コロナ禍で得たもの、失ったもの - ブランスリー電子版

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特集/2022年1月号

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コロナ禍で得たもの、失ったもの




負担は大きかったが、得たものはそれ以上に大きかった - クーロンヌジャポン
本店の「クーロンヌとりで」。クーロンヌジャポンの本社事務所も同じ建物の中にある
「Couronne JA店」は、透明のシールドをつけ、セルフサービス風の対面式売り場にした
「Couronne JA店」では、透明のシールドを隔たて奥に商品とスタッフを配置
ベーカリー「クーロンヌ」など12店舗を展開するクーロンヌジャポンの田島浩太社長
コロナ禍前の「クーロンヌとりで」店内の様子(2019年7月撮影)
社内決起大会で最優秀店舗賞に輝いた「カフェ ブーランジェリー タケゾノ」のメンバー
新しい販売スタイルを確立した

 茨城県南部を中心に、ベーカリー「クーロンヌ」など12店舗を展開するクーロンヌジャポンの田島浩太社長は、コロナ禍で失ったものがある一方で、得たものも大きかったと話す。
 「商売をする立場の人間としては多くの事を学び、結果的に進化の後押しをしてくれたと今は俯瞰しています」(田島社長)
 これまでの店舗運営のあり方に変更を余儀なくされた事で、逆に業務を見直し生産性を上げる事ができるようになったと、強く実感している。
 まず「クーロンヌ」各店においては衛生面で設備投資したことにより学んだ事が大きかったという。
 例えば一部店舗では、もともとセルフサービス形式だった売り場のレイアウトを残しながらも、高めのシールドを取り付けることで、セルフサービス風の対面式売り場を導入。客側から商品が見えやすいレイアウトを保ちつつ、実際に商品を取るのは店のスタッフに依頼するという形式の売り場を導入した。しかしそのために行ったシールドを取り付ける工事の費用は高額となり負担は大きかったという。
 「コロナ禍で失ったものをあえてあげるとすれば、セルフサービス風の対面式売り場を導入するための工事でかかった分のお金ですかね」(田島社長)
 ただ店としては衛生面をさらに向上させるための新しい販売スタイルの確立につながった。いずれ考えなければならなかった衛生面の対策を、今回の事を機に行う事ができた。

量ではなく質が求められる時代が来る

 こうした新しいスタイルを確立していく事は、一方で販売スタッフの作業量が増えることにもつながり、人件費の増大という問題が発生する事になったという。
 「人件費が上がれば最終的に商品の値上げをして採算を取らなくてはならないかもしれません。それでも商品や接客の質を下げず、衛生面でも特化したベーカリーとして差別化していくには、その流れを受け入れざるを得ません」(田島社長)
 田島社長によると、今後は世の中全体で「量」ではなく「質」が求められる傾向がより強まっていくのではないかという。結果的にコロナ禍はその事を浮き彫りにする事となった。
 売場改革に関する事のみならず、コロナ禍前は毎週のように顔を合わせて多人数で行っていた会議も、ZOOMアプリをとり入れたオンライン会議の導入で移動の負担が軽減。顔を合わせられない分、会議の内容が薄くなってしまうような事も起こらなかった。田島社長によると、より効率的に深い内容を話し合う事ができるようになり、会議の質の向上につながったという。
 「オンライン会議も、参加者の態度や向き合い方次第で、充実したものになるという事がわかりました」(田島社長)
 自宅など各自が選んだ発信場所で開始時間までに資料を揃え、必要な事をまとめた上で、各自が積極的に発言しながら進めていく会議であれば、リアル会議同様に、問題意識の共有につながり、濃厚な会議が実現できる事がわかったという。
 また年に一度の社内決起大会で全社員が参加する「Coupe de La Boulangerie Couronne(クープ・ド・ラ・ブーランジェリー・クーロンヌ)2021」も、今年は感染対策を行った上で規模を縮小し、少人数、短時間で開催。
 同大会は、各店舗のメンバーがテーマを掲げた目標に向かって取り組んできた事をプレゼンテーションしていくというもので、長く毎年恒例の行事として行われてきた。
 今年は最優秀店舗賞の栄冠を、2020年11月に初の公園内店舗として新規オープンし注目を集めた「Cafe Boulangerie Takezono(カフェ ブーランジェリー タケゾノ)」が獲得。
 他の店舗からも、コロナ禍でも真摯に接客やサービスの向上に努めたことで、チーム力が高まり逆に学びの多い一年を過ごした様子が発表され、内容としては濃いものとなった。



