おいしいパンがあれば客はまた来てくれる - フェルマータ - ブランスリー電子版

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お店拝見/2022年12月号

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おいしいパンがあれば客はまた来てくれる - フェルマータ
店主の鈴木純一郎さん
販売と製造補助を担当する山村あゆみさん
2組入ればいっぱいになる売り場。陳列台のすぐ奥にオーブンがある
同店一押しの「クロワッサン」(税込150円)と「チョコクロワッサン」(税込200円)
「クロワッサン」の断面
活気に満ちた二人三脚のベーカリー

 東京・JR立川駅から北東へ、バスで10分ほど行くと見えてくる赤いひさしが目印のベーカリー「フェルマータ」。イタリア語で停留所を意味する店名の通り、同店が建っているのはバスの停留所を降りた目の前だ。
 売り場は3坪のスペースで、二組入ればいっぱいになる。取材で訪れた平日午前10時、入れ替わり立ち代わり客が訪れていた。陳列台を見るとすでに売り切れてしまった商品がちらほら。陳列台のすぐ奥、間近に見える場所に設置されたオーブンから「クロワッサン・オ・ダマンド」(税込280円)が出てくる。それらが追加されると、すぐさま一つ二つとなくなっていった。売り場に並ぶパンの種類は、平日が40〜50ほど、土曜日はデニッシュなどが加わり60ほどになる。
 店主の鈴木純一郎さんは全国チェーンベーカリー「ポンパドウル」の製造部門で25年間勤め、2008年に同店を開業。鈴木さんは、当時部下だった山村あゆみさんの素質を見出し、同店を開業するに当たって山村さんを従業員として迎え入れた。
 「もうすっかり相棒のような存在ですね」(鈴木さん)。開業時は鈴木さんの妻晶子さんが販売に入り3人体制だったが、現在は鈴木さんが製造を、山村さんが製造補助と販売を務める二人体制となっている。
 店内は、はきはきとした山村さんの声がBGMのように響く。それは主に焼きたて商品の案内だったり、レジでの購入客との会話だったりで、店内に活気を生んでいる。
 レジ作業中、袋詰めをしながら客ににこやかに話しかけるのは、例えばこのようなことだ。
 「カンパーニュ」(税込350円)を購入する客には「21時間発酵させて作っているんですよ。フランス産小麦を使っていてとても香りが良いので、香りを楽しんで召しあがってください」。
 焼き菓子「ムラング」(税込100円)を購入する客には「こう見えてオーブンで8時間かけて焼いているんですよ」。

店の飾り気はないけどパンはおいしい

 店舗は元々英会話教室だったところを改装したのだが、主な工事は、厨房と売り場の間に壁を作ったこと、床の張り替え、赤いひさしの取り付けなど実用性の高い箇所だけに留めた。施工した工務店から「店っぽさがない」と言われたほどだったという。
 「高品質のパンを作って、おいしかったらまた来てくれるはずだと考えていました。ですので開業資金は製造に直結する機械に、少しでも多く回したいと思ったんですね。どんなに店を飾ったとしても、おいしいパンがなければお客様は来てくれませんから」(鈴木さん)
 開業にかけた費用は、借金をせず自己資金のみで賄った。店の規模はできるだけ小さく、収益は自分たちが生活できるだけの分があればいいと決めていた。
 「借金をした方が頑張れるってよく聞きますが、自分には当てはまらなくて。自分にとってやる気というのは、家族への想いとか、そういうところから湧いてくるんですよね」(鈴木さん)
 陳列台として使っている台は、かつて自宅で子どもと一緒にパン作りをする目的で大きなサイズを選んで購入したというテーブル。脚の長さを鈴木さんが鋸で切るなどして短くして、陳列台に設えた。
 「子どもがそこで宿題をしていたことや、皆で食事をしていたことなどが、思い出として詰まっていますからね。目に入るだけで仕事の励みになるんですよ」(鈴木さん)
 同店は開業して約14年が経つが、商品の値上げは数年前の一度きり。最近は特に物価上昇が激しいため、現在再度の値上げを検討中だ。同店のことを思ってか、顧客から値上げを勧められるようにもなってきたという。
 これまで値上げを踏みとどまってきた背景には、「おいしいパンがあればお客様が来てくれる」という開業当初からの考えが変わらずあるからだろう。パンの品質に直接関わらない部分で、経費削減に努めている。
 「東日本大震災がきっかけだったのですが、節電に取り組みました。店内の照度を今までより抑えて、有線放送のBGMをなくしたところ、月々にかかる経費が思った以上に削減できたんです。節電後の店の変化は、慣れれば気にならないのか、お客様からも特に反応はなかったですね。『飾り気のない質素な店だけど、パンはおいしくて安いよ』って、喜んでもらえたらいいのかなと思っています」(鈴木さん)



焼き上がったばかりの「クロワッサン・オ・ダマンド」(税込280円)
毎日飽きずに食べたくなる味を追求した「食パン」(税込230円)。バターや生クリームを使っていないので、小麦の風味が引き立っている
店舗入口側の棚に「食パン」(税込230円)と「レーズンブレッド」(税込420円)が並ぶ
曜日で異なる客層に品揃えを合わせる

 鈴木さんが開業当初、最も売っていきたいと考えていた商品は「クロワッサン」(税込150円)。しかし平日の主な客層である高齢者のニーズにはそぐわなかった。
 「例えばあんぱんを楽しみに来られるお客様に、クロワッサンが自信作だからと言ってお勧めしたら、それが負担になってしまうかも知れないですからね。売れる商品を用意していこうと、考えを切り替えました」(鈴木さん)
 しかし家族連れの多い土曜日は売れ筋が変わる。「クロワッサン」とともに、季節のフルーツなどをトッピングしたデニッシュは、閉店前に完売する人気だ。さらに今年の夏にテレビの全国放送で同店の「クロワッサン」やデニッシュが取り上げられ、その反響がしばらく続いているという。
 「当店は平日と土曜日でかなり客層が異なるんですよね。それで品揃えをそれぞれ考え直して、デニッシュは土曜日だけにしたんです。開業して4年ほど経った頃からですね」(鈴木さん)
 また、当初は少数多品種で揃えることに努めていたが、ここ数年、作業の負担や効率を考え、人気の高いものだけに種類を絞るようにしてきたという。
 「選ぶ楽しみはないかもしれませんが、欲しいものがある店ではありたいと思っています。そのために、毎日追加焼きをどこで区切るかを重視しています。ロスは出したくないけど、来てくれたお客様をがっかりさせたくありません。追加で焼き上げた5〜6個のパンは、売り上げのためというよりも、『あってよかった』って満足してくれるお客様を少しでも増やすためのものです」(鈴木さん)

SHOP DATA
店名:フェルマータ
住所:〒185‐0035 東京都国分寺市西町5−36−7
電話:042‐534‐3334
営業時間:午前8時(土曜は午前7時)オープンで、売り切れ次第閉店
定休日:日曜日
品揃え:約40〜60品目
スタッフ:製造常時1人、販売常時1人
店舗面積:厨房約5・5坪、売り場約3坪



この記事の読みどころ

●開業前に働いていたベーカリーで直属の部下だった女性をスタッフに迎えて開業。
●店舗の内装費は最小限に抑え、機械の購入費を最大限に確保。
●あんパンがほしい客にクロワッサンを勧めたら、負担を与えてしまう。
●家族への想いがパン作りのモチベーションの源泉に。





原価計算女王
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