ベーカリーのインスタグラム - ブランスリー電子版

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特集/2019年2月号

2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。


ベーカリーのインスタグラム
 情報化社会の要となったSNSは、ベーカリーにとっても、なくてはならない販促ツールとなっている。中でも写真が中心のインスタグラムは、よりダイレクトに顧客の食欲を刺激できるツールとして注目される。



なんとかプレッソ
左は店長の小山翔五さん、右は同店のパンを作る松田圭司さん
「なんとかプレッソ」の外観。同じ建物の3階に、カフェ「パンとエスプレッソと自由形」がある
「時間出しコーヒー」を抽出する風景も、インスタグラムによく投稿される
フォロワー数が一気に増えるきっかけを作った「ロイヤルミルクコーヒー」(税込400円)などのボトル入りドリンク
パンの並ぶ台は、天井と床からワイヤーで支え、宙に浮いたように見える造り。トングは一つひとつ色や形が異なり、壁にかけてある
インスタ映えする場所が随所にある店内

 「今はインスタの時代だと思っているので、力を入れています」
 こう話すのは、東京・目黒区の自由が丘にあるベーカリー「なんとかプレッソ」の店長を務める小山翔五さん。
 同店がオープンした、2017年10月はちょうど、SNSのインスタグラムに投稿する写真の高評価を狙い、写真の見栄えを良くする「インスタ映え」という言葉も流行り出すほど、インスタグラム利用者が急増した頃だ。
 「店舗の内装も、『インスタ映え』できるような造りにしています。実際、かなりのお客様が、購入された商品を手に持って、店内を見渡しながら、見栄えのするような場所を背景に選んで、撮影していかれます」(小山さん)
 店内は、「インスタ映え」する写真を撮りたくなるような、遊び心たっぷりの造りとなっている。
 例えば、特注品で一つひとつ形や色が異なるトングは、壁面にかけてオブジェのように飾っていたり、パンを列している木製のトレーは、天井と床からワイヤーで支え、まるで宙に浮いているかのように見せるなど、感性が刺激されるような工夫が施されている。
 また、同店はパンだけでなく、エスプレッソやコーヒー、お湯ではなく水で時間をかけて専用の器具で抽出する「時間出しコーヒー」などのドリンクも、売りにしているのだが、その「時間出しコーヒー」を抽出する専用の器具を、客の目に入る場所に設置し、抽出する過程も、楽しんでもらえるようにしている。
 「かなり大きな器具で迫力がありますし、一滴ずつポタポタとコーヒーが抽出されていく様子は、なかなか珍しい光景だと思います。ですので、その光景の画像が、インスタグラムに投稿されることがよくあります。そのおかげもあり、当店がパンだけでなく、コーヒーもおいしい店だというイメージが、浸透しているのではないかと思います」(小山さん)
 同店があるのは、商業ビルの1階だが、同ビルの3階には、同店のパンが楽しめるカフェ「パンとエスプレッソと自由形」と、パンを製造する厨房がある。小山さんは同カフェの店長も務める。
 「3階のカフェは、浮遊感をテーマに、窓や壁、照明などの各箇所に手作りで、テーマに合わせたデザインになるような装飾を施しています」(小山さん)
 厨房とカフェスペースを隔てる壁は、真っ白で、厨房の中が見えるように付けられた窓ガラスは、不規則な曲線でくり抜かれたようなデザインだ。空の上の雲の中にいるような、まさに浮遊感を感じさせる。
 照明のシェードも、太陽や月、星など、空がモチーフとなったイラストが、一つひとつ異なるように手描きされていたり、壁面の一部は、青い空や雲などを思わせる青系のタイルで、細かく装飾されていたりする。
 「ほとんどのお客様が、目の前に注文したドリンクや料理が運ばれてくると、まず撮影されます。そのまま席で撮影されるだけでなく、ご自分で背景として選んだ好きな場所まで運んでから、撮影する方も少なくありません。周りに置いてある砂糖の入った容器を撮影小物として使ったりして、コーディネートして楽しみながら撮影されています」(小山さん)



左は一番人気の食パン「ムー」(税込300円)、右は国産小麦を使用した食パン「ムー自由形」(税込400円)。「ムー自由形」は姉妹店にはない同店限定商品
食パン「ムー」を使って作る「ムーのティラミス」(税込500円)と、アイスの「カプチーノ」(税込550円)の組み合わせでインスタグラムに投稿する客が多い
「なとかプレッソ」のインスタグラムのトップページ。1月現在フォロワー数は約
5500人となっている
人気商品がインスタの投稿でさらに人気に