人気商品の「バゲット・クーロンヌ」(税込259円)
人気商品の「究極のソーセージフランス」(税込298円)
パン詰め合わせの「パン詰め合わせ【クーロンヌのおまかせパンBOX】」(税込3500円)
フエイスブックで発信された掃除風景
人類の知恵と創造力はコロナ禍で進化した

 同社は2020年9月に公式オンラインショップをオープン。実は田島社長は以前から「遠方に住んでいるがクーロンヌのパンを食べたい」「ギフト用のパンを作ってほしい」などという声を耳にしており、ネット通販の潜在的需要を感じていた。コロナ禍を機に思い切ってネット通販を開始した事で、遠方の客などこれまで深掘りできなかった層にも「クーロンヌ」の商品を提供できるようになり、その点は良かったと感じている。
 現在オンラインショップで販売している商品は、おなじみの人気商品や旬のパンなどを合わせた「パン詰め合わせ【クーロンヌのおまかせパンBOX】」(税込3500円)や、ギフト需要に対応したものなど。ギフト需要のものでは特にオーダーメイドパンの「いっしょう円満パン」(税込4000円)が発売以降、少しずつSNSで反響が広まり、1年で合計500個以上の注文があった。
 一方、店頭の売り上げは一時期の営業時間短縮の影響もそれほど見られず、駅直結の1店舗以外は堅調だった。ネットショップの売り上げは店頭とは購入するユーザー層が異なるので、「カニバリ」(自社製品同士の競合)と相乗効果のどちらが発生するかはまだ不透明だが、田島社長は「世の中の流れとしては、コロナ禍が終わってもネット通販の売り上げ自体は伸びていくのではないでしょうか」と話す。
 コロナ禍は、ネット通販やSNSでの商品PRなど、ウェブ上の情報発信に力を入れるきっかけを作ったが、実は同社はこれまでも各店舗でそれぞれのフエイスブックページを作るなどオンラインでの情報発信は積極的に行ってきていた。
 そこでは各店舗が個人商店のような強みを出せるように、発信は各店に任せ、それぞれ店長のカラーが何となく出ていたという経緯がある。
 また各店での情報発信は客に対してのものだけでなく、店舗同士の情報共有に繋がっていたという側面もあった。
 しかしコロナ禍を機にSNSでの発信は、ユーザー目線で客とのつながりをより強く意識したものへ進化。現在はFacebookのほか、インスタグラムやツイッターなども併用し、各媒体の強みを生かした情報発信をしている。
 インスタグラムは商品の写真を中心にアップしているが、フェイスブックでは商品の情報だけでなく、従業員の作業風景や、時には掃除風景なども発信。毎年恒例の「Coupe de La Boulangerie Couronne」に関する映像も動画で伝えるなど、仕事を通じて社員を成長させる会社であることも伝わる内容になっている。
 かつて田島社長は色々悩んだ末、社員の潜在的能力を引き出す教育プログラムを取り入れ、自身もリーダーとして内省し、人間力を高める事を社訓とする今の社風を作り上げたという経緯がある。そのためコロナ禍に対しては当初から冷静に分析し対応を行っていた。
 「コロナ禍により経済活動が一時的に止まってしまいましたが、人類が持つ知恵や創造力はコロナ禍を通じて確実に進化しました。パン屋としてできる事は日常に密着した商品を作り上げることだけですが、それでも知恵を絞ってできる限りの事をする事で、コロナ禍以降の世の中にも対応し、食文化を担う会社として、少しでも存在感を高められるようにしていきたいですね」(田島社長)

クーロンヌとりで
住所:〒302-0034 茨城県取手市戸頭2丁目12番13号
電話番号:0297‐78‐6321
営業時間:午前6時30分〜午後6時
(1月と2月は午後5時まで)
定休日:水曜、第2木曜(祝祭日は営業)
品揃え:80品目
スタッフ:製造常時4人(繁忙時は5〜6人)、販売常時3人(繁忙時は5人)
店舗面積:売場11坪、厨房20坪、テラス28席
月商:1000万円



