米粉パンのその後 - ブランスリー電子版

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特集/2019年6月号

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米粉パンのその後




グルメ対応とアレルギー対応
 米粉パン専門店二軒を取材した。米粉パン自体の味と食感に対する底堅い需要に加えて、グルテンフリーの食品への根強い需要も手伝って、米粉パン文化は着実に根付いているようだ。



グルテンフリー 田んぼのパン工房 米魂
戸越銀座商店街の一角にある「米魂」
オーナーシェフの富室毅さん
売り場中央にある台には、グルテン入りの生地で作る「おやききんぴら」(税抜230円)や「コロッケサンド」(税抜230円)など、焼きたて重視の総菜系が並ぶ
「おやききんぴら」の断面
グルテンフリーのパンで人気の「長食パン プレーン」(税抜1100円)。食感を軽くした「長食パン ライト」(2枚入り税抜260円)もある
「長食パン プレーン」の断面
グルテンフリーのパンに特化してリニューアル

 「10年くらい前、米粉で作ったパンを食べてびっくりしたのが、米粉パンの店を開業しようと思ったきっかけです。もちもちしておいしいと思いました。ずっしりしてぼそぼそしているという、それまでのイメージが、ひっくり返ったんです」
 こう話すのは、東京・品川区の戸越銀座商店街の一角で、米粉パン専門店の「グルテンフリー 田んぼのパン工房『米魂(ベイコン)』」を営む富室毅さん。富室さんは、大手ベーカリーチェーンの製造業務に約20年間従事していたが、おいしい米粉パンとの出合いが、米粉パン専門店の開業を決断させた。
 「私の田舎は昔、稲作が盛んでした。しかし大人になって帰省する度、田んぼはどんどん荒れてゆきました。その光景に心が痛み、米食文化に衰退の危機も感じました。そうした中で、パン職人としての自分に、米でパンを作りたいという、使命感にも似た思いが強まっていったんです」(富室さん)
 開業を決めた後は、当時米粉パン作りが盛んだった東北の宮城県などに習いに行くなどし、レシピ開発に勤しんだ。そして2010年に開業。それから6年後、米粉パン専門店であることは変わりないが、店名を改めるほどの思い切ったリニューアルをした。
 当時通っていた、小麦グルテンを使わないグルテンフリーのパン教室での体験が、リニューアルをするきっかけとなった。
 「教室では、有機栽培やグルテンフリーにこだわった食材を使っていました。やはり、すごくおいしくて、米100%で作るので、米そのもののおいしさが活かされているとも思いました。また、胃腸などの調子が良くなることも実感しました。パンは、毎日食べるものだと考えると、健康面に配慮して作るということは、欠かせません。リニューアルした一番の目的は、商品を、より健康面に配慮したものにすることでした」(富室さん)
 リニューアル後は、米100%でグルテンフリーのパンのみを販売するようになった。そのほかの材料も、白砂糖はきび砂糖に、塩は天然塩に、生イーストは白神こだま酵母に、それぞれ変えた。油脂も、マーガリンをやめてエキストラバージンオリーブオイル、米油、有機ココナツ油を使用するようにした。
 「材料の変更によって、コストはすべて上がりました。でも、毎日食べるものですから、身体にその食べたものが蓄積していくことを考えると、材料はコストを抑えることだけを重視していてはいけないと思います」(富室さん)
 同店は開業して2年経った2012年から通信販売をしていたが、グルテンフリーのパンを作るようになったリニューアル後、売上げが一段と伸びた。注文は全国からあり、通販が全体の売上に占める割合は現在、2割となっている。
 「ここ1年の伸びが最も大きく、発送の際の梱包の手間がかなり大変になってきたと実感し始めているところです」(富室さん)



5センチ四方のキューブ形に焼き上げた「キューブ くるみ」(税抜160円)など
「キューブ くるみ」の断面
右の棚がグルテン入りのパン、左の棚がグルテンフリーのパンと分けて陳列している。中央の台には、グルテン入りとグルテンフリーの両方が並ぶ
リニューアル前から人気のグルテン入りの食パン「ライスモーニング」(税抜380円)など
地元客のために以前の商品を復活

