緊急事態の中でSNSが大いに役立つ - トーホーベーカリーの松井成和社長 - ブランスリー電子版

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インタビュー/2020年6月号

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緊急事態の中でSNSが大いに役立つ - トーホーベーカリーの松井成和社長
トーホーベーカリーの松井成和社長
 全世界的な新型コロナウイルス感染症の流行により、パン業界も新たな対応を模索している。その中で、SNSの活用がベーカリーと来店客、およびベーカリー同士を繋ぐ重要性なポイントになっているという声が聞こえている。以前からSNS活用で成果を挙げている東京・三鷹市のトーホーベーカリー松井成和社長に話を聞いた。



レジ前のアクリル板。これまで見慣れなかったビニールシートより馴染みのある素材
対人距離を示した目で見てわかりやすい表示は、店外でも行われている
SNSにも掲載された店内の様子。客同士の間隔に配慮が行き届いている事が消費者に伝わる
トーホーベーカリーのフェイスブックのトップページ
フェイスブックで、新型コロナウイルス感染防止対策への協力を呼び掛けた
早い時期から個別包装を実践。パック入りであることに違和感がないように工夫されている
顧客に来店前に伝える

───トーホーベーカリーはSNSへの投稿も活発で、フォロワーからのレスポンスも多いですね。その中で、お店の安全対策がどのように行われているのか、写真と文章でわかりやすく伝えてあるのが印象的でした。
松井
 それはお客様から多数お声をいただいています。外出の難しい時期ですから、「何か知りたいときにインターネットに情報が掲載されていると助かる」と話して下さるお客様が多いですね。
───入店の人数を8人ずつにしたり、対人距離を2メートルに維持したり、お1人様でのお買い物のお願いしたり、携帯電話は店外でとお願いしたりと、具体的に記載されていますね。写真も掲載されているので、店内でお願い事が実践されている状況が伝わってきて安心感が生まれました。
松井
 当店の場合は、割とスムーズにお客様の理解を得られたと思います。事前にSNSで情報公開して、事情の説明を行っていた事が効果に繋がったところは大きいのでしょうね。お客様が知りたいと思う情報をお伝え出来ていて、それが変わらぬご来店に繋がっているなら嬉しいです。
───特に今は緊急事態宣言が発出されて1カ月程度という時期で、多くの消費者も新しい対人距離や3密を避けるという行動にまだ馴染みがありません。その中で、例えば販売スタッフが外に出て行列のそばにいる場合でも、行列が密集状態のベーカリーと、間隔を空けて並ぶベーカリーと分かれてしまうようです。スタッフがそばにいなくても、張り紙1枚の呼び掛けで間隔を取れているお店もありました。
松井
 実際のところはわかりませんけれど、お店のスタッフが店頭で呼びかけるよりも、SNSなどで事前情報として状況を知ってもらう方が、もしかしたらすんなり理解してもらいやすいのかもしれませんね。
 当店では、SNSでのお願い以降、お客様のマスク着用率は目に見えて上がっていきました。また、お子さんが小さいご家庭はご家族一緒に外出せざるを得ないのですが、「お買い物は代表者1名様で」というお願いを守って下さる方が多いです。店内には、ずっとキッズスペースを設けていたのですが、そこをなくして店内スペースを広く取り、イートインのテラス席も外して、お店の敷地内で間隔を取って並んでいただけるスペースを確保しました。すると、例えばお母さんが店内でお買い物をされて、お父さとお子さんが外のスペースで遊びながらお母さんを待つ事もできます。親子お2人でいらした場合は止むを得ませんから、他のお願い事を守っていただいている上で、店内人数など問題なければお2人1組でのお買い物など臨機応変な対応も出来ています。
 緊急時ですから、実際は体調に問題がなくても、感染しているつもりでの行動が求められています。お客様の心情に配慮した繊細な対応が必要な分、より伝わりやすい情報、わかりやすい情報の提供はお客様の安全と自分のお店のスタッフたちの安全を守るためにも、有効ではないでしょうか。
───トーホーベーカリーの呼びかけはとてもわかりやすいと思います。消費者の知りたいことに答えてくれる情報が提供されているように思いました。
松井
 「対策することのメリットも記載してあってわかりやすい」というお客様の声もいただきました。パンを袋詰して販売するようになりましたが、そうすることで柔らかさが保たれるなど、メリットもあります。そういうことはSNSにも表示しています。そこで理解を得られ、個別包装されたパンも引き続き好評をいただいています。
───消費者からすると、お店に行きたいけど、行ってみてお店が混雑していてお店のコロナ対策がよくわからない場合、諦めて帰ってしまう事があります。
松井
 それもお客様の声にありました。やはり、「SNSで事前に状況がわかるので、安心してお店に来られました」と。以前は「数分で焼き上がります」という焼き上がりを店内で待たれるお客様もたくさんいらっしゃいました。今は、店内でお待ちになることは出来ませんが、店外でお待ちいただいて、焼きたてや出来たての商品を順番にお渡ししています。

