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特集/2021年4月号

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コロナ禍で、パンのネット通販は、どう変わったのか?

 昨年からのコロナ禍でベーカリーの状況も二極化してきていると言われる。主に近隣住民を常連に取り込んだ路面店は巣篭もり需要で売り上げを伸ばす一方で、エキナカ店や歓楽街に近い都心部の店は大きく落ち込んでいる店もある。
 そんな中、二度目の緊急事態宣言と長期に亘る外出自粛の生活を経験し、今かつてないほど注目されているのが、ネット通販のビジネスだ。ベーカリー業界にとっても例外ではなく、現在多くのベーカリーが在宅での「おうち食」の充実を掲げて、ネット通販に参入し始めている。



異色の高価格帯商品もネット通販だと売りやすい - ふじ森
「ふじ森」の藤森もも子社長
東京・目黒区のベーカリー「ふじ森」
「ふじ森」の店内の様子
看板商品である高級食パンの「ふじ森」(1本・税込3000円)。フランス産高級発酵バター「エシレ」をふんだんに使用することで、食パン本来の自然な甘みを引き立てた。水分量が多いためかつてないほどやわらかく、繊細なしっとりした食感になっている
プレーンの食パン「プレミアムソフト」(1本税込1500円)
季節を感じる新商品の「桜プレミアム&#12316;桜香るスイート食パン&#12316;」(1本税込2500円)
1本3000円の食パン

 東京・目黒区に本店を構えるベーカリー「ふじ森」は2019年12月のオープン当初から、1本3000円の高級食パンをはじめとした高価格帯商品のネット通販に力を入れてきた。
 その理由について同社の藤森もも子社長は「かねてからパン業界における職人の労働環境が厳しいものであることに問題意識を感じていたためです」と話す。
 実は藤森社長の父は、フランスのパン、料理、菓子などの普及活動に尽力したアルティザン(職人)として知られる藤森二郎氏。師匠であるフィリップ・ビゴ氏からのれん分けされ設立したビゴ東京の社長としても知られる二郎氏は2019年には厚生労働省から「現代の名工」として表彰されている。また、2006年にはフランス政府より農事功労章シュヴァリエ、2020年には同章オフィシエも受章している。
 その娘である藤森社長は幼少期より父のそうした活動を傍で見る事によりパン職人に対し畏敬の念を抱くようになる。その一方で、現場で働く多くの職人が十分な待遇を得ることができない現状に対して危機感を感じるようになっていったという。
 「原因として、多くのパンが安く売られすぎてしまい、利益が取れず、店の経営を圧迫してしまうという現状があります。結果として職人の方達に十分な待遇を与える事ができないという現状を打破するためには、ある程度価格を上げても売れる商品を増やしていく必要があると考えたのです」(藤森社長)
 そしてその起爆剤として考えたのが同店の一番の看板商品である食パン「ふじ森」(1本税込3000円)だった。

食パンのギフト需要を発掘

 「コロナ禍を機にネット通販を始めたわけではないのですが、結果的に当初の予定とは違った様々な形でギフト商品としての需要を掘り起こす事ができたのではないかと感じています」(藤森社長)
 実は店をオープンする際、藤森社長は業界の厳しい状況を変えるためには、自身の父親の名前を借りてでも注目を集める必要があると考えていた。
 「正直、多少バッシングやありがたいお叱りを受けても構いませんでした。どんな形でも注目を集めることが、道を切り開く一助になるのではと考えました」(藤森社長)
 藤森社長は、昨今の食パンブームやパンのギフト需要を取り込んでいくことで、高価格帯の商品を販売できないかと考えた。
 「日常品ではなく、ハレの日に大切な誰かに送るギフト品としての販売です。3000円という価格は品質を考えれば妥当でギフト品としては挑戦できる価格かと考え決めました」(藤森社長)
 当初は法人からのギフト用途の需要も見込んでいた。しかしオープンからまもなく、くしくも世の中はコロナ禍の波に包まれる事となり、様相は少し変わっていったという。
 「結果的に目標の売上額を大きく割るようなことは起こりませんでした。パンは食料品のため緊急事態宣言で外出を控える中でも比較的買いに行きやすかったのと、当初から力を入れる予定だった通販の売り上げが好調だったためです」(藤森社長)
 通販は当初予想していた法人需要などは少なく、その代わりに帰省できなくなってしまった人が遠方の郷里に住む親族などへ会えない代わりに気持ちを込めて贈るといった形でのギフト需要が伸びていった。
 現在同店の売り上げの6割が店頭販売で、ネット通販は4割を占める。
 そしてこのネット通販でのギフト需要はコロナ禍が続く中で引き続き伸びていくのではないかと藤森社長は見立てている。
 「会えなくなってしまった人へ気持ちを贈りたい、会いにいって何かしてあげる事ができない代わりにそっと気持ちを贈りたいという気持ちに応える手段として、通販の需要は高まっていくのではないかと思います」(藤森社長)



