イタリアの食文化を日本で花開かせる - スターバックスとコラボするイタリア発のベーカリー「プリンチ」松田武司ヘッドシェフ - ブランスリー電子版


ブランスリーアーカイブ(創刊号からの全記事)
記事の閲覧
<<戻る写真をクリックすると拡大写真が見られます。
インタビュー/2020年5月号

2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。


イタリアの食文化を日本で花開かせる - スターバックスとコラボするイタリア発のベーカリー「プリンチ」松田武司ヘッドシェフ
ヘッドシェフ松田武司さん。2017年に「モンデュアル・デュ・パン」で世界第2位、日本人初の準優勝を達成。また2016年の「シジェップ インターナショナル ベーカリー カップ」でも世界第3位となる。「ヴィロン」などを経て、2018年より現職
 2019年に東京・中目黒にオープンしたコーヒーのワンダーランドとも言われる「スターバックス リザーブ® ロースタリー 東京」に入る日本に初上陸したイタリアンベーカリー「プリンチ®」。好評を博し、同年7月に「プリンチ」日本初の単独店舗として「プリンチ 代官山T‐SITE」がオープン。高品質のこだわりのコーヒーを提供するスターバックスとミラノを拠点にイタリアンベーカリーを展開する「プリンチ」が共同で出店し、注目を集める同店。「プリンチ」の創業者であるロッコ・プリンチ氏にイタリアの伝統的なパンづくりを学び、日本の「プリンチ」のヘッドシェフを務める松田武司氏に話を聞いた。

既存のベーカリーにはない斬新なイメージを打ち出すスタイリッシュな店内
緑の木々に囲まれた「プリンチ 代官山T‐SITE」の外観
イタリアの伝統的なパンが並ぶ。ディスプレイも斬新。値札の表記もイタリア語だ
「プリンチ ローフ」(税抜1000円)。大地が感じられ豊かな小麦の香りが特徴のハード系のパン
パンとコーヒーの強み

――スターバックスを世界的なコーヒーショップに成長させた元同社会長・CEOのハワード・シュルツ氏は、ミラノのバール文化にインスピレーションを受け、上質なエスプレッソを使い、お客様が快適に過ごす交流空間である現在のスターバックスを構想したと聞きます。「プリンチ」もその流れを受け継いでいるのでしょうか。
松田 共通しています。その上で、パンとエスプレッソに象徴されるイタリアの食文化を、一日の食事を通して日本で提供できるのが「プリンチ」というイタリアンベーカリーです。例えば、イタリアは朝食のパンをそれぞれお気に入りのバールに立ち寄ってエスプレッソとともにいただく習慣があります。職場でも様々な機会にエスプレッソを勧められるんです。「冷めないうちに飲んで」と。1日6〜7杯は飲みますよ。そしてエスプレッソと一緒に親しまれているのが、イタリアのパンです。
 元々ロッコ・プリンチ氏とハワード・シュルツ氏は、お互いに手仕事を重んじる職人気質の点で結び付き、強いパートナーシップを築いています。お客様へ提供する「プリンチ」という空間は、スターバックスが提供するサービスも取り入れ、お客様が、パンとコーヒーとともに自分を切り替え、自分らしく過ごしてもらえるように作られています。そのため、空間へのこだわりとして、窓を大きく取っていて、外の緑豊かな景色を楽しみながら食事が出来ます。季節の移り変わりを、旬の素材を使ったパンとコーヒーを味わいながら楽しんでもらえたらと思っています。
――「プリンチ」には、朝、昼、夜のメニューの変化があると伺っています。
松田 イタリア人の朝食は、エスプレッソとコルネッティーやブリオッシュから始まります。特徴的なのは、朝食のパンが甘い事。プレーンなコルネッティーではなく、チョコやジャムの入った甘い味のものを食べます。エスプレッソは甘いパンによく合います。当店の「プリンチブレンド」はロッコさん監修の深いコクのコーヒーで、当店のパンにもっとも合うように作られています。この組み合わせを試したり、色んな場面でコーヒーとともに楽しんでもらえたらいいですね。もちろんサンドイッチもあります。
 ランチは、フォカッチャ生地にさまざまな具材をのせたベーカリースタイルの各種フォカッチャピッツァや、パンと共に楽しめるラザニア、サラダ、スープといったメニューが登場します。夜はプロシュート クルードやパルミジャーノレッジャーノといったセレクトされたハムやチーズの盛り合わせなどのアペリティーボを、ワインやビールなどのアルコールと一緒に気軽に楽しんでもらえるメニューが加わります。
 当店では、調理系のものも旬のものも、作りたて、切りたて、出来たての美味しい状態でご用意しています。イタリアも食材のおいしさが主役なので、どうやって食材を生かすかに腕を奮っています。イタリアと日本は気候も違うので、旬がずれるところもありますが、その時の一番いいものを作って商品を提供していきたいですね。
 ロッコさんは「日本には日本の良さがあるから、それを取り入れるのもいい」という考えです。私達も、イタリアらしさの追求の中で、日本の良さをプリンチならではのエッセンスとして加えています。商品を通じて、まだ日本にはないイタリアの食文化を伝えていくことを大切にしています。イタリアの本場のパンの楽しみ方が広まれば、新しい食事のシーンが生まれます。そして、この新しいシーンが多くのお客様のライフスタイルにも反映され、これまでになかった新しい食文化を届ける事に繋がります。それは私たち「プリンチ」がとても大事にしている点です。