 通販の売上げが順調な一方で、店舗に買いに来る客に変化が起きた。リニューアル後は、定期的に買いに来てくれる客の数が減ったのだ。
 「減ってしまったのは地元のお客様です。原因は、材料の変更に伴う値上げです。当店のある商店街は、下町風情のあるところですから、高価格の商品はあまり受け入れてもらえないところがあります。『グルテンフリーは望んでいないから、前のパンをまた作って欲しい』というお声も、数多くいただきました。グルテンフリーにしたことによって、遠くからでも来てくださる方が増えたのは嬉しいことですが、その反面、地元のお客様の期待に応えられなくなっていました。地元のお客様を大切にしたいという思いで、以前のパンの復活を決めました」(富室さん)
 リニューアルから半年後、米100%のグルテンフリーのパン以外の商品も作るようになった。米8割、小麦グルテン2割で作る、リニューアル前に販売していたものに近いパンで、価格も当時とほぼ同じだ。
 開業当初から人気があり、復活を望む声が多かったグルテン入りのパンは、「ライスモーニング」(税抜380円)や「玄米食パン」(税抜540円)などの食パン。きめが細かくもちもちとした食感が特徴だ。
 グルテンフリーのパンで人気なのは「長食パン プレーン」(税抜1100円)や、5センチ四方のキューブ形に焼き上げた「キューブ プレーン」(税抜130円)、「キューブ くるみ」(税抜160円)など。
 「『長食パン プレーン』は、スライスして焼くと、まわりはカリッとして、中はとろけて、餅に似たようなおいしさがあります。ご飯のように何とでも合うので、醤油をつけて海苔を巻いてもおいしいですよ。味の主張がないので、バターをのせると、バターの味がすごく引き立ちます。キューブ形のパンは、高加水の生地を型に流し込んで焼成しているので、しっとりふわふわで口どけが良く、練り込んでいる具の味や風味が引き立っています」(富室さん)

グルテン入りとグルテンフリーを分けて販売

 グルテンフリーのパンと、グルテン入りのパンの二つのタイプのパンを販売するに当たって、陳列の仕方は、分かりやすさを重視した。売り場の棚を右と左で2つに分け、片側をグルテンフリーのパン、もう一方をグルテン入りのパンと、場所の違いではっきりとわかるようにした。各プライスカードにもグルテンの有無を表示した。
 「陳列の仕方で、選び間違えを防止できるようにいています。また、親子で来店し、お子さんだけがアレルギーがあるという場合などは、グルテン入りとグルテンなしの両方のパンを買われることが多いのですが、その場合、レジの袋詰めのときに、二つの袋に分けるようにしています」(富室さん)
 グルテンフリーのパンを求める主な客は、アレルギーで小麦が食べられない人のほか、美容関係の仕事をしている人や、ジム通いをしている人、かかりつけの医者に紹介されてくる人などで、大抵の人がまとめ買いをしていくという。
 「米粉パンは冷凍耐性があるので、まとめ買いや通販に向いていると思います。通販では冷凍して配送するので、そのまま冷凍庫に保存していただけます。食べるときは、オーブントースターで温めると、カリッとするのでおすすめですが、レンジで温めてもおいしいと思います。全体が蒸される感じで、ふんわりした食感になります」(富室さん)
 現在、グルテンフリーのパンとグルテン入りのパンの売上げの割合は、平日は同じくらいで、遠方からの客が多い土日は、5対3でグルテンフリーの方が多くなっているという。

SHOP DATA
店名:グルテンフリー 田んぼのパン
工房「米魂」
住所:〒142‐0041 東京都品川区戸越2‐6‐3
電話:03‐3787‐4776
営業時間:午前9時〜午後8時
定休日:木曜
品揃え:50品目
スタッフ:製造常時3人、販売常時1〜2人
店舗面積:厨房10坪、売り場10坪

米粉パンの店 コイガクボ入間本店
「ジョンソンタウン」の端に位置する「コイガクボ入間本店」
店長の内山健さん
1日100斤販売するという「米粉食パン」(税抜450円)
売場の様子。米粉を使用した米粉パンや焼き菓子が並ぶ
「チーズブール」(税抜380円)
米粉パンは究極のおいしいパン

