私の開業物語 - ブランスリー電子版


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特集/2015年4月号

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私の開業物語




まったく新しいコンセプトの店にする必要があった - ブラフベーカリー
ブラフベーカリーは、急な坂道の途中にある
オーナーシェフの栄徳剛さん。後ろの絵も、テーマカラーと同様に、デザインの柱となっている
左は、アメリカのチョコ菓子を使用した「ハーシーズチョコレートクロワッサン」(税込300円)、右は、バターの使用量を抑えたニューヨークスタイルの「クロワッサン」(税込220円)
「QQ×シナモンロール」(税込300円)など、商品はどれも大きめに作られており、「アメリカンサイズ」を思わせる
開業して3カ月で軌道に乗せる

 神奈川県横浜市の「ブラフベーカリー」のオーナーシェフ、栄徳剛さんは、パン職人の道を進み約15年を経た2010年12月、同店を開業した。
「スロースタートで行くことを決めていたので、オープン前は、店舗に貼り紙をした以外は、特に広告は打ちませんでした。その代わり、メディア関係者を招待してレセプションを行いました。期待通り、来てくださった皆さんが宣伝してくれたおかげで、客数は少しずつ増えていきました。お客様による口コミの効果を待つよりも、確実性があって効果的だったと思います。3カ月経った頃には理想的な客数と売上げを獲得できるようになり、軌道に乗せられたと実感しました」(栄徳シェフ)
 同店の立地は、人通りの少ない坂の中腹にある。そのため、店舗に貼り紙をしても集客効果は薄い。立地の悪さは、メディア関係者による宣伝によって克服し、店を軌道に乗せることができたのだ。
 軌道に乗せるまでの3カ月の間、販売スタッフは常時1人、製造スタッフは、栄徳シェフと妻の友紀さんを中心とし、今は亡き、栄徳シェフの父が手伝いに入るという体制だった。
 「軌道に乗るまでの一番慣れなくて辛い時期を、家族が支えてくれました。多少の無理も聞いてくれるのは、やはり、家族だからこそだと思います。販売のスタッフは、多くの経験を積んできたベテランだったので、自分の方からは特に指示することなく、やり方は完全に任せました。自分以外に3人という少ない人員でしたが、心強い存在でした」(栄徳シェフ)
 開業当時、定休日は週2日、午後は毎日1時間半の休み時間を設けた。これらの休みは、少ない人手でまわすために必要だった。特に販売担当のスタッフはたった1人しかおらず、ほかに交代できる人がいなかった。

