パン職人は語る - ヴァンダラストの大村 田シェフ - ブランスリー電子版

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レポート/2025年9月号

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パン職人は語る - ヴァンダラストの大村 田シェフ
ヴァンダラストの大村 田シェフ。1979年、群馬県太田市生まれ。東京農業大学醸造科学科卒業後、埼玉県川口市に本店を持つデイジイで6年間修業する。2008年に地元に戻り、先代が1976に創業したマイピアを引き継ぎ、2018年に改装しヴァンダラストとして再オープン。2012年iba UIBC Cup日本代表選手として本戦出場経験を持つ。現在は、ドイツパン・菓子勉強会会長、レ・アンバサドゥール・デュ・パン・デュ・ジャポンの理事、リテイル・ベーカリー協同組合の専務理事を務める。
「公園みたいなパン屋さん」がコンセプト。広いイートインコーナーもある
店内では不定期のイベントとしてパンのワークショップなども開催し、人が集まる仕掛けを作っている
 現在46歳の大村田氏はこのほど、ドイツパン・菓子勉強会会長に就任。7年前に立ち上げた店「ヴァンダラスト」の経営の傍ら、レ・アンバサドゥール・デュ・パン・デュ・ジャポンの理事、リテイル・ベーカリー協同組合の専務理事も務めるなど、業界団体で広く活躍する中堅のホープだ。現在、海外の職人との交流も積極的に重ねつつ、職人としての腕を磨き、自身のパンも進化させている。ドイツパン・菓子勉強会を今後、どのように舵取りしていくのか、また諸団体での活動を通し、大村氏を突き動かしている源流はどこにあるのかなどを語ってもらった。



ドイツパン・菓子勉強会の新会長として他団体との連携も視野に業界活性化に努める

iba UIBC Cupの認知度向上に向けて

 本年7月1日をもって、ドイツパン・菓子勉強会の第3代目会長に就任しました。同会は2007年、「ドイツ、オーストリア圏における伝統的なパン、菓子の技術を学ぶこと」を主題として、倉田博和シェフ(デイジイ=埼玉県)を会長に発足したものです。
 同会の第一の事業活動は3年に一度、ドイツの国際見本市「iba(イバ)展」で開催されるパンの世界大会「iba UIBC Cup(イバカップ)」への選手派遣です。私も日本代表選手として2012年に出場、4位入賞となりました。若いうちに海外経験を持つことで、人生に幅ができ視野も広がるので、いろいろな人に挑戦してほしいと考えています。
 会長として注力していきたいことは、まずはこのイバカップ自体の認知拡大です。最近はさまざまなパンの大会が世界各地で開催されており、それと共に以前よりもイバカップの露出が減少して、認知も薄れてきているように感じます。同競技会はこれまで、世界大会は8回行われており、2015年の第4回大会には日本が優勝という輝かしい成績を残しました。しかし、コロナ禍のため第6回大会は日本は出場を見送り、次の第7回には参加できましたが、本年5月の第8回は、諸事情のために不出場となりました。開催された全8回のうち、参加したのは6回のみという結果であり、これもイバカップの日本での認知低下の要因です。ここはやはり、体制を立て直して来たる第9回大会には選手2名と監督から成る代表チームを派遣し、再び優勝を手にしたいと意気込んでいます。
 イバカップを盛り上げるためには、国内選考大会の在り方を見直す必要があります。これまで選考会は専門学校を会場として、一部関係者や報道機関が立ち会うなかで開催してきました。もちろん会場提供をしてくれた専門学校には感謝しています。しかし、やはり大勢の観客に囲まれて勝者を決定する他大会と比較すると、華やかさに欠けてしまいます。そこで今後は大きな食関連の展示会内などで行えるように舞台を整え、オープンな大会に変革したいと考えています。ただし展示会会場などを借りると費用がバカにならないため、他団体との連携を模索しつつ、費用を捻出することが課題となります。