「ふじ森」の通販サイトのトップページ
インスタグラム上で高級食パン「ふじ森」(1本・税込3000円)を紹介する投稿
食パンでイチゴとクリームを挟んだ食べ方をインスタグラム上で紹介
「お得な定期便」として「食パン2種セット(12カ月コース)」(税込65000円)も通販サイトで販売。食パンの「ふじ森」のほか毎月変わるアレンジ食パンの2種類が毎月届く
「ふじ森」の通販サイトでも、実店舗同様、キャラメル専門店「キャラメルライフ」の「キャラメルバター」(税込900円)を販売。
通販で届ける職人の流儀

 看板商品の食パン「ふじ森」は「現代の名工」である父の藤森二郎氏から職人の流儀を継承したという娘の藤森社長が、幼少期から慣れ親しんだフランスと日本の食文化を融合させる事で誕生した商品だ。フランス産の高級発酵バターを贅沢に使用する事で食パン本来の自然な甘みを引き出している。
 「ふじ森」を販売する同店は食パン専門店ではないが、実際の商品構成は食パンが中心だ。
 「パンの中でもあえて食パンを選んでギフト商品として強化した理由は、食パンブームだったからだけではありません。食パンというジャンルは1個単位でもある程度大きさが取れるので、形としてもギフト用途に向いていて、しかもネット通販に適していると考えました。また高価格帯商品を売るための自分たちのこうした行動が、他の多くのベーカリー関係者にも影響を与え、価格は高くても価値のある商品を思い切って販売する後押しになればという思いがありました」(藤森社長)

売れるものにすることの大切さ

 藤森社長自身はパン職人ではないがこれまで社会人になってからの11年余りをPRやマーケティング関連の業界で過ごし、その後、自らPR会社を設立した。現在はベーカリー「ふじ森」の経営を行うと同時に、そのPR会社の社長も務めている。その中で、一般消費者の様々な購買行動に注目し、その分析に力を注いでいる。
 スタッフには、PR業界やマーケティング業界の関係者も多く、藤森社長は職人に対して敬意を払う一方で、販売やPR、マーケティングなどのスタッフとの関係も対等に繋いでいくべきだと考えている。
 「高品質でおいしいものを確実に作れるようにすることはもちろん大切ですが、その一方でそれが『売れるもの』になるよう手助けする事も実はとても必要な事です。だから我々は一般的なトレンドを追う事ももちろん必要だと考えています。パン屋ではない視点でものを見られるのはある意味強みですね」(藤森社長)
 同店の商品構成は、看板商品の食パン「ふじ森」のほか、プレーンの食パン「プレミアムソフト」(1本税込1500円)や、バラエティー感のある季節商品などもある。
 春を意識した季節商品として「桜プレミアム〜桜香るスイート食パン〜」(1本税込2500円)を2月末頃から新商品として投入。生地に上品な味わいの桜あんと桜の葉、ホワイトチョコレートなどを練り込み、ミミの部分はクロワッサン生地を取り入れた季節感あふれる食パンだ。
 こうした季節商品を含む新商品に関する情報は、HPからリンクを貼ったフェイスブックやインスタグラムなどを通じて逐次消費者へ届け、リピーター獲得へつなげていく。
 顧客の居住地や購入価格、個人か法人かなどを分析した結果、優良顧客になる可能性があると判断できる場合は、積極的に新商品情報を届けるなどコミュニケーションの強化に努めているという。
 一方で、ネット通販ならではのトラブルもある。その多くが客側の受け取りに関するトラブルだ。
 商品をなかなか受け取ってくれず、商品が戻ってきてしまう場合もあり、その場合は、再購入していただき、新しいものを送り直させてもらえるようすすめることになるという。そのため、今後は、常温ではなく冷凍便での発送が中心の体制に変えていく事も検討している。
 さらに最近は、コロナ禍を経て、一般消費者の総食費に占めるパンの消費金額の割合が高まってきているというトレンドにも藤森社長は着目している。
 「所得に関わらず、自分がどうしても欲しいものには思い切ってお金を出す対象として、パンが注目されてきているとも言えます。消費者の意識がどう変わっていくか、引き続きその動向に注目していきたいですね」(藤森社長)