新たな食のシーンを創造

――看板メニューでもある「プリンチ ローフ」はサイズが大きいですね。食べ方をまだ知らないお客様もいらっしゃるでしょうけど、「プリンチ」に親しむうちに自然に楽しみ方がわかるようになりそうですね。
松田 日本にはイタリアのような量り売りの習慣がありませんから、当店では切らなで大きなサイズかミニサイズで販売しています。しかし、料理メニューの提供で、さまざまなパンの食べ方を知ってもらえます。イタリアでは、パンを買ってハムやチーズや野菜など、何かを添えて食べるのが習慣です。そういった初めてのパンの食べ方、楽しみ方、美味しさをお客様に伝えていきたいと思います。
――相性抜群の飲み物も同時に楽しめることで、パン食が「軽食」にとどまらないきちんとした食事になりますし、心も満足させてもらえます。
松田 当社では、パンとコーヒーを「お互いを最高においしく感じさせられるパートナー」と捉えています。コーヒーも豆の産地によって色々と合う食べ物が変わります。「プリンチブレンド」は、パンのおいしさと最大限に合うようにブレンドしています。「プリンチ」のパンはパンチのある味わいが多いので、「プリンチブレンド」もそれに負けないしっかりした味わいです。エスプレッソにも使えるくらいローストがしっかりしています。「プリンチブレンド」との組み合わせをぜひ体験していただきたいですね。
 品質の高いコーヒーとともに、おいしいパンを楽しんでくれる人が増えてくれたら、こんなに嬉しい事はありません。



外麦使用で一致した日伊の製パン技術
同ベーカリーのパンに合わせて開発された「プリンチブレンド」(ショート税抜400円、トール税抜440円)
手前「コルネッティ」(手前、税抜270円)と「コルネッティ ノッチョーラ」(奥、税抜340円)
欧州の製法を踏まえる

