(続)パンの原価管理と栄養表示について - ブランスリー電子版

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特集/2021年12月号

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(続)パンの原価管理と栄養表示について




商品開発に力を入れる一方で値上げで原価率を下げてきた - ベーカリーカルテット
店内には、材料を厳選し付加価値を高めた様々なパンが並ぶ
「ベーカリーカルテット」店内の様子
東京都大田区、京浜急行電鉄空港線の糀谷駅から徒歩5分ほどの商店街の中にある「ベーカリーカルテット」
人気ナンバー1の「弱酸性食パン」(1斤税込290円)
「五穀豊穣ブレッド」(1本税込480円、ハーフ税込240円)
「シリアルブレッド」(大サイズ税込324円)
高付加価値の商品で目的買いの客を取り込む

 東京・大田区の「ベーカリーカルテット」は、特級パン製造技能士や雑穀エキスパートなどの資格を持つ店長の高崎俊介さんが2018年の2月にオープン。
 これまで高崎さんの知識を生かし、雑穀やシリアルなど栄養価の高い素材を使った高付加価値商品を展開することで、目的買いの客を取り込んできた。しかし、原価とバランスの取れた価格を浸透させるのは大変で、店の収支を軌道に乗せるまでは、時間がかかったという。
 同店は、京浜急行電鉄空港線の糀谷(こうじや)駅から徒歩5分ほどの場所にある「萩中商店街」の中にある。古くから栄える同商店街には、70軒ほどの店が連なるが、同店の前面と右側の2面がガラス張りで道路に面した売り場は、光を大きく取り込み、すっきりとまとめられ、明るい印象となっている。そこに「弱酸性食パン」(1斤税込290円)や「五穀豊穣ブレッド」(1本税込480円、ハーフ税込240円)といった食パン類の人気商品をはじめ、「シリアルブレッド」(大サイズ税込324円)や同じ生地を使った「シリアル生地のフィグクリーム」(税込259円)、「雑穀クッキーのメロンパン」(税込173円)といった同店ならではの個性が光る独自商品を陳列。店内の各所には商品の栄養素や雑穀に関する説明をまとめた貼り紙もあり、訪れる人の関心を集めている。
 また「バゲット」(税込248円)などのハード系や「クロワッサンカルテット」(税込205円)などのヴィエノワズリーのほか、クリームパンやあんパン、コッペパンなど昔ながらのソフト系の商品も売り場には揃う。
 同店では、こうした全ての商品の売価を3年前のオープン時から比べると10%〜40%位は引き上げてきたという。売価の引き上げに伴い、原価率もオープン時は平均で45%位だったが今は29%あたりまで下がっている。
 「オープン当初の価格を安く設定しすぎてしまったと感じており、その点については後悔しています」(高崎さん)

販売数量を増やしてから値上げ

 高崎さんによると、今でも原価率が30%以上と高い商品のほとんどは、開発の段階でブランディング戦略を徹底して行った商品で、目的買いの客が多い。そしてそうでない商品を購入する傾向が強い客層とは違う客層から支持されている感じだという。
 さらにこうした付加価値のある商品は商品数でいうと全体の1〜2割にすぎないが、売り上げ換算すると全体の6割を占めるという。
 ただしオープン当初は、全体的に価格を低く設定していたため原価率が高く採算があまり取れなかった。そのため流れを見て販売数量が一定の水準まで達し、優良顧客が安定した数で見込めるようになってから徐々に値上げに踏み切っていったという。
 同店の場合、このように商品の価値を浸透させ販売数量を増やしてから値上げをするということを、オープン当初から何回か行ってきた。商品の性質や原材料の高騰を考えると、原価そのものを抑えるのは難しかった。

