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インタビュー/2019年9月号

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新時代のベーカリー経営哲学とは - ジャパンベーカリーマーケティング社長岸本拓也氏
「どんだけ“じこちゅー”」店舗外観。日差しの強い中、長蛇の列が
「わたし入籍します」の行列の様子。岸本社長自ら接客に現れている
 「わたし入籍します」「ねえぇほっとけないよ」といった、一度聞いたら忘れられない個性的な店名のベーカリーが日本各地で開業している。既成の概念にとらわれない店づくりは、これらの店舗を地域から支持される人気店に押し上げた。整理券が配布され行列の続く各店。魔法にかかったような繁盛店の誕生が続いているが、その人気の秘密とは。これらの店をプロデュースしたジャパンベーカリーマーケティング(JBM)の岸本拓也社長に話を聞いた。



店が地域のコミュニティーとして成り立たなければ、その存続は難しいものになる

パン屋ならではの付加価値

──パンの売上を伸ばす難しさを感じているベーカリーが多い中、JBMがプロデュースした店舗は次々と繁盛しています。何がこれまでのベーカリーと違うのでしょうか。
岸本 「既成概念にとらわれない」というのは独立開業した頃からずっと持っているコンセプトです。しかし、考えは至ってシンプルで、私達はパン好きであり、パン屋好きであり、美味しさをこえた楽しさを追求したいのです。同じ美味しいパンでも、機械会社のラボで焼き上ったものを持って帰って食べるよりも、パン屋さんに行って買ったものを持って帰って食べた方が、はるかに楽しいでしょう。それこそがパン屋だけが提供できる楽しくパンを買って味わってもらうという付加価値なのです。それに、楽しい事があれば人にも伝えたくなりますよね。そうなれば新たな人の訪れにも繋がります。ということは、ベーカリーを経営するということは、パン屋としての付加価値をどういうふうにつけるか、いかに楽しい事を突き詰めるかということではないでしょうか。
 一方で、私達は奇をてらった店づくりを狙っているわけではありません。私の最初の店「トツゼンベーカーズキッチン」も、自分の出身であるホテルのベーカリーと町のパン屋さんとの間の空白に存在するであろうパン屋を考えてつくりました。ホテルベーカリーのブランド感や高級志向が好きなお客様に対し、町のパン屋さんの100円で買える身近なパンを求める方もいらっしゃいます。その二極の間にある潜在的なニーズに、自分のアイデアを提供していったのです。高級品を扱うように中間照明でパンを照らし、販売員がスーツを着てホテルクオリティーの接客をしました。それでいて商品単価は200〜300円程度からです。お客様単価1000円以内で、日常的なアイテムのパンを軸に非日常を味わってもらえます。そしてそこはゴールではなく、そのスタイルで営業をしながらお客様とコミュニケートし続け、やがて地域の状況も確認して店の形式やテイストもリニューアルしました。元々店のあり方は、より地域に密着する方向で変化させていくつもりでした。
 地域の人々が潜在的に求めているものがありながら、誰も提供していないところに自分たちの提供できる商品とサービスを提供していくんです。そういう事が本質であり、大事な事だと考えています。

価値は気付かれてなんぼ

──プロデュースされた店舗は店名もユニークで、外装や内装のみならず、レシートに店のイメージイラストがプリントされたり、パンの包装材もインパクトのあるオリジナルデザインを用いたりしていますね。
岸本 パンの新たな魅力を引き出して商品をつくったら、それをお客様が気付けるように伝えるのもお店の力だと思っています。POPや商品名はそのための有効な手段です。商品名もただ「食パン」とそのものを指すのではなく、どんな食パンなのかを伝えるものでなくてはなりません。素材ひとつひとつを妥協せずにとことん追求して作った商品なら、「どんだけ自己中」と言われるほど自分の理想を達成するためにこだわった事実を、お客様に伝えましょうということです。そのために商品名も工夫します。「自己中の極み」と名付けて伝えるのです。
──楽しくなるユニークな店名ですが、背景にはしっかりストーリーがあるんですね。理由を知ると、ただ「美味しいパン」というだけでなく、商品にも商品名にも愛着がわきます。
岸本 私は感性を磨くことをとても大事にしています。パン屋ではお客様に旅を感じてもらいたいと思っていて、そのためにもお客様に思いを伝える言葉やデザインは大事な要素だと考えています。私は「旅」「音」「服」「食」を自分達の構成要素として特に重要視しています。お客様の五感に訴える要素が、パンを引き立てますから。そういった演出でパンの潜在力を引き出し、パンの楽しさを人々と共有する事を目指していきたいんですね。そのために具体的には、幅広くいい音楽を聴いたり、多くの分野の食を経験したり、様々な土地を訪れて風土や文化を知ったり、多彩なデザインに触れたりするように心掛けているんです。
 異業種の方々との交流も多く持っています。私は「同業者だから繋がろう」といった基準では人との繋がりを考えません。感性の合う人、価値観の合う人を大事にしています。その結果、様々な分野の方々との交流が増え、パン業界のみでは知り得なかった感覚や知見も広まっています。それもビジネスのあらゆる面で生きていますね。ビジネスパートナー達も言います。「自分達のフィロソフィ(哲学)を周囲にどう伝えていくか。それは幅広い事を学ばないと出来ないね」と。