物件を決めてからオープンまで

 同店は、横浜の観光名所として知られる元町商店街のメインストリートから徒歩3分ほどの、代官坂と呼ばれる坂の途中にある。
 「この辺は、子どもの頃住んでいたので思い入れがあって、店を持つなら代官坂と決めていました。代官坂に絞ると物件は数軒に限られますが、空くのを待ちました。オープンする半年ほど前に借りられるようになりましたが、それと同時に家賃が発生してしまうので、オープンを急ぎました」(栄徳シェフ)
 店舗の内装は、栄徳シェフが前々から希望していた、企業のブランディングや飲食店運営まで幅広く手掛けるデザイン会社に頼んだ。
 「店のコンセプトだけでなく、テーマカラーと、店に飾る絵も決めていたので、それらをもとに考えてもらえるように、デザイン会社に発注しました。店舗の内装から、手提げ袋やショップカードなどの様々な小物までお願いして、店全体の統一感を持たせました」(栄徳シェフ)
 栄徳シェフが決めた同店のコンセプトは、「ニューヨークの食料品店のようなベーカリー」。
 「アメリカは、研修に限らず旅行でもよく行っていて、フランスよりも渡航回数が多いほどです。店を持つなら、ニューヨークで見た、食料品のセレクトショップのようにしたいと思いました。そのショップは、パンも個人のベーカリーから仕入れて販売していたので、アイテムごとに雰囲気が違って、存在感があったんです」(栄徳シェフ)
 妻の友紀さんもアメリカとは縁があり、学生時代に留学していた。そのときの知識を活かし、焼き菓子などは友紀さんが担当した。
 「コンセプトは、これまでの経験を活かすと自然とこうなった、とも言えます。また、当店の立地は、明治から続く老舗や、全国チェーンの本店など、有名ベーカリーがある近所です。同じようなコンセプトにして争うのではなく、地域で一緒に、頑張っていきたいという気持ちがありました。そのためにも、自分の店は全く新しいコンセプトを持ったベーカリーにする必要がありました」(栄徳シェフ)
 店内で最も印象的なデザインは、売り場から厨房の様子が見えるように、くり抜かれた壁。映画館のスクリーンのように、大きく横長にくり抜かれている。厨房の様子はまるで、映画のワンシーンを見ているような感覚で、楽しんでもらえたらという思いを込めた。
 「いろいろとこだわったので、内装やデザインだけでも、予算としていた3000万円は超えてしまいました。機械まで含めて最終的には、5000万円ほどかかってしまったと思います」(栄徳シェフ)
 こうして準備を進め、物件を決めてから半年後、オープンにこぎつけた。そうしたなか、商品決定に残された時間はわずか1週間だった。
 「ドイツ製の窯も、なかなか届かなかったので、実際商品の試作はできていない状態で、オープンを迎えることになってしまいました。そのため、イメージを膨らませて、レシピに落とし込む作業だけで、商品決定をしていきました」(栄徳シェフ)



陳列台の奥の壁は、大きくくり抜かれ、厨房の様子が映画のスクリーンに映し出されたかのように迫ってくる
ニューヨークの食料品店をコンセプトに、テーマカラーの青を効かせてデザインした店内
飾り棚には、同店のテーマカラーを紹介するオブジェ(写真右下)が置かれている
1年のスパンで利益を考える

 12月中旬にオープンして軌道に乗って以後、順調だったのは5月までだったという。
 「急な坂を登らなければならない立地なので、覚悟はしていましたが、梅雨に入るとがくっと売上げが落ちました。しかも、予想していた2割では済まず、4割も落ちてしまったんです」(栄徳シェフ)
 6〜7月の不調をみて、猛暑のため益々厳しくなるであろう8月は、思い切って2週間の夏休みを取った。
 「7〜8月だけで、200万円の赤字が出てしまいました。長期の休みを取りましたし、仕方がなかったとはいえ、困りましたね。そこで役立ったのが、確保していた運転資金でした。それで赤字分はしっかり補てんできました」(栄徳シェフ)
 夏が過ぎると同時に、調子を取り戻していき、開業1年目が終わった。
 「雨や雪、暑さに弱い立地だということなどを実感した1年間でした。夏はプラスにはならないと割り切って考え、1年のスパンで利益が上げられるようにしようと考えるようになりました」(栄徳シェフ)
 観光地からほど近い立地のため、天候に恵まれる3月〜5月は、繁忙期となる。また、土日祝日は、平日の倍近くの約400人が来店する。
 「週末などお客様が多いときには、平日よりアイテム数を増やします。平日作っていないデニッシュを販売したり、窯に空きがなければフライヤーをどんどん活用したりしています。売れるときに売っていかないといけないという意識を高く持つようになりました。この立地の扱い方のようなものが分かってきたからですね」(栄徳シェフ)
 翌年から、1年目の経験を活かし、立地条件が及ぼす客数の変化に応じた営業努力を続けていった。こうした努力が実り、売上げは1年毎に10%ずつ増やすことができた。そして2014年、定休日をなくしたこともあり、前年比140%の売り上げを達成。年を追う毎に、確実に成長し続けている。

住所:〒231‐0861 神奈川県横浜市中区元町2‐80‐9モトマチヒルクレスト1階
電話:045‐6451‐4490
営業時間:午前8時〜午後6時半
定休日:なし
品揃え:平日60品目、週末80品目
スタッフ:製造4人、販売2・5人
店舗面積:厨房20坪、売り場9坪
日商:平日15〜21万円、土日35〜45万円



