ベーカリーの販促はSNSで決まり - ブランスリー電子版


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特集/2023年9月号

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ベーカリーの販促はSNSで決まり




作業風景の動画で注目を集める。失敗の様子で「バズる」事も
オーナーシェフの荒井大輔さん
「アークベーカリー」のリール動画のみ集めたページ
「アークベーカリー」のインスタグラムのトップ画面
小田急線・生田駅から徒歩30秒の場所にある「アークベーカリー」
7月20日に投稿した「生搾りクリームパン」の生地に生クリームを注入する動画。8月5日時点で、527万5000回再生されている。
「生搾りクリームパン」は店内レジの下の冷蔵ショーケースで販売されていた
動画で海外のフォロワーが急増

 「最近は看板商品の『生搾りクリームパン』にクリームを注入する動画がかなりバズりましたね」と話すのは神奈川県川崎市、小田急線・生田駅から徒歩30秒の場所にある「アークベーカリー」のオーナーシェフ、荒井大輔さん。
 同店ではインスタグラムを通じ、主に厨房での作業風景を撮った動画の配信に力を入れていたが、3カ月前から急激にフォロワーが増えてきたという。驚くことに2023年8月5日現在でフォロワー数は1万7000人まで拡大している。
 「はっきりした理由はわかりませんが、パン屋の側から見ればありふれた厨房での製造風景が、見る人にとっては楽しかったのかも知れません」と荒井さんは話す。 実際再生回数が高かった動画は、子供がみても楽しめるようなわかりやすいものが占めていたという。パン生地を型から出したり、あんやチーズを練り込んだり、クリームをパンの中に注入したり、生地を丸めたり、ミキサーを回したりといったパン屋にとっては日常の風景だ。また、BGMを入れてはいるが、動画そのものは作業風景の一場面を撮っただけの短いもので、ほとんど編集はしていない。
 「毎日投稿して、動画も頻繁に出していたというのも良かったのかも知れません」(荒井さん)
 ただ実はフォロワーは海外の人たちが多いという。コメントも海外の人たちからのものが大半を占める。
 「日本の事に興味があって、日本のパン屋の製造風景も彼らにとっては興味深く見えるのかも知れません」(荒井さん)
 同店の商圏内のユーザーからの反応ではないため直接的な販促効果には繋がらないかも知れないが、それでも「注目度が高まったことで、タイムラインでランダムに配信される頻度は上がりますし、情報が拡散しやすくなるので、結果的になんらかの形で商圏内の人にも当店の情報が届きやすくなったとは思いますね」と荒井さんは肯定的だ。

短めのリール動画を頻繁に配信

 荒井さんは2021年の11月、「アークベーカリー」を事業継承という形で前のオーナーから引き継ぎ、リニューアルオープンさせた。その時インスタグラムも引き継いだが、当初はスタッフに更新を任せていた。荒井さん自身が全て更新するようになったのは昨年の3月のことだ。それ以降、毎日投稿している。
 荒井さんはもともとIT関係の会社の社員だったが、自分が好きなことで事業をしたいと考えていた。会社員生活をしながらパン作りを学んだ後、ベーカリー事業をスタートしたが、ベーカリー経営者になってからも、ITの知識を生かして来店客を喜ばせるような店舗運営をしたいと考えていた。
 「インスタグラムで、当店ならではの情報発信が何かできないかと考え、たどりついたのが、パン屋ならではの日常の作業風景を頻繁に短めのリール動画として配信していくことでした」(荒井さん)
 調べたら、作業風景の動画を配信しているベーカリーはまだそれほど多くない事がわかった。たまに動画を配信することはあっても、頻繁に配信しているベーカリーは少なく、多くのベーカリーは、商品写真を綺麗に撮って投稿することがほとんどだった。
 YouTubeなどの長い動画と違い、インスタグラムやTikTokなどのショート動画は、短くまとまっている分、見る人に対して強烈なインパクトを与えることができる。さらに、再生回数がフォロワー数の何倍にもなって大きな注目を浴びる、いわゆる「バズる」動画は販促の面では、大きな効果があると言われている。
 こうした事を考え、荒井さんはインスタグラムの更新に力を入れていったが、はじめの半年は、再生回数もそれほど伸びなかった。