SHOP DATA
店名:ふじ森
住所:〒152‐0023 東京都目黒区八雲1‐3‐8
電話:03‐6421‐4455
営業時間:午前10時〜午後6時
定休日:火曜
品揃え:約20品目
スタッフ:製造常時3人、販売常時2人
店舗面積:厨房9坪、売り場7坪



ネット通販は売上は伸びるが、参入には慎重さも必要 - リベイク
クアッガ代表の斉藤優也さん
「お取り寄せパン一覧」のページ。ベーカリーごとに掲載。ロスパンではない通常商品の「おすすめセット」を販売するベーカリーもある
「リベイク」では「今買えるおすすめパン〜春の旬パン〜」などと題したニュース記事もその都度配信している
ロスパンを中心に販売する通販サイト「rebake(リベイク)」のトップページ
高い期待感が重荷になることも

 「今、通販に参入すれば確かに売り上げ自体はプラスオンでほぼ確実に伸ばす事ができます。ただし参入には慎重さも必要です」と話すのは、ロスパンの通販サイト「リベイク」を運営する合同会社、クアッガの代表である斉藤優也さんだ。
 「リベイク」は、同サイトに登録したベーカリーの売れ残った「ロスパン」を、必要とする消費者に対し割安で販売しているネット通販のプラットフォームだ。
 斎藤さんは「リベイク」の運営を通じ知り合ったベーカリー関係者から、ロスパンではない商品も販売するネット通販を開始したいと相談を受ける事がある。実際まだ少数だが、「リベイク」のサイトを通じて、ロスパンではない通常商品の販売も行っているベーカリーもある。また「リベイク」上ではなく自店のHPを通じてネット通販を開始したいというベーカリーの相談を受ける事もある。
 「本当にネット通販を開始した方が良いかは、各ベーカリーの状況により異なるところです。同じネット通販でもロスパンを販売するのと通常の商品を販売するのでは消費者の期待値が異なりますから、そこのところをよく伝えた上でアドバイスをしていきます」(斎藤さん)
 斎藤さんによると、ベーカリーの状況が二極化する中で、大きく売り上げが落ち込んでいるのであればネット通販を始める価値はあるし、斎藤さんも何らかの支援をしていきたいという。始めればほぼ確実に売り上げのテコ入れを図ることはできるからだ。
 ただし、逆に路面店などで売り上げが急激に伸びているところは、ネット通販はすすめない場合もあるという。多忙な中でオペレーションの問題を解決するのは必ずしも容易ではない。
 斎藤さんは「ネット通販で消費者にとって100%満足いくものが送れるかわからない事もあります。ネット通販全般で言える事ですが、クレームと背中合わせで運営していく覚悟も必要です」と話す。
 具体的には配達の時間指定が難しかったり、購入した客と連絡が取れなくなったり、結果的にこちらが一方的にクレームを受けてしまう事もある。
 斎藤さんはこれまで「リベイク」のサイト運営を通じて、多忙になって梱包や発送などの手間をとる時間がなくなったことを理由に、「リベイク」への登録を休止するベーカリーや、最初にきたクレーム1回で心が折れて「リベイク」を通しての販売をやめてしまった人などもみてきたという。

