客層が幅広い店にしたかった‐ネモ・ベーカリー&カフェ - ブランスリー電子版

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お店拝見/2012年5月号

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客層が幅広い店にしたかった‐ネモ・ベーカリー&カフェ
小さい子どもを連れた主婦や、年配客が多く来店する
アンティーク調にまとめられた店内。売り場の奥に、カフェスペースがある
カフェスペースで提供されるサンドイッチなどの料理は、カウンター越しに見えるオープンキッチン(写真右)で調理される
黒を基調とした落ち着きある雰囲気の入り口
脇にある黒板のにぎやかな色使いが映える
 「大人のパン屋」とうたう「ネモ・ベーカリー&カフェ」。黒を基調とした入り口から一歩足を踏み入れると、アンティーク調にまとめられた落ち着きある大人の雰囲気が漂う。
 同店があるのは、東京・品川区の東急目黒線武蔵小山駅を降り、活気ある商店街を横目に歩いた先。駅からすぐの場所だが、商店街のある、街のメインストリートとは異なる通りに面しているため、通りすがりで見つけることは難しい立地だ。
 さらに同店はカフェを備え、そこでワインやビールなども提供しているため、おしゃれなバーのようにも見える。しかし、取材した昼過ぎ、この「大人のパン屋」を賑わせていたのは、ベビーカーを押す母親やお年寄りなどが中心で、商店街を歩いていた人々とほぼ変わらない顔ぶれ。おしゃれなバーのような雰囲気からは、少し不釣り合いと思える客層だ。
 同店のシェフ、根本孝幸さんは、立地と店構えについてこう話す。
 「客層が偏った店にならないよう、オフィスがなくて、学生があまりいない場所を選びました。若い人ばかりが集まっていたら、年配の人は入りにくくなってしまいます。年配の人こそ、おしゃれなバーや海外の本場のカフェを利用した経験は豊富です。いくつになっても、そして1人きりでも、気軽に利用してもらいたいんです」
 壁面には、何枚ものアンティークのドアの断片が埋め込まれていたり、わざとデザインの違う椅子を揃えたりと、遊び心が満載の店内となっている。
 「子どもの頃は、『引き出しにお菓子がいっぱい入っていたら』とか、夢を思い描くことは常でした。大人になっても、こうした遊び心を思い出してもらえればと思っています」
 「大人のパン屋」には、居心地の良さだけでなく、子ども心を思い出させてくれるような懐かしさを求め、「大人」が集まってくるのだ。



1番信用できて緊張させてくれる存在
入り口横で客を出迎える根本孝幸シェフ
カフェでは、「チキンカツサンド」(下の写真)など、購入したパンも食べられるが、「生ハムとルッコラのサラダ」(600円、左の写真)やそのほかサンドイッチなど、イートイン専用のメニューもある。サンドイッチのパンは、必ずオーブントースターなどで温めてから提供。「家庭で作れる極シンプルなメニュー」を揃えているが、使う具材は上質なものにこだわり、家庭の味と一線を画す
1日限定20食の「チキンカツサンド」(650円)はランチに人気の品で、昼過ぎには売り切れる。「パン・ド・ミ」(240円)でサンドしたものと「胚芽入りパン・ド・ミ」(300円)でサンドしたものの2種類がある
 同店の面する通りは、もともと飲み屋街だったということもあり、昼間の人通りがほとんどなかった。
 「普段通る道ってそんなに変えないですよね。未だに『いつオープンしたんですか』って近所に住むお客様に訊かれることもあるくらいです」
 目立たない立地でも、着実に常連客を増やしていった。さらに、週1回来ていた人が次第に毎日来るようになるなど、1人当たりの来店頻度も増えてきた。こうした成功の裏には、根本さんの「毎日買いに来てもらいたい」という強い思いがある。
 「パンは買いだめしないで、食べたいときに食べる分だけ買いに来てもらいたいんです」
 この気持ちを、地道に客に伝えていった。例えば、トレイにいっぱい盛っている客に対して、「差し支えなければ、また来てください。パンですから、すぐに食べてください」と、日常会話を交わしながら極自然に、この一言を添えていった。
 取材日も、毎日のように来ているという常連の女性客がいた。根本さんとその女性客は、名前も知れた親しい間柄という風に日常会話を交わしていた。
 「常連のお客様は例え雨が降ろうと、天候に関係なく買いに来てくれます」
 根本さんが、常連客を増やしたいと思う理由はこれだけではない。
 「1番信用できて、1番緊張させてくれる存在なんです」
 店の味、店の魅力を知リ尽くしている常連客には、品質や味の変化は敏感に伝わる。スタッフが、いい意味での緊張感を持ち続けるためにも、常連客の存在は重要なのだ。
 開業して5年が過ぎた。最初の3年間は、製造する手が空くとすぐに入り口横に移動し、出入りする客一人ひとりに対して、ドアの開け閉めと挨拶を欠かさなかった。
 「作って中にいるだけでは覚えてもらえません。来ていただいた方に自分を知ってもらいたくて、とにかく売り場に出ていきました」
 根本さんにとって、同店のある武蔵小山は「海のものとも山のものともつかない」というほど、見知らぬ場所だったという。浅草で育った根本さんは、下町の商店街にあるような、地域に密着した店を目指した。今では、子どもからお年寄りまで幅広い年代の客が、パンだけでなく、根本さんとの日常会話を楽しみにやってくる。



