自治体と共に行う食の地域貢献 - トーホーベーカリー - ブランスリー電子版


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特集/2021年2月号

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自治体と共に行う食の地域貢献 - トーホーベーカリー

SNSの活用など、積極的に新しい事を取り入れては結果に結びつけている東京・三鷹市のトーホーベーカリー。現在取り組んでいるのは、厳しいコロナ禍にパンと消費者を繋ぐ新しい宅配サービスと、地元の小麦を使ったパンの製造だ。いずれも地元三鷹市と連携したプロジェクトだ。



ベーカリーも地元自治体も対象となる相手は同じだった
店舗に掲示された「デリバリー三鷹」のポスター
YouTubeの三鷹市公式チャンネルの「デリバリー三鷹」のシリーズ動画
Aセットの4アイテム
Bセットの3アイテム
「シュトーレン」は1本(税込2380円)、ハーフ(税込1200円)の2種類
トーホーベーカリーの松井成和社長
自治体ならではのサービス

 トーホーベーカリー(東京・三鷹市)は、2020年7月から、三鷹市と連携した三鷹市内全域を対象とする宅配サービス「デリバリー三鷹」に参加している。コロナ禍により食品や料理の宅配サービスは一躍脚光を浴びたが、「デリバリー三鷹」は自治体がサービスの主体となっている点が新しい。
 現在、同店の「デリバリー三鷹」の宅配メニューは、パン4個のAセット(税込700円)と、パン3個のBセット(税込590円)の2つが主軸となっている。
 テイクアウト需要が高まる中、宅配サービスは人気を集めており、「デリバリー三鷹」もスタートから継続的な伸びを見せているという。トーホーベーカリーの松井成和社長は、今回の三鷹市のサービスを地域密着のベーカリーとしてこう評価する。
 「市内のお客様向けのサービスなので、地元に貢献できるのが嬉しいですね。市内全域が配達対象ですから、足を運びにくい遠いエリアの方のご注文にお答えできるのです。次に、我々ベーカリーにとってありがたいのは手数料が不要なことです。お客様の手数料も無料ですからお客様にも負荷はなくて、導入のハードルはかなり低いんですね。これはまさに自治体ならではです。企業が母体の宅配サービスの場合、目指すところが異なるのでなかなか出来ない内容でしょうね」
 三鷹市の宅配サービス「デリバリー三鷹」は、三鷹市商工会の吉田純夫商業部会長が社長を務める第三セクター、まちづくり三鷹が市と店の間に入って運営主体として宅配センターを担い、三鷹市内飲食店の弁当やテイクアウトメニューを、学生アルバイトが自転車で市民の家庭へ届けるサービスだ。現在約40店舗が参加している。
 注文はウェブで受け付け、1品から可能だ。ウェブでは各商品の写真と在庫数も表示される。電話注文も受付ている。
 配達は、基本的に注文した翌日に行い、配達時間は、「午前11時〜正午」「正午〜午後1時」「午後1時〜午後2時」「午後4時〜午後5時」「午後5時〜午後6時」「午後6時〜午後7時」の6つの時間帯から選べる。電話注文の場合は当日配達が可能な場合もある。
 このサービスのきっかけは、コロナ禍に大きな影響を受けている飲食店の支援と、食品調達の際の人との接触をなるべく避けたいという客のニーズを同時に満たす目的で、三鷹商工会が立ち上げた「三鷹弁当マップ」。当初はテイクアウトサービスを市民に知ってもらう地図として4月に始まった。
 そこから、まちづくり三鷹によるコロナ禍に影響を受ける飲食店の応援と、アルバイト先の休業や大学卒業後の入社前待機期間で収入が減った学生の就労支援を結びつけ、三鷹市民においしい食事を届ける「デリバリー三鷹」が生まれた。
 「三鷹弁当マップ」に参加した飲食店を中心に、参加が呼び掛けられたという。同サービスは、現在3月までの継続が決まっているという。
 「お弁当」の配達という枠の中で、意外にもべーカリーのパンの需要が高いのだという。
 松井社長は、「サービスが始まってから日に日に注文は増えました。最初の時間帯は昼便10時からと11時から、夜便16時からと17時からの4コースで、各10食の計40食の注文枠を設けていたのですが8〜9割売れるようになりました」と話す。
 運営側も需要に合わせて時間帯のコースを調整して増やすようになったという。
 「参加するお店は、昼夜各2コースまでを選ぶ仕組みなので、私どもも時間帯を替えて行くなど需要に合わせて行きましたね。三鷹弁当マップのお店も最初から全店デリバリー参加ではなくおよそ3分の2程度でしたが、いまは35店舗以上が参加しているようです。ベーカリーも私どもだけでなく、3〜4店舗程度参加しているようですよ」(松井社長)

