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特別企画/2024年10月号

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間借り営業の店

新しくベーカリーを立ち上げるときには、小さな店舗でも数百万円から1000万円もの費用が必要といわれている。「資金は乏しいがまずパン屋を開業してみたい」と考えている人に最適なのが「間借り」という営業形態。自店開業前の準備として、飲食店などの隙間時間を利用して試験営業を行うことで、想定していた方向性が正しいかの検証などができることに加えて、将来の店舗の宣伝もできることが魅力になっている。

間借り営業のポイント

●自店舗営業前のシミュレーションが可能
●資金が少なくてもOK
●自分のスケジュールに合わせられる
●開業前に店の宣伝ができる
●提供する商品は間借りする店の営業免許に左右される(営業許可は管轄の保健所に要確認)
●衛生管理者資格は要取得(この記事に掲載の間借り店舗オーナーは全員資格取得済)



間借りパン屋を経て自店をオープン - OTO PAN(オオトパン)
オーナーシェフの大戸洋子さんは1983年生まれ。
パン祭り「パンイチ!」も主催
「オオトパン」の外観。寄りは塩山駅。幹線道路近くに立つ一軒家
甜菜糖から作るグラニュー糖をまぶした「プレーンドーナツ」(税込260円)がドーナツでの一番人気
豆乳入りの各種「丸パン」(税込130円〜150円)は、間借り営業の時代から販売
店内では地元の野菜や、地元の果物で製造したジャムやピーナッツバターなども用意
育児をしながらベーカリーを運営

 桃やぶどうなどの果物の名産地として有名な山梨県甲州市塩山。JR東日本、中央本線の塩山駅から徒歩約13分、勝沼へ続く県道を少し入ったところに大戸洋子さんが営む「オオトパン」は位置する。開業は2021年12月。現在3児の母でもある大戸さんだが、同店舗をオープンする前には、甲府市のカフェで「間借りパン屋」を約3年間運営していた。当時の経験が今に生きているという。 
 大戸さんが間借り営業を行ったのは2018年9月から約3年間。その2年前、東京から家族全員で山梨県に移住して第三子を出産。「子育てと両立しつつ、『パン作り』を仕事にしたい」と考えていたときに、甲府市に新規開業するカフェオーナーから「間借りパン屋をやらないか」と声が掛かった。
 実は大戸さんがパン作りにはまるきっかけとなったのは、2012年の第一子妊娠中で、お祝いにもらったホームベーカリー。レーズンや甘酒などで自家製発酵種を起こすなどしてパン作りに夢中になった。出産後、もっとたくさんの人にも食べてほしいと「オオトパン」という屋号を作り、シェアキッチンを借りてパンの朝市「パンイチ!」を企画して主催。その後、同イベントがきっかけで大手食品会社のPRイベントに参画したり、パン関連のウェブ制作にも関わることとなる。一連の出来事を詳細に発信したブログなどのSNSを見た同カフェオーナーが、「この人なら」と大戸さんに声を掛けた。

間借りパン屋運営で経験を積む

 間借りしたカフェの厨房にはガスコンロの下にコンベクションオーブンが2台とホイロが設置されていた。ミキサーは卓上タイプだったが、比較的パンを製造しやすい環境。ランチ時にはカフェスタッフが厨房を使用するため、朝早くから製造作業を行い、販売は週一回午前11時から午後2時まで行った。大戸さんは自ら店の一角のパンコーナーに立った。
 同店は甲府市の官庁街に位置していたため、パンが売れるのは専らランチタイムだったことが販売時間を午前11時から午後2時までにした理由だった。また、育児をするにもその時間帯が好都合だった。無理がない程度に働くことができた。同カフェでは食パン、丸型のパンなど15種を扱っており、最初一日何千円だった売上は、次第に2万円程度にまでなっていった。
 またカフェの入っているビルにはイベントスペースもあったので、ベーカリー約10店舗を集めて「パンイチ!甲府バージョン」も開催。イベント時には同カフェとのコラボメニューの「ローストビーフサンド」なども販売し、好評を博した。もちろんSNSは常時活用。
 「カフェオーナーは私の集客力を見込んでいたため、期待に応えなければと努力しました」と大戸さんは当時を振り返る。加えてパンの卸や、ネットショップを開始。「これなら自分の店を出してもやっていける」と自信を高め、自店舗の立ち上げに軸足を移しながら、開業の3カ月前の2021年9月まで「間借りパン屋」を続けた。

経営のシミュレーションができた

 間借りのメリットについて大戸さんは、「実際の店舗営業のシミュレーションができること」を挙げる。また、マーケティングや計数管理を経験し、ネット販売や卸を導入しての販路拡大も行うことができた。初期投資額も少なくて済んだ。
 デメリットは、毎日の営業ではないため、売上のめどが立ちにくいこと。また設備がパン専用ではないので、オーブンにスチームがなくハード系が焼けなかったりして、不足に感じる面は多少はあった。
 大戸さんは、SNSをフル活用している。東京でのイベントの開催、山梨への移住などの話を交えながら、間借りの時代から自店開業までの道のりを記録し、発信してきた。
 「SNSを通じて開業を見守り、楽しみにしてくださった読者の方々が、今もお店に足を運んでくださっています」 (大戸さん)

