消費者目線で見るベーカリーの可能性 - ブランスリー電子版


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インタビュー/2014年4月号

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消費者目線で見るベーカリーの可能性
日本パンコーディネーター協会認定のパンコーディネーターエキスパート、首藤美樹さん
パン好きを増やすために街のベーカリーにできることは何か。消費者心理に詳しいパンコーディネーターエキスパートの首藤美樹さんに話を聞いた。

首藤美樹さん(日本パンコーディネーター協会認定パンコーディネーターエキスパート)
パン業界歴8年。大手製パン会社勤務時代から、販売、商品企画、ネット通販企画に携わる。2010年に一般社団法人日本パンコーディネーター協会が認定するパンコーディネーターエキスパートの資格を取得。手書きPOP制作の技術と経験を生かし、日本製粉主催のパンカレッジで、ベーカリー業界者向けの売れるPOP作りの講座の講師を務める。パン教室も主宰。ベーカリーと消費者の両者の事情に精通するプロフェッショナル。フェイスブックでも「手ごねパン pan do coro ぱんどころ」(https://www.facebook.com/pandecoro)
のアカウントで情報発信中。



パンの原材料とその産地を表示する
首藤さんが指導するPOP制作講座の様子
──昨今の消費者のパンに対する意識をどう思いますか。
首藤 多くのベーカリーで主要顧客層と見られる20〜40代の女性達の間で、食に対する安心安全意識の高まりを感じることが増えています。自分の主宰するパン教室や、インターネットのSNSでパン好きの方々のコメントを見ていても、食品の安全安心に対する勉強に熱心な方が目立ってきています。勉強会や講演会へ参加する方も増えています。食品の安全を求めるのは自分や、自分の子供、家族を思いやる気持ちそのもので、これはパン好きの方だけでなく、一般的な消費者意識の傾向だと思います。「物」よりも、安心という「事」が売れている時代です。「安心安全」という「事」が追求されていますね。
 私自身は、すべての食品添加物を否定する立場ではありません。それだけに、熱心さのあまり、情報の氾濫するインターネットなどで、「安全じゃないかもしれない」という不安に流され、「添加物はすべてよくない」といった、極端な思考に走ってしまわないか、心配に思うことがあります。
 食に対する安心安全意識の高まりに対して、リテールベーカリーがしてくれたらいいなと思うのは、原材料とその産地の表示です。リテールベーカリーが積極的に情報公開することで、安心安全意識の高まった消費者の心を掴めると思います。気にする消費者は、商品の原材料とその産地をしっかり読みますから、表示する意義はあると思います。
 また、SNSも含めて、口コミで情報が回っていく流れを顕著に感じています。食品の不安情報も流れていきますが、「原材料表示があり、安心なお店」と好印象を得られればそれも広まっていくでしょう。
 また、正しい情報を表示することで安心な商品だとアピールできれば、外国人客にも、日本のパンの良いイメージを感じてもらえると思います。それが日本のパンの特長として認識されたら良いなと思います。



パンを使った軽食を試食として手渡しする
首藤さん制作のPOP。「もっちり感がたまらない」などと、一目で心を惹かれるキャッチがわかりやすく書かれている
──消費者がベーカリーに求めていることは。
首藤 食べ方提案の拡大です。消費者が求めているのは、「おいしいベーカリー」から、「おいしい食べ方を教えてくれるベーカリー」に移行しています。具体的には「パンを使った料理」がいま求められています。最近、食パンがよく売れていて、リテールでものびていると聞きます。食パンは家庭で食べるためのパンですが、食べ方のバリエーションがまだまだ少ないのが実態ですね。
 食パンは、お店のカラーを出しやすい商品だと思います。各店の職人さんがそれぞれの工夫を凝らしている商品ですし。「うちの食パンはこういうパン。だから、こういう食べ方をしてみて下さい」という提案があるとすごくいい。「どういうパンなのか」に、原材料のように今の消費者が知りたがっている情報を入れられます。食感や味わいなどもアピールできます。やはり店内のPOPが消費者に伝わりやすいですね。POPの作り方のコツとしては、一目で読んでもらえて買ってもらえるようにすることがポイントです。プライスカードはあくまで価格表示のためのもの。セールスポイントを簡潔明瞭に明記して、できるだけ「短く」「わかりやすい言葉」で作るんです。細かい説明よりも、20字程度の短文のキャッチコピーが効きます。
 パンを使った料理を広めるには、やはりレシピの提案がいいですね。持って帰れるレシピカードがいいと思います。いま、シニア層の集客が増えてきているベーカリーも多いのではないでしょうか。インターネットもいいですが、主要客層の年齢が高い場合は、アナログな方法がいいんです。具体的にどんなレシピを求めているかというと、例えば「おつまみ風ジャーマンポテト」のようなものです。「カットしてピンチョス風にしてホームパーティ用に」と使い方のイメージがわく提案ができるといいですね。パンコーディネーター協会では、「1本のバゲットを大根に見立てて、どの部分をどんな料理に使うか」といった説明をすることがあります。
 試食もやり方次第で売り上げに繋がります。ベーカリーの販売担当だったときの事例ですが、1日平均5個の売上げだったカンパーニュ(680円)を、1日平均12〜13個までに売上げを伸ばしたことがあります。その時は、1カ月間「簡単レシピの試食」として、塗り物を塗って週替りで1種類ずつパンの試食を実施したんです。リピーターの人が次回来店の時に買って行ってくれるようになりました。おいしいと思うと、お客様は自分の分だけではなく、人にプレゼントする分も買ってくれるんです。特別にパン好きの人でなくても、良かったものをお友達に紹介するのが好きなタイプの方にヒットすると、拡散してくれます。試食は出すとすぐになくなって行きました。味が落ちないように焼きたて、作りたてのものを用意して、レジ待ちなどのお客様にこちらから試食を勧めました。切っておいておくだけだと、あまり効果は出ないと思います。カットして時間がたって、味が落ちてしまうと、やはりおいしいとは思ってもらえないですから。試食をどのように勧めるかも、アイデアの出し所だと思います。パンコーディネーター協会の稲垣智子代表の言葉で「150円のパンは、150円で買えるコース料理」というものがあります。ひとつの商品には、それが完成するまでの工夫や、それまでの試行錯誤が詰まっているという意味です。商品として完成したパンには色んな良さがあるんです。それをPOPや試食で表現して、まだ味わっていないお客様に、伝えてあげて下さい。
 もしカフェやイートインを併設しているなら、そこでお茶を飲んでいるお客様に試食品を配布する方法も良いです。実際にやってみて、これも好感触でした。その場で帰りに買って下さる方もいましたし、「気前がいい」と、お店のサービスを気に入ってくれた方もいました。試食のために具材代がかかっても、試食に力を入れれば、売上アップ、イメージアップと複数の効果を狙えます。



