特集 販売力、全開! - ブランスリー電子版


ブランスリーアーカイブ(創刊号からの全記事)
記事の閲覧
<<戻る写真をクリックすると拡大写真が見られます。
特集/2014年6月号

2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。


特集 販売力、全開!
 販売力があるかないかが、繁盛するかしないかを決める、とも言われる。今回は、販売力に定評がある2軒のベーカリーを取材した。東京・国立市、プチ・アンジュの販売チーフ、内山瞳さんは「スタッフ自身が店が大好きで、楽しい気持ちでいることと、自分だけで盛り上がるのではなく、お客様との関わりを楽しみながら接客することが大事です」といい、東京・三鷹市、トーホーベーカリーの店長、松井成和さんは「お客様と話す事はとても大切です。コミュニケーションの機会を増やすこと、お客様のシグナルを見て要望を察することが、当店のファンの獲得にもつながります」と話す。両ベーカリーとも、客と正面から向き合い、きちんと関わっていくことに、接客のベースを置いているようだ。

東京・三鷹市の「トーホーベーカリー」の店内の様子


スタッフの力を引き出して販売力UP - プチ・アンジュ
人気の「味わいカレー」(税込み176円)。カレーが自家製であることや、「サクサク」「トローリ」といった食感であることなどの製品特徴を短文で強くアピールしている
人気商品の1つの「塩ロール」(税込み102円)。食欲を引き立てる暖色を使ったPOPが目を引く
「香味ソース焼きそば」(税込み183円)。鉄板と煉瓦のディスプレイが臨場感を伝える。POPは、馴染みやすい色味や手書き文字を使って作られている
オーナーシェフの津金一城さん(左)と、販売チーフの内山瞳さん(右)
足元の安全を促す心優しいイラスト。温かな心遣いが迎え入れてくれる
気軽にアイデアを出し合える職場
 東京・国立市にあるベーカリー「プチ・アンジュ」を訪れると、まず目に付くのが、入口の扉に貼られた「ドアの下に隙間があります」との注意書。つま先が危ないと一目でわかる足のイラストが添えてある。客に呼び掛けてくれる温かな気持ちの感じられる出迎えだ。
 「スタッフがアイデアを出してくれたんです。『つま先が引っ掛かりそう』と、思いついたことを提案してくれたんです」と、同店販売チーフの内山瞳さんは話す。
 内山さんのエプロンに付けられたネームプレートを見ると、氏名と共に、大きな手描き文字で「お勧めのパン チーズフランス」とある。目に入った途端「おいしいんですか?」と尋ねたくなった。
 「ネームプレートに書かれたお勧めがきっかけで、お客様とお喋りが始まることはよくあります。あるちょっと変わった名字のスタッフは、自分のネームプレートにあえてフリガナをせずにいました。そして『なんて読むの?』と尋ねるお客様と、積極的にコミュニケーションをとっていました」と内山さん。
 同店は社員の販売スタッフ3人に加え、パートやアルバイトの学生からも、気さくなアイデアが出される。
 「焼きたてがふわふわで潰れやすい『ラウンドパン』という商品があるのですが、トレーにのせようとしているお客様がいたら、気づいたスタッフが潰れないように取って差し上げるサービスをしていました。でもなかなか全てのお客様に対応しきれなくて」(内山さん)。
 そんな時に、スタッフからアイデアが出る。「POPで『焼き立てはスタッフがお取りしますので、お気軽にお声掛け下さい』とあると良いですね!」。実際やってみるとその途端、多くの客から「パンを取って」と声がかかり、ラウンドパンの売上は大きく伸びた。
 一工夫での売上伸張は、同店では枚挙にいとまがない。最近の大成功は「100円玉記念日」と題したイベントの日に販売した「コロッケパン」だ。「POPよし、陳列よし」と、ベテランの内山さんが見立てた売り場であったにも関わらず、目標の1日200個に対し、開店後3時間で20個程度しか出ず、勢いが悪かったという。「何が足りないのか」と考え、パートスタッフがディスプレイとしてソースを置き、「自家製デミグラスソースが味の決め手!」と製品の特徴を書いたPOPをその場で作成。これが客の心を掴み、その日の最終的な販売数は220個に達した。