 インスタグラムのフォロワー数は順調に伸びており、1月現在、1階のベーカリー「なんとかプレッソ」は約5500人。3階のカフェ「パンとエスプレッソと自由形」は、同ベーカリーより開店がひと月遅かったこともあり、約3700人となっている。
 「2店舗とも、インスタグラムに投稿する写真の多くが、新商品の紹介です。ベーカリーの方が新商品を出す頻度が高いので、必然的に投稿数が多くなっているのですが、それが、ベーカリーのフォロワー数の方が多くなっている主な理由だと思います」(小山さん)
 また、パンの焼き上がり時間や商品の在庫などの確認に、インスタグラムが役立っているという。
 「当店の投稿に対して、お客様から『このパンの焼き上がりは何時頃ですか』というような質問を受け、タイムラグはありますが、返答させてもらうことがあります。また、売り切れてしまうことの多い人気の食パン『ムー』(税込300円)については、在庫の有無をインスタグラムに投稿することがあります。渋谷区の表参道にある姉妹店『パンとエスプレッソ』では売り切れで、当店にはまだあるという場合、その情報をインスタグラムで知って、当店にわざわざ買いに来てくださるお客様もいらっしゃいます」(小山さん)
 「ムー」は、たっぷり使用したバターの風味が豊かな食パンだ。そして3階のカフェの人気メニューが、この「ムー」を使って作る「ムーのティラミス」(税込500円)。多くの人が、アイスの「カプチーノ」(税込550円)と合わせて注文し、撮影する。「ムーのティラミス」とアイスの「カプチーノ」が並ぶ画像は、インスタグラム上でもはや、お決まりの風景として、かなりの投稿数を誇っている。
 「牛乳にこだわってクリーミーに泡立てた『カプチーノ』は、『飲むティラミス』と表現できそうな見た目で、『ムーのティラミス』と並べると、異なるタイプのティラミスが二つ並んでいるような面白さを感じます。その面白さが、インスタグラムに投稿する人の数を増やし、次はその投稿を見た方が来店して同じように投稿してくださるという、循環が生まれるのだと思います」(小山さん)



「ロイヤルミルクコーヒー」と、3階のカフェ「パンとエスプレッソと自由形」の店内
人気商品の食パン「ムー」の焼き上がりを伝える投稿
営業時間の変更は店頭の貼り紙より、インスタグラムで伝えると効果的だという
店舗の黒い看板を背景に選び、商品を引き立てる
斬新な見た目がフォロワーを増やす

 これまで最も反響の多かったインスタグラムの投稿は、一昨年の冬に新発売した「ロイヤルミルクコーヒー」(税込400円)の画像だ。この投稿を機に、フォロワー数が一気に1500人ほど増えたという。
 「当店は自由が丘という場所柄、一眼レフを持って街歩きをする人や、新しいもの好きの若い女性の利用が多いので、斬新な見た目の『ロイヤルミルクコーヒー』の画像は、ちょうど受けたのだと思います」(小山さん)
 「ロイヤルミルクコーヒー」は、「時間出しコーヒー」を使用し、生クリームを入れて濃厚な味わいに仕上げたという独自性の高い味であることはもとより、一見おしゃれな化粧品のように見えるボトル入りの見た目が、同店の主となる客層を魅了したのだ。
 「常連の方の多くが、フォローしてくださっている実感があるので、営業時間の変更といった重要なお知らせも、インスタグラムでお伝えするようにしています。店頭に貼り紙をするよりも、効果的な気がしています」(小山さん)
 多くのフォロワーを獲得できたことによって、顧客への連絡手段として活用できるまでになった。そして今後、新たな使い方も試していきたいという。
 「カフェで、順番待ちを余儀なくされるお客様に申し訳ない気持ちがあるので、お待たせしている間に楽しめるよう、インスタグラムの投稿画像を使ったフリーペーパーなどを作ってみようかと考えています」(小山さん) 

SHOP DATA
店名:なんとかプレッソ
住所:〒152−0035 東京都目黒区自由が丘2‐9‐6
電話:03‐5701‐0508
営業時間:午前10時〜午後7時
定休日:なし
品揃え:パン約30品目
店舗面積:厨房約6.5坪、売り場約15坪
スタッフ:製造常時2人、販売常時2人
日商:平日約10万円、土日祝日約15万円



トロパントウキョウ
坂口公美さん(左)、シェフの田中真司さん
池尻大橋駅前の商店街の中にある「トロパントウキョウ」
「トロパントウキョウ」店内の様子
店舗から徒歩数分のところにある工場には立派なコンベクションオーブンが2台設置されていた
仕事の合間に更新でき続けやすい

