クロワッサン専門店特集 - ブランスリー電子版

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特集/2022年11月号

2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。


クロワッサン専門店特集




12層のクロワッサンが生んだ食感と風味の絶妙な融合 - プレミアムクロワッサン専門店「三」
看板商品の「プレミアムクロワッサン」(税込330円)
「プレミアムクロワッサン」の断面。12層で独特の食感だ
大阪市南扇町のプレミアムクロワッサン専門店「三」本店の店内の様子
大阪市南扇町のプレミアムクロワッサン専門店「三」本店外観
成形後の「プレミアムクロワッサン」の生地
焼成前の「プレミアムクロワッサン」の生地
職人技で12層のクロワッサン作りをコントロール

 大阪市南扇町の本店に加え、北新地と枚方の2支店を展開し、さらにオンラインショップも展開する「プレミアムクロワッサン専門店『三』」は、独自の製法により、12層(3つ折りを4つ折りにしたもの)で付加価値の高いクロワッサンを開発。看板商品の「プレミアムクロワッサン」は税込330円という比較的高めの価格設定でありながら、大阪を中心に多くの人々の心を掴み反響を呼んだ。
 「日本のクロワッサン市場はまだそれほど大きなものではありませんが、それでも棲み分けしていく形で、当店としては固定ファンを増やし商圏を広げていきたいですね」と現在同店の経営母体であるイデアプラスで「三」の事業を担当するマネージャーの大野晃久さんは話す。
 日本のリテールベーカリーでのクロワッサンは、3つ折りを3回行う27層のものが多いと言われる中、同店ではあえて12層のレシピを採用。またフランス産高級発酵バターを、「生地が最も美味しくなる配合率」(大野さん)で使用した。さらに氷温域を保った専用冷蔵室でバターを溶かさないようにして手際良く折り込み作業を行った後、タイミングを見ながら瞬間的に高温で焼成。それにより、はっきりとした大きめのザクザクした層の中にバターのふんわりとした風味が残り、層が大きくても重くならない食べやすいクロワッサンが実現した。
 「レシピや材料の品質にはこだわっていますが、それだけで高品質の製品はできません。タイミングを見極めて成形と焼成を手際良く行うからこそ、ザクッとした食感とバターのふわっとした香りが絶妙に融合したクロワッサンができるわけです。ここまでのものを作れる人材を育てることが一番大変でした」(大野さん)
 タイミングよく高温で焼成する事で水分が蒸発し、蒸発した後に空洞が残る事で層と層の間に絶妙な香りを含んだ空気を含ませる事ができるのだという。この職人技の工程があるからこその「プレミアムクロワッサン」なのだ。

クロワッサン好きがスタッフ採用の条件に

 高級志向の店と言っても、ただ単に高価な原材料を使うだけではない。同店での採用の門戸を叩く者は、パン好きというよりクロワッサン好きの人が多く、クロワッサンの製造を徹底的に極めたいという熱い思いを抱えた精鋭が集うからこその「プレミアムクロワッサン専門店」であるという。
 同店は2018年9月にオープン。当時は「日本初の高級クロワッサン専門店」としてメデイアにも取り上げられ話題を呼んだ。しかし2年3カ月後の2020年12月には、複数の飲食店チェーンを経営する会社、イデアプラス(大阪府)が事業を買収した。創業者を含めた当時のスタッフはほとんどが入れ替わった形となったが、創業者が生み出した「プレミアムクロワッサン」の貴重なレシピと製法は継承。ブランドイメージも引き継ぎ、大阪を中心に支店も増やし、現在では実店舗3店に加えてオンラインショップも展開している。
 事業を引き継いだ後も、同店はクロワッサン好きの精鋭が集まった集団であることには変りはないが、現在ではブランド戦略にも長けた店舗運営を行うことで事業の成長につなげている。
 現在店頭で販売するクロワッサンの品揃えは4アイテム。定番の「プレーン」(税込330円)、「ショコラ」(税込360円)のほか、季節によって変わる商品を常に2品目用意している。
 「贈答用として1箱に4種類が1品ずつ入っていると喜ばれるんです」(大野さん)
 2022年9月24日の取材時は「アールグレイ」(税込360円)と「バニラ」(税込360円)を季節商品として展開していた。
 「実は季節商品のレシピを一つ生み出すのに3カ月くらいかかります。新たな材料を加える事で配合のバランスが変わり、これまで通りの手順と時間で発酵させても想定どおり膨らまないことが多く、開発の過程は非常に厳しいのです。また、ある日はうまくできても、別の日に試すと気温や湿度の関係で同じようにできないなどの失敗も経験しながら、やっと作り上げたものを最終的な商品にしています」(大野さん)
 「プレーン」や「ショコラ」も含めて、開発が済んで発売した商品についても、日々の温度や湿度によって微妙に配合を変えていく必要があるという。
 365日の間、同じものを毎日作るためには、毎日同じように作業していてはだめで、作り手が日々違う条件に合わせて、その都度作業の内容を微調整していく必要があるのだという。「クロワッサン専門店」という看板に集まる消費者は味の変化に敏感だ。
 こうした消費者の期待に応えられるクロワッサンを作り上げられる人材は限られてくる。
 「同じ思いを持つもの同士が集まって、なんとか四苦八苦しながらここまで継続してきたという感じですね。でもそれだけ本当にクロワッサンの品質と味には自信があるので、今後も広く当店のことを伝えていきたいと考えています」(大野さん)



