素材の最もいい状態の味と香りを脳裏に刻み込む! - 普通のパン屋さんが普通に頑張れば繁盛出来る話(42) - ブランスリー電子版

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連載/2020年12月号

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素材の最もいい状態の味と香りを脳裏に刻み込む! - 普通のパン屋さんが普通に頑張れば繁盛出来る話(42)
 リテールベーカリーのオーナーシェフは、その多くが優れた商品開発者だ。彼らは、自分の店の存続をかけて、日々、新商品の開発に取り組んでいる。
 以前、本誌で取材させて頂いたある有名ベーカリーのオーナーシェフの話を思い出した。彼は、日本各地の国産小麦の粉を使用してパンを作っているが、私が思うに、彼の商品開発力は、日本のパン業界で三本の指に入る。そんな彼が本誌の取材に対してこう話していた。
 「北海道から九州まで産地や品種が様々な小麦を使っていますが、粉の状態で味見をすると、それぞれの特徴が分かる。それらの特徴を、パンにしたときにも感じてもらえるように加工していくことが、パン職人の仕事だと思っている。食材の持ち味を活かすという点で、日本人的なパンの作り方なのではないかと思う」
 食べ物を創造するための第一歩は、その素材の味と香りを熟知することだ。食パンであれば、小麦粉、バター、砂糖、塩など全ての材料の味と香りが、味覚と嗅覚の記憶として深く脳裏に刻まれていなくてはならない。もちろん、イーストや水についても同じだ。そして、それは、材料が最もいい状態の時と、保存がうまくいかずに状態が悪くなってしまったものについても、同じことだろう。たまに、明らかに酸化の度合いが許容範囲を超えた小麦粉を使っていることを疑わせるパンと出くわすことがあるが、これも、いい状態の小麦粉の味と香りが脳裏に深く刻まれていて、使用に適さない材料を破棄する勇気があれば、未然に防げることだ。
 原材料の味と香りを熟知した上で、使用する原材料を選択し、製造工程の中でそれらが出合っていく行く順番と、その各場面で起こる様々な物理反応に想いを寄せ、それらが積み重なった結果として、最終的なパンが製品として生まれてくる場面を、言いようのない興奮と、ほんの少しの不安の中で目の当たりにできることは、ブーランジェ冥利に尽きるといえるだろう。
 以前取材したある講習会の講師を務めた別の有名ベーカリーのオーナーシェフは次のように話していた。
 「新商品を考える時の思考パターンは二つある。ひとつは、最初に作りたいパンの味と食感のイメージがはっきりとあって、それを実現するために、原材料の組み合わせのパターンを、自分の商品開発の引き出しから探してきて利用する方法だ。この方法の利点は、失敗がほとんどないということ。もう一つの方法は、『この原材料のこの特徴とあの原材料のあの食感を組み合わせたら、どんなパンが出来るか』というところから商品開発が始まるパターンだ。自分にとって未知の化学反応が起こることを期待します。この方法のメリットは、うまくいけば、自分の引き出しを増やせるということです。とはいっても、大体は予想した通りになるのだが」
 パン作りも調理であると考えれば、一流の料理人たちの多くが、野菜であれば採れたての生の味と香りを、魚であれば水揚げされた直後の生の味と香りを知りたがるように、ブーランジェも、パン作りに使う小麦粉やバター、砂糖、塩、そして野菜やフルーツなどの最もおいしい状態の味と香りが知りたいはずだ。
 その上で、あの小麦粉とあのバターが水と混ざって、あのパン酵母が加わって発酵が低温で長時間進んだときに、生地がどんな触り心地で、どんな味と香りになるか、さらに、それをオーブンで焼くと最終的にどんな味と香りと見た目のパンが出来て、それが時間とともにどう変化していくか、などといったことに想いをめぐらせたいはずだ。なぜなら、このようしてあぶり出された製パン工程を実践し、各工程で繰り広げられる物理反応を噛み締めながら、物語が最終章へと進んで出来上がるのが、本当の意味でのパンという創造物だからだ。
 私は比較的頻繁に自分で料理をするが、調理する前の素材の味がわかっていると、例えば調味料の調合でも、定番の組み合わせから、一歩踏み出したいと思うときに、出来上がった料理に現れる味についての想像力が格段に豊かになることを経験している。(RO)







原価計算女王
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