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特集/2019年9月号

ブランスリー電子版は、購読者の方々以外は、見出しと本文の一部しか見られませんが、この記事は特別に全文を一部の方に公開しています。


店の想いを客にどう伝えるか(続編)


経験に縛られず様々な試み - プチ・アンジュ国立
「もちもちべーシュガー」(税抜150円)の横に立てられた、揚げ回数を数えるカウント表
JR谷保駅から約900メートルの場所にある「プチ・アンジュ国立」
オーナーシェフの津金一城さん
パンが沢山並ぶ店内にさらに焼きたてのパンが運ばれる。運ぶ途中で、客の様子を見ながら、運んでいるパンを勧めたりもする
メールマガジンの会員を募集する貼り紙がセミセルフレジの下に貼っている
「味わいカレー」(税抜180円)の横にもカウント表が立つ
カウント表を立てて揚げたてを演出

 「本日の揚げ回数17回目。どんどん揚げます」
 こう書いてあるのは、東京・国立市のベーカリー「プチ・アンジュ国立」の人気商品「もちもちべー」(税抜150円)の横に立てられたカウント表。まるでテニスや卓球のスコアボードのように、揚げ回数をカウントしている。
 「『常に揚げたてが並んでいますよ』ということを示したいのですが、例えば『一日10回揚げてます』って書くよりも、伝わりやすいと思うんです。カウント表をめくっていくことで、臨場感が出てくる効果もあるでしょう。揚げたてを並べるスタッフにとっても、いちいち揚げ回数を覚えておく必要がなく、カウント表をぱっと見て、例えば『17回目のもちもちべーです』とコールできます」と、オーナーシェフの津金一城さん。
 カウント表は、ブイヨン作りから手間暇かけた自家製カレーを包んで揚げたカレーパン「味わいカレー」(税抜180円)の横にも立てている。土日祝日など多い日は、「もちもちべー」は30〜35回、「味わいカレー」は35〜40回の揚げ回数がカウントされる。両アイテムとも開業当初からの根強い人気だ。頻繁に購入している顧客の中には、カウント表を見ると応援する気持ちが沸いてきてしまうという人もいるだろう。
 「もちもちべー」や「味わいカレー」などの定番商品は、毎週土曜日に開催する「土曜市」の売り出し品にすることがしばしばある。
 「売れ筋商品の強化を重視しているためですね。サービス価格にすることで、より多くのお客様の手に取ってもらえたらと思っています」(津金さん)
 「今月のオススメ!」と書いたPOPを付けて販売する定番商品もある。これも売れ筋強化のためだ。取材時の該当商品は、チェダーなど3種類のチーズをフランス生地に巻き込んだ「3種のチーズフランス」(税抜430円)。同商品も開業当初からあり、常に人気5位の中に入っている。
 「スタッフ用のアンケートボックスやミーティングなどで、どの商品を一カ月販売強化していくか意見を募ります。強化商品の特徴を考え、それをもとに店内でお客様に呼び掛ける文句を考えたりします。今回は大型のフランスパンが弱くなる時期こそ、『3種のチーズフランス』に力を入れよう、口どけがいいのでサンドイッチにするのもおすすめできるなどと、意見がまとまりました」(津金さん)
 8月3日はハチミツの日だそうで、「ハニートースト」を通常価格の20円引きで販売。こうした日々の記念日に因んだ販促もしている。販促を多数行うことは、商品一つひとつにスポットが当たる機会を創出する。特に定番品に重点を置くことで、新たな魅力に、気付けたり深掘りしていくことができる。それがひいては各商品の新たなファンの獲得に繋がっていく。