開催3回目のイースターのイベント。イベントのモチーフである卵を使ったパンが活躍する
入店してすぐのトレー置き場にも、店内の陳列地図とお勧め製品が紹介されている
店舗外観。新緑に包まれ、テラス席も人気だ
客との関わりを楽しむ
 このアイデアのよく出る環境づくりについて、内山さんは「スタッフ全員に、皆でお店を支えているという実感を持ってもらえるよう、アイデアは積極的に受け入れるよう心掛けています」と語った。
 内山さんはさらに「スタッフ自身が店が大好きで、楽しい気持ちでいることと、自分だけで盛り上がるのではなく、お客様との関わりを楽しみながら接客することが大事ですね」という。
 「スタッフが製品やトレー、材料などを粗雑に扱っているのをお客様が見たら、楽しい気持ちが薄れてしまうと思うのです。スタッフ自身がお店やパンのファンだったら、材料や道具も大事に扱ってくれます。お店の一番のファンは常にスタッフ自身だということを大切に考えています」(内山さん)
 スタッフが楽しい気持ちで働けるように工夫をするのが、内山さんの腕の見せ所だ。どうすればスタッフと良い関係が築けるか尋ねたところ、「相手の個性や長所をよく見ます。そうすると、例えば年下のアルバイトさんに、若い人ならではの素直さや心からの明るい笑顔があると気づきます。パートの主婦の方も、家庭を持ちながら、主婦のお客様の気持ちをよく理解し、お店のことを考えてくれます。器用な人からは器用な部分、元気な人から元気な部分、そういう持ち味を見出します。それぞれの尊敬できるところを、本人にも、皆にも、ひいてはお客様にも伝わるように広めていきたいですね」。
 販売スタッフ同士連れ立って他店を見学に行くこともある。京都や大阪に遠征することもある。見学のコツは「仕事だと思わないこと」。意外なことだが、仕事をする気持ちで見学すると、見なくていいものまで必死に見てしまう弊害があるのだという。
 「旅をしながら楽しく見学してほしいんです。いいアイデアを探すことを意識していると、いいものが目に止まるようになります。旅の中で良いものを発見した達成感自体を楽しめるようになるんです」と内山さん。

催事を成功させるには
 同店では、月1回の社員ミーティングがあり、「100円玉の記念日」のような企画コーナーや、色々な記念日にあやかった催事を企画している。同店が参考のひとつにしているのは、日本記念日協会の認定している記念日だ。4月も「よい子の日」「アンパンの日」があり、「アンパンの日」は餡を増量したアンパンが登場した。こうした催事では、限定パンの販売や、いつものパンが安くなるといった企画が実施されている。4月26日〜29日までは「昭和のフェア」が行われ、懐かしいシベリアや、ビッグサイズのコロッケパンが登場した。フェア開催は月3回〜8回程だ。
 「フェアでの販売は目標販売数を決め、POPを作って行います。製造の方では、材料や生地を準備し、工程の変更があれば相談し合います。当日は、イベントの商品を切らさないようスタッフ皆で声を掛け合い、試食を出したり、店内コールを行ったりして、イベントを盛り上げます」と内山さん。

試食とPOPを結びつける
 同店の試食サービスは、一口サイズにカットしたパンを、できるだけスタッフが持ち運び、客に焼きたての味を勧める形で行われる。中でも、フランスパンの焼きたての試食提供は積極的に実施している。「フランスパンは、意外と焼きたてを食べる機会がないと思います。買って帰ってすぐに食べることも珍しいでしょうから。焼きたての味を知って、フランスパンの味わいに気づいて下さったお客様も多いんです」と内山さん。
 また、スタッフが試食することも大事だと内山さんは言う。「焼きたての味は、スタッフも時々再確認した方がいいんです。やはり焼きたては格別なんですよ。それを実感することで、商品はもちろん、POPのキャッチコピーひとつにも臨場感が出ます。『このパンをぜひ食べてほしい』という気持ちが、商品にも売り方にも出てきます」。
 国立市の地域住民に愛される「プチ・アンジュ」。売れるのも道理。店内は、製品と客への愛に満ちていた。
プチ・アンジュ
住所:〒186-0003
東京都国立市富士見台2‐45‐9‐1F
電話:042‐505‐4104
営業時間:午前7時〜午後7時
定休日:木曜
品揃え:約100品目
スタッフ:製造7〜8人、販売3〜4人
店舗面積:売り場16坪、厨房30坪
日商:平日約45万円、土日約70万円



