを一番人気にしたいという思いがあるという。 「総菜系や菓子系を看板商品にしたいのは、リスク回避のためですね。これから材料の仕入れ状況如何によっては、品質や値段の維持が難しくなることもあります。一番人気が、総菜系や菓子系であれば、もしそうした事態になっても、それに代わる商品を新たに開発しやすいからです」（松山さん） 総菜系は取材時「ミニハンバーグパン」（税込２６０円）、「カニクリームコロッケパン」（税込２６０円）など４種類が並んでいた。これらも日替わりだ。菓子系は「つぶあんぱん」（税込２００円）や日替わりの「抹茶あんぱん」（税込２４０円）など。 「総菜系は男性に人気なので、具の味をしっかりめにしています。あんぱんはつぶあんを定番にして、抹茶あんやピスタチオあんなどの変わり種のあんを日替わりにしています」（松山さん） 「ＹＭブレッド」に続く定番の人気商品は自家製バターチキンを包んだ「バターチキンカレーパン」（税込３００円）。 「カレーはヨーグルトに漬け込んだ鶏肉と、たっぷりのバターを入れているのが特徴で、男性向けを意識したのですが、女性客にも好評です」（松山さん） | |||||||||||||||||||
元々は画家の道を進もうと専門学校を出て就職し、フリーとなった松山さん。その後ベーカリー開業へ至ったのだが、その転機は妻はるかさんとの結婚だった。 「結婚後30代後半で決意が固まり、高校生の時にアルバイトをしていた、親戚の営むベーカリーに、独立開業を前提に正社員として入社しました。店長の経験もさせてもらい、５年後に退社しました。2021年6月、44歳の時に開業となりました。妻は子育てをしながら平日は会社員、休日は店を手伝ってくれています。妻の協力なしに今の店はないですね」（松山さん） 開店時間はベーカリーとしては遅めの午前11時。閉店時間も遅く夜９時だ。 「自宅と店の間を、４キロほど自転車で行き来しているのですが、朝一度店に来て仕込みをしてから、一旦家に戻って子どもを保育園へ送り届けます。それから店に戻って作業に取り掛かるので、今の営業時間が自分の生活と合っています。夜は作業が終わる９時頃まで店を開けていて、近所の人が帰宅前に寄ってくれたり、部屋着姿で気軽に来てくれたりします」 開業の夢を叶えた松山さんは、これから長く店を続け、働いていくことが新たな夢となった。 「長年通っていた町の中華屋さんがあるのですが、開業後改めてそのすごさを実感し、憧れを抱くようになりました。いつ行っても店主は一人で、何種類ものメニューを作っていました。その姿を胸に、自分も末永く当店を続けていけるように頑張りたいですね」（松山さん） SHOP DATA 店名：Ｙ・Ｍ・ＢＡＫＥＲＹ 住所：〒２３０−００７１ 神奈川県横浜市鶴見区駒岡３−４−６ 電話：０４５‐６４２−４３３７ 営業時間：午前１１〜午後９時 定休日：なし 品揃え：約２０品目 スタッフ：製造常時１人、販売常時１人 店舗面積：売り場約７坪、厨房約７坪 | |||||||||||||||||||
| この記事の読みどころ
●アニメの背景美術の制作経験を生かし、店舗のデザインを自ら行う。
●毎日作るパンの製造量や種類は当日の朝に決める。 ●原材料高騰にも対応しやすい総菜系のパンに力を入れる。 ●長年通っていた町中華の店主の凄さを、自分が開業して改めて実感し、自分もそうなりたいと思った。 |
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