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| インタビュー/2025年1月号 |
2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| パン業界に革新をもたらすヴィジョン。売価と給料を上げて好循環をもたらす - ル・スティルの西川隆博社長 | |
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価格改定について
値上げは必須価格にあった価値を ――現在、さまざまな物価が継続して値上がりしています。展開する店舗の価格改定の状況を教えてください。 西川 「ヴィロン」のバゲットは、2024年4月に税抜500円(以下価格の記述はすべて税抜)、クロワッサンも同じく500円に改定しました。バゲットのサンドイッチ類の価格帯は現在、950円〜1800円です。全体には約10〜20%アップしました。 本年で開業22年目を迎えるヴィロンは、「フランスのブーランジュリー・パティスリー」をテーマとして、高価格帯のパンを販売しようという息込みで、東京・渋谷に立ち上げた店です。長年パンは低価格に抑えられていた状況を打破する意図がありました。開店当初のバゲット価格は320円。当時、リテールのバゲットは150円〜220円という状況でしたので、好評ではあったものの「消費者が高価格の商品をどこまで受け入れてくれるか」という躊躇があったのと、デフレが続いたことが重なり、長らく値上げはできていませんでした。 その後、徐々に様子を見ながら価格改定を行い、2020年には400円、2022〜2023年には420円までに持っていきました。昨年の価格改定では、バゲットの価格は480円も検討しましたが、500円という壁ができてしまうと、その後の展開がしづらくなると考え、「チャレンジしよう」と、この価格に決定した次第です。 高級食パン専門店の「セントル・ザ・ベーカリー」では、国産小麦使用の角食が2斤で1000円となっています。イギリスパンは800円です。セントルは2013年に出店。その後2017年頃までに1回値上げを行い、2021年に現在の価格に改定しています。また、数年前に高級食パンブームがあり、現在はその反動で逆風状況です。これが収まれば、価格改定することを考えています。 ――ヴィロンで、昨年4月に価格改定を行った背景は? 西川 昨年の大企業の春闘における平均賃上げ率は5・1%でした。33年ぶりの高水準だったため、大手を中心に給与所得が上がっていき、景気も上向きになると判断し、思い切った値上げに踏み切りました。 フランスであればバゲットは主食であるため、価格は低く抑えられていますが、日本では日常食ではなくハレの食べ物です。いわば嗜好品という価格帯で勝負できると改めて考えています。 ――原材料費、エネルギーコスト等が上昇し、円安により調達コスト等も高くなっていますね。 西川 それもありますが、値上げの最大の理由は従業員の賃金を上げたいからです。当業態は労働力に対する依存度が高い、いわば「労働集約型」であり、職人の技術力に頼る部分が大きくなります。優秀な職人を呼び込んで、引き止めておくためには、やはり良い待遇は必須です。パン業界自体の労働者の賃金が低すぎると、若い世代がこの業界を志望しなくなることを懸念しています。 ――改定後、パンの販売個数に影響はありましたか。 西川 ほとんどありません。もっとも渋谷店周辺は現在、近隣の商業施設の再開発のために人流が落ちている傾向にはあります。しかし嬉しいことに、ここへ来てSNSで店頭販売のクレープの評判が高く、それが呼び水となり来店者は増加しています。丸の内店はずっと好調です。ある程度の想定はしていますが、経営は生き物であり、最近はSNSによる影響などの読めない要素も出ていますね。 今後も価格改定を行っていくためには、原点に戻って「世界一のバゲットを作る」ことをテーマとし、価格に見合った価値があるパンを販売するのみです。同時にプライスリーダーとしての役割も担っていきます。 賃金の引き上げ 本年は大手並みベアで約5%増 ――西川社長は、先述されたように従業員の賃金アップを重視していますよね。2年前には目標初任給30万円を掲げていました。賃上げはどのようになっていますか。 西川 昨年4月に、4〜5%のベースアップをしました。一昨年は昇給ではなく年間2回の賞与を10万円ずつプラスする形で支給しました。このところのインフレで、生活費が上がっているため、給与が低い人の負担が大きいことにも配慮しました。当社グループ全体で社員が200人いるので、一昨年は単純に年間4000万円の人件費増で、経費としては大きな額です。 売上に対して現在の人件費の割合は、ヴィロンでは約30%、セントルでは約25%です。原材料費はそれぞれ約25%です。原価率は価格改定により、以前よりは改善しました。人件費と原材料費を合わせて50%が経営的には理想なので、ヴィロンでは原材料費を20%前半には抑えたいところです。 ――現在の給与の状況を教えてください。 西川 初任給は残業代込みで月約25万円です。将来的には以前から目標としている30万円、賞与を入れて総支給額で420万円程度には伸ばしていきたいと考えています。 この初任給30万円という金額は経営側からするとなかなかハードルが高い状況です。まずパンの売価を現在の価格の5割程度上げないと難しいかも知れません。しかし不可能な数字ではありません。 これまで先進国の中で日本のみがデフレに陥り経済成長が進まず、また為替の影響もあり物価が低い国として置き去り状態です。そこを切り替えて、賃金と物価の上昇の好循環を生んでいけば、実現可能となる話です。 ――業界全体では人手不足が続いています。ル・スティルの採用状況はどうですか。 西川 新卒での採用数は毎年数名、あとは中途採用で適宜人材を確保しています。パン部門の応募者はまずまずなのですが、レストラン、菓子、サービスなどが全て人手不足の状態です。パンでは、これまで新卒はあまり採用してきませんでしたが、数年前からは良い人材がいたら採用することにしました。 |

