橋本泰之 1956年横浜生まれ。新宿の専門学校を卒業後、銀座レストランみかわやに就職。その後センチュリーフーズ、モンタボーなどを経て、1996〜2001年、東京製菓学校教師。2001年10月、有限会社レーヴを設立、現在に至る。
こんにちは。今回は発酵について考えたいと思います。発酵を語るときに大切なのは、酵母の発酵するときの条件、つまり栄養・温度・時間です。ただ発酵させるだけなら、イーストを多く入れて、捏ね上げ温度を高くすれば効率的なわけです。当たり前ですよね。おいしいパンを作ろうとしたら、その反対に、イーストをなるべく少なくして、長時間かけて発酵させて作ります。全てがそうではないのですが、長時間発酵のパンは粉の甘い香りがしておいしいパンに焼き上がります。なぜかを考えていきましょう。
捏ね上げ温度より分割前の温度まず捏ね上げ温度について考えましょう。
なぜ食パン類は27度Cでフランスパンは24度Cの捏ね上げなのか、疑問に思いませんか。
疑問に思って昔本で調べたら窯に入る時に一番いい状態の温度から逆算して工程を考えて捏ね上げ温度を決めるということがわかりました。食パンなら2時間の発酵で生地温度が約1・8〜2度C上がるといわれています。食パンの場合は最終的には31度C前後で窯に入ります。捏ね上げ温度も大切ですが、分割前の温度の方が大切だと思います。
パン屋さんで生地の発酵用に発酵室を使用しているケースはまだまだ少ないようです。ここが第1のポイントで、発酵室がなかったらドウコンを使用するか、室内で適温の場所を探すようにしましょう。おいしいパンを作る時は発酵の温度が大切です。
リーンなパンはでんぷんを分解次になぜ発酵が長い方がいいのかを考えてみましょう。
イーストは糖を分解してアルコール発酵をします。食パンでいうと砂糖(蔗糖)とでんぷんを分解して発酵します。砂糖は二糖類で果糖とブドウ糖にインベルターゼの酵素が働いて分解されます。そしてチマーゼ群によって炭酸ガスとアルコールに分解されてパンは膨らみます。
ですから砂糖が多く入る生地、油脂や副材料が入る生地は比較的短い60分程度の発酵が多いようです。フランスパンやリーンな食パンは砂糖の量が少ないので、でんぷんを分解して発酵していきます。
でんぷんをαアミラーゼがデキシトリンに、βアミラーゼが麦芽糖に分解したあと、それらをマルターゼがブドウ糖に分解して、最終的にはチマーゼによって炭酸ガスとアルコールに分解されます。でんぷんを分解するには砂糖の分解よりも長い時間がかかります。ここがおいしいパンを作る第2のポイントだと思います。粉のおいしい香りのパンができるかどうかは、いかにでんぷんを酵素によってブドウ糖にするかにかかっているわけです。それとミキシングと発酵はグルテンに対して、同じような働きがあって、短いミキシングでも発酵によって粉の水和が進みグルテンがつながってきます。
これを利用したのが中種法で、ミキシングをそんなにかけなくても、生地の発酵をしっかりとれば、ボリュームのある製品になります。しかし砂糖の入らない生地は発酵が過ぎるとパンの焼き色は薄くなり、風味の悪いパンになってしまいます。発酵時間とイーストの量、栄養(糖分)そして温度。これらのうち1つでも適切さを欠くと、パンに問題が生じます。
過発酵と発酵不足の生地それでは発酵の未熟な生地と発酵の過ぎている生地の見分け方、そして両者を焼いたときの結果を考えていきたいと思います。
生地の分割の前にまず温度を確認して、発酵の間に生地の温度が何度上がったかがわかれば、それによって発酵の度合いを確認できます。そして指穴テストをします。粉を指につけて軽く穴を開けたときに、縮んできたら若目、そのままなら適正、周りが沈みガス抜けしたら発酵オーバーです。目安として大切なので必ず分割前に指穴テストをしましょう。
発酵未熟の生地は切れずに丸めやすいのですが、べたつきがあり伸びません。ですから成形の時は生地に伸展製がないので、無理に伸ばすと切れて内層が荒れます。ガスの気泡が少ないために無理に成形すると、生地が傷みます。型で焼くと、型の端に生地がだれてくっついて、針の穴のような細かい気泡がパンの底に出ます。焼き色は濃くパン底は角張り、気泡が少ない分、側面やパン底がテカテカになります。カマ伸びが悪いので、焼き上がりの内層はグルテン膜が厚く、目が丸い状態になります。
逆に発酵オーバーの生地はガスの気泡が多く、モルダーでも気泡が抜けきれず、内層が荒れます。残った気泡は焼き上がったらしぼむので、腰折れの原因になります。生地の発酵が進むとグルテンが強くなり引っ張る力と戻ろうとする力が強くなり、生地は丸めても切れやすくなります。普段よりも生地が切れやすくなったら発酵が過ぎていると疑いましょう。気泡が大きく多い分、パン底は丸みを帯びます。パン底の端が丸い分、カマ伸びして腰折れしやすくなります。たまにパン底が上がってしまうのも発酵オーバーの時が多いようです。パンの色も白っぽく風味も悪くなります。
少ないイーストでゆっくりと発酵をとることによって、酵母が活動するときに出る、芳香性の成分により深みのあるおいしい味わいのパンになるというわけです。
リッチな生地はそのままでもおいしいのですが、リーンな生地は、発酵によって生まれる味が必要なので、技術者の能力が要求されます。この連載の最終回で低温長時間発酵について書きたいと思いますので、その時を楽しみにしていてください。今回はこの辺で終わりにして、次回は工程について考えていきたいと思います。