職人の見地で伝えるパンの楽しみ方
「バターロール」(60円)は大きめで丸っぽい形が特徴的。油脂はバターのみを使っていて風味がよく、少し甘さをきかせた味わい。週末は130〜150個売れる人気商品
発酵バターの風味を活かした「こだわりクロワッサン」(220円)は、1日50個ほど売れる
「アーモンドのチュイール」(500円)、「シナモン風味のココアクッキー」(400円)など、焼き菓子は15種類ほど揃う
 根本さんの1番の苦心作は、甘さを少しきかせた「バターロール」(60円)。週末は150個近く売れる人気商品だ。修行時代から、「バターロールの需要は絶対だ。おいしいものを作ろう」と心に決めていたのだという。
 一般のバターロールと比べ、形が丸っぽく、一回り大きい。
 「子どもが初めて、1個食べられるようになったとか、大きいから半分に分け合って食べたとか、そういう思い出のパンにしてもらいたくて」
 根本さんのこの思いは、客と一緒になって成長していこうとする同店の在り方を感じさせる。
 バターロールのおすすめの食べ方を訊くと、「そのままか、もしくはジャムをつけてもおいしいです」と返ってきた。
 さらに、「ジャムは塗るのではなく、スプーンですくったらそのまま落とすようにして、のせるんです」と続けた。
 「細かいことだと思う人もいるかも知れないですが、全然違うんですよ。ジャムは本当は、栄養もあるしそれだけで食べても充分においしいものです。ナイフで塗りつぶしてしまったら、口解けや食感が変わってしまいます。バターも、常温で柔らかくして塗るのではなく、冷たいままスライスしてのせて食べれば、口の中で溶けると同時に香りが広がります」
 カフェスペースでは、サンドイッチ7品とサラダや飲み物を揃える。パンの楽しみ方の提案が1番の目的とあって、「ハムエッグ」(500円)など、「家庭で作れる極シンプルなメニュー」にしている。「作り方も教えたい」と、調理スペースはオープンだ。
 挟む具材については、「コロッケやポテトサラダなど、家の都合に合わせて何でもいいと思います」と言う。そして、「ぜひ、温めてくださいね。焼くというのは、ただ焼いて色をつけるということだけではなく、その色には香ばしさなどの味があります。味を付けるということなんですよ。それに温めると甘味も増します」と、プロとしてのアドバイスを加える。
 子どもの頃、パンが好きではなかったという根本さん。しかし、唯一好きだったというカレーパンを求めてよくパン屋に行った。香りにつられ、買いに行くこと自体も楽しんでいたそうだ。そして15歳から26年間、パン職人としてパンと向き合ってきた。「こだわっているわけではありませんが」と言いながらも、15種類の粉と、4種類の自家製酵母などを使いこなし、70〜80種類のパンを作り分けていく。この職人としての繊細な感覚は、作ることだけでなく、味わい方にも活かし、客にパンの魅力を伝えていく。

SHOP DATA
店名ネモ・ベーカリー&カフェ
住所東京都品川区小山4‐3‐12TK武蔵小山ビル1F
電話03‐3786‐2617
営業時間午前9時〜午後11時
定休日水曜日
品目数パン70〜80品目、菓子約15品目
店舗面積厨房14坪、売り場・カフェ18坪
スタッフ製造4人、販売・カフェ6人
日商25万円



原価計算女王
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