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| 連載/2023年7月号 |
2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| 「粗熱を取ったパンは、出がらしのお茶のようなもの」は果たして本当か? - 普通のパン屋さんが普通に頑張れば繁盛出来る話(73) | |
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コロナ禍が引き金になって、パンのネット通販に参入するベーカリーが増えています。自らがウェブショップを立ち上げ、完全に自前で通販のオペレーションをするベーカリーもありますが、最近増えているパン専門の通販モールに出店する形をとるベーカリーも多いようです。
いずれにしても、今パンのネット通販でキーワードとなっているのは「パンの冷凍」です。本誌でもこれまで、パンのネット通販を手掛けるベーカリーや、パンのネット通販のための機械や原材料、包装資材を手掛ける会社に取材をしてきましたが、「パンの冷凍」がポイントになる話が多かったように思います。 その中で印象に残っているのは、パンを、窯から出てすぐの触ったら火傷をしそうな熱い状態で、即刻冷凍してしまうという話です。パンは窯から出たら一定の時間常温において、手で触れるぐらいまで冷ましてから、包装したり、カットしたりしなければならないというのがこれまでのパン屋さんの間での常識でした。これは「粗熱をとる」という言葉で言い表されています。 粗熱が取れた状態のパンが最もおいしい状態だとされていました。窯から出てすぐのパンは、まだ首が座っていない赤ちゃんのように、姿勢が定まらずふにゃふにゃとしているし、何よりおいしさを味わうには熱過ぎました。つまり、人間の感覚器官が焼きたての状態のパンを味わうことができなかったのです。 ところが、窯から出たばかりの粗熱が取れていないパンを瞬間的に凍結して味と香りを封じ込め、あとで解凍して食べてみたら、粗熱がとれてすぐの状態のパンよりおいしかったというのです。 これはすなわち、粗熱を取っている間に、パンの味と香りが失われていたことを意味します。粗熱を取ったパンは、出がらしのお茶のようなものだという話も聞きました。さすがにそこまで言うと少し大げさな気もしますが、私はそこに一筋の真実が潜んでいると直感的に思いました。なぜなら、論理的な筋道がしっかりと通っているからです。 パンが焼き上がってから粗熱が取れるまでの時間は、パンの大きさなどによっても異なると思いますが、仮に30分としてみましょう。この30分の間に何が失われていたのでしょうか。 まず、パンの香りについてですが、そもそも物が発する匂いというものは、その表面から発散される様々な揮発性の化合物であることを考えれば、粗熱が取れる30分の間が最もそれらの化合物が飛散する時間だと推察できるでしょう。つまり、窯から出たパンをすぐに凍結することで、この魔の30分の間に飛んでいってしまう香りの成分を封じ込めてしまうということになります。かなり納得できる話です。 次にパンの味についてですが、パンの中に生成される旨味成分は粗熱がとれる30分の間に水分が蒸発することによって失われるとは考えづらいでしょう。魚の干物などは乾燥させることで旨味が凝縮することはよく知られています。しかし、これらのうま味成分や食感などが相まって醸し出すパンの風味は時間と共に劣化していくことも事実です。粗熱が取れる30分後に急速凍結しても、それ以降の風味の劣化は避けられますが、これまで踏み込んではいけない粗熱が取れる間の30分の間に失われる風味もしっかりと封じ込めてあとで解凍して食べることで、これまでは熱すぎて味わうことができなかった、窯から出てすぐの状態のパンの風味を、じっくりと味わえるようになったと解釈すれば、ロジックがすっきりと通り、晴れ晴れとした気持ちになります。 最近は、焼成冷凍したパンだけを販売するパン専門店も見かけるようになりました。その売り場はまるで冷凍食品売り場のようです。 人類のこれまでの歴史を振り返ると、進歩のスピードは加速度的に早くなっています。今我々はどこまで来たのかを注意深く観察して、上書きされ続ける常識の変容に遅れをとらないようにしたいものです。(RO) |




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