小規模ベーカリーの焼きたて演出法 - ブランスリー電子版

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特集/2019年5月号

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小規模ベーカリーの焼きたて演出法




石窯を活用して焼きたてのおいしさを提供 - プルクワ
「パニールカリー」(税抜250円)など、ナポリピッツァ生地を使用した商品
ナポリピッツァ専用につくられた石窯。ピッツァのほか、「パニールカリー」などの焼成や、チャバタサンドの仕上げの焼成を行う
「パニールカリー」の断面
「石窯チーズ焼」(税抜180円)の断面
カット販売のピッツァは、常時3〜5種類並ぶ。「PIZZA マルゲリータ」(ホール税抜700円、8分の1カット税抜180円)や「PIZZA ゴルゴンゾーラ くるみ」(ホール税抜700円、8分の1カット税抜180円)など
オーナーシェフの神田淳さん
ホイロが要らないからすぐ焼けるアイテム

 「ただいま『パニールカリー』が焼きたてです。『カルツォーネ チキン』も焼きたてです」
 神奈川県藤沢市のベーカリー「プルクワ」の店内には、焼きたての商品が次々に並んでいく。そのため、焼きたての商品の案内をする販売スタッフの声が、頻繁に店内に響き渡る。売れ行きを見ながら、少量多品種で焼き上げるようにしているのだ。
 オーナーシェフの神田淳さんは、「焼きたてが連続して出てくるような店でありたいと思っています」と話す。
 「藤沢で開業する前のことですが、東京のオフィス街に店を構えていたとき、ランチ時は10分置きくらいに、パニーニサンドを焼き上げていました。焼きたてを重視しており、お客様には、熱々の状態でお渡しできるようにしていました。焼きたては、おいしさが全然違うと、その当時から思っていたからです。カレーとチーズ入りの薄焼きパン『パニールカリー』と、ジェノベーゼソースやチキンなどを包んで焼き上げた『カルツォーネ チキン』も、焼きたてで提供することにこだわって開発した商品で、当時からずっと作り続けています。また、パン以外の商品として、コロッケとハッシュブラウンポテトがあったのですが、これらも揚げたてで用意していたので、好評でよく出ていました」(神田さん)
 「パニールカリー」(税抜250円)と「カルツォーネ チキン」(税抜240円)の、成形から焼き上げまでにかかる時間は、わずか数分。その早さによって、「焼きたてが連続して出てくる店」を実現しているのだ。
 成形から焼き上げるまでにかかる時間の早さの最大の理由は、ナポリピッツァの生地を使用していることにある。
 「ナポリピッツァの生地は、ホイロをとらなくていいので、欲しいと思ったときに、成形から始めても間に合うんです。そして、生地が薄いので短時間でさっと焼けます」(神田さん)
 例えば、「パニールカリー」なら、生地玉冷蔵しておいた生地を、綿棒で薄くのばし、カレーとチーズを包んで再び綿棒で薄くのばしたら、成形終了。そして2分焼成して出来上がりだ。
 ナポリピッツァ生地を使用した商品は、「パニールカリー」と「カルツォーネ チキン」のほかに4種類ある。クリームチーズとモッツァレラチーズ入りの「石窯チーズ焼」(税抜180円)と、あんことクルミ入りの「石窯あんくるみ焼」(税抜150円)、「ハムとアボカド」(税抜220円)、「めんたいナポリ」(税抜200円)だ。 「石窯チーズ焼」と「石窯あんくるみ焼」の成形の仕方は、「パニールカリー」と同じで、具を包み、薄くのばす。「ハムとアボカド」と「めんたいナポリ」は、薄くのばした生地の上に、それぞれ具をのせた、小さなピッツァのような見た目の商品だ。

