【お店拝見特集】有名ホテルが「町のパン屋」。内麦を扱える人材を育成 - エトヌンク 代官山 - ブランスリー電子版

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特集/2024年6月号

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【お店拝見特集】有名ホテルが「町のパン屋」。内麦を扱える人材を育成 - エトヌンク 代官山
メニュー開発を任されたシェフの星敏幸氏。ホテル内ベーカリーの名シェフとして知られている
代官山駅前にある複合施設「フォレストゲート代官山」内にオープンした「エトヌンク代官山」
「エトヌンク 代官山」店内の様子
奥の厨房に向かって一列に続く売り場には、「クロワッサン」(税込380円)や、チャバタなどを使用した総菜系、スイーツ系のパン、リュスティック、セーグルなどのハード系のパンなどがバランスよく各々の籠に陳列されている。
「シグニチャーブレッド」として2種類のバゲットを展開。その一つ「バゲット」(税込380円)は佐賀県産「さちかおり」を使用している
「Et Nunc バゲット」(税込380円)は複数の種類の北海道産小麦粉を、絶妙なバランスでブレンドした粉を使用。クラムがほんのり黄色に仕上がる
国産小麦粉を扱うのが楽しくて仕方がない

 東京・渋谷区、東急東横線の代官山駅前にある複合施設「フォレストゲート代官山」内に4月23日、国産小麦を使用したパンを提供する新しいコンセプトの店「エトヌンク 代官山」がオープンした。
 同店を運営するのは東京・丸の内に拠点を構えるパレスホテル。開発を担当したのは同ホテル運営のホテル内ベーカリー部門に約30年間在籍し、熟練の技を磨き上げたシェフの星敏幸氏だ。
 「国産小麦、魅力的です。粉袋を開ける前のワクワク感は本当にたまりません。開けるといつも、粉を触って、その感触で粉の状態を確かめます」と星シェフは熱く語る。
 粉を握ってみると、フワフワしているものや、ぺしゃんとして潰せるものなどがあり、その感触の違いで、どれくらい水分を含んでいるかがわかり、そうした違いを感じるのが楽しくて仕方がないという。
 同店では「シグニチャーブレッド」と称する看板商品として2種類のバゲットを展開。その一つ「バゲット」(税込380円)は佐賀県産「さちかおり」を使用している。
 「国産小麦でも単一品種のものは、粉の状態のブレが大きくて、扱うのは大変だけど、その大変さがまた面白い。粉の状態を見ながら今日はどれくらい水を入れようとか考えるのは楽しいですね」(星シェフ)
 「さちかおり」は日本国内の様々な小麦を試して試作を繰り返し、最終的に選び抜いたものの一つ。フランスパン用として育種されたもので、濃い風味と芳醇な香りを出すことができる。「バゲット」のミキシングはあえて短時間に抑え、生地に触れる回数を極力減らし、焼成の工程ではしっかりと焼き込んでいる。
 一方、もう一つの「Et Nunc バゲット」(税込380円)は、複数の北海道産小麦を絶妙なバランスでブレンドした小麦粉を使用。クラムはほんのり黄色に仕上がり、クラストはパリっとして、全体として歯切れの良い食感で、小麦本来の甘みや香りを味わうことができる。

美しい曲線が描かれた数々のパンが印象的

 同店は「フォレストゲート代官山」の「Main棟」の1階に位置。左右をインドアグリーンの販売店とハンバーグとパンケーキで有名なカフェレストランに挟まれた場所で、入り口前のテラス席の向かって左側には、インドアグリーンの店から贈られたという植木が飾られている。店の正面は前面ガラス張りだ。
 正面の向かって右側に設置された入口から一歩店に入ると、白を基調とした空間に広がった香ばしい小麦の香りの中で、左側にあるL字型の対面カウンター式の売り場が目に入る。そこには約40種類ほどのパンが並んでおり、入り口に近い手前の売り場には、「シグニチャーブレッド」として同店が推すバゲットや、ハード系の「パン オ ルヴァン」(プレーン、胡麻、クルミ、レーズンなど複数種展開、各税込840円〜1036円)、食パンの「パン ド ミ」(税込520円)など、国産小麦の風味が堪能できる食事パンが並ぶ。一方、奥の厨房に向かって一列に続く売り場には、「クロワッサン」(税込380円)や、リュスティック、セーグルなどのハード系の製品、チャバタやフォカッチャなどを使用した惣菜系、スイーツ系のパンがバランスよく各々の籠に陳列されている。
 印象的なのは、そのパンのすべてが美しい曲線を描いた形で作り上げられている事だ。ホテルならではの上質な雰囲気を踏襲したと思われる美しい成形に目が釘付けになる。
 同店では複数の種類の国産小麦粉をブレンドして使用するか、単一品種の国産小麦粉を単独で使用するかしている。
 食パンの「パン ド ミ」は茨城県産小麦「ゆめかおり」を使用。「パン オ ルヴァン」は北海道産の「はるゆたか」を使用している。 「クロワッサン」は北海道産小麦数種をブレンドして使用した渾身の作という。
 星シェフは「クラストとクラムの食感のバランスを意識しながら、やや少なめの層で折り込み、焼成温度と焼成時間は焼き色と香りがバランスよく出るギリギリのところで設定しました。バターの香りを出しながらも、小麦の香りもそれ以上に出して引き立つようじっくりと焼き上げました」と話し、思い入れの強さをにじませる。
 さらに「チャバタあんばた」(税込380円)も「シグニチャーブレッド」として同店が推す商品だ。北海道産で希少品種の「キタノカオリ」を使い、水分を多く含んだ生地を焼き上げたチャバタに、北海道産バターと北海道産エリモ小豆を使った餡を入れた商品。国産の天然海塩である「フルール ド セル」がアクセントになっていて、クオリティーの高い商品に仕上げたという。