原価に見合った適正価格での販売が重要

 同店では主力商品を開発する際には、まず先にブランディング戦略を立てる。
 「まずは自分の経験則を元に、遊び心も取り入れながら、原価についてはあまり考えず良いものを目指して作っていく感じです。その結果できた試作品に適性単価を付け、出た数字を見て材料の原価を下げるよう調節していきます」(高崎さん)
 原価の上限が40%という条件で最終的に商品化したら、その単価で採算がとれる販売数量まで売れるかどうか様子を見ていく。
 「お客様は常に新しいものを欲しがるので、循環を良くして売り場を活気づけるため、時には原価を度外視して商品を作らざるを得ない事もありましたね」(高崎さん)
 今振り返ると、オープン当初は商品開発に力を入れる一方で、商品はそれに見合わない低価格で販売してしまった事で、しばらく苦しい状態が続いたという。
 「当初からもうちょっと適正価格という意識を持ち、ある程度強気で価格設定しておく必要があったかもしれません。これから開業する人には、オープン時に設定する価格を低くしすぎないようにと伝えていきたいですね。その価格でお客様が定着してしまうと後で上げるのに苦労します」(高崎さん)
 ある程度対象を絞り込んでなるべく店の商品を本当に必要とする客のみに向けて売る事を想定し、価格を決めていく事が重要だと、高崎さんは今だからこそ感じるという。



「弱酸性食パン」の特徴や製法について説明した大きなポップ
「シリアルブレッド」の栄養素や雑穀に関する説明をまとめた大きくて目立つポップ
「雑穀クッキーのメロンパン」(税込173円)
店長の高崎俊介さん
厨房は広くてゆったりと作業ができる
原価計算と栄養表示のソフトを有効活用

 「原価が高い商品を適正価格で販売することが重要ですが、その一方で、ローコストでも満足度の高い商品を出せるのが理想ではありますから、その方向での模索もしています」(高崎さん)
 ブランディングされた商品もある一方で、同店にはハード系やバターロールなどシンプルな生地で原価率の低い商品もあり、「ついで買い」してもらうことで客単価を高める役割を果たしているという。またあんパンやクリームパン、メロンパンなど多くの人に馴染みがあり、一般的によく売れる商品も扱うことで、新規客が入りやすい余地も残した。
 そのため各商品の役割を考えた上で約60品ある商品のうち2割くらいは原価率9〜13%位の低原価の商品を残しているという。
 実は同店は、昨年2020年の末頃、商品全ての原価計算ができ、原材料成分や栄養表示の出力もできるソフトを購入。原価計算機能に関しては原価の高い商品から低い商品まで各商品の役割を把握するのに役立てているという。
 さらにそのほか、2020年4月から義務化された栄養成分表示に必要なデータの一覧が見られる機能も重宝している。
 「実は卸売をしていないので、栄養表示の印刷をする機会はほとんどないのですが、店頭の商品の栄養成分についてお客様から直接聞かれたらスタッフも含めてすぐ答えられるようにしておく事が大切だと考えています。当店の場合、栄養価に興味が高いお客様が多いので、すぐ調べられる機能があるソフトは便利ですね」(高崎さん)
 最近は、「グルテンフリーの商品はないか」と聞いてくる客もいて、米粉パンの開発にも取りかっているという。
 「米粉でも膨らみやすい製法があるという話を耳にした事もあります。米粉パンは雑穀関連の商品と合わせてブランディングの幅を広げるためにも良いのではないかと思っています」(高崎さん)
 しかし、米粉パンの開発に実際に取りかかってみると、米粉は老化が激しく、想像以上に困難で、開発には時間がかかりそうだという。
 「満足できるものが完成しても、売価は相当上げないと採算が取れるようなものにはならないかもしれません。良いものを出したい一方で、最低ラインの採算性も維持しなくてはならないので厳しいですね」(高崎さん)

ベーカリーカルテット
住所:〒144-0047 東京都大田区萩中2−7−12 ST萩中101
電話:03-6715-1370
営業時間:午前8時〜午後7時
定休日:火曜
品揃え:約60品目
スタッフ:製造常時1〜2人、販売常時1〜2人
店舗面積:売場6坪、厨房20坪
日商:平日12万円 土日16万円



専用ソフトで原価の状況を可視化。栄養表示の負担も軽減 - ブーランジェリータツヤ青森店
「ブーランジェリータツヤ青森店」の店内の様子
ブーランジェリータツヤ青森店店長の奥口聖司さん
焼き調理系の人気商品が並ぶ売り場。左から3&#12316;6列目に並ぶのがピザ風タルティーヌの「はやぶさ」(税込450円)
青森県青森市のベーカリー「ブーランジェリータツヤ青森店」
綿飴のようにしっとりふわふわした食感が特徴で一番人気の「たつや食パン」(税込280円)
「たつや食パン」は「たつや」の文字が焼き印されていて趣がある
原価計算ソフトを活用して問題意識を共有