一度に4個しか焼けないので、頻繁に焼きたてが並ぶ

 ナポリピッツァ生地を使った6種類の商品を焼き上げるのは、石窯だ。石窯でなければ、わずか数分で成形から焼成まで仕上げることはできない。
 「石窯だと、300度C以上の高温で焼けるので、早いですね。東京のときは石窯がなく、それでもできる限りの高温で焼くようにしていましたが、焼き上げるのに5分くらいはかかっていました。それが、石窯だと2分で焼けますから、倍以上に短縮できています」(神田さん)
 同店にある石窯はガス式で、ナポリピッツァ専用につくられたものだ。火を落としても、石窯特有の蓄熱性の高さから、すぐに高温にもっていけるので、一日中活用できる。
 「パニールカリー」などのナポリピッツァ生地使用のパンを焼成する際は、ピッツァ用の丸形の焼き網にのせ、窯に入れるのだが、そのとき一度に焼き網に乗るパンの数は最大4個。大量に欲しいときでも、一度にまとめて焼くことができないので、少しずつ焼き続けていく必要がある。
 「最大で4個なので、昼時なんかは次々に焼いていかなければなりませんから、必然的に焼きたてが連続して出るようになります」(神田さん)
 もちろん、ナポリピッツァのメニューもある。「PIZZA マルゲリータ」(ホール税抜700円、8分の1カット税抜180円)や「PIZZA ゴルゴンゾーラ くるみ」(ホール税抜700円、8分の1カット税抜180円)などトッピングの具が違う15種類だ。ホールは予約販売で、8分の1カットは常時3〜5種類ほど、ほかのパンと同じように陳列する。
 「ホールの予約は、ご来店される予定の時間を教えていただいて、それに合わせて焼き上がるように作っています。できるだけお待たせする時間をなくしたいからです。カット売りの分も、こまめに焼いて、焼きたてが並ぶようにしていますが、イートインやテラス席などですぐにお召し上がりになる場合は、石窯で熱々に温めます」(神田さん)
 パンの温めは、ドーナツなど揚げ物以外はほとんどのものについて、勧めるようにしている。



「プルクワ」の外観。焼きたてが楽しめるようにテラス席がある
チャバタを使用したサンドイッチは「必ず焼いてからお召し上がりください」と書かれた札が添えられている
石窯で仕上げの焼成を行った後のチャバタ使用のサンドイッチ。写真左は「チリドッグ」(税抜380円)、写真右は「サバサンド」(税抜380円)
チャバタ使用のサンドイッチは、平日は7種類、土日は14種類ほど揃う
売り場のパンの陳列台の向かいにあるイートインスペース。焼きたてを楽しむために設置している
購入直前に必ず焼成を必要とするアイテム

 石窯では、チャバタを使用したサンドイッチの仕上げの焼成も行う。チャバタ使用のサンドイッチは、「チリドッグ」(税抜380円)や「サバサンド」(税抜380円)など平日は7種類、土日は倍の14種類と豊富に揃う人気アイテムだ。
 これらのサンドイッチは、レジで客に渡す直前に、仕上げの焼成として、必ず焼かなければいけない商品となっている。そのことは、プライスカードの隣にその旨を書いた札を掲示したり、会計時販売員が口頭で伝えたりしている。
 陳列するときではなく、実際に客が食べるときにできるだけ近いタイミングで、再度焼成することで、焼きたてのおいしさを作り出すのだ。
 「チャバタの焼成は、デッキオーブンで行っているのですが、少し足りないくらいの焼き加減にしています。再度焼成することを前提にしているからです。お客様が購入する直前に、2分ほど石窯で焼けば、石窯ならではの焼き色が付き、表面がパリッと香ばしくなります。中の具も温まるので、風味が増して段違いのおいしさになります。2分くらいなら、お客様にはそこまで負担にならないと思います」(神田さん)

店名:プルクワ
住所:〒251‐0043 神奈川県藤沢市辻堂元町4-17-11
電話:0466‐33‐3676
営業時間:午前8時〜午後7時
定休日:月曜日、月2回平日不定休
品揃え:80〜100品目
スタッフ:製造常時4〜5人、販売常時1〜2人
店舗面積:厨房13坪、売り場(イートインスペース含む)約6坪



