原材料高騰と原価管理 - ブランスリー電子版


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特集/2024年5月号

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原材料高騰と原価管理




商品の価値を伝え続ける事で値上げを受け入れてもらう - ツオップ 専務取締役の上田怜さん
千葉県松戸市のベーカリー「ツオップ」。中が見えず、一見ベーカリーに見えない外観は、オープンした2000年当初は斬新だった
勤続15年目で現場のリーダー役などを務める専務の上田怜さん
オーナーシェフの伊原靖友さん。2000年に「ツオップ」を創業した
原価が高くなりがちなサンドイッチ類が並ぶ売り場。あえて常温の売り場に並べる事で、できたてのパサつかない状態で提供するようにしている
販売金額、個数ともに一番多い「カレーパン」(税別300円)。少量ずつ頻繁に揚げる事で、常に出来立てを提供している
 2000年のオープン以来、快進撃を続け、「パン好きの聖地」とも言われてきた千葉県松戸市のベーカリー「ツオップ」。同店では、「理想売価」を設定し時間をかけて商品の価値を育てていくというオーナーシェフの伊原靖友さんの考えのもと、原材料高騰に対しては、なるべくそのつど売価に反映する形で値上げを行い、同時に商品価値の向上も果たしてきた。同店の値上げに対する考えや原価管理の実情について、現在現場でリーダーとしてこの問題に携わっている専務の上田怜さんに話を聞いた。

業界活性化のため値上げは必要

──今、貴店で使用している原材料で、価格の上昇が激しいと感じるものは何でしょうか?
上田
 油、チョコレート、ベーコンなどの高騰が目立ちますね。逆に鳥インフルエンザが収束気味のためか、卵はようやく価格が下がってきました。
──原材料の価格が高騰する中で、商品の一斉値上げは、どれくらいの上げ幅で何回ぐらい行ってきましたか?
上田
 当店ではパンの売価は使用原材料の価格変動に合わせて、商品グループごとに逐次上げています。共通の原材料を使用している製品のグループ単位での値上げで、一斉値上げではないので、お客様へ改めて周知するといった事は行っていません。原材料価格の高騰が目立ってきた2年前の2022年当時の価格と比べると、全体的に平均で2割くらいは店頭売価が上がっています。
 それでもこれまで値上げの影響で売り上げが大きく落ち込むような事はありませんでした。
──商品力の賜物ですね。値上げがあっても商品の価値がそれ以上に伝わっていれば強いと思います。
上田
 パン業界を活性化していくために、当店以外の多くのベーカリーでも、必要な分の売価の値上げが行えるようなり、それが消費者に受け入れられるようになって欲しいですね。

究極の理想の減産増益を目指す

──約300種類の商品のそれぞれに違う個性があり、お客様の多様なニーズに応える役割を果たしていると思います。数多くの商品の中には、原価率が高くて利幅が少ない商品もあれば、原価率が低くて利益の大きい商品もあると思います。また、販売個数が圧倒的に多い看板商品もあったりして、商品ごとに、全体の営業戦略に果たす役割が違ってくると思いますが、その辺のお考えをお聞かせください。
上田
 単純に販売個数でいうと「カレーパン」(税込300円)が圧倒的に多く、当店の総売上の15%位を占めています。このように、カレーパンは数多くのリピーターがいる需要の大きい商品ですが、それ以外の多くの商品にも、カレーパンほど多くのファンはいなくても、一定数の固定ファンが確実にいると捉えています。
 原価率の観点からは、サンドイッチや具材を多く取り入れたデニッシュ類はどうしても高くなってしまい40%を超えてしまいがちです。
 一方、定番の食パンやハード系のバゲットなどは原価率20%代前半で抑えることができます。
 小麦は基本的に外麦を使用しており、内麦でなくてはならないというだわりはありません。
──全商品の平均の原価率はどれくらいでしょうか?
上田
 40%を切るか切らないか位ですね。従業員の労働負担も抑えながら利益を出していこうとすると、理想は「減産増益」なので、まだもう少し値上げをして、販売個数より、利益を上げていきたいですね。