パン屋は接客ビジネス

──ホスピタリティーやサービスでは、どんなことを大事にしていらっしゃいますか。
岸本 心を配ることです。私はクライアントと会食するようにしています。時間を取って向き合い、人間関係をきっちり作りたいんです。パン屋さんのサービスも同じなのではないでしょうか。私は人に喜んでもらうのが好きですし、イベントも大好きで、パンの持つ人を集める力も好きです。そして、お店も人と人との関わりです。
 私が行った地方のパン屋さんで残念に思った事があります。お店に入ると高校生くらいのアルバイトが手早い作業を求められ、無心にパンを梱包していました。当然、客である私の来店にも気付けず挨拶もありません。これではがっかりしてしまいます。私は初めての土地を訪れて、この商店街はどんなところなのか話を聞いたり土地の雰囲気と触れ合ってみたかったのです。そういうことが日常を楽しくちょっとでも幸せにしてくれると私は思っています。でも、店の中に高校生がたった一人で夢中で作業していたら、話し掛けようもないんです。
 私達の商売はコミュニケーションビジネスです。店がコミュニティーとして成り立たないなら、自動釣銭機にお金を入れてセルフサービスで袋詰めして買い物をするほうが合理的で良い、となりかねません。高校生が安価で素直によく働いてくれるのはわかります。でもお店にはよくても、お客様にはどうでしょう。レジが早くても接客が良くなければ、パン選びが楽しいひとときではなくなってしまいます。コミュニケーションによって日常にちょっとした幸せを提供するという心構えがあるのとないのでは、接客はまるで変わってきます。私のよくいう「5秒間必ず一人一人のお客様と向き合って話す」という「5秒間の接客」はそういうことです。



文明と共に店づくりをするという選択

作る、売る、広めるの3拍子

──製造の場合はどのように心配りを取り入れたらいいでしょうか。
岸本 製造の方も同じです。パン職人の方々は自分の会心の商品を味わってもらいたいでしょうけど、自分の思いをお客様に押し付けるお店ではバランスが良くありません。必ず、お客様にはお客様の興味がありますし、それを叶える事を忘れないようにしなくてはなりません。かといって、お客様の言いなりに迎合するという意味ではありません。お客様のニーズに応えるように努める心配りです。そして自分たちの「フィロソフィ」をお客様に伝えていくんです。
 実践の難しいことですが、やはり大切なのは、「作ること」「売ること」「広めること」の3つです。この3つに均等に力を入れていないパン屋さんは、まず、お客様を楽しませるお店になっていないですね。逆にこれが出来れば人が集まり賑わうパン屋さんになると確信しています。
──入念なリサーチを行い、各店舗の立地選定にも力を入れているとうかがっています。
岸本 ある事例では、開業したい方の個性をまず考えました。パン以外の異業種で専門店をやっていた方ですが、出店先がずっと大手百貨店だった事が気になりました。私達は、百貨店の暖簾を離れたときに、この店の個性が生かされ、他の店に埋もれる事がなく際立つにはどうすればいいか、それを考えて店の場所を選びました。地域とのマッチングも大変重要です。その都度、地域の年齢層なども加味し、そのパン屋が地域にとってニーズにかなう存在になる場所を探します。

心配りの姿勢が商売を育てる

──JBMではトータルプロデュースの「開業パック」が基本ですが、既に自分のベーカリーを持つオーナーもJBMのコンサルティングを受けたいケースもあると思うのですが。
岸本 いま、新規事業「ジャパン・ベーカリー・デザイン(JBD)」の立ち上げを企画しています。JBMは現在一括の開業パックですが、JBDはパン屋さんにかかわるデザインをプロデュース出来る会社です。ロゴを引き受けたり、ベーカリーのデザインの一部だけのサポートも可能です。
 ただ、「誰もがJBM、JBDに相談すれば成功出来る」ということではないんです。既存店の方でも私達の価値観に共感してもらえるかは重要です。私達は未経験者のベーカリー開業もプロデュースしていますが、大事なのは、「未経験だから出来るということではなく、経験者でも未経験者でも、商売として向き合い、心配りの姿勢が出来ている方こそが商売する価値がある」ということなのです。
 10年の経験者でも、お客様のニーズや人の言葉に耳を貸さないでいる人はなかなか成功できていません。つまり、己を知ろうとせず、壁を越えられないんです。また向き不向きでいえば、内向的な人はあまり商売に向きません。一人で開業しても経営していくには月に最低200人のお客様の心を掴み続けなくては成り立ちません。やはり人が好きで明るく、心配りの出来る人がどうしても向いています。
──この先、生き残っていけるのはどんなベーカリーだと思いますか。
岸本 情報伝播力が強くトレンドの移り変わりの速度が早いのが時代の特徴です。例えば内装は帳簿上15年での減価償却が多いようですが、15年持つビジネスは今すごく難しいと思います。今はあまり初期費用をかけないベーカリーを作っていくほうがいいでしょうし、私達のクライアントも2000万円台に抑えている傾向です。誰にでも生活はありますから、投資回収は絶対に早いほうがいいんです。
 あと、最近は特に機械の進化が目覚ましいですね。冷蔵庫も横開きが登場するなど利便性が上がっています。オーブンだとツジ・キカイのコンベクションオーブン、ベイキーはすごくよくて注目しています。パンのクオリティーが保てるなら、機械による効率化は文明とともに店づくりをするという大事な手段だと考えています。




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