無理がない形での運営が必要

 「コロナ禍で通販自体の需要は確実に増えていますから、成長分野であることはほぼ間違いありません。ただし今は緊急事態宣言などもあり、今後の店舗運営環境がどうなるか先が読めないという事情もあります。そんな中、オペレーションが難しい通販の市場に参入するのは、十分な人手がなければ難しいかもしれません」(斎藤さん)
 斎藤さんは、コロナ禍で急激に売り上げが伸びたベーカリーと、オーナーが経営から製造、販売まで一人で行っているような小規模店は、通販は参入する前によく考えた方がいいと伝えている。
 「ネットを通じた顧客対応から梱包、発送までそれなりに手間と時間がかかりますから、ある程度時間に余裕がないと通販は難しいかもしれません」(斎藤さん)
 一方で、リアル店舗の営業を週2、3日に抑えるなど、無理がない形での運営が可能であれば、逆に通販を行う価値があると、斎藤さんは考えている。
 「一人で店を運営している場合、作り手のパンに対する想いや気持ちをお客様に伝えやすいというメリットもあります。だから時間に余裕さえあれば、ほぼ確実に売り上げのプラスオンになるのでお勧めしたいですね」(斎藤さん)

「リベイク」は、小麦や卵などのアレルギーがある人を対象に米粉パンなどの詰め合わせを毎月届ける「グルテンフリーの定期便」のサービスも行っている
夏の知床の自然。「リベイク」は収益の一部を北海道の自然を守る活動を行う知床財団に寄付している
「リベイク」のインスタグラムのトップページ。店の紹介をしたり、パンの話を発信したりしている
顔が見えなくても丁寧な接客

 斎藤さんはコロナ禍を通じて明らかになった通販の問題点のひとつに、商品の作り手の想いをオンラインで客に伝えるのは難しいということがあると考えている。
 実はコロナ禍に入る前、斎藤さんは「リベイク」に登録してくれたベーカリーを一軒、一軒回って話を聞いていた。今もメールや電話などを通じてなるべく話を聞くようにしている。ただ、各ベーカリーの生の姿、実際にパンを焼きあげるまでの生産工程の様子などが見る事ができないと、細かい状況まではわからず、やりづらさを感じる事もあるという。
 「ベーカリーの相談に乗る際には、通販サイトを通じて購入してくれたお客様とは顔が見えない関係でも、常に目の前にそのお客様がいる気持ちで対応することをお勧めしています。具体的には、送るパンの食べ方を説明した手書きのメッセージを入れるなど、小さな心配りを多少手間がかかっても行う事などです。顔が見えない関係でも、店側の温度感を感じるような心配りを積み重ねていけば、結果的には非対面であるがゆえの良い接客につながるかもしれません」(斎藤さん)

軸足は実店舗に置くようにする

 ところで、消費者はネットでパンを購入したいと思う店を主にどのように探しているのだろうか。
 斎藤さんに聞いたところ、もともと実店舗に来店した事があったり、遠方でも噂だけは聞いて店の名前は知っていたりする店を、店名で検索してネット通販のサイトにたどり着くケースが多いという。SNS上で情報を集めて店の名前にたどり着く場合もあるが、いずれにしても、もともと実店舗の評判が良くて知名度のある店の方が断然有利だという。
 そのため、斎藤さんは、売り上げのプラスオンを狙ってネット通販を始める場合でも、軸足はリアル店舗に置いておくことを勧めるという。
 また、「ロスパンの販売とは異なり、商品に対する消費者の期待度が予想以上に高く、多くは日常使いではなくハレの日需要で購入される事が多い事を考えると、商品の送り方を改めて通販向きに考え直す必要があります」と斎藤さんは指摘する。
 さらに「例えば、バゲットやバタールなどの大きなサイズの商品は、通販向きに少し小さいサイズを出した方が良いのではといったアドバイスをする事もあります。店頭販売とは異なるマーケティングも必要になってくるので、参入にハードルの高さを感じる店も少なくないようです。ただ、それでも挑戦したいというお店であれば、何らかの形で応援や支援もしていきたいですね」と話してくれた。


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