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| 特集/2023年4月号 |
2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。
| 女性が経営するベーカリー
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堀内さんにとってパン作りはずっと趣味で続けていたものだった。初めてパンを作ったのは、もう30年くらい前の事だ。 「最初にパンを作った時は、レシピ通りに作ったのに、思い切り失敗しちゃったんですよね。生地が膨らまなかったんです」(堀内さん) それまで他の料理や菓子を手作りする際はレシピ通りにやって失敗したことはなかった。パンだけがレシピ通りには進まない。悔しさを感じると同時に、もういちど挑戦したいという気持ちが生まれた。 その後も独学でパンを作り続けたが、大きく変わったのはSNSを通じて世界中のパン職人とつながれるようになり、彼らと議論する中で日本のパンの世界とは一線を画す技術を吸収できるようになった時だ。温度管理や発酵の過程など、それぞれ独自のやり方で行っていることを知ったとき、それを自分が作りたいパンの技術に応用する事ができた。加えて堀内さんが元々備えている器用さがそれを昇華させた。 食べること以上に作る事が好きだという堀内さんにとって、パン作りは趣味でありながら趣味の範疇を超えるような突き詰めたものになっていった。 しかし持っていた家庭用のオーブンではたくさんのパンは焼けなかった。 「もっと多くのパンを焼きたいという思いは趣味だったパン作りが最終的に仕事になっていく原動力になりましたね」(堀内さん) 思い込みで道を狭める必要はない パンの販売を行うようになってからもしばらくは家庭用のミキサーやオーブンを使っていたが、実店舗をオープンすることになり、中古の業務用オーブンやミキサーを購入することとなった。 「オーブンは中古でも綺麗でほとんど使っていないものが手に入って嬉しかったですね」(堀内さん) 実はパンを販売するようになる前、一度だけ、半年間渋谷のジョエル・ロブションの店で下働きのアルバイトをしたことがある。ベーカリーで実際に働いて、プロの世界をみたいと思った。掃除や計量が中心の仕事だったが、小麦袋など重いものを大量に運ぶことを初めて経験することとなった。 「仕事の中で女性である事が不利だと意識した事はほとんどなかったのですが、その時は大変だと思いましたね。しかし、しばらくすると体が慣れて平気になりました」(堀内さん) さっぱりした性格で自分の思うことを突き詰められる堀内さんは、「自分に女性ならではの特性を活かした強みがあるとは思えない」とも話す。 パン屋を始めて色々な人からありがとうと言ってもらえることの嬉しさを知ったという。 「接客をしている自分が楽しそうと言われた事がありますが、デスクワークをしていた前職の時の事を思うと、想像できなかった新しい自分の姿だと感じています。だから男女の枠にとらわれず自分の個性を出していけたら良いと思うんです」(堀内さん) 女性として様々なライフプランの選択がある中で、独立を躊躇する人も多いが、そんな人に堀内さんは「自分の思いこみで道を狭める必要はない」と伝えたいそうだ。 「自分は最小限の資金で小規模の店舗にすることにより独立を可能にしたのですが、方法は色々あると思うんです。向き合わなくてはいけない事が沢山ありますが、できるかできないかではなく、やるかやらないかだと思うので、思いが強いのであれば頑張って欲しいですね」(堀内さん) fumigrafico(フミグラフィコ) 住所:〒151‐0062 東京都渋谷区元代々木町9−6 電話番号:080‐5029‐7278 営業時間:午後3時〜午後8時 定休日:日曜、月曜、木曜 品揃え:約8〜12品目 店舗面積:約5.9坪 スタッフ:製造兼販売常時1人 日商:7〜12万円 | |||||||||||||||||||


| 生まれ育った街で母の味を再現店も自分も子供と一緒に成長 - ぱん工房うらら | |||||||||||||||||||