店内には袋詰めにされた商品が所狭しと並んでいる。ショーケースに置かれた商品を販売員にとってもらう対面販売のコーナーもある
きらびやかで美しく成形された菓子パンが並ぶ売り場。油脂やチョコレートなど高騰している原材料の使用が多く、原価は高くなりがちだ
焼き菓子が並ぶ売り場。付加価値をつけて売れる上、常温で長期間の保存ができるためロスが出にくい
セルフの精算機を導入したレジの様子
商品も人も長く育てていきたい

──商品開発を行う際に、原価をどのように決めているかお聞かせ下さい。原価はどの程度までかけて良い事にしていますか?製造コストに関する基本的な考えや方針などがありましたらお聞かせください
上田
 原価や売価を先に考えた上で商品を開発するのではなく、店としてこういった商品を届けていきたいという思いがあって開発したものの原価を計算し、それに見合う売価を決めています。あまり売価が高くなるようでしたら、商品によっては原価はそのままで売価は少し抑え目にする事もあります。一方で、時間をかけて育てていくことを前提に、原価も売価も下げずそのままで売る事もあります。
 約300種類の商品を揃えていますが、昔から継続して出しているものが多いため、この2〜3年は新商品をそれほど出していません。
 値上げにより販売個数は減っても、売上金額が減らなければ良いと考え、なるべく利益が取れる商品を、時間をかけて育てていく事を重視しています。
──原材料高騰に対して、値上げ以外にはどのような対策を取っているでしょうか?
上田
 店の従業員の労働環境の問題もあるので、値上げは継続的に行い、利益を確保していきたいのですが、商品の付加価値も同時に上げていかなくてはならないと考えています。
 人を募集しても昔のように集まらなくなっています。当店のスタッフは社員がほとんどで、製造と販売の両方ができる人材を育てています。
 時代の流れで、1日の労働時間8時間、週休2日を目標としながら、その中でいかに技術力を上げていくかが、最終的に店の商品全体の品質維持につながると考えています。
 専門学校などから新卒で入店し、まだ経験が浅いスタッフは、基本的な事に対する理解や知識が不足しています。ですので、こちらが、粘り強く教えていかなくてはなりません。そうすることで、多くの従業員に長く働いてもらう事ができると思っています。

600種以上の原材料を可視化

──製造効率を上げて原価を下げるため、商品数を絞り込みたいと考えた事はありませんか?
上田
 それはありませんね。様々な事情から販売を終了した商品も一部ありましたが、その分ちょっとずつ新商品も入れているので、全体の品揃えは、やっぱり300種類くらいを維持していますね。
──2019年から原価計算ソフトも導入したようですが、事務処理の軽減につながりましたでしょうか?
上田
 もともと原価管理ではなく、商品の栄養成分やアレルギーの表示ラベルを作る目的で導入したのですが、使ってみたら各商品の各原材料の原価に占める割合がかなり正確に一目瞭然でわかるので驚きました。
 実は当店では300アイテムもの商品を作るために600種類以上の原材料を使っているため、最初にそのデータを全て入力していく作業は大変でしたが、一度打ち込んでしまえば、後はとても楽に各商品の原価を可視化し、認識できるようになります。全体の管理が大変だったので、こうしたソフトがある事でとても助かっています。
──それまではどのように原価管理をしていたのですか?
上田
 エクセルに打ち込んで計算していましたが、効率を考えると原価計算ソフトを使い始めてよかったと思います。
──値上げや原価管理の問題を乗り越えた上で、今後はどのような店作りをしていきたいと考えていますか?
上田
 現在当店では、オーナーシェフである伊原が製造現場から退き、経営業務や業界のための活動に専念しています。そのため現場では私を含めた数人が、それぞれ担当の部署のリーダーとなり、指揮をとっています。現在の課題は、社員全体の労働環境を見直していくことです。
 最近は女性が増えて、男女比率が半々になったのですが、例えば天板やミキサーを軽いものにするなど、女性でも使いやすい機材を揃える配慮もするようになりました。男女関係なく長く続けてもらえるようになってほしいですね。