 「もっちりしっとりした食感も特徴的ですが、米粉パンのもうひとつの最大の魅力は、生地そのものは『無味無臭』なこと、のせたものを完全に主役にしてくれる力があることです」
 埼玉県入間市の米粉パン専門店「コイガクボ入間本店」店長の内山健さん(42)は、米粉パンの魅力についてこう話す。
 「小麦のパンが生地自体の香りや味を重視していることと対照的ですが、米粉パンには具材やおかずなど合わせて食べるものの旨味を100%引き出せる魔法の力があります」(内山さん)
 同店は2007年にオープン。アメリカの郊外の街並をイメージして整備された住宅地「ジョンソンタウン」の端に位置し、国道463号沿いに面している。2011年に内山さんが同店の経営者兼店長になってからは8年が経つ。
 同店が位置する「ジョンソンタウン」は戦後、アメリカ進駐軍の家族が多く集まって住んでいた住宅地区の跡地を整備した住宅街。多くは白い横張りの板壁が特徴的な平屋で、アメリカの古民家風の建物が並ぶが、同店も同様にアメリカの古民家風の外観で、店の中も、アメリカンカントリー風のイートインスペースが広がっている。
 一方で、売場で販売する商品は、日本の純国産の米粉を使用した米粉パンや焼き菓子で、店の雰囲気とは対照的だ。1日100斤販売するという「米粉食パン」(税別450円)のほか、菓子パンや惣菜パン、サンドイッチ、ピザ、ベーグル、ケーキやワッフル、ドーナツなど約100種類の米粉製品を揃えている。
 もともと経営のコンサルティングをしていたという内山さんだが、パン職人ではなかったものの、「食に対する興味だけは誰にも負けないくらいずばぬけてあった」という。そのことが飲食店の経営に携わるようになった大きなきっかけだが、その飲食店の中でも米粉パンの専門店が最も可能性の高いものに感じていた。
 実は内山さんは小麦パンのパサパサとした食感になじめず、米粉パン特有の「しっとりもちもち」とした食感に感銘を受け興味を持ったという経緯がある。最近は小麦アレルギーへの対策で注目を集めている米粉パンだが、内山さんが米粉パンに興味を持ち始めた頃は、まだアレルギーとの関連性についての注目度は低く、単純に「おいしいもの」を追求した結果、米粉パンに行き着いたのだという。
 そして2007年には、同店が経営難に陥っていると聞き、同店の単なるファンだった内山さんが同店を買い取る事となった。

中のクリームも米粉を使用している「米粉カスタードのやさしいクリームパン」(税抜220円)
「野沢菜パン」(税抜195円)
米粉パンで可能だという低温焼成法で焼き目がつかないようにした「クランベリーフランス」(税抜210円)
ピザ「石窯のナポリPIZZA」(ハーフ税別290円)
「お米ベーグル」(税別260円)
毎日食べてもらえるパンを目指す