売上だけがプラスされる

 同店のデリバリーサービスのメニューは、700円のAセットが、それぞれ同店の人気ベスト5に入る「自家製サクサクカレーパン」「ふんわりとろけるクリームパン」「パキッ!とバイエルン」「コロッケコッペ」の4点。590円のBセットが、それぞれ満足感がある人気の調理パン「照り焼きチキンラウンドサンド」「チビウインナー」「ミルキーフランス」の3点。店の看板商品を目玉に、人気商品で構成されている。
 「AとBの両方注文される方が多いですね」と松井社長はいうが、お得感のあるラインナップで、食べざかりの子どもがいる家庭なら、AとBの2セットを購入したくなるメニュー構成になっていると言える。
 メニューについて松井社長は「お店でも毎日たくさん出る人気商品がデリバリーでも求められています。たくさん作る中からデリバリー用も確保出来ますから、新たなロスの原因に繋がる事もありません。デリバリー向けにメニューを新たに設定すると、注文に応じて作業が増えるので、オペレーションも煩雑になるでしょう。むしろ人気商品がニーズに合うので、オペレーションはそのままで、売上だけがプラスされる感覚です」と話す。
 年末はシュトーレンもデリバリーメニューに加わった。1本税込2380円(ハーフ税込1200円)だ。こちらも需要が高く、多い時は1日7〜8本出たという。毎年想定する製造量分のフルーツの漬け込みを使い切り、追加分も完売が見込まれるという。
 「毎年、新年の福袋に入れる分が残るのですが、今年は残らないでしょうね」と松井社長。重くて大きい季節商品もデリバリーに適していたようだ。
 売上金は一旦まちづくり三鷹に預けられ、チェックの後に各店へ手渡しで納入されるが、コロナ禍で、閉店時間が早くなり、閉店後に店で売上金を受け取らなくてはならなくなった。そこで、閉店後でも担当者が店に入れるように工夫したという。
 「そのうち時間外でもスムーズに届けてくれるようになりましたね。運用方法でお互い調整したいことがあるときはすぐに相談しています。すごく細やかに対応してくれるので助かっています。三鷹市は本当によく頑張ってやってくれますよ」(松井社長)



情報インフラが可能にした官民連携のプロジェクト
2019年度の三鷹産小麦製品完成記念。三鷹市役所にて、河村孝市長(左)と松井社長(右)
2019年の三鷹産小麦100%の商品「ラグビーパン」(税込270円、ハーフ税込125円)
三鷹産小麦100%の商品「生スコーン」(税込183円)
三鷹産小麦使用の「かぼちゃパン」(税込167円)
フェイスブックに動画をアップし、名物カレーパンの揚がる様子を紹介
「GOTOコッペ」と題したキャンペーンも実施
SNSを最大限に活用