「自分で作ったものを自分で売るのは、すごく大変だけれど、お客様の反応を直接見られるのがすごく嬉しいですね。だから今まで長く続けて来られたのかなと思います」 神奈川県横浜市港北区のベーカリー「ぱん工房うらら」のオーナー、荒木麗(うらら)さんは笑顔でこう話す。同店は東急東横線の日吉駅からバスで7分ほど行ったところにある下田町という閑静な住宅街の中にある。 八百屋や理容室、コインランドリーなど昔ながらの商店や建物が集まる商店街の通りを進んで少し小道に入ると、肉屋の隣に、茶色を基調とした外装が印象的な店舗が目に入ってくる。中に入ると、約80種類のパンや焼き菓子などが、正面のショーケースと左右両側に置かれた平台にバランスよく並べられていた。外装と同じく中も茶色を基調とした落ち着いた空間で、通りに面した入り口側から明るい日差しが入ってくる。 実は同店の場合、店頭販売の営業は火曜から金曜までで、営業時間は、状況によって延長はあるが、基本的に、午前11時から午後3時までだ。ただし併行して行うケータリングサービスは24時間受付し、店の売り上げの大半はそちらが占めるという。 「店に直接来るお客様はやはり地元の方が多いですね。店を持つと地元の方々と仲良くできるのがとても嬉しいです」(荒木さん) ケータリングの方はパーティー用などのサンドイッチボックスやオードブルなどを配達しているが、店舗販売でも惣菜パンやサンドイッチ類は充実。売り場では大きめの具を入れた「大山ウィンナークロワッサン」(税込280円)などが目をひいた。金曜日のみ販売する「バゲットトラディション」(税込390円)の人気も高いという。バゲットは「バゲットサンドイッチ」(税込350円)をはじめ、ミルククリーム、明太子などを入れたアレンジ商品も好評。他に子供に人気の「チョコレートメロンパン」(税込240円)、クロワッサンにゴマを練り込んだ「黒ゴマクロワッサン」(税込250円)などもリピーターが多い商品だ。食パン類は、定番の「食パン」(税込390円)のほか、子供向けに小さめのサンドイッチが作りやすいミニサイズの「ミニ食パンプレーン」(1本税込440円、ハーフ同220円)なども展開。3人の子供を育てる荒木さんの気さくな人柄もあってか親子連れの客も多く来ていた。 「最近はお父さんと子供の親子連れも目立ちます。当店はもともと男性のお客様が多いのもありますが、昔と違って男性が積極的に子育てに関わるようになってきたことを実感しますね」(荒木さん) 創業から14年で3人の子も育った 同店は2008年の7月に今の場所からそう遠くない同じ町内の別の場所に初めの店舗をオープン。2013年の11月に現在の場所でリニューアルオープンした。 創業から数えると14年以上の月日が経ったが、その間に4歳だった長女は18歳になり、まだ生まれていなかった次女は12歳、三女は7歳になった。荒木さんは三人の子の母だ。 店の仕事と併行しながらの子育ては当然大変だが、幸いそれぞれ5、6歳差で生まれてきてくれたので、一人ずつ育て上げながらなんとか店を続けてこられたという。 「途中でケータリングでのパンとサンドイッチボックスの宅配事業の方に力を入れるようになったのですが、実は、三女が生まれてしばらくは店舗販売をお休みしてケータリングのみを行っていた時期もありました」(荒木さん) 上の子達と違って三女は3歳で幼稚園に入るまでは待機児童で預け先がなかった。そのため、店の営業時間内に接客しながら乳児の世話をするわけにはいかず、店舗は閉めざるをえなかった。しかしケータリングは作る量は大量でも接客の必要はないので、なんとか子育てをしながら続けられたという。 その後3歳から入る事ができた幼稚園で出会った人達は親身になって助けてくれて、今でも荒木さんの心の支えになっているそうだ。 「人との出会いは財産ですね。店のお客様や、子育てをする上で出会った方々に、多くの温かい言葉をかけて頂きました。本当に感謝しています」 | |||||||||||||||||||
