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特集/2013年4月号

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パンの価格

 低価格志向が定着した昨今、リテールベーカリーでは、「オンリーワン」の価値を、いかにして適正価格で販売できるようにするかが課題になっている。東京・渋谷の「ブランジュリー パティスリー ブラッスリー VIRON(ヴィロン)」の西川隆博社長は「リテールベーカリーが一丸となって、もっとパンの価値と価格を上げていきたい」と語る。東京・八王子市のベーカリー「Boule Beurre(ブール ブール)」では、原材料のたび重なる値上げに悩みながらも、常連客に味の面で納得してもらうことで、適正価格を維持している。埼玉県川口市のベーカリー「パン・ピジョン」は、「お得感」を演出ことで、価格維持に成功している。



味も価格も日本一のバゲットを目指してきた
●VIRON
一番右が、フランスから直輸入している小麦粉「レトロドール」で作った「バゲットレトロドール」(357円)
VIRONを経営するル・スティルの西川隆博社長
水牛の乳で作ったモッツァレラチーズと、トマト、バジルをサンドした「サンドウィッチ・モッツァレラ」(1050円)
「バゲットレトロドール」を使ったサンドイッチは600〜700円ほどのものが多い。半年前、1050円の「サンドウィッチ・モッツァレラ」を発売
店舗2階のブラッスリーでは、朝9時から11時まで「バゲットレトロドール」や、ヴィエノワズリー各種の焼きたてに、ジャム6種やハチミツを好きなだけ付けて楽しめるモーニングメニューがある。飲み物付きで1260円だ。開業当初から変わらないサービス価格だ。バゲットの本来のポテンシャルが活きた状態の味を知ってもらうための、広告宣伝費だと割り切っているという
高価なアンチョビ入りオリーブを使用した「フーガス・オリーブ」(578円)は開業当初から人気の品
価格競争には巻き込まれない
 「日本でバゲットが、『売れれば儲かる、でも売れないパンの代表』と言われていた時、『それなら、日本一、世界一おいしいバゲットを作れば、お客様に買ってもらえるようになるだろう』という思いがありました。その思いが出発点となり、バゲットの本場フランスへ行き、『レトロドール』という小麦粉を製造する会社と契約を交わし、ヴィロンの開業に至ったんです」
 「ブランジュリー パティスリー ブラッスリー VIRON(ヴィロン)」を経営するル・スティルの西川隆博社長は、同店が東京・渋谷に誕生した10年前を振り返ってこう話した。
 「バゲットレトロドール」(1本、357円、開業時は1本336円)は、ヴィロンの顔として誕生した。目指したのは味だけでなく、価格の面でも日本一になることだった。
 「日本一高価なバゲットです。リテールは、効率的に量産できる大手メーカーに価格競争では立ち向かえないですから」(西川社長)
 ヴィロンを開業した10年前、バゲット1本336円という価格は他店の1・5倍近い価格だった。その価格自体が話題性を持って、客からは「おいしさも倍、いやそれ以上よね」と期待されたという。
 その期待に応えるだけの自信はあった。プロとして客に認めてもらおうと、真剣勝負で商品づくりをしているという自負があった。
 「バゲットレトロドール」はこれまでに1度値上げし、現在357円になっている。「レトロドール」は政府の管理とは直接関係のない直輸入だが、やはり10年前と比べると3〜4割値上りしていて、ほかの原材料も同時に上がってきているという。そして今後も上がっていく一方だと見込んでいて、近々にまた値上げを検討しているという。
 「値上げによって客数が落ちたことはなく、逆にお客様からは『値下げはしないで欲しい』と言われたことがあります。『高い』ということ自体に価値が見出され、ブランドとして評価してもらえているということです。安売りの価格競争に巻き込まれるのではなく、ブランドとして、信頼と信用を維持することに務め、おいしいパンを作るという技術面で勝負をしていきたいと思っています。そして、お客様もある意味で対戦相手だと思っています。例えば、原価がかかり過ぎて驚くほどの高値になってしまったとしても、『おいしいから買ってしまうわ』と、お客様に言ってもらえたら、それは店の勝ちだと言えます」(西川社長)
 同店は商品作りにおいて、「これだけのものを作りましたけどいかがでしょうか」という意気込みを持っているのだ。客とは常に対等の位置にいるという考えがあって、安売りをして客に買ってもらうのは、店が客にこびることと同じだという思いが、西川社長にはあるのだ。