たった1人の店員の応対の悪さが致命傷にも

──販売面で望まれることは。
首藤 消費者としてベーカリーを利用して感じる
ことは、「働く人自身が、楽しめるベーカリーであってほしい」ということです。店員さんがパンを丁寧に扱っているベーカリーと、そうでないお店では、印象がだいぶ違います。
 いつも夕方に通っている大好きなベーカリーがあるのですが、普段は店員さんもサービスが細やかで感じが良いんです。でも、ある時、初めて見る店員さんが片づけをしていて、トングを放っているのを見ました。それだけでも、かなり印象が変わってしまいます。レシートの扱いも、レジのそばに置いて渡してくれなくて「レシート下さい」と頼むと、指を差して「ここ」と言われてしまいました。昼の時間帯には会ったことのない店員さんでした。せっかくパンがおいしいお店で、大好きで通っているのですが、印象の悪い対応ひとつで台無しになりかねません。ベーカリーの主役は製造という考え方もあると思いますが、販売にも消費者にアピールする力がたくさんあります。店員さんがパンへの愛に溢れているベーカリーを、我々も楽しみにしています。

イートインとカフェでは求められるものが違う

──イートインやベーカリーカフェについて。
首藤 イートインは、ファストフードに行かない人が利用する場所としての傾向を感じます。静かな環境を求める20〜40代の世代です。学生やビジネスマンもここに含まれます。ファストフードで食事を済ませる人のように、イートインの利用者もパンで一食を完結させるために入店しています。
 もう少し客層を広げるとしたら、パンでランチタイムを求めている人を取り込んではどうでしょうか。良いなと思うのは、ランチのセット売りメニューです。セット売りは、「このパンとこのパンに、プラス飲み物でお得なお値段」という売り方が好まれます。お得感をアピールして下さい。メニューは週替りだとバラエティー色も出るでしょう。また、このセットメニューに新商品を入れていく方法がお勧めです。新商品といっても、なかなか手にとってもらえないときもあると思うんですが、セット売りのお得なメニューの選択肢の中に新商品があると、消費者は気分的に買いやすいようです。時間帯や日にちを区切って「限定」とすると効果的です。そして、「限定」を効果的に使うために守ってほしいのは、「限定」と銘打ったらそれを絶対に破らないことです。在庫があっても、常連さんでも、こっそり出したりすると「限定」が効かなくなってしまうものですから。
 イートインの特徴は、セルフサービスにあると思います。もっと気軽に使われそうな場所だと思うのですが、使用感でいうと、荷物置き場のないところがちょっと不便です。ビジネスマンだと、外出中のランチや打ち合わせで使うこともあるでしょうから、ちょっとした工夫で「利用しやすいイートイン」になると思います。
 ベーカリーカフェの場合は、イートインとは消費者の求めるものが違います。ベーカリーカフェは、居心地の良さや、いい雰囲気が求められます。また、地域性を求めて入店する人も多いようです。最近だとワークショップのための楽しい場所と考える人も増えていますね。
 ただ、消費者目線からは、イートインやカフェはコミュニティー化してほしくないですね。常連さんがグループになっていて、いつ行っても同じ人達がいるお店は、新しいお客様が利用しづらいと思います。常連さんはお店にとっても大切なお客様だと思いますし、難しいところですが、新規のお客さんを遠ざけてしまってはもったいないと思います。

原価計算女王
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