 「デリバリー三鷹」はサービスの紹介にユーチューブを使用している。三鷹市の公式チャンネル「三鷹市公式動画チャンネル Official video channel of Mitaka City」の中に「おうちで三鷹のおいしいもの デリバリー三鷹」というシリーズが設けられ、同サービスの詳しい内容や、同サービスを利用する方法や手順などを、2〜3分の動画でわかりやすく紹介している。
 人気店舗紹介もあり、トーホーベーカリーはその一番手だ。ベーカリーの特徴や大切にしている点が語られ、心のこもった職人技で作られていくパンが映しだされる。チャンネル登録者数は1200人を超えている。
 こういった動画の利用について松井社長は「若い方のアクセスが期待できると思います。当店はフェイスブックで人気商品の『自家製サクサクカレーパン』を揚げる動画を投稿しましたが、リアクションや手応えを感じます」と話す。日頃からオンラインツールの導入に積極的な松井社長にとっても好印象のようだ。
 「SNSはフェイスブックはお母さんお父さん世代向けに、インスタグラムはお子さんや若い世代向けにと、アピールする世代を分けて考える事が出来そうです。動画での商品紹介もお客様にパンやお店の良さを伝える新たな可能性があるかも知れませんね。そしてデリバリー三鷹の良いところは、オンラインに加えてチラシも三鷹市全域に配布していて、電話注文も出来ることです。電話注文が馴染み深いお年寄り層もちゃんとカバーしているんです」(松井社長)
 市民全員を「おいしさを届けたい」対象とする今回の行政の動き方は、ベーカリーとも相性がいいようだ。
 「特に今回の『デリバリー三鷹』は色々な面で行き届いています。我々飲食店も、アルバイトの学生も、お客様も、全員が支援を受けられてウィンウィンの関係でつながれるんですね」と松井社長。

三鷹産小麦粉で作るパン

 同店にはもうひとつ、自治体と結びつきの強い企画がある。「三鷹産小麦粉100%で作るパン」だ。都市農業への理解を深めてもらうことを主旨に、農家や生産者達の農業法人、三鷹ファームが小麦を生産した。市内の生産量の限界や、不作や豊作で供給量に多少のばらつきはあるものの、ここ数年、2〜3カ月販売できる小麦粉の量が得られているという。三鷹ファームが中心となり、市と、関連する様々な業者を繋いだ。2018年はトーホーベーカリーが食パンを製造。1袋厚切り4枚入りで税込216円。天然酵母を使い、地元の名産品として売り出した。製品完成時の三鷹市長への納品が大手マスコミにも取り上げられ、同店には商品への問い合せも増えた。三鷹ファームは強力粉、中力粉、薄力粉を製造し、今後も三鷹産小麦100%使用の食品の製造企画を進めていく計画だ。
 トーホーベーカリーが製造者として選ばれたのは、市からの要請だったという。
 「行政は、三鷹産小麦でパンを製造してくれるベーカリーを探しています。小麦粉の扱いに慣れる必要はありますが、3店くらいで1か月ずつ三鷹産小麦のパンを製造販売出来るようになったら、生産量と合わせても丁度良いのではないでしょうか」と松井社長。
 毎年製造するメニューは変えているので、毎回試行錯誤を重ねて試作品も繰り返し作っているという。行政から「十分美味しいですよ」と言われても、松井社長自身がイメージする理想の味になるまで試作が続けられる。
 デリバリーサービスや地元産小麦での製造など、行政の支援によるチャンスがベーカリーに訪れる事は三鷹市以外でもあるかも知れない。
 そのときに、求められるサービスを、行政にとっても、消費者にとっても、業者にとっても満足度の高い内容に出来るかは、最終商品を製造するベーカリーの手腕によるところが大きいと考えられる。
 ベーカリーの高い技術力や経営力は、ベーカリーを地域に大きく貢献する存在に押し上げるのだろう。

SHOP DATA
店名:トーホーベーカリー
住所:〒181‐0013 東京都三鷹市下連雀1‐9‐19
電話:0422‐43‐6311
営業時間:午前7時〜午後6時
定休日:日曜、第3月曜、祝日
品揃え:約95品目
スタッフ:製造13人、販売7人
店舗面積:厨房25坪、売り場14坪
日商:平日75万円、土曜120万円




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