一念発起し学んだ販売の技術 - トーホーベーカリー
「ふんわりとろけるクリームパン」(税込み151円)。御養卵の卵黄とバニラビーンズを使用した自家製のフィリングであることを訴求するポップが目に入ってくる
華やかに演出された売場。随所に工夫が見られる
トーホーベーカリーの外観。すぐ近くに三鷹の森ジブリ美術館や井の頭公園がある
店長の松井成和さん
リニューアル機に「販売力」を伸ばす
 東京・三鷹市の吉祥寺通り沿いに位置し、地域密着の老舗ベーカリーである「トーホーベーカリー」は、平均で日商55万円、多いときで70万円を超す繁盛店だ。1日の来店客数は平日で平均600人前後、土曜で950人ほどにも上る。お昼前のピーク時の店内はいつも多くの客で賑わい、列をなしている姿がみられ、店内は活気に溢れている。
 人気の秘密はまず、自家製のフィリングが評判で看板商品のクリームパンをはじめとした菓子パン類が充実し、丸い食型で焼いたラウンド食パンを使用したサンドイッチなどの惣菜パンが豊富なことだ。約90品目の豊富な商品群の評価は高く、価格も値ごろ感がある。
 そしてそのほかにもう一つ、人気の秘密がある。店長である松井成和さんが主導する「販売力」の高さだ。松井さんは、店の販売力を上げるための努力を様々な形でこれまで行なってきた。
 同店は松井さんが3代目で松井さんの祖父から続き今年で創業62周年目を迎える。ただ現在の店鋪になったのは10年前。それまでは現在は本屋が入っている隣の建物に店鋪があった。思い切って売場を広げる目的で、現在の場所でリニューアルオープンして以降は鰻登りに売上が伸び、リニューアル前の3倍ほどにもなっている。
 「お店をリニューアルする数年ほど前から、商品の価値を効果的に伝え販売力を上げるための勉強を始めました。最近では、昨年1月から『強化月間』という販促活動を実施しています」と話す松井さん。

強化月間で従業員の意識を高める
 「強化月間」は、同店の売れ筋ベスト10に入る商品のどれかを1つずつ選び、2カ月スパンで販促活動を強化するという活動だ。「馴染みの商品の売りを改めて伝える事で、主力品の商品力をさらに上げていきます」(松井さん)。社員が役割を分担し、販促活動を実施。社員1人1人の責任意識を高める目的もある。
 「その前までは社員が各自新商品の開発をする活動を長く続けていました。でも新商品は出ても主力品が伸び悩むと全体の売上は停滞するようになってきたんです。その頃ちょうど、新入社員も増えてきたこともあって、思い切って原点に立ち返り主力商品に的を絞った販促活動に力を入れることにしました」(松井さん)
 取材時の強化月間対象商品は、同店最大の看板商品「ふんわりとろけるクリームパン」(税込み151円)だった。
 売場では、御養卵の卵黄とバニラビーンズを使用した自家製のフィリングであることを訴求するポップが目に入った。
 その前の強化月間は「GOLD塩バターロール」(税込み86円)を対象にした。この時は北海道産小麦「ゆめちから」を使用していることを伝えるため、北海道を描いた絵をラミネートしたオブジェや、ポスター、実物の原麦を売場の傍らに置くなどして原材料をアピールして、試食もたくさん提供した。
 「強化月間」としては例外的に新商品(昨年11月に発売)が対象だったが、長年売上1位だった「ふんわりとろけるクリームパン」を抜き1位になるという快挙を果たした。今はいつもお昼前には全て売り切れてしまう状況が続いている。
 こうした強化月間は、最初の1カ月がたった時点で、反省会を実施する。そこでは接客や製造工程の効率などについて意見を出し合い、その反省に基づき後半1カ月の販促活動を改めていくという流れだ。