メルマガ会員を増やすことに決めた

 週や月替わり、記念日などで行う売り出しのほか、イベントも多数開催。7月は夏休みの子ども向けに、スタンプラリーとパン教室のイベントを開催するなど、同店は何も開催していないときがないくらいだ。
 開催告知をするためのツールとして使っているのは主に、店に貼り出すポスターやポスティング、インターネットのSNSやブログ、メールマガジンなど。その中で、津金さんが今最も力を入れているのは、メールマガジンだ。これまでもやってはいたが、「とりあえず始めたらいいかなで始めて、気付けば、やっているだけだった」と振り返る。
 「今はSNSなどが全盛のネット社会ですし、対する紙媒体は費用がかかります。メルマガの会員数が、目標数まで達することができたら、かなり使えるツールになるのではないか、そう考えて今年は会員数の獲得に力を入れています」(津金さん)
 今年1月から会員獲得のために動き出し、7カ月経った現時点で目標数の1700人に達した。元々の1000人に、毎月100人ペースで増やしていき、1年で合計2200人にすることを目標としている。
 「購入金額300円以上で金券100円贈呈」などの会員限定セールを行っていることや、入会時にもれなく10%引きクーポンをプレゼントすることなど、「お得感をわかりやすく」(津金さん)伝えることで、会員になるメリットを感じてもらう作戦だ。こうした会員募集についての概要は、レジ前にポスターを貼ったり、会計時に販売スタッフが直接客に話したりすることで伝えている。
 「どうしてもアイドルタイムの方が、お客様に話しかけやすく、条件が平等にはならないのですが、毎月、会員獲得数が最も多かったスタッフを表彰し、賞金を贈呈しています。スタッフ同士でいい刺激になればと、スタッフ内のLINEで発表しています」(津金さん)
 メルマガ会員数が、「少なくとも3000くらいに増えたら」と、津金さんは思いを巡らす。現在行っているセールやイベントなどの効果が実際どのくらいあるのか、詳しく知るための指標になればと考えているのだ。
 「ある程度の数があれば、メルマガを見た人と実際に来店した人の割合などが、イベントやセールごとに比較できます。あとは、例えば、プレゼントは金券とエコバックのどちらがいいのか、はたまたプレゼント自体どうなのか、といった具合に、これまで恒例で行ってきたことの精査もできるのではないかと思っています」(津金さん)



今月の販売強化商品は、チェダーなど3種類のチーズをフランス生地に巻き込んだ「3種のチーズフランス」(税抜430円)
6種の雑穀を入れた「六穀」(税抜160円)や、「コーンミックス」(税抜130円)、「グラハムロール」(税抜130円)などを新発売し、雑穀入りのハード系パンを充実させた
左から順に「コーンミックス」「六穀」「グラハムロール」の断面
「もちもちべー」はシュガーのほか、きなこ味とシナモン味の合計3種類がある
インスタグラムでハチミツの日に合わたイベントを告知
インスタグラムでメルマガ会員限定のイベントを告知
メルマガで新たな企画にも挑戦

新しく始めたいと考えているサービスもある。
 「フードロスゼロの取り組みとして、会員限定の特別価格で販売できたらと思っています。毎日ではなく、大雨で客足が止まってしまったときなど、急な対応が必要なとき、メルマガのレスポンスの良さが活かせるのではないかと思っています」(津金さん)
 メルマガに期待を寄せる津金さんだが、実は「実際どうなるかわからない」という思いも持ち合わせている。
 「約30年以上の経験を重ねてきて、反対にその経験値が通用しないと思うことも、たくさんあります。不安がありながらも、メルマガに本腰を入れてみようと思ったのは、そういう考えからです。何でも決めつけるのはよくないと言い聞かせていま す」(津金さん)
 「雑穀や全粒粉を使ったものはないか」と聞かれることが多い割に、実際の売れ行きはよくない。だから注力せずにやってきた。だが最近、亜麻仁やキヌアなどの6種の穀物を入れた「六穀」(税抜160円)や、ライ麦、亜麻仁、大豆などを練り込んだ「コーンミックス」(税抜130円)などを新発売し、雑穀入りハード系アイテムの充実を図った。
 「問い合わせがあるものをを作らない訳にいかないというだけでなく、昔と今とで状況は変わっているのだからという考えで、展開することにしました。例え昔は売れなかった商品でも、今なら売れるということがあるかもしれません」(津金さん)

SHOP DATA
店名:プチ・アンジュ国立
住所:〒186‐0003 東京都国立市富士見台2‐45‐9 モナーク国立1F
電話:042‐505‐4104
営業時間:営業時間 午前9時(土日祝は午前7時)〜午後7時
定休日:木曜
品揃え:約100品目
スタッフ:製造常時7〜8人、販売常時3〜4人
店舗面積:売り場16坪、厨房30坪
日商:平日約45万円、土日約70万円



パン食文化の楽しさを伝える - クーロンヌとりで
茨城県取手市のベーカリー「クーロンヌとりで」
クーロンヌジャポンの田島浩太社長
左から「クーロンヌとりで」の販売スタッフの白井園美さん、後藤みなのさん、店長の南條史人さん
レジでの清算の際には、スタッフが笑顔で客と接する
様々な製品が並び、楽しい雰囲気を醸し出す店内
「クーロンヌとりで」には地元のヘビーユーザーが多く訪れる
ヘビーユーザーから支持される店