SHOP DATA
店名:バックシュトゥーベ(パン焼き小屋)ツオップ
住所:〒270‐0021千葉県松戸市小金原2−14−3
電話:047‐343‐3003
営業時間:午前7時〜午後5時
定休日:年中無休(夏と正月に休みあり)
品揃え:約300品目
店舗面積:売り場6坪、厨房15坪、作業場3坪、倉庫3坪
スタッフ:製造常時9人、販売常時5人、事務その他1人
日商:平日約75万円、土日祝約115万円



原価率、商品構成などを見直し、週末の売上を伸ばす - パラオア オーナーシェフの池口康雄さん
店長でオーナーシェフの池口康雄さん
低温で長時間熟成させ、仕込みから焼き上がるまで3日間かかる「バゲット」は国内産小麦を100%使用
「パラオア」の店内の様子
千葉県県鎌ヶ谷市のベーカリー「パラオア」。店名の「パラオア」はハワイ語で「パン」という意味
 ベーカリー「パラオア」は2009年に千葉県白井市に創業、その3年後に現在の店舗がある同県鎌ヶ谷市へ移転した。店名の「パラオア」はハワイ語で「パン」を意味する。ハワイアンスピリッツに共感を覚えるというオーナーシェフの池口康雄さんが生み出すパンは約100〜120種類。この2〜3年の間に押し寄せてきた原材料価格の高騰には頭を悩ませてきたという。そんな池口さんに、原材料高騰に対してこれまで行ってきた様々な施策について聞いた。

昨年から随時値上げを実施した

──今、貴店で使用している原材料で、価格の上昇が激しいと感じるものは何でしょうか?
池口
 カカオマス、ナッツ類などですかね。バターは値上げの前に、モノがなくなってきているという感じです。卵も鳥インフルエンザの時は値上げが激しかったですね。小麦は今年に入ってようやくちょっと下がってきましたが、それまでは厳しかったですね。
──原材料の価格が高騰する中で、商品の一斉値上げは、どれくらいの上げ幅で何回ぐらい行ってきましたか?
池口
 2年前までは、原材料高騰のほか、人件費や運搬費が上がった分なども含めて、半年に1回ぐらいのスパンで商品売価の一斉値上げをしていました。しかし昨年からは上がった原材料を使用している製品のみの値上げを、随時実施するように変えました。
 結局、2年前と比較すると全体で平均10%位は値上げしています。
──値上げした事で原価率はどれくらい抑えられるようになったでしょうか?
池口
 今のところ原価率は平均で30%位に、なんとか抑えています。それ以上原価率が上がるようでしたら、当店の場合また売価を上げざるを得ません。これまで小麦の高騰も激しかったのですが、最近は具材で使用頻度が高い畜肉系も1・5倍位、チーズも1・5〜2倍に上がってきています。当店のチーズを使った商品の中にはいまだに原価率40%位のまま販売しているものもあります。

材料や製法を見直していった

──原価を抑えるために、使用する原材料の仕入れ先や銘柄を変えたりはしませんでしたか?
池口
 内麦と外麦の両方を使っていますが、品質、使いやすさ、値段などを加味した上で、必要があれば随時変えていきました。内麦は一部極端に値上がりしたものがあり、その使用を止め、愛知県産小麦を使用した強力粉で汎用性の高いものや、北海道産で灰分が高いものなどに切り替えました。外麦も値段と品質のバランスを考えて新たなものを採用し、今はその粉を中心に使っています。
 売価の値上げにともない、商品そのものを改良し、発売し直した商品もあります。そのような商品の中には、結局終売してしまったものもありましたが、全体としては、価格がより安い材料をうまく活用して原価を抑えた新商品が加わることで、商品数は変わらずに、より多くの利益が出せる品揃えになっていると思います。
 材料を見直しながら、製造技術を向上させることで、新しい粉や原材料に合わせて新しい価値を出せるパンを作れるようにしていきました。
 当店は、新商品は季節限定のものが中心だったのですが、最近は通年で出せる新商品も増えてきています。