コロナ禍でも意志を貫き、ただパンを焼き続けた - ビーバーブレッド
サンドイッチやサラダが並ぶ冷蔵ショーケース
「創設者」の割田健一さん
東京・東日本橋にあるベーカリー「ビーバーブレッド」
「ビーバーブレッド」店内の様子
焼き菓子はコロナ禍を機に一層力を入れるようになった
日本のパンを独自の発想で進化させた商品が並ぶ「ビーバーブレッド」の売り場の様子
リテールベーカリーらしさを貫く決意

 東京・東日本橋のベーカリー「ビーバーブレッド」のオーナーシェフである割田健一さんは、この2年間を「(コロナ禍により)失ったものは全くないですね」と振り返る。
 自らを「創設者」と名乗る割田さんだが、コロナ禍の脅威が世間を席巻し始めた2020年の3月頃、「色々考えた結果、リテールベーカリーとして求められているものをそのまま貫いていく事に決めた」(割田さん)という。
 客側へコロナ対策に関する明確なアナウンスは行わなかったが、レジ前に保護カーテンを設置する事、入り口に消毒液を置く事、店内へ一度に入る客の人数制限をする事など、必要最低限の対策は徹底。その一方で、他のベーカリーが行っているような売り場の商品を個包装するといった事は行わず、あくまで焼きたてをそのまま出すというスタイルにこだわった。
 ただ実はこうしたコロナ対策に関しては、当初様々な意見があった。
 「当店に来ると『堅苦しいコロナ対策はしていなくて今まで通りの日常に戻ったような気になれるから嬉しい』という方もいらっしゃる一方で、『もっとしっかり対策をした方が良い』という声も勿論ありました」(割田さん)
 しかしよく考えた上で結局、割田さんが大切にしている「リテールベーカリーらしさ」を貫き、その上で来店するかどうかは客の判断に委ねる事にしたのだという。

シンプルなことを全力で続ける

 割田さんがコロナ禍が始まった当初にまず最初に行った事は、スタッフらの意向を確認する事だった。
 割田さんはスタッフ一同へLINEで一斉にメッセージを送り、「今後(コロナで)世の中は今までにないような形へ変貌していくかもしれない。しかし色々考えた結果、当店としてはこれまでのリテールベーカリーのやり方を貫き通常営業する事に決めた」と伝えた。
 ただそれぞれに事情があるとは思い、今後の勤務形態などで相談したい人は個別に連絡するように伝え、各自が通常勤務を継続するかどうかは自由意志に任せる事で、店の方針とは線引きした。
 その結果、しばらくして子供がいるパート主婦層を中心に休職や勤務時間の変更を申し出る人が増え、結果的にそれまで通りの営業時間で店舗運営するには人手不足となり、コロナ対策とは別の流れで時短営業する事になってしまった。
 それでも1回目の緊急事態宣言中の2020年4月、5月は学校が休校になったことなどの関係で、売り上げは伸びた。そのため、その間、巣篭もり需要にさらに応えていくために、焼き菓子やサンドイッチ、サラダなどにも力を入れた。
 焼き菓子はもともと需要が高かった事から、設備投資をして製造能力を高めていたところだった。またサンドイッチとサラダは冷蔵ショーケースを新しくして、製造販売する量を増やした。日常に密着した商品なので、成功すれば客一人あたりのリピート率を高め、ヘビーユーザーを取り込めるのではとの考えがあった。
 その結果、サンドイッチとサラダだけで平日でも12万円位は売れるようになったという。
 その後、緊急事態宣言が終わった6月には一時的に売り上げが激減する事態を経験したが、パートの主婦らが戻ってきて、営業時間を通常に戻した7月からは、売り上げが回復。2017年11月21日にオープンして以来、毎年開店記念日の1カ月前には前年の総売上をクリアすることを目標としてきたが、2020年も1カ月前の10月には、前年をクリアできたので安心した。
 「パンを作って売るというシンプルな事を全力で続けていれば、店の価値を高める事ができます。だからコロナ禍で失ったものは何もないと思っています。コロナ禍という逆境の中でも、ベーカリーとして当たり前のことをぶれずに続けてきたからこそ、店の真価を確認する事ができました。コロナ禍で得たものをあえてあげるとすればその点に尽きると思います」(割田さん)