 青森県青森市のベーカリー「ブーランジェリータツヤ青森店」は、原材料ごとの価格や製品の配合量などを入力すれば各製品の原価率や栄養成分を自動計算してもらえる専門の計算管理ソフトを、今春から思い切って導入。
 「原価管理のソフトは、商品ごとに波がある原価の状況を一元管理で可視化してもらえるので、各商品の役割が把握できて良いですね」と店長の奥口聖司さんは話す。
 実は同店では、売上額と仕入れ額から導き出した日々の原価率と月間差益(月の売上累計から仕入れ累計を引いた額)の目標額を記した表を作成している。
 これにより、売り上げに対して適正な仕入れ額なのか、月間差益目標額に達するには各自何をすべきなのかと言った意識が共有しやすいのだという。
 ベーカリー「ブーランジェリータツヤ」は、青森県内に約130年前に創業し4代にわたって続く老舗和菓子工房の清野菓子店が運営する「お菓子工房 たつや」から派生したベーカリーだ。清野菓子店は現在、本店含む菓子工房4店舗とベーカリー4店舗との計8店舗を青森県内で運営。
 原価率と月間差益の目標額を記した表は、その8店舗の各店長らが出席する定期的なミーティングで意見を発表する際に有効活用しているという。
 「表を活用する事で売り上げや差益額など数字的な事を聞かれても社長や皆にすぐ説明できます。皆で意識を共有できるようになりました」(奥口さん)

平均原価35%以下で適正な利益体質を目指す

 実は「ブーランジェリータツヤ青森店」は他の「ブーランジェリータツヤ」3店舗に比べると比較的新しい店舗で5年前にオープン。新規オープンにあたって当時別のベーカリーにいた奥口さんが青森店の店長を務めることになった。
 奥口さんは19歳で清野菓子店に一度入社したが、数年後に退社。青森を離れ函館のベーカリーや新潟市に3店舗展開する「石窯パン工房サフラン」などに勤務していたが、縁あって再び同社に戻り「青森店」の店長を務めることになったという。
 そのため「青森店」の品揃えは他の「ブーランジェリータツヤ」3店舗に倣ったもののほか、奥口さんが新潟の店で身につけたレシピによるものの両方が混在している。
 実は「青森店」オープン当初は、各商品の価格を決めるのに四苦八苦した。一応、他の「ブーランジェリータツヤ」3店舗や青森市内の他のベーカリーとの兼ね合いで大体は決めたが、新しく導入したレシピによるものなど決めにくかったものは単純に見た目の印象で決めてしまったものも多かったという。
 「売価は、原価やその商品が果たす役割なども加味した上できっちり決めていくべきでしたが、当時は原価管理の体制が整っていなくて、曖昧な基準で価格を決めてしまったところもあります」(奥口さん)
 オープン当初は100アイテムほどあった商品数は、製造の効率と採算のバランスを考えた結果、徐々に70品目ほどに絞っていった。またオープン当初からこれまで3回ほどの値上げも行ない、原価率も徐々に下げている。今では、平均原価率を35%以下に抑えることを目標とし、適正な利益体質の店舗運営を目指しているという。