チーズが高騰して原価が上がった「チーズフランス」(税別450円)
値上げして逆に販売個数が増えたという「クロワッサン」(税別260円)
店名と同じ商品名の「パラオア」(税別290円)。フランスパン生地にドライマンゴー、パイナップル、アーモンド、ホワイトチョコを練り込んでいる
季節商品の「清見オレンジのダノワ」(税別360円)
ハード系のパンにこしあんとバターを挟んだ「あんバター」(税別270円)。コッペパンにこしあんとバターを挟んだ商品もある
商品価値や役割を 総合的に考える

──商品の売価は、原価率だけから決める価格以外に、それぞれの商品の価値や役割を総合的に考えた上で決める「適正価格」というものもあると思いますが、その辺のお考えをお聞かせください。
池口
 お客様目線で見てどの程度まで値上げが受け入れられる商品かを見極める必要があります。場合によっては結構、見た目のイメージが影響してくる事もありますね。
 例えば当店の「クロワッサン」(税別260円)は、商品の改良はせずにそのままの状態で価格のみ10%位の値上げをしたら、販売個数が増えました。それが「適正価格」だったのかはわかりませんが、値上げする事で逆にイメージが上がり、品質の高さを伝える事ができたのかも知れませんね。
──もともと品質の高い商品だったと思うのですが、値上げした事で逆にその良さが伝わるきっかけになったのであれば良い事例ですね。原価率はそんなに高くなくても売価を上げられる商品があるという事だと思います。
池口
 そうだと思います。
──逆に原価率が高く品質が高くても、店の運営上の理由で売価を上げる事ができない商品もあるのではないでしょうか?
池口
 今は「チーズフランス」(税別450円)や全粒粉食パンの「グラハムブレッド」(税別420円)などですね。一部根強いリピーターがいて店の個性を形作る上では大切な商品なので、原価が高い上に、販売数が特別多いわけでもないのですが、ラインアップから外す事はできません。ただ原価に合わせた売価にすると極端に高くなってしまうので、他の商品との兼ね合わせを考えると、店の商品としてはそぐなわなくなってしまうのです。そのため売価はそのままで、なるべくロスが出ないようにする事で、最低限の利益は取れるようにしています。
──ロスの問題は原価管理を考えていく上で避けて通れないですよね。対策は何かしていますでしょうか?
池口
 以前は前日焼きのパンはタルティーヌにして出したりしていました。今は「前日焼きのパン」として割引セールにしたり、ロスパン専門の通販サイトに登録してセット販売したりして、最低限の利益は取れるようにしています。

原料高の中で売上を伸ばす

──原価管理のための事務処理の負担も大きいですよね。
池口
 それに関しては原価計算ソフトを導入した事でだいぶ楽になりましたね。使用している原材料の情報がすぐ整理できるので、安くて品質の良い原材料を見つけるため、常に色々な業者さんへアンテナをはる際に役立ちます。
──総じて現状についてはどうお考えでしょうか?
池口
 今のところは、売り上げは伸びていますが、利益は前年並みで推移しているという感じです。
 労務管理については、当店の場合個人店なので、インフレに合わせて人件費を上げるとなると、やはりもっと売り上げを上げて利益も増やしていかないと厳しいですね。
 客単価は、平日は地元客が中心なので伸びていないのですが、遠方からの客も多く来る週末は伸びています。
 百貨店などへの外販、通販モールでの販売にも、まだ伸びしろがあると考えています。本店からパンを運んで販売する船橋法典の売店も、人手をもっと増やせれば売り上げをさらに伸ばせるのではないかと思います。
 値上げを実施するのは、大変なことですが、原料高騰がなければ見直せなかった事も沢山あります。なんとか世の中全体と歩調を合わせて、いい方向にもっていきたいですね。

SHOP DATA
店名:パラオア(Palaoa)本店
住所:〒273-0107千葉県鎌ヶ谷市新鎌ケ谷4-6-28
電話:047−468−8046
営業時間:午前9時〜午後7時
定休日:月曜、火曜、水曜
品揃え:平日100品目、土日120品目
店舗面積:売場8坪、テラス席6席、厨房(倉庫、バックヤード含む)17坪
スタッフ:常時製造3人、常時販売4人

原価計算女王
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