アメリカのアルチザンブレッド事情、インストアとリテールの熾烈なシェア争い - 海外情報(12) - ブランスリー電子版

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海外情報/2002年1月号

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アメリカのアルチザンブレッド事情、インストアとリテールの熾烈なシェア争い - 海外情報(12)

高橋秀尚 株式会社パンワールド代表取締役
海外情報研究会主宰

まず最初に日本ではアルチザンと発音しているが、英語ではアーチザンが正しいことを申し上げておく。その他には香草を意味するハーブはアーブと発音するし、自社用に社外のメーカーが製造するプライベート・ラベルはレーベルという。余談ではあるが憶えておこう。
いずれにしろ「アルチザン」はラテン圏では「手作り」を意味する言葉であるが、私たちには昨今アメリカで話題の手作りパンを思い出させる。今回はその話を裏話を交えてお話ししよう。

移民の国アメリカ
アメリカは世界各国からの移民で出来上がった国だが、ヨーロッパ各国からの人々も各地に移り住み、町を作った。
もともと何もない場所に定着して生活を始めたわけだが、地名を付けるのに苦労したのではないだろうか。最も簡単なのは自分たちの出身地に新しいという意味の「ニュー」を付ければよいわけで、それがニューヨークであったり、ニューハンプシャーであったりしたようだ。
移民の歴史を考えてみると、本題のアルチザンブレッドの流行と密接に関連している。つまり大西洋を渡ってアメリカにやってきた人々は彼ら自身の食生活ももたらした。その中にパンも含まれていたというわけである。
ただしこれは200年も前の話であり、今日のアルチザンブレッドの流行にはもっと現実的な理由がある。アメリカ事情の裏表をかなり知っているつもりの筆者であるが、実情をお話ししよう。

スーパーの影響
ご存知のように最近はパンのみを販売するのではなくして、惣菜類も抱き合わせで売るという方法が、特にアメリカのスーパーマーケット業界では当たり前となった。
お客もパンに合う惣菜類を販売員の助言を受けながら同じ場所で同時に買うことができれば便利であるし、メニュー選びも楽しくなる。
ところが今までのアメリカのブレッド類は白食パンなどが主流であり、惣菜類と一緒に食べるにはおよそ似つかわしくないものであった。
すでに5年ほど経過した「ミールソルーション」、つまり「夕食用のメニューを(ほとんどの場合は)スーパーマーケットの惣菜売り場で買い、自宅に持ち帰って食べる。ただしメニュー内容と程度はレストラン並み」というスーパーマーケット業界の一大キャンペーンが、同時にアルチザンブレッドのキャンペーン開始の時期でもあったと思われる。
アメリカのスーパーマーケットのインストアベーカリーは自社経営であるから、同じ店舗内の惣菜売り場と協同で販売促進を行うのは容易であったろう。
つまりアルチザンブレッドの台頭にはスーパーマーケットの影響が大きかったのである。

優秀なパン技術者がアメリカへ移住
次に考えられるのは90年代にヨーロッパの若くて優秀な製パン技術者が数多くアメリカに移り住んだ事情が関係している。
その理由は不明であるが、フランス、イタリア、ドイツなどから今までの古い因習にとらわれない自由を求めてアメリカに渡っている。
そして彼らがすでに持っているヨーロッパ生まれのパンをアメリカに紹介したというわけである。
ただし売れ行きを考えて多少はアメリカ人好みの味覚に合わせたようで、いわばヨーロッパ生まれのアメリカ育ちという混血と考えたい。
例えばイタリアンブレッドというのが主にサンドイッチ用に使われているが、イタリア本国にはない。
またサンフランシスコ名物のサワドウブレッドは当地でしか見られない。アメリカに渡った技術者たちは各地の職場で活躍しているようだ。

アメリカのリテールの全国組織
なおアメリカにおける主としてリテールベーカリーのための全国組織は2つある。
両方とも筆者が加入しているので内部事情に詳しいが、参考までに団体名は次の通りである。
▼RBA(リテーラーズベーカリー協会)
▼ベーカーズギルド
後者のギルドは手工業者組合を意味するが、会員の中にはアメリカを代表するアルチザンベーカーも多く、また活動目的は手作りパン技術の普及と研鑚にある。
例えばニューヨークの代表的なリテールベーカリー「エミーズ」のオーナーも重要なメンバーである。
一方、RBAは旧名称を「アメリカリテールベーカリー協会」と名乗ったことでわかるように、長い歴史のある団体であったが、10年程前にスーパーマーケットのインストアベーカリーの台頭で、リテールベーカリーが窮地に立たされた結果として、共存共栄を願って現在の名称に変えたという経緯がある。
筆者の知る限りでは、両方の団体に入っているリテールベーカーは多いものの、ギルドの方が職人意識が強く、活動内容もさらに実践的である。
右ページの写真はニューヨーク市内に2店舗持つ前述の「エミーズ」店内風景を示す。また上の資料で代表的なアルチザンベーカリーの商品構成をご紹介する。



アルチザンブレッドの定義
さらに重要事項であるが「アルチザンブレッド」の定義について触れておく。
当初は本来の意味のように「手作りパン」という解釈をしていたが、現在では次の3条件満たせばよろしいというように変化している。
(1)長い発酵時間をとる
(2)厳選された材料を使う
(3)添加物を使わない
このように変化した背景には前述のようなインストアベーカリーとリテールベーカリーの熾烈なシェア争いがあった。
つまりインストアがアルチザンブレッドを店頭で焼いて売ろうとした場合には手作り(スクラッチ)では間に合わないし、技術力もないという事情があった。
結果としてインストアのアルチザンブレッドは、店外工場でパーベークもしくは製品冷凍された商品で調達するということになった。
これはもはや「手作り」とはいえないので、このような業界事情からアルチザンブレッドの定義が変わったものと思われる。
しかしながら、リテールベーカリーの中には、スクラッチ方式で作っている人たちも多く、過酷な仕事を情熱でこなしている。









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