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新店舗・海外の状況・その他
新規ブランドも投入。仏パリでの展開も ――利益確保のためには新規事業も重要です。新店について教えてください。 西川 一昨年4月、東京駅の真ん前、丸ビル地下に「BUTTER美瑛放牧酪農場」を出店しました。これは、グループ会社である北海道を拠点とする美瑛ファームでの展開です。放牧で育てた牛の生乳を輸送し、約70坪の店舗で当日製造したバターを提供し、さらにそのバターを使った焼き菓子、乳製品などの物販などを行っています。店頭でチャーニングをして出来たてのバターを販売する店は世界で唯一で、そのおいしさを知ってほしいと企画しました。 ――話題となっているのが、カフェで提供される100グラムのバターが付いてくるホットケーキですね。 西川 私の経験では、喫茶店で食べるホットケーキにのっているバターは少なすぎて、物足りないと思います。当店はバター屋であるため、物足りないのは許されません。「バターを食べてほしい」という思いが詰まったメニューです。 ――昨年9月〜10月に欧州に視察に行かれたと伺いましたが、フランスのパンの状況と、パリに出店した食パン専門店「キャレ・パン・ド・ミ」の状況はどうですか。 西川 フランスのパンについて言えば、以前、バゲットは焼きが浅いものが多かったのですが、最近は少し焼き色が戻ってきたようです。白っちゃけたパンはおいしくないので、やはり本来の姿に戻りつつあります。新しいものとしては、SNSで話題となっているヴィエノワズリーなどですね。フランス人も以前ほど保守的ではなくなっているようです。また、数年前に現地の何軒かの店で見かけた、日本の食パン仕様の「パン・ド・ミ・ジャポネ」はもうありませんでした。続けてもらっていた方が、ある程度の市場が形成されるので当社としては良かったのですが、品質が良いものではなかったのでしょう。 「キャレ・パン・ド・ミ」については、スタッフも定着し売上も堅調です。日本産小麦粉を使用した同店の食パンは1斤で5ユーロです。対して周囲のスーパーなどでは、パン・ド・ミは1〜2ユーロです。同店の一番人気はサンドイッチで、20ユーロと全体に高額ですが、そのおいしさが受け入れられているようです。 今回の視察で回ったのはイギリス、フランス、ドイツ、イタリアです。実は「キャレ・パン・ド・ミ」の次なるステップとして、欧州の何カ国かで食パンの工場をつくりたいと考えており、その実現に向けて動いているところです。「キャレ・パン・ド・ミ」の2号店のイギリス出店も視野に入れています。欧州でももはや、やわらかいパンが好まれているため、成功する土壌は十分育っているとみています。また、10年以上前から温めている話なのですが、以前視察先で出合ったサンドイッチが非常におもしろくて、これを持ってきて日本か欧州で店をやりたいと思い、その検討も行っています。良い人材が集まれば、実現させていきたいですね。 ――最後に、役員を務めている全日本パン協同組合連合会での動きを教えてください。 西川 今後想定される給食の無償化については、給食メニューにパンがきちんと盛り込まれるように文部科学省、パン産業振興議員連盟に働きかけています。また供給側の廃業等の理由で、全国の過疎地などの少人数の学校でのパン給食が実現できなくなる問題があります。これには、全パン印の冷凍パンをどこかの工場で製造して配送する解決策が挙がっており、検討中です。 ――本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。 |

| ル・スティルグループの店舗展開
■VIRON(ヴィロン)
フランスの本物のブーランジュリー、パティスリーをテーマに2003 年に渋谷店(東京)を開業。2005 年に丸の内店(同)をオープン。 ■みんなのぱんや あんぱん、やきそばパンなどのいわゆる町のパン屋さんのアイテムをラインアップ。丸の内(東京)に2005 年にオープン。 ■CENTRE THE BAKERY(セントル・ザ・ベーカリー) 2013 年、銀座に開業した食パン専門店。グループ会社の美瑛ファームが経営。国産小麦のおいしさを伝え、また食パンを適正価格で販売することを狙いとし、高級食パンブームに先鞭を付けた。2018 年には青山店をオープン。 ■CARRÉ PAIN DE MIE(キャレ・パン・ド・ミ) セントル・ザ・ベーカリーの姉妹店として2017 年にフランス、パリに出店したパン・ド・ミ専門店。 ■BUTTER(バター)美瑛放牧酪農場 2023年4月に東京駅前の丸ビルに開業した小売店とカフェ。北海道の美瑛放牧酪農場から輸送した生乳を使用。同店でバターを製造し、そのバターを販売。同バター使用の菓子なども販売。美瑛ファームが経営。 |

| 企業データ(グループ全体)
年商:約30億円
従業員:約200人(パートアルバイトを含む) |

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