500万再生を超えるバズり動画も

 転機は、荒井さんがインスタの更新を始めて初の「バズり」を経験した昨年11月20日のことだった。同店の「小倉あん食パン」(ハーフ税込330円)」は餡をたっぷり練り込んだ商品だが、焼き上げた時に餡が溢れ出て型から外れなくなるというトラブルが作業中に発生。その様子を写した動画が思わぬ反響を読び、当時の投稿の中では一番高い9000回以上の再生回数を記録したのだという。
 「失敗の記録ですから、最初はアップする気はありませんでした。しかし、たまたまその日はほかにアップしたいと思えるネタがなくて、もうこれでいいやと思ってあげたのですが、思いがけない反響を呼んでしまったようです」(荒井さん)
 思いがけない失敗を晒すことで、笑いと注目を集める結果となった。それ以降、リール動画はいつも少なくても1万回以上の再生回数を記録するようになっていく。
 最近は数百万回の再生回数を記録する動画も出てきた。今年7月20日に投稿した生搾りクリームパンに生クリームを注入していく動画は、なんと527万5000回もの再生数を記録(8月5日現在)。今年3月18日に投稿したチーズ食パンの生地にチーズを練り込んで巻きつけていく動画は331万4000回の再生を記録した。
 他にも丸めた食パン生地をモルダーに通したら詰まってしまった動画は、80万7000回、焼き上がったパンを手際よく型から外していく動画は、73万7000回の再生を記録するなどしている。
 「動画の配信をしながら、合間に新商品やイベントの情報などの投稿もしています。ネタがなくて行き詰まることもありますが、発想を転換させながらアイデアを絞り出している感じです。他のベーカリーのインスタを参考にすることはほとんどありません。独自のアイデアのみで投稿を続けていると、発想力を鍛える事ができますね」(荒井さん)



初の「バズり」動画は「小倉あん食パン」が型から出ないというトラブルを撮ったものだった
インスタグラムにアップした動画をTikTokにも掲載。写真はインスタグラムで、500万回以上再生された動画
TikTokにアップした動画は日本人からの反応がほとんど
レジ横にはLINEのショップカードの登録ページにつながるQRコードが印刷された紙が貼られている。店内は無料WiFi完備されていて、スマートフォンでホームページやLINE、インスタグラムの情報を確認しながら買い物をすることも可能だ
TikTokやLINEも併用

 同店はこれまでLINEを使ったショップカードで客に会員登録をしてもらうことで大まかな新商品やイベント情報の発信や、顧客の要望を聞くアンケート調査なども実施してきた。さらにインスタグラムやフェイスブック、ツイッターなどでイベントや新商品などの情報の詳細を同時に発信してきた。
 「インスタグラムやフェイスブックは、商品の購入に直接つながっているかどうかはっきりしないところもありますが、LINEは購入履歴のある会員にこちらから直接情報を発信する事ができます。しかし、LINEで発信した情報についてより詳しく説明し、店との繋がりを深めてもらうために、やはりインスタグラムやフェイスブックは必要です」(荒井さん)
 SNSへの投稿は、荒井さんの作業がある程度落ち着いた午前10頃から昼くらいにかけて行っている。動画の撮影も合間を見てパンの製造作業に支障をきたさない範囲で行っている。
 実は、TikTokでの動画発信も定期的に行っており、インスタグラムで出している動画と同じものを出している。こちらは日本人のユーザーからの反応がほとんどだ。わかりやすい作業風景の短い動画がほとんどであるため、コメントも「きれい」とか「おいしそう」といった短いものばかりだが、興味を持ってもらえる事自体は良い事だと荒井さんは捉えている。

移動販売や街頭でのビラ配りも

 SNSでの販促を行う一方で、荒井さんは最近、体を張ってパンを売る事に興味を持ち始めている。
 「最近は移動販売に力を入れているんです。徒歩での移動販売ですが、店の近くの不動産会社や保育園などに顔を出してパンを売っています。街頭でのビラ配りなんかも積極的にしていますね。そして、こうした活動の様子をSNSを通じて発信しています。また、法人や団体からの予約の受付なんかもSNSを通して行っています」(荒井さん)
 パンそのものの魅力や品質を向上させていくことにも余念がない。今は定番の商品を中心に、需要が高いものの充実を図る一方で、この半年で30アイテム近い新商品も出している。
 「まだ色々な事に挑戦してみたいという気持ちはありますね。ただ、インスタでの投稿やLINEでのアンケート調査なども地道に続けていきたいと考えています」(荒井さん)