 「当店の位置する近隣地域の人口そのものは減少傾向にあります。ただ、売上を伸ばす上ではそこは大きな問題ではないと考えています」と、茨城県南部を中心にベーカリー9店舗、ピッツェリアとペンションを1店舗ずつ経営するクーロンヌジャポンの田島浩太社長は、本店である茨城県取手市のベーカリー「クーロンヌとりで」についてこう話す。
 「私達は、ヘビーユーザーをいかに取り込んでいくかという事を大切に考えています。支持してくれる人達を大切にし、その人達の期待に応える事の方を重視しています」(田島社長)
 同社は今年5月にはJR土浦駅直結でカフェを併設した新店舗「クーロンヌPLAYatre TSUCHIURA」をオープン。現在、ベーカリーでもこうしたカフェ業態での店舗展開には力を入れ続けているという。店内において心地よい空間を提供し、最適なタイミングで主食としてパンを食べる経験をしてもらうことで、パン食文化の楽しみを知ってもらいたいと考えているからだ。また、買い物そのものを楽しんでもらう事も重要視している。
 「伝統的な製法で作った定番商品を毎日、頻繁に焼いて提供する事で、それぞれの商品を目当てに通ってくれる常連のヘビーユーザーの方の要望に応えられるようにしたいですね。その上で店内で最適なサービスも体感してもらいたいと考えているのです」(田島社長)。

お叱りウェブの顧客の声は宝物

 クーロンヌジャポンではHP上に「お叱りウェブ」というクレームを受け付ける窓口を設置している。
 「ここに集まった声は、店側の指導や対応が行き届かなかった点を、お客様のほうから知らせてくれるものです」(田島社長)
 例えば以前、店の後ろの奥の方にあるゴミ箱の匂いが気になるというクレームがあった。
 「言われてみて気がつき、すぐ対応することができました。だからクレームに対しては常に感謝の気持ちで向き合うようにしています」(田島社長)
 またクレームではなく励ましや賞賛の声が届くこともある。内容は主に従業員の親切に対する率直な声だ。
 「例えば、『ベビーカーで入った時、親切に対応してトレイに商品をとってくれました』などという声です。商品も大切ですが、こうしたちょっとした親切の積み重ねがヘビーユーザーの獲得にもつながっていきます」(田島社長)



食パン類の商品が並ぶ売り場
左から「パストラミビーフのカスクルート」(税別340円)、「生ハムとカマンベールのカスクルート」(税別400円)
千葉県産の豚肉を使ったソーセージを包んて焼き上げる「究極のソーセージフランス」(税別280円)
レーズン、クルミ、アーモンドなどが入った「フルーツライ」(税別400円)
看板商品のひとつの「バゲット・クーロンヌ」(税別240円)
オリーブオイルをたっぷりと塗り、ゲランドの塩をかけて焼成する「ゲランドの塩パン」(税別80円)
スタバに学ぶ接客スキルの高さ

 クーロンヌジャポンではあらゆる問題が実際に起きる前に解決する事を目指し、勉強会を週一回開催している。勉強会は各支店の店長向けと、中堅・新入社員向けのものに分かれ、基本的には技術的な事よりも仕事に向かう姿勢を中心に各自日々の業務の見直しを行っているという。
 「例えば今は、接客スキルが極めて高いものの好例としてスターバックスの店員の対応を例にあげて話す事が多くなっています。彼らの店での対応は『スタバ』というブランドを成立した中で、お客様へ特別な時間と空間を提供したいという完璧な接客マニュアルの中で行われているのでしょう。私はこれをパン屋の世界でも取り込めるようにしていくべきだと考えているのです」(田島社長)
 クーロンヌという作られたブランドの中でパンを中心とした最高の食と空間を提供していくためには、クーロンヌでしか提供できない商品と従業員からのおもてなしである接客対応が必要だという。
 「スタバと対照的なのはコンビニですね。こちらは便利さや商品の手軽さなどを売りものにし、価格もそれほど高くはありません」と田島社長。さらに「昨今の原料高や従業員の労働環境の問題なども考えると、ベーカリーはコンビニのような便利さや安さを売りにするわけにはいきません。パンの値段はある程度の価格をしっかりつけなくてはなりません。ただその分、商品も接客もその店にしかない特別なものを提供する必要があるのです」。