技術講習会のテーマを拡大したい

 国内選考会開催のための会場費のほかに、もちろんドイツへの代表チーム派遣には渡航費、宿泊費、現地での練習用会場費など諸々が必要です。これまでも技術講習会などを実施して派遣費用等に充当してきました。
 技術講習会は、製パン知識を深めるためにも当勉強会の事業の大きな柱であり、もっと魅力ある内容に刷新していくことを計画しています。最近はパン職人である会員の講習会参加が減少傾向にあり、ここは何としてでも改善していかなくてはなりません。
 講習会参加者減少の原因としては、人手不足により、店として職人を講習会に送り出す余裕がないことが挙げられます。また現代はSNS上にパン作りのコンテンツがあふれており、ともすれば世界中のパン作りをスマホ一つで、しかも無料で見ることができる状況となっていることも要因です。また講習会はこれまで、テーマは配合比率の違うライ麦パンの作り方、ドイツの地方菓子などを繰り返し扱ってきました。同じようなテーマが続くと、出席者の興味が薄れてしまいます。
 この会の当初の目的はドイツ・オーストリア圏のパン・菓子文化を学ぶことで、その伝統を守ることも大事ですが、そこにこだわりすぎると新陳代謝が生まれません。もはやドイツ本国のドイツ人自体のライ麦パンの消費量は少なくなり、ピザなどを食べる時代です。大きな方向転換が必要で、今後講習会で扱うテーマは、「欧州全体のパンと菓子」に広げていく考えです。例えば、今、注目されている北欧のロブロなど、会員のそれぞれの店舗で取り扱う可能性が高く、興味を引く内容に切り替えていきたいと考えています。さらに海外から講師を招聘したり、海外の職人との交流会を開くなど、今の時代に沿った活動も計画しています。
 このような事業を通して、会員の増加を図り、立ち上げ当初の活気を取り戻すように尽力していく所存です。また他団体と協同で活動することも視野に入れており、相互に作用して活性化につなげたいと考えています。



欧州との交流で築いた国際的視野と技術を活かして若手育成に努めたい
イタリアのゼナッティシェフの助言により、種の製法、材料などを見直し、一層おいしくなった「パネットーネ」(税込4800円)
店で一番販売数が多い「クロワッサン」(税込380円)。デイジイ時代のレシピを見直して4つ折り2回の繊細な食感
修業時代の欧州体験が今のベースに

 私自身は、父が立ち上げた群馬県太田市のパン屋に生まれ、小さいときから店を継ぐものだと思って育ちました。高校を終えて、「外を見てきなさい」と、父が送りだしてくれたので東京農業大学に進学しました。勉強よりも遊ぶことに比重を置いた自由な学生生活を送りました。
 卒業後、修業先として選んだのが、埼玉県川口市に本店を持つ、先述の倉田シェフが経営するデイジイです。デイジイ時代の楽しかった思い出は、入社3年目の頃、倉田シェフに「2週間あげるから、イバ展をはじめ欧州を見学して来い」と、同僚と二人で海外に送り出されたことでした。
 渡航先でお金が底をついてしまい、貯金もありませんでしたので、フランスやドイツのパン屋さんを訪ねて、事情を話して働いて日銭を稼ぎました。フランスでは日本でのセミナー開催時に知り合ったシェフに頼みこんだり、ドイツは一緒に行った同僚が同国での研修経験があったので、その関係をたどり、働き場所を探しました。
 ホテルには3日ほど滞在しただけで、あとは職人や大学時代の友人の家で寝泊まりしました。強烈な思い出ですが、有意義で楽しかったですね。泊めてもらった大学時代の友人は、米国人ですがオランダを拠点としており、「彼のように世界を駆け巡るような仕事がしたい」と憧れました。このような経験が、積極的に異文化を受け入れる今の姿勢につながっています。イバカップ出場も倉田シェフに促されたものですが、ドイツでたくさんのパイプを作ることができました。海外との交流を通して得た知識をパンに落とし込めたら、技術は上達し、着実にパンも進化します。
 倉田シェフはドイツパン・菓子勉強会のほかにもレ・アンバサドゥール・デュ・パン・デュ・ジャポン(アンバサドゥール協会日本支部、安倍竜三会長)の立ち上げなどにも携わっています。その伝手もあり、さまざまな団体に私も関係しています。

