実際の製造記録とスケジューラーによる生産スケジュール実存する工場のある日の実際の製造日報から作成したダイヤグラム(図3)と、スケジューラーで演算し作成したダイヤグラム(図4)を比較してみましょう。
このラインはいわゆるバラエティブレッドのラインで、比較的大きなブレッドのラインです。図4は現場の実際の製造日報から工程ごとの時間をピックアップして、作図したものです。
このラインの場合、中種仕込みから焼成の終わりまで約15時間30分ほど経過しています。本捏ミキシングの作業時間をみても、このラインの効率は一般的な企業の同様のラインと比較して特に低いとは思えません。水準以上の生産性を持ったラインです。
ところがこの日のアイテムごとの製造指令数をスケジューラーにいれて演算してみると、同じく中種仕込みから焼成の終了までの所要時間は約12時間となり、その差は3時間30分になります。
しかもそれぞれの作業速度はある日の条件とまったく同じにしてあります。したがって作業の組み合わせ、即ち生産の順番でこれだけの生産所要時間の差が出るわけです。
無論実際の生産に当たっては納期、生産設備、備品、労務条件などの制約により12時間ではできないかもしれませんが、可能性として3時間半の削減はあるわけです。この3時間半にわたる見えないアイドリング時間(手待ち時間)こそが製パン産業の生産性の低さの最大の原因になっているのです。
大型のパンでこのような差が出るのですから、多品種少量生産のロールラインや菓子パンラインでは一日に6、7時間の見えない手待ち時間が生じているのは容易に想像できますし、実際にそうです。
このように製パン工場では製パン工程の組合わせがあまりにも複雑だったため、いままで見えない手待ち時間に関して、有効な手を打ってこられませんでした。そのため製パン工場の生産性は極めて悪かったわけです。
しかし現在我々はコンピューターという文明の利器を手にしています。確かに企業間のサプライチェーンネットワーク(SCN)も重要でしょうが、パン企業においては工程間のSCN(すなわち生産スケジューラー)はメリットが大きく直接的だといえます。
例えば直接労務従業員数100人の工場で、一人あたり一時間の効率アップをした場合、仮に時給が1000円とした場合、一日あたり10万円の削減、300日稼動すれば3000万円の削減になるわけです。
しかも深夜の作業が削減されたとすれば効果はさらに25%以上増加するでしょうし、なにより過酷な深夜作業を減少させ、労働環境を向上させるでしょう。稼動時間の削減は光熱費の削減にも繋がります。
もし工場が生産能力の限界に来ていたら工場の増設を図らねばなりませんが、スケジューラーによって工場の生産性を高め、新規の設備投資を避けることができれば効果は多大です。
しかし生産性のアップはここからがスタートです。自動車や電機産業は最近の屋台方式などを除けば、ほぼ完全に自動化、ライン化がされています。それでも日々改善を行ない生産性を向上させているのです。
したがってラインが自動化されているからといって、生産性の向上に取り組まなくてよい理由にはなりません。計画的な作業スケジュールができたら、今度は作業改善や段取時間の短縮、などなど多くの課題が待っていて、生産性の向上はこれからなのです。
生産性の向上に絶対に必要なものは合理的なシステムとモチベーション、モラルを兼ね備えた組織です。
パン産業は生産性を向上させ、若者が入りたくなる産業に今すぐ変革しなければなりません。
図3
図4
参考文献
このシリーズを書くにあたって参考にさせていただいた主要な書物は、次の通りです。
▼CALSでめざす米国製造業躍進のシナリオ(根津和雄著)
▼TOC革命 制約条件の理論 (稲垣公夫著、日本能率協会マネジメントセンター刊)
▼革新的生産スケジュール(佐藤知一著、日本能率協会マネジメントセンター刊)
▼図解 生産管理(田中一成著、日本実業出版社刊)
▼生産管理の辞典(圓川隆夫ら編集、朝倉書店刊)
▼生産マネジメントの手法(圓川隆夫.伊藤謙治著、朝倉書店刊)
▼リエンジニアリング革命(M・ハマー、J・チャンピー著、日本経済新聞社刊)
▼中小企業の原価指標(中小企業庁編、中小企業診断協会刊)
▼工場管理別冊 トヨタ生産方式にもとづく「モノ」と「情報」の流れ図で現場の見方を変えよう!!(マイク・ローザー、ジョン・シュック著)