「GOLD塩バターロール」(税込み86円)の陳列スペース。素材のこだわりをPRしている
中央の平台では、インパクトのある「デコボコ陳列」を実践している
煉乳クリームのイメージを出した「ミルキーフランス」(税込み151円)の売場
「只今、工場で作っています。次の出来上がり時間は12時過ぎになります」と書かれたポップ
「顧客接点」を増やす接客
 強化月間の反省会では接客に関する事も多々議論される。「接客は商品と同じく心が関わってくる」という松井さん。従業員の接客力を上げるため松井さんが行う指導で力を入れるのは「顧客接点」を増やすことだという。
 同店の店内は焼き上がったパンを運ぶスタッフの「焼きたてです」という明るい声が頻繁に響いている。来店客から「このパンは何分後に焼き上がるの」と聞かれ、「すみません。あと5分位かかります」などと対応する姿も垣間みられた。こうしたコミュニケーションの一つ一つが「顧客接点」であり、それらを増やすことが重要なのだそうだ。
 「お客様と話す事はとても大切です。コミュニケーションの機会を増やすこと、お客様のシグナルを見て要望を察することが、当店のファンの獲得にもつながります」(松井さん)
 また、ポップを通じてのコミュニケーションにも力を入れている。同店では全ての商品にその特長を説明したポップがつけられているのは勿論、「焼きたてです!」「作りたてです!」「只今、工場で作っています。次の出来上がり時間は12時過ぎになります」などと書かれたポップも随所に見られる。こまめに焼きたての物を出す事を重視している同店らしさも出ているが、「欲しいものをすぐに見つけたい」という要望に応えるための気遣いが感じられる。こうしたポップでの試みもさらに「顧客接点」を増やすことにつながっている。

「中置き台」から「ひな壇」へ
 松井さんにとって大きな転換点となったのは、今から20年ほど前、結婚して子供が生まれることになった頃だ。その頃は旧店鋪で、店鋪面積も今より小さかった。昔ながらのレイアウトで、中央の中置き台を囲む形で3段重ねの棚にトレーが並べられた売場が広がっていた。地道に運営し安定客がついていた。
 「でも家族を守る身になり将来を考え、ふと不安になったんです。実際、店の売上も徐々に下がっていましたから何かしなきゃ、変わらなきゃと思いました」と松井さんは振り返る。
 そのとき松井さんがとった行動は問屋が主催する講習会に片っ端から参加することだった。どんなにおいしいパンでも売り方を間違えれば店は繁盛しない。講習会では、商品の見せ方などの販売の技術を学び、あらゆることが新鮮だった。中でもショックだったのが、あの中置き台を「ひな壇」に変えられることだった。
 「陳列方法の工夫で商品の売れ行きが変わる。まずは『平面』ばかりが広がる売場から脱出し、インパクトのある『デコボコ』陳列を作っていくことから始まりました」(松井さん)
 そして全ての商品が一目で見渡せるよう、低めに緩やかな段をつけながら広がる売場へ刷新。プラスチックトレーのほとんどは、インテリア感を醸し出す木材のいかだ状の台や籐カゴなどに変わった。ふたを開けた小さな樽を寝かせた状態にして、細長いパンを並べたり、100円ショップの雑貨などを商品に合わせて所々に配したりと、小物のちょっとした使い方で、お金をかけなくても、パンの印象ががらりと変わった。見栄えをよくすることで売上も明らかに伸びていった。

地元密着店が持つ一番の販売力
 売上拡大を続ける同店だが、一方で現在の店舗規模のままでは製造が追いつかない部分も出てきているという。「改装工事で厨房を拡大しようかと考えることもありますが、今の一番の課題は新人を育て効率をあげていくことですね。そして労働環境を向上させることです」と松井さんは言う。今春は新入社員が3人入社した。
 また、地域に長く根付いていることもあって、松井さんは地元商店会の活動にも力を入れている。取材日も消防団の活動があるとのことで、出かける前だった。「売上など数字的なことも大切ですが、ご愛顧頂く地元の方とのつながりに感謝し、さらに頑張っていきたいですね」と話す松井さんにとって、パンを通じてつながる周囲の人との信頼関係が一番の販売力なのかも知れない。

トーホーベーカリー
住所:〒181-0013
東京都三鷹市下連雀1‐9‐19
電話:0422‐43‐6311
営業時間:午前7時〜午後7時
定休日:日曜、祝日
品揃え:90品目
スタッフ:製造10人・販売6人(平日)、
製造13人・販売8人(土曜)
店舗面積:売場13坪、厨房17坪
日商:55万円


2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。

ブラ立ち読み
(記事の無料メール配信)
詳細はこちら

読んでほしい記事

  1. コロナ禍を経て辿り着いた会話を楽しむ対面販売 - hnn
  2. 消費者はパン屋選びにSNSをどう使っているか? - 消費者アンケート
  3. ベーカリーの販促はSNSで決まり