高価なサンドイッチを販売できる土壌
 半年前、水牛のモッツァレラチーズを使った「サンドウィッチ・モッツァレラ」を売り出した。乳牛ではなく水牛のものは大変高価なため、商品価格も当店のサンドイッチの価格帯600〜700円をはるかに超える1050円となった。
 同店の商品開発は、「買ってもらえる価格」からスタートするのではなく、「客に提供したいおいしさの追求」から始まる。商品として形になってから、原価を出して商品価格を決定する。
 「こうした方向性で商品作りができるのも、当店の立地が、日本中から人の集まってくる渋谷でかつ、文化的施設が近くにあるという特殊性があるからですが、店側で客層のターゲットを絞り込むというより、お客様の側から、日常用ではなくハレの日用として当店を使い分けていただけているのだと思います」(西川社長)
 水牛のモッツァレラのほか、開業当初から人気がある「フーガス・オリーブ」(578円)に入れているアンチョビ入りオリーブも、材料としてはかなり高価なものだという。 他店では扱うことのできない材料を使うことができるのも、「高いけどおいしい店」として客に評価されるようになってきた同店の強みなのだ。
 「パンブームと言われる時代が過ぎ、お客様の購買行動が慎重になってきた昨今ですが、同時に口コミの影響が強くなってきています。特にインターネット上では詳細に商品や店について語られていたりします」(西川社長)
 同店は、広告を打たず、ホームページも開設していないので、客同士の情報のやり取りによって商品が広まってきた。それによって、来店時には把握してもらえないことも、情報として浸透させることができているのかも知れない。
 「10年間で当店が貫いてきたこだわりの部分を、一度にではなく少しずつ、お客様に伝えることができてきたと思います。こうしたことが味方となって、高価格でも理解を示していただき、買っていただけているのだと思います」
 西川社長は「今後パン業界が一丸となって、消費者にパンの価値を知ってもらう努力をして、もっとパンの価値と価格を上げていけたら」と望んでいる。

VIRON
住所:東京都渋谷区宇田川町33‐8塚田ビル1・2F
電話:03‐5458‐1770
営業時間:午前9時〜午後10時
定休日:なし
品揃え:菓子30品目、パン50品目
スタッフ:製造13人、販売10人、ブラッスリー20人
店舗面積:厨房20坪、売り場12坪、ブラッスリー52坪
月商:3800万円



味の面で常連客を裏切らなければ、適正価格で販売できる
●Boule Beurre
看板商品の「フリュイ」(270円)。クルミがたっぷり入っている。クランベリーの酸味もあり、風味豊かな製品
「自家製ドライトマトのフォカッチャ」(240円)のドライトマトは、ミニトマトをオーブンで焼いた自家製
オーナーシェフの草野武さん
看板商品に使うクルミの高騰
東京・八王子市のベーカリー「Boule Beurre(ブール ブール)」の看板商品はリュスティック生地にクルミをたっぷり練り込んだ「フリュイ」。同店は開業して7年が経つが、その間に「フリュイ」の価格は4回値上げした。4回目の値上げとなった昨年末、250円から20円値上げし、現在の価格である270円とした。開業時は、現在より40円安い230円だった。
 クルミの高騰について、オーナーシェフの草野武さんはこう話す。
 「粉や油脂以上に、ナッツ類の高騰が止まりません。特にクルミは、2年前と比べると1・5倍近くになりしました。そのクルミをたくさん使う『フリュイ』は、当店の最もよく出る商品ですから店全体としての利益にかなり影響してきます。ですので、原価の変動に合わせて、価格もその都度調整していく必要があります」
 また、同店には「フリュイ」以外にも、クルミをふんだんに使った定番商品がある。フランスパン生地を使用した「くるみこしょう」(280円)のほか、ライ麦粉とサワー種で作る「いちじくブロート」(660円)や「ヌス・ブロート」(620円)などもそうで、どの製品も生地に対するクルミの配合率が高い。そのためクルミの高騰は、1製品あたりの原価にも、そして店全体の利益にも大きく影響してくる。
 「利幅をきりつめていっても、やはり無理が出てきますから、今回も値上げせざるを得ないと思いました。ただ、20円の値上げ幅は大きいですし、270円という数字は、250円とは全然違って300円に近いイメージがあります。いつも買ってくださるお客様にも申し訳ないですし、商品価格を改定する1カ月前に店頭の張り紙とブログで告知をしました」(草野さん)
 「フリュイ」は、草野さんにとって特に思い入れの強い製品だ。開業前に修業していたベーカリーで人気だった商品で、「フリュイ」のようなパンを作りたくて、修業先をそのベーカリーに決めたのだった。
 「クルミを入れた、見た目の似たようなパンはあると思いますけど、食べてみると全然違うんですよね。結局は、お客様に、『おいしい』と満足していただかなければ意味がないと思っていますし、自分が納得した味のパンを作り続けていきたいですから」(草野さん)