メロンパンのクッキー生地にカカオニブを散りばめた「カカオニブメロン」(税込280円)
「パン野ゆりのピスタチオクリームパン」(税込350円)。パンコーディネーターであるパン野ゆり氏とのコラボ商品)
美しいフォルムがセールスポイントの「塩パン」(税込150円)
イチゴ果肉が練り込まれたクリームを挟んだ「いちごミルクフランス」(税込300円)
街の一部として、ベーカリーを機能させたい

 同店が位置するのは江戸時代から続いてきた問屋街が混在する東日本橋、馬喰横山の界隈。小売店は少なく、オフィスビルが立ち並ぶ大通りから一歩路地に入ると、ひと気の少ないエリアが広がる。それでも近年は住居用のマンション建設が進み、徐々に人が住める街になってきたという。
 割田さんはその中で、新しい街づくりに携わりたいとの思いから、同店を約4年前の2017年11月にオープン。
 オープン後、同店への来店客のおかげで通りは徐々に活気付いていった。コロナ禍になってからも、多少人通りは減ったが、同店を訪れる人は絶えずいたため、全く人が通らないような場所になる事はなかった。
 またコロナ禍を機にネット通販に力を入れる店も増えた中で、同店は一切ネット通販を行わなかった。
 「当店は、実際に足を運んで店に来てもらうことを大切にしているので、通販は行いません」(割田さん)
 割田さんは、焼きたてのパンをすぐ出すという事をリテールベーカリーの基本軸としてとても大切にしている。
 なるべく直接店に来てもらいたいとの思いから、イベント出店や卸売などの外販も控えてきた。
 「イベントは新たな感染リスクをもたらすということもありますが、店の外でもパンを提供してしまうと、店に来る意味が薄れてしまうと思うんです」(割田さん)
 割田さんには、人を呼び込む事で街に活気を与え、街の成長にも携わっていきたいという気持ちがある。それはコロナ禍でも変わらず、その事が割田さんが考えるリテールベーカリーらしさにつながっている。

コロナ禍でも夢は実現することができる

 割田さんは、たとえコロナ禍を経験しても夢や目標は実現すべきだと考えている。
 「最近は独立希望者自体が減って、さらにコロナ禍で二の足を踏んでいるように思えます。自分の場合、コロナ前に独立したのでわからないところもありますが、やると決めたら、どんな状況でも独立を実現させてほしいと思います」(割田さん)
 割田さんは、従業員の中で独立を希望する者がいれば、積極的に支援し、立派に自立できると判断できれば、相談次第で資金援助なども行っていきたいという。
 割田さんは独立前に他のベーカリーに勤めていた頃、給与が上がらず休みも充分に取れなかった時期を経験し、辛かった事がある。
 しかし自分が経営者になってからは、そうした悩みはなくなった。
 「今は働いていて全然苦ではないし充実感があります」(割田さん)
 自分の店の従業員には、夏休みと冬休みを9日ずつ支給、労働時間はたとえ長くても1日12時間以下に抑え、ボーナスも業績が良ければしっかりとした額を支給する。経営者として従業員を大切にする会社であることを重視している。
 また割田さんは、パンを自分で作って自分で販売することを、自らの究極的なテーマとし、それをぶれずに続けていく一方で、他者から新たな事業の立ち上げなどの話があれば積極的に参画を考える事もいとわない。
 実は割田さんは、最近、群馬県前橋市の高級ホテル「白井屋ホテル」内にオープンした「白井屋ザ・ベーカリー」のプロデュースを依頼され、その立ち上げに参画した。新店のコンセプトや商品は「ビーバーブレッド」のものとほぼ同じで、割田さんは、自分達がしてきた事が認められ、新たな可能性を広げる事ができた点に充実感を感じているという。
 「色々な形で夢は実現する事ができます。だから毎日シンプルな事を続けながらも、一方で、『機会があればこんなことをしたい』という企画も、いくつか常に持ち続けていますね」(割田さん)

ビーバーブレッド
住所:〒103−0004 東京都中央区東日本橋3−4−3−1F
電話番号:03‐6661‐7145
営業時間:午前8時〜午後7時(土曜、日曜、祝日は午後6時まで)
定休日:月曜、火曜
品揃え:パン約80品目
スタッフ:製造常時8人、販売常時3人
店舗面積:厨房(1、2階合わせて)16・8坪、売り場2・7坪
日商:50万円

原価計算女王
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