――いくつもの世界大会で優秀な成績を残した松田シェフにとって、「プリンチ」のパンの魅力はどういったところでしょうか。
松田 日本のベーカリーでもフォカッチャやパネトーネは売られていますし、知名度も上がってきています。しかし、本場のイタリアのパンを提供している店となるとまだ少ないのが現状です。私がそう考えるのは、現地のベーカリーのパンと製法が違うからです。「プリンチ」はミラノの「プリンチ」の再現に努めていますし、製法も同じです。製法が味に繋がる重要な要素です。
 日本の「プリンチ」と現地のパンがわずかに違うところを挙げるなら小麦粉です。イタリアが製パンに使っている原麦は、日本と同じようにアメリカの粉でした。「調合できるかもしれない」と、日本で「プリンチ」の商品を製造する可能性が開けていきました。
 製パン用の小麦粉では、日本とイタリアで似たところがあったんです。イタリアの国産小麦はパスタやピザ作りに向いているんです。日本産の小麦がうどんなどの麺類に向いているように。お互いにパン用の小麦粉は他国から輸入して、自国で調合していたのです。
――「プリンチ」の日本出店には、小麦粉の調合が不可欠だったのですね。
松田 日本で流通している小麦粉をそのまま使っても、日本人においしいといわれるイタリアのパンを作る事は出来るでしょう。日本の製粉技術は粉のスペックを合わせる事が出来ますから、安定した味も出しやすいすわけです。しかし、それは日本のパンであり、本場の再現にはなりません。タンパク質を低く、グルテンを少なくするなどして調整し、イタリアで使われる粉の特徴を踏まえたものを自分でブレンド出来なくてはなりません。また、粉のブレンドは、ヨーロッパの製法を知った上で行うのが大前提です。製粉も日本とイタリアとでメッシュの粗さに違いがあり、イタリアの方が粗いんです。しかし製法を踏まえることで、灰分を高くして補うなど、アレンジを加えてクリアしていきました。そして、ロッコさんからも粉の仕上がりに合格をもらう事が出来、日本でも本場のパンの味を提供する事が出来るようになりました。
――それは、松田さんが「ヴィロン」で、扱いの難しいフランスの粉で常にレベルの揃った高品質のバゲットを作っていらした経験に培われた高い技術力があってこそ出来た事ではないでしょうか。袋ごとに異なる粉の状態を常に見極めて、常に最適なミキシングや水の加減を調整するには、深い知識と経験が必要なのでは。
松田 イタリアの粉は日本より粗く挽かれている分、製パン性は低くなってくるんです。メッシュの細かい方がタンパク質も生きるし吸水もよく、生地の繋がりもいいですから。それらの違いを克服して、ロッコさんから許可が出たときは、とても嬉しかったですね。
 もうひとつプリンチの特徴をあげるなら、種の使い方です。例えば、イタリア同様、パネトーネ種を毎日種継ぎして作ってパネトーネに使っています。当店で使っているパン種は代表格のサワー種を中心に、製品によって様々に使い分けて、いまは6種類程度あります。老麺を使ったアレンジもしています。
 イタリアは内麦をパンに使いませんが、トマトやズッキーニのような多くの現地の野菜との組み合わせが特長です。フランスは逆で、野菜ではなく得意の酪農からチーズやバターとパンの組み合わせが発展しています。それぞれの文化の中で生まれた製法があるんです。イタリアは種を使って強い生地を繋げたり、風味を出すなどの点に特化しています。その国その国に合った製法があり、どれがいいということではありません。そのまま同じするのがいいとも限りません。そういう意味では、「イタリアのパン」の追求は、まだまだ続いていくと思っています。
――「プリンチ」で、まずはどのパンを食べるのがいいでしょう。
松田 やはり「コルネッティ」です。そして「プリンチ ローフ」、「チャバッタ」ですね。そういったイタリアならではのパンの代表的なものをまずは体験してください。それこそが今一番、日本の他のイタリアパンとの違いを感じられる製品だと思います。
 また、バゲットもサワー種で酸味を出しています。食パンも「パーネ イン カセッタ」という工夫を凝らしたものをご用意しています。まずは当店で私達が心を込めて提供する、パンとコーヒーのさまざまな個性を楽しんでください。その先に広がっている豊かなイタリアの食文化の体験に繋げてもらえたら嬉しいですね。






2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。

ブラ立ち読み
(記事の無料メール配信)
詳細はこちら

読んでほしい記事

  1. コロナ禍を経て辿り着いた会話を楽しむ対面販売 - hnn
  2. 消費者はパン屋選びにSNSをどう使っているか? - 消費者アンケート
  3. ベーカリーの販促はSNSで決まり