常連客にとって納得のいく価格
 材料だけで考えると、全アイテム平均して33%の原価率が、同店が健全な営業ができる数字だと、草野さんは決めている。「フリュイ」の原価率も約3割弱だ。
しかし、同店のパンは長時間発酵させてつくるものが多いので「材料だけでなく、生地を寝かせる『場所代』も意識しておかないといけないですね」と草野さんは言う。
 同店のパンは総じて、「フリュイ」が代表するように、具だくさんで、長時間発酵させた生地の味わいが特徴となっている。常連客はそれを同店に求めてやってくる。度々のパンの値上げに対しても、理解を示してくれているという。
 以前、ネット上で「パンの値段が高い」と言われたことがあるというが、「結局はお客様に『おいしい』と満足してもらえるものでないと意味がない」という草野さんのパンづくりの姿勢があるからこそ、常連客の期待を裏切らずに、適正価格で販売できるのだろう。

Boule Beurre
住所:東京都八王子市八日町10‐19
電話:042‐626‐8806
営業時間:午前11時〜午後7時
定休日:火曜、水曜、隔週月曜
品揃え:40品目
スタッフ:製造3〜4人、販売2〜3人
店舗面積:売り場2・2坪、厨房7坪
日商:14万円



ボリューム感を大切にして、お得感を最大限に演出する
●パン・ピジョン
「ボロニアソーセージフォカッチャ」(280円)。具がはみ出るほどのボリュームだ
オーナーシェフの八村努さん
埼玉高速鉄道・鳩ヶ谷駅が最寄りの「パン・ピジョン」。週末はクリームパンを目当てに来店する人の行列ができる
1日400個以上売れる「クリームパン」(160円)。中のクリームは2種類入っていて、お得感がある
お得感がある価格設定をする
 「この内容でこの価格では、よそでは出せないと思うところを狙っています」と、価格設定について話すのは、埼玉県川口市のベーカリー「パン・ピジョン」のオーナーシェフ、八村努さん。
 1日400個以上売れる人気の「クリームパン」の価格は160円。中にはカスタードと、カスタードに生クリームを合わせたものの2種類のクリームがぎっしりと詰まっている。パンを割ったときの見た目、そして2種類のクリームが溶け合う味わいは、価格から想像する以上に充実していて、お得感がある商品だ。
 「お客様からは、おいしい、安いだけでなく、そこにさらにお得感のあることが求められています。『得したな』と思えば、また来たくなってしまうという、その繰り返しが、お客様を維持していくのに必要だと思っています」(八村さん)
 「三元豚のサンドイッチ」は、厚さ2センチを超えるブランド豚がサンドされ、女性なら2食分にもなりそうなボリュームだ。見た目、食べごたえともに満足感があり、ほかのバーガー類が200円前後なのに対し、600円という高価格でも支持されているのがわかる、お得感のある製品だ。
 「実は原価計算はしないんですよ。原価と製造個数を考慮して、この製品でいくらとれるかと計画すると、大概外してしまうんです。おそらく計算することで、その製品のボリュームとかを細かく調整することになるので、製品自体に勢いがなくなってしまうんだと思います。ですので、計算は意識的にしないようにしているんです」(八村さん)
 八村さんは開業前、ベーカリーで修業したほかに、ベーカリー専門の店舗プロデュース会社にも勤務した。その当時からずっと、評判のベーカリーを耳にすると出向いていって、人気商品を食べるということを常々行ってきた。
 「おいしい、おいしくないというのは個人の主観なので、こんなパンが売れているんだという気持ちで食べていますね」(八村さん)

客観視して様々な要因を見直す
 「クリームパン」に続く人気商品は、「コロッケパン」(170円)、「やきそばパン」(180円)、「あんぱん」(140円)。これらも「クリームパン」と同様に、価格から想像する以上に具がたっぷり詰まっていてお得感がある。
 こうした価格設定を可能にするため、八村さんは、スタッフのシフトの割り振り方や、材料の仕入れ方に常に注意を払っている。
 「1日を通して、スタッフの手が止まらないように、シフトと仕事の割り振りをしっかり管理することが大事ですね。他のベーカリーを見に行ったときは、商品だけでなくその辺のことも、オーナーに訊くようにしています。スタッフ1人ひとりの技術力を上げて、生産性を上げることを基本としていますが、パートさんには2〜3時間くらいの短時間でも入ってもらったり、人手の無駄を省くようにシフトを組むようにしています」(八村さん)
 材料の仕入れ方については「特に、レタスなどの葉もの野菜の価格は時季によっては普段の3〜4倍にもなったりするので、一定した価格の水耕栽培のものを使うようにしています。また、イチゴは高価ですが、親しくしている八百屋さんから特別価格で分けてもらえるので助かっています」という。
 原価に大きく響かない材料を選ぶことが、原価率を下げるだけでなく、店頭に並んだ時、ボリュームがあって見た目にもそそられる製品を作ることに繋がっているのだろう。

パン・ピジョン
住所:埼玉県川口市里1245‐1
電話:048‐287‐1050
営業時間:午前7時半〜午後7時
定休日:月曜、第2火曜
品揃え:70〜80品目
スタッフ:製造4人、販売3人
店舗面積:売り場約9坪、厨房約13坪


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