自分にとって何が「成功」かを決めることが大切 - ブーランジェリー スドウ
木の質感を出した温かいイメージの店舗外観
「ブーランジェリー スドウ」のオーナーシェフ、須藤秀男さん(左)と妻の枝里子さん
必要なのは独立のビジョン

 「パンとお菓子を通して地域の人を幸せに、笑顔にできる店が、自分にとっての理想ですね」
 東京・世田谷区のベーカリー「ブーランジェリー スドウ」のオーナーシェフ、須藤秀男さんはこう話す。同じくパン職人である妻の枝里子さんと2人で「本当においしいと思うものを届けたい」と考えて立ち上げたこの店は、2009年の10月にオープン。準備はその年の春から約半年かけて行ったが、独立は、職人として修業を始めた頃からの夢だった。
 「ぼんやりとビジョンのようなものは、ずっと描き続けていました。これから独立しようと考えている人達へ伝えたいのは、まず『急には独立できない』ということです。自分で独立に向けたビジョンを固める必要があり、店のコンセプトや目標を決め、目標を実現させるために何をしていきたいかということを、計画的に考える必要があります」と須藤さん。
 さらに「『成功』の捉え方も、人によって千差万別です。とりあえず自分の城を持ち、生活していける分だけで良いから売上をあげたいという人もいますし、店の規模をとにかく大きくして、支店も出したいという人もいます。どちらでも『成功』であることには違いありませんが、自分にとって何が一番良いかを考えたビジョンが必要ですね」

地域密着の店に育てたい

 須藤さんの店は東急世田谷線・松陰神社前駅を下車してすぐの場所にある。電車の中から店が見え、広告も要らないという好立地だ。周囲は世田谷区の役所が一通りそろい昔ながらの商店街も混在する静かな住宅地。世田谷線沿線では一番人口が多い場所といわれている。「立地条件の面では満足しています。もともと前の職場の近くで10年住んでいて土地勘がありましたし、家賃はちょっと高めですが、十分な広さの良い物件でした」と話す須藤さんは、もともとパティシエだった。これまで「タイユバン ロブション」「ブーランジェリーブルディガラ」「ペルティエ」「マリアージュ ドゥ ファリーヌ」など、主にベーカリーでありながら洋菓子も充実している店で、シェフや統括責任者などを経験、15年修行を積んだ後、35歳で独立した。
 開店から5年半経った現在、「ブーランジェリー スドウ」は土曜など多い時で1日500人以上が来店する人気店となっている。客層は主に近隣の主婦や家族連れなど。須藤さんのパン職人としての知名度があったこともあり、オープン初日は台風だったにも関わらず噂を聞きつけたパンマニアのブロガーなどが殺到し行列ができたという余談もあるが、須藤さん自身は地域密着店であることを大切に店を育ててきた。
 「それまでずっと修業してきた高級志向で、都市部のオフィス街にある店は、周囲の環境が変動すると需要の予測ができないところがありました。そこで住宅街の家族連れが多い場所でリピーターを増やし、需要が安定した店にしようと考えたんです」(須藤さん)

人気定番商品の「世田山食パン」(下、税抜620円)と「世田谷食パン」(上、税抜620円)
子供も食べやすい「ロールパン」(税抜90円)
店内のカフェスペースとして机を1つ置いた
店内は木の質感を出した温かい空間で清潔感がある
パンが美しく並べられた店内。パンを置く「向き」にもこだわりがあるという
独立後のシナリオを描く