SHOP DATA:
店名:アークベーカリー
住所:〒214‐0038 神奈川県川崎市多摩区生田7‐2‐3 ハウゼ石原1階
電話:044‐819‐8663
営業時間:午前10時〜午後7時
定休日:なし
品揃え:40品目
店舗面積:厨房21.8坪、売り場9坪
スタッフ:常時製造3人、常時販売1〜2人



「トウキョウにあるサワードウがおいしい店」はインスタで成長 - フミグラフィコ(fumigrafico)
「fumigrafico」のインスタグラムのトップ画面
オーナーシェフの堀内文さん
フミグラフィコの2周年を知らせるインスタグラムの投稿。英語の説明文を追加
サワードウのカンパーニュを紹介する投稿。英語と日本語で紹介
「#igbreadclub」のトップ画面
ハード系の生地を使用したシナモンロールを紹介する投稿
趣味を仕事にしてくれたSNSツール

 東京・渋谷区のベーカリー「フミグラフィコ(fumigrafico)」を、一人で運営する堀内文さんにとって、インスタグラムは趣味だったパン作りを仕事に変えてしまうほどの力を持つコミュニケーションツールだった。
 同店は看板商品のサワードウのハード系をはじめ、バゲット、パンドミなどの食事パンを自家培養酵母で製造。オーナーシェフの堀内さんが一人で日替わりの8〜12品目ほどのパンの製造から販売までを行い、毎日のメニュー告知は主にインスタグラムやフェイスブックなどのSNSを通じて行っている。
 「インスタは、まだパン作りが趣味だった9年前に始め、世界中のベーカーやパン作りが好きな人と繋がり、サワードウを使ったパン作りについての議論で盛り上がったりしていました」(堀内さん)
 インスタを通じて技術的に成長させてもらったというが、その頃知り合った海外の人達の中には、のちにパンの製法に関する著名な本を出した人もいたという。日本国内のインスタ仲間の中にも、堀内さんと同様にその後自分の店を持ってプロになった人が何人かいた。
 堀内さんの場合、パン作りを通じてアマからプロへと大きく変化していく中で、SNSとの向き合い方が変わっていったという。
 「自分の店を持つようになってからは、インスタグラムはもっぱらお客様とやりとりするコミュニケーションツールになっていきました」(堀内さん)
 基本的な伝達事項としては、店の営業日や販売メニューに関する情報がある。さらに、例えば雨の日で客が少ない時に、インスタグラムのストーリーズ機能を利用し、「今どんな商品がどれくらい残っているからどうぞ。取り置きも承っています」などといったリアルタイムの情報も発信する事ができる。
 「その時々の商品情報を発信する事で、お客様は、雨の日でなくても、来店前に自分が欲しい商品がまだ残っているかどうか確認できます。そうすれば今日の仕事や外出の帰りに立ち寄っていこうといった予定も立てやすくなるはずです。お客様にもお店にも便利なツールですね」(堀内さん)

フォロワーに成長させてもらった

 フミグラフィコの現在のフォロワー数は3万4000人。これは堀内さんがたった一人で運営しているという店の規模を考えると、かなり大きい数字のように思える。プロになる前に製パンの議論を通じて繋がった仲間も多く、半分以上が海外のフォロワーだが、多くのフォロワーと繋がってきたことは、彼女のベーカーとしての成長を大きく後押ししてきたという。
 「フォロワー数を増やすために意識的に何かをしているということはありません。ただ頂いたコメントにはいつも必ず返信するようにしていますし、投稿は毎日するようにしています」(堀内さん)
 前職がグラフィックデザイナーという堀内さんのセンスを生かして、構図なども考えた綺麗な写真を撮るようにしているという。撮影は常に最新式のスマートフォンを使用する。
 「必ず自然光で撮るようにして、光の当て方を工夫し、必要であればトリミングや色調補正なども行っています。アドバイスできるとすれば自然光で撮ることは最低限必要で、スマホもなるべく新しいものを使ったほうがやっぱり良いですね」(堀内さん)
 フォロワー数を単純に増やしたいだけであれば、投稿のどこかに一行でも良いので英語で何らかの説明を入れておくとだいぶ違うという。
 「販促や営業には直接は結びつかないかもしれませんが、色々な人に興味を持って見てもらえるようになるし、インスタ内の様々なページに、ランダムに一般公開される率は高まるので、もし可能なら英語の説明文を入れるといいのではないかと思います」(堀内さん)