荒木さんは横浜市港北区下田町で生まれ育った。予備校の講師をしている父と専業主婦の母の間に生まれ、兄と姉、妹の四人兄弟の次女として賑やかな幼少期を過ごす。 「母は、とにかく手作りで安全安心でおいしいものを家族に食べさせることを第一に考えている人でした。そのおかげで私の舌は幼少期から育てられましたね」(荒木さん) 母を慕い、子供の頃から荒木さんは四人兄弟の中で唯一積極的に母の手伝いをし、他の兄弟の分も含めて沢山料理を作っていた。 「母のような専業主婦になるのがずっと夢だったし、この街が大好きだから自分の子もこの街で育てたいと思っていました」(荒木さん) ただその一方で父は手に職をつけた方がいいという考えの人だった。現在、荒木さんの姉は大学の先生、兄は美容師、妹はネイリストと全員、手に何らかの職をつけている。 荒木さん自身は専業主婦になりたかったが、一方で、自分の好きな事だからと学生の頃から料亭、洋菓子店、ベーカリーでアルバイトを続けてきた。中でもベーカリーは販売の仕事のみならず製造も含めて全体の仕事に携われるようになりたいと、あえて小規模の個人店を選んで働かせてもらっていたという。 しかし23歳でリフォーム関係の会社を経営していた現在の夫と結婚し、念願かなって生まれ育ったこの街に暮らす専業主婦となった。 しかし長女が4歳の頃、荒木さんが家で作るパンの素晴らしさを見込んだ夫が、起業してベーカリーを開店することを提案。少し戸惑ったが、夫の強い後押しで、荒木さんを代表にして店を創業することとなった。ただ実際の業務は、荒木さんはパン作りのみに専念し、もともと経営のノウハウを備えていた夫が経営の事務全般を取り仕切る形で行うこととなった。オーブンなどの機械設備も夫が勉強して選んだものを購入。経営方針の大枠は夫が決めてくれた。 地域で子供たちの成長を見守る 夢だった専業主婦から店の代表として毎日80種類以上のパンを作り続ける日々へシフトすることになった荒木さんだが、大変とは言え色々な人が自分の作ったパンを食べて喜んでくれるのが嬉しいと思うようになっていった。 「誰かが喜んでくれて幸せになると連鎖反応で皆幸せになるんですよね」(荒木さん) 子育てをしながらパン屋を営むことが、思わぬ効果をもたらすこともあった。 「パン屋をやっていると、街の皆さんがうちの子の事を知っているので、外での子供の様子を教えてくれるんです。この街の人は優しいですし子供達が通っている学校もいい子ばかりです。仕事は大変でも接客で嫌な思いをしたことはほとんどありません。この街で子育てができて本当に良かったと思います。ただ、子供たちがこの街で胸を張っていられるように、おいしいパンを作るために気を抜くことはできません」(荒木さん) 最近は子供たちも大きくなってきたので長女や次女に販売の仕事を手伝わせることもあるという。ただ天真爛漫な次女はレジで失敗して泣く事もあったそうだ。 「子供の失敗を優しく受け入れる寛容さがこの街の人たちにはあると思います。子供達は、親だけでなく社会にも育てられているんだなと実感する毎日です」(荒木さん) 荒木さんは、子育てに悩んだ時期があった。三女は3月生まれのため幼稚園では他の子よりできない事が多く、しかも人見知りが激しかった。心配した荒木さんは三女を幼稚園が所属するサッカーチームに入れた。すると、泣いてばかりだった三女もコーチたちに励まされ、なんとか成長していったという。チームに頼んで母親も参加可能にしてもらったので月に1回は親子でサッカーを通じコミュニケーションをとる時間を持つ事ができるようになった。 「店の事で忙しいと、子供とじっくり向き合えない事もありますから、月に1回でもサッカーするのが貴重な時間でした。そうした時間を取るのは大変ですが、大変な点も含めて楽しんでいます」(荒木さん) ぱん工房うらら 住所:〒223‐0064 神奈川県横浜市港北区下田町4−6−12 電話番号:045‐563‐1378 営業時間:午前11時〜午後3時(変動あり)、(配達の予約受け付けは24時間対応) 定休日:土曜、日曜、月曜、祝日(配達の予約は正月、ゴールデンウィーク、お盆が休み) 品揃え:80品目以上(店舗販売) 店舗面積:約15坪 スタッフ:製造常時1人、販売常時1人(配達業務は常時2人) | ||||||||||||||||
| 女性の活躍の場は広がっている | |
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M’s企画の三浦千佳子代表の話