 須藤さんは開業時の資金として貯めていた自己資金2000万円のほか、銀行から2000万円の融資を受けた。査定にあたって、裏付けのある事業計画を立てて説明する必要があるが、須藤さんも経理に詳しい身内や税理士などの専門家に聞きながら収支を黒字化させるシュミレーションを表計算ソフトのエクセルなどで行った。
 「店のコンセプトから、資金の内訳、人件費などのコストなどを算定し、細かいシナリオを立てました。職人の中にはなかなかこうしたことが苦手な人もいますが、店を開くなら、やったほうが良いと思います」と須藤さん。また、「融資の査定を受けるならしっかり自分に関する情報を資料化しておくことが大切です。どんな経験を積み、実績をあげてきたか、ファイリングしておくとよいと思います」という。
 須藤さんがまず考えたコンセプトは、地域の人達が毎日通って食べても飽きないおいしいパンを提供することだった。
 「マニアックなものより定番商品をしっかり定着させたいと考えました」(須藤さん)
 商品は、近隣住民の需要を分析し、食パン、ハード系、総菜パン、デニッシュ、ヴィエノワズリーなどのラインアップを、大きさや価格帯なども考えた上で開発。中でも自家製ホップ種を使用したしっとりした食感が特徴の「世田山食パン」(税抜き620円)、「世田谷食パン」(税抜き620円)は毎日食べる食パンとして試行錯誤の末に開発し、商品化の際には世田谷という地名を意識した名前をつけた。またミルクパンやロールパンなど子供向けの商品を取り入れたり、高齢者がわかりやすいように商品名はなるべく日本語にしたりして、幅広い年代から受け入れやすいような商品構成を考えた。
 またもう1つのコンセプトは「気軽に入れる居心地の良い店」で、内装・外装には工夫を施した。作り手の顔が見えるオープンキッチンや、ショーケースの対面販売とセルフコーナーの両方をとり入れた売り場を導入し、来店客とコミュニケーションをとりやすいようにした。
 「また机1つだけで小さくてもカフェスペースが欲しかったので、店の規模の割には広めの物件を借りました。新築でスケルトン状態のものを2000万円かけて工事し、家賃も高めでしたが妥協はしたくありませんでした。デザインは白を主体に木の質感を出した温かい空間で清潔感を出し、全般的にシンプルにまとめました」(須藤さん)
 こうしたことが奏功して、開店から5年半たった現在、同店は地域で有名な繁盛店となった。

大切なのはよきパートナー

 「ただ売上は想定通りでも人材の育成や商品展開などまだまだ課題はあります。まだやりたいことの半分しかできていないと感じていますね」と話す須藤さんが、独立する上で最も重要なことの1つとしてあげるのは「パートナー」達の存在だ。
 「パートナー」とは、まず1人はもちろん、伴侶の枝里子さんだ。何でも直感で動くタイプの須藤さんに対し、細かいデータなどの裏付けを必ず必要とする理論派の枝里子さん。2人で補い合いながらも、理想の店に向けたビジョンは共有。「ペルティエ」時代から一緒の同僚としてこれまで幾多の道を共に歩んできた。
 店の運営を陰ながら支えてくれる問屋などの業者関係者も須藤さんにとっては大切な「パートナー」達だ。「業者さんとのパイプづくりや付き合い方を学ぶこともとても重要です。色々な人達に助けられて経営を行っていますからね」と須藤さんは話す。
 また大きな出来事として、須藤さん夫婦を理解し、前の店からずっと一緒でついてきてくれた同僚が、郷里で独立するため、昨年店を辞めたことがある。夫婦2人でショックを受け、立ち直るのにしばらくかかったというが、一緒に仕事をしてくれる人の存在が大切だと改めて実感した出来事だった。
 「夢の実現に向けては今後も幾多の試練があるのかも知れませんが、それでも、とても楽しいですね。だから色々なことがあっても続けていきます」(須藤さん)

住所:〒154‐0017 東京都世田谷区世田谷4‐3‐14
電話:03‐5426‐0175
営業時間:午前9時〜午後7時
定休日:日曜、月曜(不定で火曜)
品揃え:50〜60品目
スタッフ:製造3人、販売3人、製造補助2人、販売補助2人
店舗面積:売場10坪、厨房19坪、バックヤード3坪
月商:700万円

原価計算女王
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