前号で生産性とは何か、そしてパン企業の経営状況と労働生産性との関係について述べた。本号ではパン企業の生産性の現状について考えてみる。
日本経済の状況パン製造業も他の産業と同様、世界経済、国内経済の影響を受けることは当たり前であるが、パン産業は商品のほとんどが、非貿易財であるために国内経済の下にあると言える。
日本経済はいわゆる土地バブルの崩壊以降、10年来の不況の中にあり、出口の見えない状況が続いている。この間食品産業であるパン産業はその生産量から見た場合、重厚長大産業や建築産業に比べて比較的安定した状況にあった。しかしこの間大手企業による寡占化は徐々に進み、中小企業による生産高は減少してきた。
10年来の不況の上に、グローバルな商品管理システムの成立により、食品食材を含む安価な輸入財が国内マーケットに導入され、国内市場の物価水準が低下するデフレ現象が起きている。その上昨年来の米国のネットバブル崩壊に端を発して、コンピューター関連の輸出に陰りが現われ、日本経済は極めて厳しい状況にある。一方日本の不況の原因はその生産性の低さに起因するという考えもあり、実際日本の生産性は米国の3分の2であるとされている。したがって生産性を向上させなければ日本経済の回復はないとも言われている。
日本の人口の推移10年にもわたる不景気の中で、量的には比較的安定した生産量が保てた背景には、着実な人口の増加があったことを忘れてはならない。図1に示すように戦後一貫して人口が増加しており、これに呼応する形でパンの消費も増加してきた。
しかし2007年をピークにして、日本の人口は減少を始めると予測されている。胃袋の数が減れば、パンの消費もこれまでどうり、増加を続けていくことは難しいであろう。特に生産人口、年少者人口が減少することは、労働集約的なパン産業にとって近い将来、厳しい雇用状況になることは否めない。(図1)
パン製造業の生産性従来日本人は勤勉で日本の生産性は国際的に高いと信じられてきた。ところが上述のとおり米国の3分の2しかない日本の生産性は、先進国の中でも決して高くない。産業別の製造原価構成率を図2に示したが、これらの製造原価率の中でパン製造業の直接労務費率は他の産業を遥かに超えて極めて高い。比較的類似の産業形態である、麺類製造業、水産練り製品製造業と比べて、その差は大きい。 全産業の中でもパン製造業は極めて直接労務費率の高い産業である。(図2)
前号で生産性とは労働、設備、原材料などの投入量と、これから作り出される生産物の産出量との関係のことであると述べた。製造原価という産出量を一定にした時の、産業別の直接労務費という労働量の比率をこの図は示しているから、この場合パン製造業の労働生産性は極めて低いことになる。国際的に低い日本の生産性の中でも、とりわけ生産性の低いパン製造業は、日本の賃金水準が世界で最も高いという事実と合わせて、極めて厳しい状況にあるといえる。
しかも上述のとおり、今後生産人口が急速に減少していくことを考えあわせると、パン製造業は出来るだけ速やかに、労働生産性の向上に取り組まなければならない。
規模別の人件費率日本の大手製パン工場は高度に機械化され、米国の工場以上であると言われている。
工業統計から産業別に、工場規模別の工場出荷額に対する給与額の比率を図3に示した。この図から分かることは従業員数1000人を超える、大手の製パン工場であってもその労働生産性は他産業と比べて極めて低いという事実である。ライン別に見れば生産性が高いラインもあると思うが、工場全体でみればこれが現実である。大企業といえども生産性の向上について今後避けて通ることはできないであろう。(図3)
ベーカリー製品の輸入パンに嗜好的な特性がある点はあるにしても、小麦の大産地でもなく、小麦の大産地にも遠く、比較的賃金水準の高いヨーロッパ諸国から、しかも日本から遠く輸送にもコストをかけて冷凍成形生地が輸入され販売されている事実は、日本の食糧政策の影響が大きい事が原因の一つであろうが、日本のパン製造業の生産性が低い(即ち製品価格が高い)という、日本側の原因によるものかもしれない。アジアからの冷凍製品の輸入も始まってきている。ますます低価格化は進む可能性は高い。
今後グローバリゼーションはますます進むであろう。ますます地球は小さくなっていき、即ち情報、人、物、金すべてのものの移動はますます激しくなる。実際、時速90キロメートルで走る高速船(スーパーテクノライナー)の就航も間近である。 この船は高速道路のトラックと同じ速度で走行する。上海、福岡間なら5時間あまりで航行できるであろう。
そうなれば冷凍生地だけで済むかどうか、真剣に考えてみる必要があろう。パンは生鮮食品だからとたかを括っていると何が起こるかわからない。かってビデオは米国で発明された。しかし日本や韓国がビデオを作り始め、低コストで作ったために米国には1社のビデオ製造会社もなくなった。廉価な商品は高価な商品を駆逐する。今や活きあさりからねぎまで輸入されていることは誰でも知っている。パン産業だけがいつまでも生産から消費まで一国内で帰結出来ることは難しいであろう。
製パン業界は早急に生産管理について勉強して、生産性の向上に取り組まなければならない時期に直面している。次号から生産管理について学習していこう。

図1

図2

図3