商品の役割を認識し計画生産を行う

 同店では、商品数の絞り込みや値上げなどで適正利益体質を目指す一方で、売り場の停滞を防ぐための施策も積極的に実施している。季節商品の入れ替えを含む新商品の投入や、他の3店舗と時期を合わせた店頭でのイベントなどを行う事で客数の増加につなげているという。
 ただそうした中でも原価率を含めた各商品の個性を見極める事は重要になってくる。
 例えば同店では「はやぶさ」(税込450円)と言われる焼き調理系の人気商品がある。半分に切ったバゲット生地に惣菜をのせて焼き上げたピザ風タルティーヌだが、導入した原価管理ソフトで見ると「意外と利益が取れていなかったので驚きました」と奥口さんは話す。
 「はやぶさ」は新幹線からとったその名前のごとく、焼きたてがすぐに出せる商品として売り場の活性化を担う重要商品だ。
 もちろん、売上個数的には店の一番の主力商品である「たつや食パン」をはじめとした食パン類には敵わない。
 しかし「はやぶさ」はその日の店の商品全体がどれくらい売れるかを教えてくれるバロメーターのようなところがあるという。
 「大体、朝から『はやぶさ』が売れる日というのは、天候など様々な条件が重なって、お客様の消費意欲が高まっている日なんです」(奥口さん)
 商品の性質上「はやぶさ」はたとえ閉店直前であっても焼きたてを出す事ができる。「はやぶさ」という覚えやすい名前のためか商品名をそのまま呼んで注文してくれる常連客も多い。
 「店内でいつでも焼きたてが出せるので、店の演出にもつながり売り場を活性化する事ができます。単に売り上げだけではない役割を備えた商品なので外せません」(奥口さん)



ラム酒の香りが特徴的な「クリームパン」(税込167円)は人気商品でありながら原価を15%まで抑えられている
「クリームパン」(税込167円)の商品ポップも印象的な文字とイラストで目を惹きつける
原価率が高い「あん食パン」(税込410円)と「つぶあんぱん」(税込180円、右上)、「こしあんぱん」(税込161円、右下)
原価率が高い商品は予約注文も

 一方、主力商品の「たつや食パン」は現在、税込280円、原価率は28%位だ。日常に密着した商品のため、価格は300円台以下で抑えているが、その分、原価も抑えてしかも品質を保てるよう、同じ原材料であってもなるべく価格が安いものが手に入るよう、仕入れ体制を万全化する事を心掛けている。
 さらに老舗和菓子店の系列である同店らしさを出した商品として「あん食パン」(税込410円)、「つぶあんぱん」(税込180円)、「こしあんぱん」(税込161円)の各アイテムも外せない。ただし本店の菓子工房で製造している高価な餡子を使用している事もあって原価率は40%と高めだ。そのためロスが出ないようなるべく予約注文を中心にして必要量のみの製造を行なっているという。
 一方、原価低めの商品の中には「塩バターロール」(税込97円)や「クリームパン」(税込167円)といった人気商品もある。生地の味わいで人気の「塩バターロール」は価格は安くても原価率はわずか18%なので、なるべく販売個数が多くなるようにしている。「クリームパン」は北海道よつ葉乳業の濃縮乳やラム酒を入れた高付加価値品でありながら、原価は15%以下に抑えられているので、これまでも値上げはあまりせず、製法に磨きをかけたリニューアルを繰り返すことによってのみ商品を成長させてきた。
 「その日の状態を見つつ、商品の特性を考えた上で製造量を決めていきますが、原価管理ソフトの導入で各商品の原価率が一度に見渡せるようになってからは、状況も把握しやすくなりましたね」(奥口さん)

栄養表示機能で外販の負担を軽減

 また同店が使用している原価計算ソフトは栄養表示・原材料表示に必要な情報も出力できるようになっている。
 実はこれまでは栄養成分を測定できる専用の機械が青森県内に1カ所しかなかったため、県内のベーカリーは皆、不便を感じていたという。しかし原材料から栄養成分表と照らし合わせて分析できる原価計算ソフトの機能を使う事でその手間が省けるようになった。
 病院などへの卸売をしている商品の表示ラベルもさっと出力できるようになったほか、栄養表示がスムーズにできるようになった事で、オンラインで参加する物産展やロスパンの販売サイトなどへの参加手続きもすんなり進むようになり、全般的に外部での販売を積極的に進めやすくなった。
 さらに店頭で販売している表示義務がない商品についても、情報として栄養成分を把握しておけるので、直接聞かれた際に答えやすいという。
 「カロリー値について聞いてくるお客様がたまにいますね。その場でパソコンをいじればすぐ情報が確認できるので便利で助かっていますね」(奥口さん)

ブーランジェリータツヤ青森店
住所:〒030‐0845 青森県青森市緑3‐8‐20
電話:017‐762‐7553
営業:午前7時30分〜午後6時30分
定休日:水曜
品揃え:約70品目
スタッフ:常時製造3人、常時販売2人
店舗面積:厨房19坪、売り場13坪

原価計算女王
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