モンディアルではマレーシア代表監督に

 現在、アンバサドゥール協会日本支部では理事を務めています。また本年10月、フランスで行われるパンの世界大会「モンディアル・デュ・パン」に初出場するマレーシア代表チームの監督を任されることになりました。監督となった経緯は、今後、マレーシアで協会支部を立ち上げる計画があり、同時に大会出場に関する援助要請が日本にあったためです。これまでも第7回イバカップの日本代表監督を務めていますが、上から方向性を指導するのではなく、皆のモチベーションを引き出し、まとめていくように努めています。選手は皆、優秀ですよ。何回かクアラルンプールを訪問し、現地のパンも食べましたが、レベルは日本と変わりません。また関税が低いためフランスの材料も手に入りやすいので本格的なパンも作りやすくなっています。ビジネスチャンスが期待できる国だと思います。
 同協会における活動で印象的だったのは2023年にモバックショウ内で行われた「ベスト・オブ・モンディアル・デュ・パン」ですね。過去に行われた同世界大会の上位入賞者を集めた、日本で初開催の国際大会です。店には2番手が育ってきたので任せることができ、この頃から私も同協会で中核として責務を負うようになりました。私は12カ国の出場チームの世話係に任命され、問題解決や観光まで手伝いをしました。おかげでイタリアやスペインのチームの人達とは特に親しくなり、あちらに訪ねていくなどして、親交を深めています。特に親しくなったのはイタリアのミルコ・ゼナッティシェフで、日本では講習会も開催して頂きました。またパネットーネ製法に関するアドバイスなどももらいました。パネットーネに関しては、日本のパネトーネのコンテストで優秀賞受賞の経験があったので完成形のつもりでしたが、「香り、食感が弱い」などの彼の助言により製法を見直し、アップグレードできたと思います。
 また、フランスの同協会が推進するレスペクチュスパニス製法のデモンストレーターの資格も取得しました。伝統的な製パン法を見直す趣旨で設けられたこの資格の保有者は、日本では私を含めて7人です。ほかはパリゴの安倍竜三氏、プリンチの松田武司氏、日仏商事の和田佳丈氏、ツオップの伊原靖友氏、ラパンのルメ・パトリック氏、カネカ食品の山崎隆二氏です。資格がないとレスペクチュスパニス製法のセミナーの講義はできない決まりとなっており、有益なものです。

技能五輪を通して若手育成に努める

 リテイルベーカリー協同組合(伊原靖友理事長)では専務理事を務めています。同組合の大きな事業の一つは「技能五輪」への選手派遣です。これは2年に1回行われる22歳以下の人が対象の競技会で、同大会のパン部門に日本が本格的に参加したのは2022年からです。昨年はフランスの本大会へ、本年はオーストラリアのプレ大会に視察に出かけました。2026年の開催地は上海で、2028年は名古屋です。それについても準備を進めていかなければなりません。
 今後、私が力を入れていきたいことは若手の育成です。技能五輪も若手対象であり、欧州などの海外では、周知のように中学卒業後にそのままパン屋さんに修業に入り、職人になる例が多いのです。日本は早くても高校卒業、だいたいの人は専門学校または大学を卒業してから本格的に働き始めます。早期から習熟する海外と違い、スタートが遅いため、もどかしく感じています。しかも専門学校では資格をとるための座学が多く、卒業しても即戦力にはなりづらい一面もあり、今後はなんとかこれも解決していけたらと思っています。
 人口減のなか、労働時間が長くて低賃金という厳しい条件では、そもそもパン職人は職業として選ばれなくなってしまいます。店を構えてしまえば、ある程度の収入は得られるし、パンは生き物なので作っていておもしろいという魅力があります。そして職人同士のグローバルな交流も楽しめ、「実は魅力的な職業なんだ」ということが知られていません。
 そこで、職業選択の一つとしてパン職人に目を向けてほしいという意図で、伊原理事長らと共に調理科のある高校で出張講習会を行い、業界アピールのための地道な活動をしています。パン職人志望者の増加が業界活性化に貢献することを願って、この草の根運動を続けていくつもりです。

SHOP DATA
店名:ヴァンダラスト
住所:群馬県太田市西本町5-30
電話:0276-22-2200
営業時間:午前7時〜午後5時
定休日:水曜
品揃え:約80品目
店舗面積:売場約7坪、厨房約20坪
スタッフ:製造常時5人、販売常時2人
日商:平日約25万円、土曜、日曜約50万円



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