現在の日本のベーカリー業界では、まだ女性が経営者として自分の店を持つことに対しては敷居が高い。ただ世の中の需要が多様化し、女性の活躍の幅も広がる中で、今後はどのような変化が起きていくだろうか。大手製粉会社のマーケティング部門の業務に長く従事し、現在も主にベーカリー業界を中心にマーケティングコンサルタントとして活躍するM’s企画の三浦千佳子代表に話を聞いた。 自宅の一角で小規模店を開く選択肢も 女性は男性と比べて、結婚や出産といったライフプランの選択により、人生を左右されやすく、仕事も続けにくくなるので、長期プランを見据えた上で経営者となることは難しいという現実があります。 その一方で、女性でパン職人を希望する人、パンに関わる何らかの仕事をしたいという人は増えているように思います。 幸い、パン業界の労働環境は昔と比べて大きく改善しており、週休2日も当然のように導入されてきているので、家事や育児などのプライベートとの両立もしやすくなってきてはいます。実際ある大手ベーカリーチェーンでは女性店長の数が多いなど、社会全体で積極的に女性の力を活用しようという動きは決して停滞していないと思います。 実際女性は真面目で辛抱強く、男性に比べて人間関係の衝突も少ないので、結婚や出産などライフステージの変化が起きた場合を除けば、短期間で辞める人の率は少ないというデータもあります。ある著名なベーカリーは従業員のほとんどを女性スタッフにする事で女性ならではの柔らかい感性を店舗作りに取り入れ成功を収めました。 ベーカリー側も徐々にですが、女性が復帰しやすい環境を作れるよう努力をし始めてきているようです。 ただ女性がオーナーとして店を経営するとなると、「お金と人」の問題が絡むので話は少し変わってきます。ベーカリーは独立のための初期費用が最も高くなる業種の一つとも言われており、しっかりとした修業も必要です。ある程度の規模の店をオープンしてしまうと、お金の勘定のほか、人を雇って育てる事の難しさに直面してしまいます。これを家庭があって育児中の女性が行うとなるとかなり大変です。だからもし独立を考えるのなら、自宅の一角を用いて小規模で自分一人で、もしくは家族以外の人は雇わない店を開く方が良いかも知れません。自宅を改装して使えば家賃がかからなくて気が楽だし、住んでいるところと同じであれば店の仕事の合間に家事や育児ができると言った良さがあります。さらにコンパクトなコンベクションオーブンを用いて厨房のスペースを節約したり、アイテム数を絞って、場合によってはベーグルのみ、食パンのみといった形での専門店にするなどして、自分のペースに合わせてミニマムサイズで営業するように工夫できると思います。 自分が何をしたいのかという事実を振り返ることももちろん大切です。店を持つという事は経営者になるという事ですが、経営者とパン職人は違います。お金の勘定と人とのやりとりが業務の中心となる経営の仕事ではなく、ただ純粋にパン作りに没頭したいのであれば、良いスポンサーを見つけて経営の部分は他の人に任せるのも一つの手です。 女性のベーカーは勤勉で真面目なのでオーナーになることを希望する人からの需要は高まってきています。男性と比べて協調性が高いので、チームで色々な人と関わり合いながらの仕事に向いているということもあります。カフェや雑貨店など異業種の店とコラボしたベーカリーが最近は一つのトレンドになってきていますが、コラボするという事でしたら女性は大変適任かもしれません。 いずれにしても無理に男性と同じ事をする必要はありません。例えば男性と同じようにフルタイムの労働ではなく、育児期間中であれば休みながら週2、3日だけ働くなどしても良いと思います。 女性は子育てを通じての日常で色々な人と関わり合っていく中で、主婦や子育て中のお母さんの日常の需要を知る事ができます。自宅に店を開いた場合は、子供に店での様子を見せる事で親子のつながりを深めたり、一緒にできる事を増やしたりしてもいいかも知れません。 私がいつも思うのはパンの力はすごいという事なのですが、生活に根ざした身近な日常にあるパンは色々な人を幸せにする事ができます。家事や育児が大変な中、仕事をするのはマイナスなことばかりではありません。そこから生まれる女性たちのアイデアを、社会が必要とし、重宝するようになってきた今、女性の活躍の場は広がっています。これからのパン業界を支えるのは女性だと思うので、どんどん表に出てきて良いのではないかと思いますね。 |
2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。






