焼きたてである事はさりげなく伝えていく - ドゥエトゥレ
レジの後ろの棚には、食パンがずらりと並べられている
店長の川崎泰之さん
厨房から運ばれてくる焼き上がったばかりの食パン
看板商品の「でか食」(1斤税抜250円、半斤税抜125円)
左から「ホテルブレッド」(1斤税抜320円、半斤税抜160円)、「いちご食パン」(1斤税抜390円、半斤税抜195円)
売場の「焼きたて」のポップは中央の平台など一部の商品のみに取り入れている
「焼き立て」が最優先ではなかった

 東京・八王子市の「ドゥエトゥレ」は、売場4坪で厨房12坪の店内に約80品目を揃えて販売する地域密着型のベーカリーだ。2006年のオープン以来、店長の川崎泰之さんの熱心な研究と匠の力により生み出されたパンを中心に西八王子近辺で人気を高めつつあり、特に食パンやカレーパンで定評がある。
 そんな同店は、看板商品の「でか食」(1斤税抜250円、2分の1斤税抜125円)など売り上げの最も多くを占める食パン類全体で1日10回焼成作業を行う。惣菜系の人気商品のカレーパンは5回焼成。その他の商品も様子を見ながら1日1〜2回ほど焼成するが、全体的になるべく売場を空けないように、夕方4時位までは何らかの商品の焼成作業を行っている。
 ただ実は、同店にとって「焼きたて」である事は必ずしも最優先事項ではないという。川崎さんは、来店客へ「焼きたて」である事をさりげない程度に伝える事を店の方針にしている。
 「もともとそれほど焼きたてにこだわっていた方ではありませんでした。周囲は住宅街という土地柄、持ち帰って次の日食べるお客様も多い事を想定し、逆に、冷めてもおいしい日持ちするパンを目指してパン作りに励んでいましたから」(川崎さん)
 独立前に川崎さんが修業していた大手ベーカリチェーンや個人店のベーカリーなども、ほぼ1日1回の焼成で、「焼きたて」で出す事に力を入れてはいなかった。 ただ自分で開業してからは、何時であっても売場を品薄で閑散とした状態にはしたくないという思いがあった。最初の3年は売り上げがなかなか伸びなかった事もある。
 「そのため対策としてとったのは、少量多品種でなるべく頻繁に焼くようにするという事です。結果的に焼きたて、作りたての新しい商品を夕方くらいまで並べられるようになり売場が活気付きました」(川崎さん)
 ただし当時はそれを積極的に伝えるような販促には力を入れていなかったという。それよりも自家製酵母を使用した無添加で日持ちするパンを作る事に川崎さんは必死で取り組んでいた。

焼きたては最後の一押しになる

 「以前は焼きたての状態で出しても、すぐに食べてもらえないのではという思いもあり、翌日食べても美味しい商品にしなければという考えのほうが強い状態でした」(川崎さん)
 同店は2006年のオープン後から3〜4年位は、売れ行きが伸びない厳しい時期が続いていた。そのため生地に自家培養の小麦酵母を使用するなどし、同店独自の味を作り上げた結果、ちょっとずつ食パン類を中心に売り上げが伸び始めた。
 ちょうどその頃、川崎さんは思わぬ気づきを得たという。
 「ベーカリー関係の展示会で、一定の規模のベーカリーでは、焼きたてである事の演出が巧みに行われていることを知りました。そういった店では、『焼きたてです』といった顧客への呼びかけがしっかり行われていて、同時に売場で焼きたてである事を伝えるポップが何種類か分けてつけられていた事に驚かされました」(川崎さん)
 実は、川崎さんは、売り上げが伸び、結果的に焼きたてや作りたての商品を頻繁に出せるようになってからも、その事を伝えるような販促に力を入れる事は、その時点ではしていなかったのだ。
 そこで大規模店を中心に行われているこうした類の販促を同店でも取り入れる事で、一定の効果があるのではと考えたのだという。
 ただし、売場の「焼きたて」のポップは同店の雰囲気にはあまり調和しないように思えたため、中央の平台など一部の場所の商品のみに添えることにした。
 一方で、大きく変えたのは販売員による「焼きたて」の声かけを徹底させることだった。そして、それ一つで全体的にさらに売り上げが伸びるようになったという。 「例えば、店にお客さまが入ってきたときに、並んでいる商品が焼きたてだったとしたら、そのこと自体がお客様の購買意欲を大きく掻き立てます。購入を迷っている人には、最後の一押しにもなります。仮にその場ですぐ食べるのではなくても、焼きたての商品がお客様の視覚や嗅覚に与える影響は大きいのだと気付きました」(川崎さん)

