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| 特集/2025年5月号 |
2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| パン職人は語る
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| 職人と会社がウィンウィンとなる成長戦略 | |
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5年在職したら退職金100万円
今後も出店の話があれば、受けていこうと考えています。昨今は社会全体で人手不足が深刻化しており、店舗を出店するには店長となる人材の確保が課題とされています。しかし、当店では十分な人材が確保できているため、その点については問題はありません。当店は、5年いてくれたら退職時には100万円の奨励金を出しているため、定着率が高いのです。3年いたらある程度は技術を覚え、その職人が新人に技術を伝達し、職人が次々と育ちます。 また、以前は独立志向が高い人が多かったのですが、最近はそれがめっきり減少してしまいました。たぶん、現在インフレが続いており、独立して出店するにも初期費用が高くなっていることが大きいのだと思います。当店にしてみたら、定着率が高いというメリットは大きい一方、初任給25万円を出しているので、5年、10年と定着すると、等級も上げなければならないので、だんだんと給料も高くなるというデメリットがあります。会社としての成長がなければ、給与を捻出する資金もなくなってしまいます。そこで成長のためには出店が必要となってくるのです。 支店を出すからには、支店の責任者である店長に、ある程度は「任せる」という気構えでいます。もちろん最終的には私が責任を取りますが、当社の方針を守りさえすれば、あとは「採算がとれるように好きにやってみて」という感じですね。全て完璧に目を届かせようなどと考えていたら、大変過ぎて支店なんか出せませんよ。現在の支店の店長同士も、皆で相談し協力してやっている部分もあります。競争する気持ちもあるでしょうから、それが刺激となり全体として伸長していると思います。 ゆくゆくはセントラル工場を設立したい 今後も会社の成長のために店舗を増やしていこうとは考えていますが、当店で修業し、当店のパン作りを理解している人に「のれん分け」するようなシステムも視野に入れています。これは当社のノウハウなどを提供し、店長の店舗経営を認めるものです。ゆくゆくは、セントラル工場を狭山に造り、生地、フィリングなどをまとめて製造して、そこから各店に輸送する仕組みを作りたいと思っています。若い人たちはライフワークバランスを重視する傾向にありますが、パン職人は本来は長時間労働が付き物です。たくさんの生地数、具材をつくるには時間がかかります。それを解消するためにセントラル工場からの配送を活用すれば、分業ができますよね。そして品質担保のためには、生地は冷凍ではなく冷蔵にこだわりたいですね。天然酵母を使用し、運んでいる間に発酵・熟成するように調整して運搬する仕組みです。 また今後、原材料高が続けば小規模店舗は益々厳しくなります。規模が大きければ問屋と価格面での交渉もしやすいので、当社傘下の一員として一緒にやっていく方がメリットを享受できます。会社と職人、両者にウィンウィンとなるようなシステムを作っていきたいですね。 SHOP DATA 店名:サンセリテ本店 住所:埼玉県狭山市狭山台3-11-2 電話番号:04‐2957‐8934 営業時間:午前8時〜午後6時 定休日:水曜 品揃え:約100品目 スタッフ:製造常時10人、販売常時3人 店舗面積:厨房50坪、売り場12坪 日商:平均およそ90万円 ※サンセリテグループ全4店舗の年商はおよそ5億円 |

| パン職人にしか味わえない醍醐味がある - プチ・アンジュ国立 | |||||||||||||
家業を継ぐため複数のパン屋で修業 ――パン職人になり、お父様が創業した店を継ぐ事を決意した経緯について、当時の出来事と合わせてお聞かせください。 津金 実はもともと店を継いでパン職人になる気はなく、学校を卒業してからは自動車会社に営業職として就職し、サラリーマン生活を送っていました。 しかし、しばらくして父が急病で倒れたため実家に戻る事になりました。それで家業を手伝い、店を継ぐ事にしたのです。悩みましたが子供の頃からずっと見てきた店ですし、せっかく父が作り上げた店を潰すのも嫌だと思いました。 ――家業を継ぐ事を決意し、初めの頃は他店で修業されていたそうですね。 津金 はい。実は私が家業を手伝うようになってしばらくして父の病状も回復し、私がいなくてもなんとか店を回せるようになりました。それでまだ店を継ぐ前である今のうちに、パン職人として何年か外で技術や知識を吸収しておこうと考えるようになったのです。 結局、当時まだベーカリー部門があったルノートルに就職させて頂きました。 ――当時のルノートルでの修業は厳しかったと聞いています。 津金 はい。世間知らずでしたが、先輩にお世話になり、だいぶ変わりました。技術的な事だけでなく、パン作りをする上で必要な五感をフルに使ってパンを作る事の大切さも学びましたね。今でも影響を受けている部分は大きいですね。 ルノートルには3年ほどお世話になり、その後、別のベーカリーで1年ほど修業し、20代半ばで実家に戻りました。 ――再び家業に従事するようになってからは、どのような苦労がありましたか? 津金 父が営んでいた「ポワラーヌ昭盛堂」は、駅から離れた小さな商店街の中にある店だったので、求められていたのは地域住民の日常食として必要なパンを提供することでした。そのためルノートルで出していたような高級志向のパンを何度か出した事もあったのですが、なかなか売れませんでしたね。 ですから、基本的な部分はあくまで父が作ったパンを踏襲しつつ、随所で新しいアイデアやトレンドを適度に取り入れながら変えていった感じですね。 