 内山さんが米粉パンの究極の形として目指しているのは、しっとり、もっちりしていて、毎日、誰が食べても飽きないパンだ。
 内山さんによると、米粉パンの専門店は全国的に急激に増えたが、その一方、非常に短期間で閉店となっていく店の姿も多く見られるという。その理由は大きくは二つあるという。
 一つは材料費が小麦の3倍ほどもかかるということ。そのためロスを出さず全てを適正価格で販売しなければ続かない。「コイガクボ」も内山さんが店長になった当初はロスが多い上に、コストが無駄にかさんでいた。そこで、はじめから材料である米粉をある一定の範囲内の量で仕入れ、限られた量を販売し、なるべく全てを売り切るように、ロスを作らないように変えた。
 そして二つ目の理由は、マーケットが十分に開拓できていないことがあるという。内山さんが「コイガクボ」の店長になった当初は安定的な売り上げが保てる食パンが占める割合が低く、1日10斤位しか売れていない状態だった。そこでまず近隣を歩き回り様子をつぶさに観察したが、大体60代以上の古くから住む高齢者が多い事などがわかった。
 「基本的には近圏から来る客がほとんどであることを考えると、まずは歩いて来店できる範囲に住む人たちへのアプローチが第一です。この範囲に住む人たちへ毎日来てもらえるようになればと思いました」(内山さん)
 そのため、始めの4年間は内山さん自身が月に2回ほど、2〜3日かけて近隣の1200軒ほどの家へのチラシのポスティングを歩いて行ったという。その際の服装は常にコック姿だった。
 「いつもコック姿でチラシを配ったのは、興味を持ってもらいやすく、場合によっては話しかけてもらえることもあるからですね」(内山さん)
 店内でのくじ引きやプレゼントキャンペーンなどのイベントも定期的に行うようにした。「小麦のパンと同様、毎日の食卓に自然と並べられ、日常的な存在として購入してもらえるよう、食パンを中心とした販促にかなり力を入れました」(内山さん)
 食パンが一斤450円という通常の小麦パンの2倍近い価格の米粉パンだが、内山さんは「日常の商品としては価格の面ではハードルが高い分、まず一家の財布を握る主婦層の方に働きかける必要がありますね。とにかく当店の食パンを毎日買ってもらえる家庭を増やしたい一心で頑張りました」という。
 こうした努力を続けていった事で、徐々に食パンの売り上げ比率が上がり、常連が増え、その結果、安定的な売り上げが取れるようになった。現在同店では食パンは1日100斤くらい売れるが、これは全体の売り上げの約2〜3割を占める。
 また、併せて人件費などのコストを考えながら従業員の働きやすさも考え、最新式の機械を徹底的に導入。ミキサーは3台、オーブンが3台、ドウコンが2台、ピザ用の石窯も1台揃えた。中でもミキサーはフランス製の高性能ミキサーでパン生地を痛めることなく一気にしっとりした綺麗な米粉パン生地を練り上げられるようにした。
 またオーブンはガス式で、生地の表面からしっとりふっくらした品質のパンが焼き上がるようにした。その結果、従業員の残業が格段に減り、新商品の開発などにも時間がさけるようになったという。

最適な配合を考えた米粉パン

 同店はさらに小麦アレルギー対応の商品を求める声に応える形で、3年前からはネットショップによるグルテンフリー商品の販売も始め、店頭でも一部販売を行うようにした。
 もともとの商品も、完全グルテンフリーではないが、粉は米粉を100%使用。そこに小麦由来の増粘成分を一部加えることで、「しっとりもっちり」の食感を出し、小麦のパンのようなふんわりとした膨張感を出している。
 「当店はこれまで全国の様々な米粉をテストして、当店が考える理想の商品を作る上で最適なものを選んできました」と内山さんは話す。
 現在は新潟県佐渡ヶ島産コシヒカリ(JA佐渡)の米粉に、九州の製粉会社の米粉をブレンドしたものなどを使用している。米粉パンの焼き上がった際の食感は中に含まれる損傷澱粉の粒子の形が大きく影響するというが、同店が求める程よい膨らみや食感を出す上で最適な配合を調節して使っているのだという。
 内山さんは4年前に2号店である小手指店をオープン。
 「店の運営は、ずっと続けていく事に喜びを感じられるかどうかが大切だと思っています。80歳まで店をやる事を考えて、また違った形で運営できる米粉パンの専門店を持ちたかったんです」と内山さん。
 さらに「米粉にはまだまだ可能性があります。今まで米粉で色々なものを作ってきましたが、まだまだネタは尽きません。だからパン屋以外の食の世界にも触れながらさらにアイデアを蓄え、どんどん色々な事を試していきたいですね」と笑顔で語ってくれた。

SHOP DATA
店名:米粉パンの店 コイガクボ入間本店
住所:〒358‐0002 埼玉県入間市東町1‐2‐27
電話:04‐2966‐3409
営業時間:午前9時〜午後6時
定休日:第1月曜
品揃え:100品目
スタッフ:製造常時4人、販売常時1人(土曜、日曜、祝日など混雑時は3人)
日商:14万円 土日28万円

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