店では4個購入ごとに専用ボックスと専用紙袋を用意
季節商品の「アールグレイ」(税込360円)
季節商品の「バニラ」(税込360円)
独自製法で香ばしく焼き上げたラスク「プレミアムクロワッサンラスク」(1袋税込560円)
9月28日から10月3日まで神戸阪急パンフェスタへ期間限定で出店し好評だった
プレミアムクロワッサンの生地は、フランス産発酵バターなどの原材料を最適な配合率で使用
Eコマースで効率的に商圏を拡大

 同店の場合、「プレミアムクロワッサン」を作れる人材が限られるため、無闇に店舗を増やせないという事情がある。また商品が平均より高価格のため頻繁に購入できる客も多くはない。
 「もちろん色々な人に食べてもらいたいとは思うのですが、ある程度限られた量をチャンスロスなく消費者へ届けるためには、ロイヤルユーザーを中心とした固定客を外さない販売戦略が必要となってきます。だから今は、ある程度ターゲットを絞った販売戦略を進め、製造計画も立てていきたいと考えています」(大野さん)
 そのため、現在は8月から開始したばかりのネット通販ショップの訴求をより強化している最中だ。
 「実は大阪以外でも店舗を出店してほしいという声はこれまでにもありました。しかし、無闇に労働力を増やして多店舗展開するより、ECという手段を介して全国的に販売する方が、より効率的に多くの人から喜ばれる形で商品を届ける事ができると考えたのです」(大野さん)
 固定層をより深掘りしながらECにより商圏を拡大していく戦略をとっているのだ。
 「当店のクロワッサンは3食毎日食べても重くなく飽きないクロワッサンとして開発しました。ただ、まだクロワッサンは日本人の生活の中でそれほど日常化しているわけではないので、贈答用など日常用途以外の訴求もしています。敷居を高くしすぎるのを避けるため値上げは当分控えるつもりなので、贈答用には客単価を上げる効果も期待しています」(大野さん)
 幸いしたのは、オープン以来テイクアウトに力を入れ、イートインを取り入れなかった事で、コロナ禍での売上減を避けられたことだという。
 ECショップでは焼きたてのまま冷凍したクロワッサンを発送しているが、どのタイミングで冷凍し、どんな包装にすればリベイク時のおいしさにつながるか、スタッフ何人かで食べ比べながら最終的に贈答用を意識した今の通販セットを生み出したという。
 「最近では日本国内でのクロワッサン専門店の数も徐々に増えてきた事で、緩やかではありますがクロワッサン自体の市場も活性化してきたように感じています。市場が活性する事自体は歓迎なので、当店としてはブランド戦略を進めていく事で成長していきたいですね」(大野さん)

プレミアムクロワッサン専門店「三」本店
住所:〒530‐0052 大阪府大阪市北区南扇町7‐17 MF梅田ビル1階
電話番号:06‐6467‐4480
営業時間:午前11時〜午後6時
定休日:なし(年末年始を除く)
品揃え:約5品目
スタッフ:製造常時4人(土日祝4人)、販売常時1人(土日祝2人)
店舗面積:売り場3・6坪、厨房9坪