フランスパンにチーズを入れて食べやすくアレンジした「3種のチーズフランス」や、ベーグル生地を茹でるのではなく揚げて、きな粉などで味付けした「もちもちべー」といった看板商品は、いずれも地域住民のニーズに応える中で生まれてきたものです。 店を繁盛させるための総合力 ――2号店の「プチ・アンジュ」を出店した経緯は? 津金 2007年に店を正式に継ぎ、オーナーとして踏み出していく中で2009年に東京・国立に2号店となる「プチ・アンジュ」をオープンしました。「ポワラーヌ昭盛堂」を運営する中で、「買いに来た人が楽しみながら買い物ができる店にしたい」と強く感じていました。「ポワラーヌ昭盛堂」は売り場が狭く車椅子やベビーカーが入れなかったので、国立の「プチ・アンジュ」は売り場16坪の広い店にし、家族連れなども入りやすく、中でゆっくり商品を見て選べる店にしたのです。同時に季節感を演出した売り場の飾り付けやフェアにも力を入れていきました。 ――大変な事も多かったと思いますが、これまで続けてこられたのは何故だと思いますか? 津金 パン職人の仕事は大変ではあるのですが、その一方、職人でないと味わえない醍醐味があります。厨房から売り場の様子が見えるのですが、自分たちが作ったものを買ってお客様が喜んでくれる様子を見るのはやはり嬉しいですね。色々とうまくいかない事もありますが、それを乗り越えていく中で生まれる小さな達成感を感じられるのもパン職人の良さだと思います。 ――店を運営していく上で最も大切な事は何でしょうか? 津金 「総合力」ですね。最近、同業者から何か良い事があったかどうか聞かれて答えたのですが、雨の日に店内にハンドタオルを置くようにしたらお客様からかなり喜ばれたという事があったんです。売り上げにはつながらないと言われそうな話ですが、自分としてはそうした小さな事が積み重なって売り上げにつながる店の「総合力」になるのではないかと思います。お客様に笑顔になってもらう要素が沢山ある総合力のある店でないと、お客様にリピーターになってもらえないのではないでしょうか。評価の基準がたくさんあって、評価してくれる人がたくさんいるというのは、パン屋にとってとても大事なことだと思います。 | |||||||||||||
| コロナ禍の中で地域の人達の支えを実感 | |
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製造と販売の壁を作らない
――スタッフを指導していく上で何か特別考えていることはありますか? 津金 よく店のスタッフにも話すのですが、製造スタッフのみならず、販売スタッフや、サンドイッチなどを作る調理スタッフなども含めて、皆がそれぞれの立場で店を支えています。製造と販売の壁を作らない事が大切で、販売スタッフがお客様を代弁して、製造スタッフに様々な意見を正直に伝えるという流れが理想だと思っています。 ――コロナ禍を通じ、変わったことはありますか? 津金 以前は試食して納得してもらってから買ってもらおうという気持ちが強かったのですが、今はどれを食べてもおいしいと思ってもらえるような店作りに変えたのが大きな変化ですね。そのためにも販売の人が製造の人にはっきりモノが言えるようにしていく事が大事だと感じています。 当店は地域の住民に支えられた店であるという事をコロナ禍を通じて実感しました。以前は参加しなかった地域のイベントにも参加するようになり、たくさんの人に支えてもらっていると感じています。コロナ禍が落ち着いたところで売り場の棚の位置を変え、なるべくお客様の目線に近い位置にパンを置くようにしましたが、それも良かったと思います。 業界の後進を育てていきたい ――パン業界では今どのような事が問題になっていますか? 人手不足が深刻だったり、パン業界に入りたいという若者が少なかったりという話もよく聞きますが。 津金 働き方改革もあって、残業や労働時間を減らす動きが広まってきていますが、それに呼応して、作業を効率化する努力がしやすくなっていると思います。作業中の隙間時間を減らし、生産性を上げれば、余裕が出てくると思います。パン職人は、大変な事があってもそれを超える醍醐味がある仕事だと伝われば人は集まるのではないでしょうか。確かに昔のように成功したいという強い思いを抱いてパンの仕事を始める人は減りましたが、その一方で、パンを作る事そのものが好きで興味が深くて結果的にパンの仕事をするようになったという人が割と増えてきたような気がします。 ただ一生懸命やっても変わらないという気持ちを持つ若者は増えてきた気がします。だから私がよくいうのは、日々の努力のひとつひとつは、小さなものにしか感じられないかもしれないけど、それが毎日積み重なって集まれば、ある時大きな「成果」に繋がるということなんです。ほんの少しの他人への思いやりや感謝も、一つ一つは小さな事ですが、それらが積み重なると、大きな影響になるんですよね。 ――最近は昔と比べると短い修業期間で独立する人が増えてきましたが、長く店を続けて成功するためにはある程度は長く修業した方が良いのでしょうか? 津金 商売は作って売るだけではなく、人の育て方も理解していないとできないですから、ある程度の修業期間の中で、人とぶつかったりする経験がないと、独立してからの色々なトラブルに対応できないこともありますね。近年は製パン作業の効率化が進み、生産性が向上した点は喜ばしいことです。しかしその一方で、若い世代が「どう動けば作業がスムーズになるか」といったことを、自ら考え、失敗を重ねながら身につけていく機会が失われつつあるように感じます。 ――今後の課題は? 津金 今までは色々と手を広げ過ぎた感じがあるので、今後は現在の2店舗の運営に集中していきたいと思っています。 また、自分が若い頃から業界の勉強会に参加して色々と教わった事が多かったので、今度は自分が、業界全体の発展につながるよう、後進を育てていけるような活動に参加していきたいですね。 |
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