同業者間での情報共有

───今後、新たな予防策がわかってくれば、次々と行動の変化が求められるようになるかも知れません。東京都の緊急事態宣言は現状5月末までといわれていますが、宣言が終わった後も、すぐにこれまで通りに戻れるとは限らないようです。その時も消費者の情報収集はインターネットが頼りになって来ると思います。
松井
 そうですね。今回の件は本当にSNSやインターネットに助けられました。今はコロナ対策のしっかりした営業形式に出来て良かったと思っています。でも、3月中旬頃は、どこまで徹底するべきかかなり迷っていました。普段から親御さんとともに子供さんも多く来店されますから、あまり緊張した雰囲気にしたくなかったですし、安全対策のつもりがお客様に危機感を想像させる店内イメージになってしまっては、今まで通り「楽しくてワクワクするベーカリー」ではなくなってしまいます。
 そんなときに、他店のインスタグラムを見ていたら、すごくしっかり対策している店があることがわかりました。今他店がどんなふうに考えて、どんな対策を試しているのかを知る事が、自分達がどうやって行くべきかを考えるヒントになりました。例えば、今はスーパーやコンビニでもやっているレジ前のビニールシートがありますね。でも我々は楽しい雰囲気を伝えるための見映えも必要ですから、ビニールシートではなくアクリル板を使っているベーカリーがあることを知って、アクリル板を取り入れました。おかげで、対策を進めながらも店内のよい雰囲気を保てています。
───他店のSNSもよく見ていらっしゃるのですね。
松井
 はい。いまはお互いに参考にしていますよ。最初の頃は、どこまでの情報を出していこうかと考えていましたが、何のためのSNSかといえばお客様にお店の情報を届ける事がメインなのだから、と考えるようになって、お客様にお伝えしたい情報はどんどん出していくようになりました。他店でも同時期に季節のフェアなどがあれば、若干似たような商品になりがちですが、そこは商品開発によってあまりかぶらないような商品作りを心掛けています。また、ケーキ屋さんや和菓子屋さんの商品が魅力的にアップされていれば、もちろん参考にします。普段から情報交換はしているのですが、今ではSNSも含めて「持ちつ持たれつ」の関係で、これがベーカリー同士でのクオリティーの底上げになり、共に進化しているように感じます。
 あと、例えば九州のパン屋さんからも「SNSの情報をやってみました」などの声をもらいました。地方では東京の状況を知りたいのですよね。いま地方では東京より落ち着いてはいますが、気の抜けない状況ですから。東京の対策や状況を知っておきたいのですね。



SNSとHPをうまく使い分ける

リスクを背負っての営業

───どのようなSNSをお使いですか。
松井 「フェイスブック」と「インスタグラム」です。その2つがメインですね。フェイスブックはフォロワーが2700人を超えて、インスタグラムはもうすぐ2000人に届くところです。日に日にフォロワー数は増えています。もちろんお客様が大半で、フォロワーの同業者率は数パーセント程度ですね。
 この2つのサービスの好きなところは、見たい人が見たいときに情報を手に入れられる点です。私の好みですが、お店側からメールサービス等で情報が送られて来るのがあまり好きではないのです。一方的に感じてしまいます。その点、SNSでの発信は、お客様が自分から見るという姿勢なので、自然と目に入っていくだろうし、押しつけがましくないと思います。それくらいの方が、見る人の気持ちもわかりやすいので、そちらを使っています。
───お店のホームページもお持ちですが、使い分けはどうされているのですか。
松井
 ホームページは制作会社に頼んで更新するのですが、こちらには消費税率の変更のアナウンスとか全体的な情報の掲示に使っています。SNSは自分で更新できるのがいいですし、新しい情報が自然に一番上に来るから常に新鮮な情報が提供できますよね。ホームページと比べて無料の上に手間も掛かりません。動きのあるパン屋さんである事を表現できますから一石二鳥です。
───ところで、同業者とはどのように情報交換をされているのでしょうか。
松井
 これまでも定期的に情報交換をしていたパン屋仲間では、オンライン飲み会で情報交換をしたり、電話でお店の近況等話しています。話題になるのはやはりスタッフの事です。店舗に出て接客をするスタッフがいちばんリスクを背負っていますから。最前線に出ているスタッフの事を思うと、やはり手当で目に見える何かを付けようと考えています。お互いに「うちもやろう」という話になっていきました。
 スタッフには学生アルバイトもいますから、親御さんからお電話をいただいて「申し訳ないけどしばらく出勤させられません」といったお話もありました。私もそういうお話に対して「来て下さい」とは言えません。実際、売上はいつもの2〜3割くらい増えています。でも、スタッフやお客様の安全を考えれば到底手放しで喜べません。外出機会のないお客様からは、「ベーカリーの楽しい雰囲気やおいしいパンの味が、すごく心のリフレッシュになる」「癒やしになる」と、お声をいただきます。ありがたいですし、答えていきたいですが、複雑な難しさがあります。リスクがある以上、最大限の慎重さで営業するしかありません。「何かあったときは次の日から営業できないかも知れない」という危機感はスタッフにも伝えています。
 休業要請に苦しんでいるレストランとはまた違う、ベーカリーならではの苦しさも正直あります。それを共有して協力し合い、ベーカリー全体で進化していくための大きな武器になるのも今はSNSではないでしょうか。





原価計算女王
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