パンとドーナツで独自路線

 開業にあたっては、もともとパン屋だった店舗を居抜きで借りることができ、初期費用は運転資金を合わせて600万円で済んだ。大戸さんは「職人さんに頼んだのは電気工事のみで、あとは知人に頼んだり、DIYでやり遂げました」と笑う。コンセプトは「食べ飽きない味」とし、開業から2年半が経過したが、経営は順調に推移している。
 実は塩山は、パン屋が多い地域。同店から1キロ圏内には、他にベーカリーが4店舗あり、車で10分の距離の勝沼方面には3軒が集中している。
 このような中で、他店と一線を画す「オオトパン」の名物商品は、「イーストドーナツ」だ。北海道産の「キタノカオリ」90%と近隣の北杜市産の「ゆめかおり」10%、地元の平飼いの卵、バターミルクパウダーなどを配合した生地をフライし、優しい味わいに仕上げた製品。午前11時と午後2時に提供する揚げたてが人気で、地域の人たちがお茶請けとして大量買いするという。ドーナツだけの販売日も設けており、全売上の50%を占めているため、「パンとドーナツの店」というキャッチフレーズを付けている。
 このほか、レーズンで起こした自家製発酵種を使用し、北海道産や地元産の小麦の粉を使用した低温で長時間熟成させた生地など6〜7種の生地から約20種類の製品を作っている。人気は、よつ葉バター使用の「塩パン」、こだわりの卵たっぷりの「メロンパン」、ゆめかおり20%配合の「ふすまともち麦の食パン」など。
 大戸さんは、育児をしながらほぼ独学でパン作りを学び、腕を上げて自分の店を持つに至った。
 「その時々にできることで、自分の力を最大限に生かせる道を選んできました。間借りのパン屋も偶然舞い込んできた選択肢の一つでした」と大戸さんはいう。
 アンテナを張り、柔軟に行動してきたからこそ今がある。

SHOP DATA
店名:OTO PAN(オオトパン)
住所:〒404-0042 山梨県甲州市塩山上於曽109
営業時間:午前9時〜午後4時(水曜は11時からドーナツのみ販売)
営業日:水曜〜土曜までの週4日(臨時休業あり)
品揃え:約30品目
スタッフ:製造、販売合わせて6人
店舗面積:厨房4坪、売り場3.5坪、駐車場5台
月商:約100万円
インスタ:@oto_panya



姉妹の夢を紡ぐスイーツカフェ - megumi(メグミ)
姉の西尾佳穂さん(右)は、現在ベーカリー勤務をしながらパンの専門学校に通う。妹の恵里加さん(左)は、会社員をしながら菓子の専門学校を卒業した
発酵バターがきいた「スコーン」(税込650円)は、外はカリカリ、中はしっとり
白ワインでコンポートしたパインを盛った「パイナップルとジャスミンティーのタルト」(税込750円)
「さいとう読書室」はオーナーの齊藤良博さんの父が所有してた蔵書を一般公開するための施設。スイーツカフェ「メグミ」は、ここで間借り営業をしている
理想の場所との出合い

 西尾佳穂さん、恵里加さん姉妹が営むスイーツカフェ「メグミ」は、東京・大田区蒲田にある「さいとう読書室」で、7月から毎週日曜日のみ営業している。
 日々の仕事の傍ら、かねがね「カフェをやりたい」と考えていた姉妹は、これまでもクリスマスに開催される市場などで、自作の菓子やパンを販売していたが、「それでは自分たちのコンセプトを体現しきれない」と感じ、自分たちの製品を提供できる空間を探していたところ、実家の近くを散歩中に、偶然この読書室を見つけた。
 同施設はオーナーが地域の文化交流に役立てるため昨年11月に創設した入場無料の私設図書館。映画会などのイベントのためのキッチンやテーブル席を備えており、姉妹の理想そのものだった。直接、オーナーに交渉をしたところ、快諾を受けて営業に至った。
 間借りに関しての取り決めは、キッチン設備、付属の調理器具などは全て自由に使用していいということだけ。キッチンが空いていればいつでも作業可能であるため、現在、営業日前日に仕込みを行っている。
 また、同施設が取得している営業免許は飲食店業のもので、菓子製造業は想定していなかったが、管轄の保健所に相談したところ、主たる提供物がイートイン形態で消費されるのであれば、二次的にテイクアウト販売を行うことは可能だという回答を得た。
 「考えていた提供スタイルにぴったりでした」(恵里加さん)

間借りの利点を最大限に享受

 店名はふたりの名前に共通する漢字から付けた。「『恵』の上部は糸巻きの象形文字。縁があった人の心を包むような、人を癒す空間にしたいですね」と佳穂さんは説明する。
 メニューはテイクアウトの可能なスコーンと、月替わりの商品として季節のタルトなどを用意。今後はヴィエノワズリーやリーンなパンも提供する予定だ。
 間借り営業のメリットについては、「食器なども借りることができ、初期投資はかなり抑えられました。自分のスケジュールに合わせて開業できる点も魅力です。また施設利用者に認知が広がれば、今後の自店舗開業時の宣伝になると感じています」と佳穂さん。ただ、開業したばかりの先月の売上は採算がとれるぎりぎりのラインだった。
 「原価が高すぎたので、経費を抑えられるメニューも開発していきます」(恵里加さん)
 まだ、姉妹の挑戦は始まったばかり。軌道修正をしながらの試験営業を続け、将来の自店舗開業に向けて、力を蓄えていく。

SHOP DATA
店名:megumi
住所:〒144-0051 東京都大田区西蒲田6-6-1
さいとう読書室
営業時間:午前11時〜午後5時
定休日:日曜
品揃え:スイーツ3品目(月替わり)、ドリンク5アイテム
スタッフ:製造販売2人
インスタ:@_megumi.kashi



原価計算女王
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