移動型セレクトショップ「パンタスティック2019」 - ローカルズオンリー取締役、村上仁氏 - ブランスリー電子版

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インタビュー/2019年12月号

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移動型セレクトショップ「パンタスティック2019」 - ローカルズオンリー取締役、村上仁氏
 さいたま新都心の商業施設「コクーンシティ」で9月13日から29日までの17日間開催されたパンのイベント「パンタスティック!!2019 AUTUMN」。広島県広島市で誕生後、大きな賑わいを記録し、「コクーンシティ」でその第4回を開催した。今回は、埼玉県内を中心に、日本各地から集まった人気ベーカリー約80店舗が、日替わりで出店した。大きな特徴は間仕切りされた同一サイズのシンプルな売り場にある。棚に値札と商品だけが並べられ、店ごとの販売員はいない。パンの商品力を考え尽くした主催会社のローカルズオンリー(広島県呉市)の取締役、村上仁さんに、同イベントのコンセプトについて聞いた。

「好き」を見つける喜び
──まずはイベントの主旨を教えて下さい。
村上
 私達は元々アパレルの小売業が主体の企業です。元々地元広島で商業施設の季節イベントの企画を手掛けていました。「パンタスティック」の始まりの頃は、小売業側から生活を彩って毎日を豊かにするアイテムを揃えたライフスタイル提案型の売り方が出始めていました。「毎日を豊かにする」ということは、私達は「自分の好きなもの、自分にとっていいものを選んで見つけられる事」だと考えています。実は、私達は「パンタスティック」をいわゆるパンフェスではなく、移動型セレクトショップと捉えています。いまは品質のいい物が増えて悪いものが少なく、選択肢が豊富になった分、自分にとってベストなものを探したり選んだりする事が難しいのです。「これがいい」より「これでいい」と物を選び、むしろ選択しなくていい時代ではないでしょうか。私達の原点は自分で物を選んで、それが本当に自分にとって良いものだったときの何とも言えない嬉しさです。その嬉しさを多くの方々に知ってもらいたいですし、そういった方々の期待に応える商品を提案していきたいと思っています。だからこそ、物を選ぶ局面の多いコンテンツを作って選ぶ機会を増やし、物を選んで自分の好みにぴったり合った時の嬉しさや楽しさを体験してもらいたいのです。

パンは人を集める力がある
──数あるアイテムの中から、パンを選んだ理由は。
村上
 選択肢の多さと手頃な価格です。対象年齢は子供からシニア世代までと幅広く、朝昼晩いつ食べてもよく、味も甘もの、辛いもの、塩気にあるものなど多様です。食事であり、菓子であり、選択肢が無数にあります。更に、100円台からの手頃な価格です。パンは人を集める力を持っているアイテムだと確信しました。アパレル業の得意分野であるデザイン性やファッション性をパンと組み合わせて、パンのある楽しい生活を提案するイメージ作りもやってみたかったですね。



生身の客と生身の商品が、一切の先入観を排除した状態で向き合う場所を提供したい
地域にゆかりのあるイラストレーターがイメージイラストの製作を担当
先入観を払拭する目的で統一された売り場のデザイン。ブースの中でどう陳列するかが各店のアイデアの見せ所
「パンのある生活」の楽しさをイメージさせるグッズの数々
商品の魅力を再発見

──パン業界以外の分野から、同じ「小売業」という視点で一緒に取り組もうという着想が斬新ですね。。
村上
 業種を問わず、今は小売業が厳しい時代です。アパレルもまさに店舗に人が来なくなっています。この状況にどう対処するか考えた時に、発想の転換が生まれました。「イベントに出れば商品が売れる」という考えは一度やめる事にしました。イベントに出るのは、人が集まっている場所に自分たち店が出掛けて行くと考えるのです。人前に出て行って自分達の存在を地域の人達に知ってもらうためのイベントにするのです。
──イベントを宣伝として活用するのですね。
村上
 はい。ただし、イベントはきっかけであって解決策にはしません。店に人が来ない状況の中で、イベントで人前に出て自社製品を知ってもらう機会を作り、「知られた事でその後どうなったか」をヒントにして自社製品についてもう一度考えるんです。そこには多くの発見があるはずです。店とイベントで同じアイテムの売れ方が違うとしたら、その違いはなんなのか。人前で商品の存在を知られて、それからどうやって店に足を向けてもらうのか。
 私達のイベントはお客様が各店を自由に巡るタイプのイベントではなく、各店が一列に並んだベーカリーブースを一方通行でぐるりと一周しながら商品を選び、最後にまとめてレジで清算する形式です。陳列も商品と値札とPOPが少しというシンプルなもので、店からの販売員もいませんから、店からの情報提供なしに、ありのままの商品とお客様が先入観抜きで直接対面します。シンプルに商品だけを展示するような状態で商品がどういう評価を受けるのかをフラットに観察する事が出来ると思っています。