星シェフ渾身の作である「クロワッサン」(税込380円)は、バターの香りを出しながらも、小麦の香りもそれ以上に引き立つように、焼成の時間と温度を微妙に調整し、じっくり焼き上げる
「チャバタあんばた」(税込380円)もシグニチャーブレッドとして同店が推す商品
「フォカッチャ」(税込324円)。大きく焼いたものをカットして販売
食パンの「パン ド ミ」(税込520円)は茨城県産小麦「ゆめかおり」を使用
北海道産「はるゆたか」を使用したハード系の「パン オ ルヴァン」のプレーンタイプ(税込840円)
「Et Nunc バゲット」で使用される小麦粉は「Et Nunc ブレンド」(税込1080円)と称して店内でも販売
ホテル名は出さず新たなブランドを育てる

 店内の億に向かって右側には16席のイートインスペースがあり、店の前のテラス席は4席ある。来店客の2〜3割がイートインを利用し、食事後に2〜3品をテイクアウトする人が多い。散歩中の主婦や学生などが多いが、客単価は1200〜1300円位だ。高級ホテルであるパレスホテル東京のショップとは棲み分けした「街のパン屋」として、日常に浸透する毎日食べるパンを提供するベーカリーを目指している。
 「あえてホテル名は出さず、新たなブランドを目指しました。ベースは地域密着で、ラインナップも朝のオープンから閉店する夕方6時30分までちょっとずつ変えていきながら、こまめに複数回焼き上げるようにしています」(星シェフ)
 店の名前である「エトヌンク(Et Nunc)」はラテン語で、英語では「and now」の意味になる。「今この瞬間」に食べたいと思うものを提供できる店を目指し、朝はクロワッサンや軽めの惣菜パンを提供。一方、昼はイートインでゆっくり食べられるランチメニューやティータイムに合うスイーツパン、夕方はワインに合うオリーヴパンや夕食とも合わせやすいバゲット、もしくは明日の朝に食べるパン ド ミなどの食事パンを多く提供している。
 昼のランチメニューとしては現在、「パン オ ルヴァン」に春野菜をたっぷりのせた「春野菜のタルティーヌ」(税込1100円)が好評。店内喫食限定メニューで春野菜の新鮮な味わいを国産小麦のパン生地の旨味とともに堪能できる製品となっている。

酵母は15年、店の構想は3年

 同店のパンはすべて星シェフがこれまで約15年かけて個人的に育て上げた自家培養酵母を使用。ルヴァン種やポップ種など4種類のパン種を大切に育ててきたという。
 「15年間、少しずつ栄養をあげながら育てました。だからもう自分の子供だと思っています」(星シェフ)
 愛情深く今まで育て上げてきた種だが、パレスホテル東京のベーカリーではこの種を使うことはなかった。
 「いつかの時のためにと大事に育ててきました」(星シェフ)
 種とともに星さんが貯め続けてきた情熱は、3年ほど前、パレスホテルが新たな事業の構想を起こす事になった時から徐々に具体化していく事になる。当時はコロナ禍でホテル事業は縮小を余儀なくされ、会社としては新たに外販事業に力を入れる計画が立ち上がっていたところだった。
 「キーとなったのが国産小麦です。日本の食材を積極的に使う事で微力ながら日本を活気づけていきたい、始まりはそんな感じでした」(星シェフ)
 同事業を発案したのはパレスホテル事業開発部支配人の菅谷和弘氏だ。菅谷氏が星シェフへ新事業のメニュー開発をして欲しいと懇願、星シェフは快諾した。
 その後、星シェフは菅谷氏とともに何日もかけて都内各地のベーカリーを回るなどして、議論を繰り返しながら構想を練っていった。今から2年ほど前の事だ。実際のメニュー開発では、様々な地域の国産小麦を試しながら試作を繰り返した。
 「特にバゲットに関しては日本らしいバゲットを目指し、小麦の香りがする『お煎餅』のようなものを目指したのですが、当初はなかなかボリュームが出なかったりして苦労しました。最終的に佐賀県産『さちかおり』を使用する事で、無骨(ぶこつ)ながらボリュームがあるイメージ通りのものを作り上げることができました」(星シェフ)
 そして「エトヌンク 代官山」は足掛け3年近い構想を経てようやくこの春にオープンした。オープンにあたって何人かの製造要員を社員として採用。その際には、今技術があるかどうかではなく、この世界の本当の面白さをこれから知っていこうという意欲があって、これから伸びていきそうな人を採用したという。
 「スタッフもこれからだけど、店もまだこれからです。スタッフには大変な事があっても、それを醍醐味として楽しんでもらえるよう、国産小麦を扱ったり酵母を育てたりする楽しさを伝えていきたいですね。パンを通じて地域のお客様と交流することで、皆にこの店を育ててもらいたいと思っています」(星シェフ)

SHOP DATA
店名:エトヌンク 代官山
住所:〒150-0034 東京都渋谷区代官山町20番23号フォレストゲート代官山MAIN棟1階
電話:03−5422−3604
営業時間:午前9時30〜午後6時30分
定休日:なし(年数回、休業日あり)
品揃え:約40品目
スタッフ:製造常時4人、販売常時3〜4人
店舗面積:売場23.4坪(イートイン16席含む)、テラス席4席、厨房10.5坪



この記事の読みどころ

●国産小麦粉の袋を開ける前のワクワク感は本当にたまらない。
●すべてのパンが美しい曲線を描いた形で作り上げられている。
●時間帯ごとに客が食べたいと思われるパンをこまめに焼いて提供。
●日本の食材を積極的に使う事で微力ながら日本を活気づけていきたいと考えたのが事の始まり。





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