「国産黒毛和牛のカレーパン」(税抜190円)
東京・八王子市のベーカリー「ドゥエトゥレ」
1日中、焼きたてが頻繁に並ぶ売場の様子
残ってしまったものは翌日3&#12316;4割引にして販売するなど、ロス対策もしている
ハード系の商品もドイツ製のオーブンを導入してから、外側はパリッと、中は柔らかくしっとりとした感じに焼けるようになった
左からコンベクションオーブン、ドイツ製のオーブン
流れに乗る事で焼きたてを出せる

 商品の回転が速くなれば、さらに焼きたての商品を出しやすい好循環が生まれてくる。同店でもある程度の流れに乗れるようになった事が大きいと川崎さんは見ている。
 「やっぱり食パンが売れるようになってきたことが大きいですが、その事で全体の売り上げが伸び、スタッフの数を増やす事ができたこと、それから食パンと同じ生地を使った菓子パンも同時進行で作る事が出来るようになったことで、焼きたて、作りたての商品が増えていきました」(川崎さん)
 現在同店では、製造スタッフを常時4人以上揃えている。ただ、川崎さんは「大規模店並みに焼きたてを頻繁に出すためには、販売も含めて常時10人以上いないと厳しいですね。そのためにはまず売れ行きを伸ばさなければなりません。焼きたてである事が先にくるのは難しいと思います」という。
 実は同店では夕方の閉店間際であっても売場を閑散とさせないため、夕方は午前中に出しているものとは別の特別商品の焼成を、食パンや菓子パンで使われていた生地の残りを冷蔵していたものを使って行う。それでも残ってしまったものは翌日3〜4割引にして販売する。こうしたロス対策を行う事で、常に作りたての商品がある売場を作ることが可能になっている。
 また、7年前買い換えたドイツ製のオーブンがさらに焼きたて感を増長し、「外側はパリッと、中は柔らかくしっとりとした感じに焼けるようになった」(川崎さん)という。
 その約1年後にはコンベクションオーブンを導入した事で、食パンの焼成と並行する形で、菓子パン、惣菜パンの焼成もしやすくなった。
 現在同店では食パン類全体で1日10回焼くうち、最もシンプルで最も売り上げが多い食パン「でか食」を1日4回、「特選生食パン」(1斤400円、半斤200円)を1日2回、「いちご食パン」(1斤390円、半斤195円)、「ずんだ食パン」(1斤320円、半斤160円)などの他の食パン類は売れ行きを見つつ、1日1〜2回焼く。
 他の商品はカレーパン以外は1〜2回ほどの焼成。全体的に食パン類の焼成が圧倒的に多い状況だ。川崎さんは修業時代に「食パンが売れるパン屋は強い」という事を恩師から聞いていた事もあり、食パンへの思い入れが強いという。
 売り上げ全体の3割を食パン類が占めるが、これは川崎さんの匠の力で独自の味のパンを作り上げた成果もあるが、流れに乗って焼きたての商品を出せるようになった影響も大きいようだ。

店名:ドゥエトゥレ
住所:〒193-0835 東京都八王子市千人町2-13-8 モナーク西八王子103
電話:042-682-5066
営業時間:午前7時〜午後7時
定休日:月曜、第1、第3、第5火曜
品揃え:80品目
スタッフ:製造常時4人、販売常時2人
店舗面積:売場4坪、厨房12坪
日商:平日30万円 土日40万円

原価計算女王
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