素の商品を評価してもらう

──「パンタスティック」は、ベーカリーが生身で商品だけを武器にプレゼンをする機会でもあるのですね。それは画期的です。
村上
 例えば、何かを買う時の日頃の判断が「人気ランキング1位だから」という人も、そういった評価軸を取り外して商品を眺める事が出来るようになります。「ランキング1位でないと買えない」「有名人が買っているものを買いたい」という人もいらっしゃいます。でも、本当は1位でない商品に興味を持っていたり、好きだと思っている人もいらっしゃるんです。そういう方も、このフラットな陳列をされたイベントなら、自由に自分の好きなものを選べるのではないでしょうか。どのパンが人気1位なのかわからない中で、自分がいいと思って選んだパンが美味しかったら、それが本当の意味での選ぶ楽しさだと思います。
 パン屋さんの立場に立てば、自分自身がどうやって商売をしていきたいかを考え直すきっかけにも出来ると思っています。「パンタスティック」は17日間という期間の長いイベントです。もう一店舗出したと考えて販売戦略とする事も可能なのです。人を出さず商品だけ出す17日間の店舗だから、実験的な事もやろうと思えば出来ます。



イベントでの成果を店で活かしてほしい
「魔女のコッペパン」(埼玉県大宮市)のブース
「パン ド サンジュ」(大阪府堺市)は、インパクトのある「とびばこパン」の一品目だけを陳列
厳選されたグロサリーの数々も展示。高品質で優れた商品であるにもかかわらず、製造量の関係で量販ベースに乗らないような品々の展示会の場でもあるという
原点から自分を見つめ直す

──「パンタスティック」からベーカリーが学び取れる事は多そうです。具体的にどんな目標を立てると得るものが多いでしょうか。
村上
 実は中長期的には「いったん解散」を目標にしたらいいと考えています。イベントで自社商品とともに、自分がベーカリーとして何をしたいのかも見つめてみる事を提案しています。いまは、実店舗を持つかどうかも選択可能な時代です。そこから考え直してもいいのではないでしょうか。自分は美味しいパンを作りたいのか、作るだけでも満足なのか、自分で販売もしたいのか、などについて想いをめぐらせてほしいと思います。ベーカリー側がどんなベーカリーでありたいのかをもう一度考えてみてほしいのです。「パンタスティック」で何か得るものがあったら、それを成果として自分の店に持って帰って生かしてほしいですね。見つめ直してみて、これからも店を続けて行くことが目標になったら、イベントからお客様を連れて帰れる店になってほしいと思っています。だから「いったん解散」が目標になるのです。
──「パンタスティック」の将来的な目標はありますか。
村上
 私達はずっと、地元の店や地域の店との提携を重視しています。商店街に人が来るようになって、活気づいてほしいんです。「パンタスティック」は全国からセレクトされたベーカリーが集まっていますが、必ずイベント地の地元のベーカリーに参加してもらっています。地域のお店に強くなってもらって、商店街の中で各店の力作を提示するマルシェを催すような状況を考えています。選ぶ楽しさを覚えたお客様が、様々な個性のある商品を手に取って試して、自分の好きな商品を選んで毎日の生活を豊かにして下さったら嬉しいですね。

新規の客に知ってもらう好機

 記者の目 同イベントに出店したベーカリーからは「普段ほかのベーカリーと話をする機会がないので、納品で他のベーカリーの方々とお話できるのがとても楽しい。追加配達も、それがあるからとても楽しみ。売り場に出るイベントだとあまり他のベーカリーさんと話す余裕はないが、パンタスティックにはそれがある」「違う地域のお客様に自社製品を知ってもらえるのが面白い。当店の人気商品を知らないかもしれないお客様が興味を示して買って下さると、事前情報のないまっさらな状態でもお客様に商品が評価されていると思える」といった感想が語られた。イベント後は、「パンタスティックで買っておいしかったので」と来店する人も多いようだ。





原価計算女王
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