海外の人達はとてもフレンドリー

 堀内さんが小田急線の代々木八幡駅から3、4分ほどの現在の店舗をオープンしたのは2021年7月のことだ。
 しかしその7年前である2014年の7月にはすでに「fumigrafico」の名前でインスタグラムのアカウントを開設していたという。
 当時はまだ趣味でパン作りを行っていた時だったが、英語の勉強をするため海外のユーザーと英文でやりとりしたかったのがきっかけだった。まだインスタグラムの黎明期で、インスタグラムユーザーの数は少なかったが、テーマを絞って投稿できるのが魅力だったという。趣味の「パン」と「猫」のどちらにしようか迷ったが、結局「パン」に決めた。
 それ以降は、ハッシュタグの検索で、海外のベーカリーを探し、写真が綺麗なところなどを見つけて次々とコメントしていったら、フォロワー数がどんどんと増えていった。そしてパン作りに関する色々なアドバイスや意見を交換し合うようになっていった。
 「海外の方はフレンドリーで、質問すればプロのベーカーの方でも色々な事を普通に教えてくれるんです。インスタグラムで多くの人たちとやりとりした事で、それまで独学で行っていたパン作りの世界が大きく変わり、新しい知識を吸収することで技術的に成長することができました」(堀内さん)
 中でも「igbreadclub」という投稿ページでは、アメリカ、フランス、オーストラリアなどの国から多くの人がそれぞれ作ったパンの写真を投稿して意見交換していた。著名なベーカーであるジェフリー・ハメルマン氏が書いた「BREAD」という本に記されていたレシピをもとに作ったパンを皆が投稿し、議論をすることで盛り上がっていったという。
 「『BREAD』は海外でサワードウブレッドを焼いている人にとってはバイブルのような本なんです」(堀内さん)

「The Perfect Loaf」の著者として有名なマウリツィオ・レオ氏の投稿
主に海外の人たちとサワードウのレシピなどについての議論で盛り上がっていた頃の投稿
サワードウブレッドのレシピを掲載した書籍「BREAD〜パンを愛する人の製パン技術理論と本格レシピー」(日本語版)についての投稿
フミグラフィコの外観
インスタを見た外国人の来店も

 当時は日本ではまだサワードウが今のように浸透していなかったが、インスタグラムのやりとりを通じ「BREAD」のレシピに出ていたパンを実際に作っていくうちにサワードウの製法に関する強い興味が生まれていった。
 「インスタグラムを通じて出会った人の中には『The Perfect Loaf』という有名な本を書いたマウリツィオ・レオさんもいました。アメリカ南西部のアルバカーキ市に住む方で、実際に日本でお会いした事もあるのですが、サワードウブレッドの作り方について理論的にかなり細かい説明をした本を書かれていて、かなり影響を受けました」(堀内さん)
 堀内さんは2014年に「fumigrafico」の名前でインスタグラムのアカウントを開設したが、現在の「fumigrafico」は「トウキョウにあるサワードウブレッドがすごくおいしい店」として海外ユーザーを含めて注目する人が増える店となりつつある。ずっとフォローしてくれていた海外ユーザーが日本へ来ることになり、その際に店まで商品を買いに来てくれた事もあるという。
 「フォロワーの方からはこれまでインスタグラムを通じ色々と参考になる情報やお話をいただいてきました。お客様に対しては、例えばサワードウのパンはどんな思いでどんな風に作っていて、どんな特徴があるかといったことなどを伝えてきました。インスタグラムはそうしたことを実現してくれるツールです」(堀内さん)
 商品に関する説明は、店頭の接客だけでは話しきれない部分も、インスタグラムを用いれば細かく伝える事ができる。また商品の感想などのダイレクトな反応もコメントを通じて知る事が多い。
 「頂いたコメントに返信する際には、お礼の言葉のほか、興味を持って頂いた事柄についての説明を加えるようにしています。インスタグラムは、一人で製造から販売までやっている当店にとっては、大事なコミュニケーションツールであると同時に、唯一の広告宣伝ツールでもあります。今後は個人的な裏話などの投稿も増やしていきたいですね」(堀内さん)

SHOP DATA:フミグラフィコ
店名:〒151‐0062 東京都渋谷区元代々木町9−6
電話:080‐5029‐7278
営業時間:午後3時〜午後8時
定休日:日曜、月曜、木曜
品揃え:8〜12品目
店舗面積:5.9坪
スタッフ:製造兼販売常時1人
 


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