自由な発想で作り出すクロワッサン。建築事務所の一角で開業し話題に - plat
会社員生活を送りながら、パン教室の運営なども行ってきた須藤慧さん
道路に面した対面式の小さな売り場にはショーケース越しに6種類のクロワッサンが並ぶ
古いアパートの1階部分をリノベーションして作った「P l a t」
厨房の中の様子
小規模スペースの厨房に合わせて設置された小さめのオーブン
左から順に「クラシック」(税込380円)、「アーモンド」(税込530円)、「ハム&チーズ」(税込530円)、「チョコレートバナナ」(税込560円)、季節商品の「抹茶」(税込490円)、「メープルベーコン」(税込490円)
街に開かれた自由な場所でクロワッサン作り

 東京・世田谷区、東急電鉄三軒茶屋駅の北口から太子堂方面に続く住宅街を通り抜けて徒歩7、8分ほど。人通りの多い小川沿いの緑道から一本裏手にある小さな通りを歩いていくと、古いアパートの1階部分をリノベーションして作った店舗が見えてくる。
 「クロワッサン専門店ではあるのですが、パン屋という意識はあまりないですね。街に開かれた自由な場所という風にとらえてくれればと考えています」と話すのはシェフの須藤慧さん。夫で建築家の上林剛典さんと共に2019年4月にこの店をオープンした。
 実はこの場所では上林さんがその1年前に自分の建築事務所を開設。その一角を実験的にベーカリーにし、須藤さんが製造を行うクロワッサン専門店「plat」(プラット)にしたのだという。
 主に灰色に塗られた1階の入り口前には小さな立て看板が置かれ、道路に面した対面式の小さな売り場にはショーケース越しに6種類のクロワッサンが並ぶ。左手には、店舗と建築事務所が入る建物の中へ続く扉があり、その横に2席のみの小さなイートインやベンチがある。
 「クロワッサンはどの店に入っても必ず食べますが、何層で作られているのかについてはいつも必ず見ています。日本のベーカリーは層が多くてふわふわしたものが多いですが、海外のものは比較的外側がザクザク、中はもっちりしたものが多いと感じています」(須藤さん)
 「plat」で須藤さんが作る定番商品「クラシック」(税込380円)などのクロワッサンは四つ折りを2回繰り返した16層。須藤さんが好む外側はザクザクで中はもっちりしたものになっているが、それで油分がたまりすぎる事はなく、あっさりしていて食べやすいものになっている。原材料の小麦粉は素材の甘味や香りをそのまま感じられる石臼挽き粉で、バターは北海道産のものを使用。この組み合わせは上林さんとも何度も話し合って決めた。甘味料もハチミツときび砂糖のみを使用する事で、素材の味を打ち消さず、しっかり自然な甘さを感じながら食べる事ができるようにした。

小さなスペースを利用して製造

 小規模で限られたスペースの厨房で製造するため、成形はバターが溶けないうちに手際良く行い、焼成は小さめのオーブンを用いて1回12個ずつ焼くということをこまめに繰り返す。短時間で手際良く少量を何回も作ることで、液垂れせず、パリっとして食べやすい製品に仕上がるそうだ。客の来店のタイミングに合わせ焼成も可能になる。
 「なるべくは焼き上がった後20〜30分くらいで提供できるように常に心がけていますね」(須藤さん)
 焼き上がった直後ではなく、時間を少しあけることで、中のバターが固まり、クロワッサンとしてはちょうど食べごろになる。ただ焼成後3時間以上経ったものは、夏場はしけり、冬場は乾燥してしまうので、フレバーをつけた製品として具材やトッピングをのせた形でリベイクし別商品として販売する。
 9月末の取材時は「クラシック」のほか、季節商品の「抹茶」(税込490円)、「メープルベーコン」(税込490円)などを販売していたが、リベイクした商品として「アーモンド」(税込530円)や「チョコレートバナナ」(税込560円)、「ハム&チーズ」(税込530円)も合わせて販売していた。
 こうしたフレバー製品に関するアイデアはスタッフ皆で考えるというが、その際にはこれまで経験した事の枠にはまらない自由な発想で意見を出し合う事を大切にしている。
 「『メープルベーコン』は、思いも寄らない組み合わせでしたが試してみたら意外に合う事がわかりました。もともと実験的な要素が強い店なのでなんでもありというところもあるのですが、ベーカリーでの修行経験がない人ばかりが集まっているので逆に枠にとらわれない意見が出せるという良さがあるのだと思います」(須藤さん)