「親切が先で商いが後」が基本方針

 田島社長はさらに「スタバの例をあげるとまず従業員一人一人が主体性を持って生き生きと働いているというのがあります。お店のイメージというのをすごく大切にしていますね。当店の場合は、マニュアルは基本的には設定していないのですが、クーロンヌらしさを出していくために『親切が先で商いが後』という事をものすごく重視しています。高校生をアルバイトで採用する事もありますが、たとえ人生経験は短くても、日常で誰かに普通に親切にした経験はあるはずです。店の接客ではその辺りを思い出して対応できるようにといった指導をしています」。
 例えば客から「おすすめの商品は何か」と聞かれた場合の対応として、まず、一番の人気商品を伝える事は多い。ただ、より親切であれば、「ちなみに私はこの商品が好きです」といった風に話を付け加える事で会話が続き、接客のレベルが上がるのだという。

イカ墨を練り込んだフランスパンに明太子フィリングを入れた「イカスミめんたいフランス」(税別220円)
自家製のカレーフィリングを包んで揚げた「カレーパン」(税別200円)
フランス産のバターを使用して特徴ある味に仕上げた「クロワッサン スペシオ」(税別260円)
店内で無料提供されているコーヒー
「クーロンヌとりで」のテラス席の様子
今年5月にオープンしたJR土浦駅直結の「クーロンヌPLAYatre TSUCHIURA」の店内
理想的なリーダーは毅然として穏やか

 「ただしこうした接客のスキルは従業員同士の関係が良好であってこそ生み出されるものだと私は思っています」と田島社長は話す。
 同社は1994年に個人商店として創業し、25年が経つが、最初のうちは従業員の入れ替わりが激しく、なかなか人が定着しない状態が続いていたという。
 「だいぶ悩みましたが、変化を求めて模索しているうち、自分の中で理想的なリーダーの姿を思い描く事で、自分もその理想のリーダー像に近づけるという事に気がつきました。その理想の姿とは、常に穏やかで毅然としている事です。経営者としてのコミュニケーション能力を上げるための学習教材を導入するなどして、理論的に学びこの姿に少しでも近づけるよう努力しました」(田島社長)
 理想的なリーダーの姿を思い描き続けた結果、ちょっとずつ状況は良くなっていた。今でも週に一回の勉強会を欠かさないのは、こうした努力によって得る事ができたものを持続させる目的もある。
 「以前は感情的になりイライラしがちだった事も冷静な対処ができるようになりました。人を育てるという事について落ち着いて、理論的に策を練る事ができるようになりましたね」
 田島社長は、店長としての素質は何かという事については「人を生かして輝かせる力」があるかどうかと考えているという。
 自分一人が頑張りすぎるのではなく、人を育てることで各自が役割を発揮できるようにし、店舗運営をうまく回せるようにすることが重要だという。
 ただ、それがうまくできない店長もいる。決して仕事ができないわけではなく、能力もあるが、個人的な悩みを抱えてうまく力を発揮できない場合もある。だから、週一回の勉強会や店単位の枠を超えた食事会などを通じて、店長の悩みは何らかの問題が起きる前に常に把握しておきたいことだという。
 「各店舗の現場でのパートさん達も含めた従業員の指導は店長に任せている状態ですが、その分、店長が抱えてしまう悩みに対しては常に敏感に察知してあげないといけません」と田島社長。
 さらに「客の全ての要望に応えるためには、商品から接客、従業員育成、ブランディングまで全てにおいての質を高める事が必要ですが、そのためにはスタッフ各自が活躍できる場をつくり育てていく事が大切です。その結果、店舗数が拡大していくのは良い事だと思っています。今後も出来る限り、お客様にとって居心地良い店づくりに励んでいきたいですね」。

SHOP DATA
店名:クーロンヌとりで
住所:〒302-0034 茨城県取手市戸頭2丁目12番13号
電話:0297‐78‐6321
営業時間:午前6時30分〜午後7時
定休日:水曜、第2木曜(祝祭日は営業)
品揃え:100品目
スタッフ:製造常時4人(繁忙時は5〜6人)、販売常時3人(繁忙時は5人)
店舗面積:売場11坪、厨房20坪、テラス28席
日商:平日36万円 土日60万円
月商:1000万円


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