趣味の範疇ではおさまらず開業

 須藤さんは子供の頃から母親の影響もあり家でパンやお菓子を作り続けていた。学生時代は実家のカフェでメニューを考案したりして、趣味の範疇にはおさまらないくらいの情熱を持ち続けていたが、大学を卒業後は迷った末に一般企業に就職。それでも趣味を極め製パン技術を身につけたいという思いが膨らんできたため、就職して3年ほど経った頃、パリの製パン技術を東京で学べる専門学校「ル・コルドン・ブルー・ジャパン」に入学。働きながら通い「パンディプロム」を取得し、小規模のパン教室を自宅で開くなどしていたという。夫である上林さんとはそのパン教室を開催するときにロゴデザインを依頼した友人の同級生だったという縁で知り合い意気投合した。
 上林さんはアトリエやギャラリーも兼ねた建築事務所を、須藤さんはパン教室、ベーカリーを作って、それぞれ分野は違っても街の人が集まる場所にしたいという思いは一致した。
 「Plat」がオープンして3年以上経つが、初めは土日限定だった営業も2020年の12月からは週5日の営業となり、今年7月からはモーニングも開始。地域住民のほか、SNSなどの噂を聞きつけて駆けつけた10代、20代の若者からも人気を集めるようになった。

「クラシック」(税込380円)は四つ折りを2回繰り返した16層
焼き上げる前の「メープルベーコン」(税込490円)
焼き上げる前の「抹茶」(税込490円)
「メープルベーコン」の断面(税込490円)
クロワッサンをイメージしたギフトボックスの蓋の切り抜き線から何となく中の様子が見えるのがいじらしい
建物の中へ続く扉の横に2席のみの小さなイートインがある
専用の冷凍庫を購入し通販事業を拡大

 昨年には須藤さんが出産し、仕事をしながらの育児も経験したことで、店の運営のあり方について見直すようになった。クラウドファウンディングによる資金集めを行ったことで専用の冷凍庫を購入し、通販に特化した別HPも開設。
 冷凍庫が増えたことでデパートなどの催事にも参加できるようになった。
 また通販用商品の冷凍方法を研究した結果、焼き上がりから3時間位経った頃に冷凍したものが最適という事が判明。
 「コロナ禍でも自宅で当店のクロワッサンを食べたいという声をいただいた事で、パンが人々の日常に根ざしたものなんだという思いを新たにしました。通販をもっと拡大する事で遠い地方の人にも当店のクロワッサンを食べてもらいたいと思います」(須藤さん)

憧れのクロワッサンとベーカリー

 現在、唯一の休みである日曜以外は仕事に育児にと毎日忙しく過ごす須藤さん。相当パワフルな女性のようだが、夫の上林さんや一緒に働くスタッフなど周囲の皆の助けがあってなんとかやってこれているという。
 実は海外のベーカリーへの憧れや興味が強く、もともと「ゴントラン シェリエ」のクロワッサンが一番好きだったという。
 「Plat」のクロワッサンは16層だが、これは須藤さんが「ゴントラン シェリエ」のクロワッサンの層が少なめと感じたことと、「ル・コルドン・ブルー・ジャパン」で色々試したものの中で16層が一番しっくりくると感じた事が理由だ。
 「16層より多いとフワフワしすぎるし、少ないと食べる時ボロボロこぼれます。自分の好みでもあるのですが、割と自然な流れで自分の店では16層を採用する事になりました」(須藤さん)
 今後はもっと色々な人に自分の店のクロワッサンを届け、日常で気軽に食べてもらえるようにしていきたいという思いがある。また今は豪メルボルンにあるクロワッサン専門店「LUNE(ルーン)」にも強く憧れている。
 「小規模店だからこそですが、実験的なものも含めて様々なフレバー展開にも挑戦していきたいですね。クロワッサンもですが、スタッフや店全体の雰囲気も含めて全てがスタイリッシュでかっこよくて、街に溶け込みながら、愛される店を目指していきたいですね」(須藤さん)

plat(プラット)
住所:〒154‐0004東京都世田谷区太子堂2‐38‐4
電話番号:非公開
営業時間:午前8時〜午後4時
定休日:月曜、火曜
品揃え:常時5〜7品目
スタッフ:製造常時1人、販売常時1人 
店舗面積:厨房4・5坪(売場込み)、イートイン0・5坪(2席)

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