 東京・目黒区、東急田園都市線・池尻大橋駅前の商店街の中にあるベーカリー「トロパントウキョウ」で、入社7年目を迎える坂口公美(ひろみ)さんは、同店のシェフである田中真司さんからすすめられ、昨年6月頃から店のインスタグラム更新の仕事を任されるようになった。
 それまではスマートフォンを持ってはいたものの電話やメールをするくらいで、インスタグラムはおろかフェイスブックやLINEも使った事がなかったという坂口さん。ただ写真を撮るのは好きだった。
 「写真に簡単なコメントを入れるだけなので、インスタグラムは仕事の合間などに比較的簡単に更新できます。実は私は何か物事を始めても三日坊主で終わってしまう事が多く悩んでいたのですが、ブログなどと比べると続けやすいかなと思いました」(坂口さん)
 同店はパン職人として製造の仕事のみに専念するシェフの田中さんと経営業務を一手に引き受ける上野将人さんが手を組む形で2009年にオープンしたベーカリー。根っからの職人気質の田中さんの生み出すパンは品質面で妥協がなく独自のものがあることから業界内外で注目されており、写真を通じた情報発信は遠方に住む同店のファンにとって必要だったという。
 「店の情報をもっと外部に発信してほしいという声は根強くありましたね」(坂口さん)
 坂口さんがインスタグラムでアップする写真で一番多くを占めるのは「本日パン」を含む新作や試作品を撮影したものだ。今日どんなパンが出るかなど、毎日通っている常連客でないとわからないような新作や期間限定商品などの情報を、インスタグラムの写真を通じて発信している。
 坂口さんが撮る写真は、パンによっては角度を斜めにして撮ったり、「Just baked!」「Strawberry」といった英語の文字を大きく書き込んでいるなどの特徴がある。
 「角度や距離を工夫して、なるべくパンのおいしい部分が見えるように撮っています。コメント欄には素材をどのように使っているかなどシェフのこだわりを伝える一方で、どんなものと一緒に食べるとおいしいかを伝えるなど、食べ方の提案もしっかりとするようにしていますね」(坂口さん)
 その結果、フォロー数が半年前は600台だったのが、今では800台後半まで増えた。
 実際にどれくらいどのような効果が出ているかは計れないので難しいところだが、「インスタグラムをきっかけに色々な人とのつながりが増えてきた、という事は感じる」(坂口さん)という。写真を見て北海道からわざわざ来たという人もいた。
 また他の店や知り合いのインスタグラムもちょっとずつ見て、参考にするようになってきた。

「トロパントウキョウ」のインスタグラムのトップページ
梅ジャムのピザ「コンフィチュールピザUME」。素材として使用した福井の「黄金の梅」を紹介している
暑い日のビールに合う「トマトブラックオリーブのフガス」を「本日パン」としてアップ
2018年7月31日更新分ではシェフがコンベクションオーブンで食パンやハード系のパンを焼き上げている姿をアップした
2018年7月27日更新分ではコンベクションオーブンを使用して焼いたパンドミについて紹介
コンベクションでの作業工程をアップ

 またインスタグラムでは、新作や試作品の写真のほか、既存の主力品を改めて紹介するといった事にも力を入れている。
 実は同店は約1年半前にコンベクションオーブンを導入し、ハード系のパンを焼くという挑戦を行っている。購入したメーカー側から頼まれ、展示会の企画で、田中シェフがデモンストレーションを行った事がきっかけで、それ以来、コンベクションオーブンの使用にはかなり力を入れ、その様子を積極的に外部へ発信している。
 そのためインスタグラム上でも既存の製品をコンベクションオーブンで改めて焼いたという試みを紹介し、そして改めてその商品の魅力についてクローズアップ。作っている工程もアップする事で画面いっぱいでおいしさと香ばしさを伝えている。
 従来はハード系や山型食パンの焼成には不向きとされてきたコンベクションだが、メーカー側からその定説を覆して欲しいと依頼され、前述の展示会でのデモンストレーションに協力。結果は好評で、コンベクションオーブンを導入してハード系を焼く動きが広まってきているという。現在同店では主力品の多くをそのコンベクションオーブンで焼成するようになっている。
 そうした動きもあって、2018年7月31日に更新したインスタグラムでは店から徒歩2〜3分の所にある工場を紹介。同店の食パンやハード系のパンを朝からシェフがコンベクションオーブンで焼き上げている姿をアップした。「石窯仕様のようにゆっくり中まで熱を伝えて焼き上げていきます。石窯の様な輻射熱の遠赤外線効果で旨味成分のグルタミン酸も増えて美味しさがアップ」とのコメントを掲載している。
  また7月27日更新分では「こちらの山食パンはコンベクションオーブンで焼いたもので平窯だと型1個分スペースを空けないと側面の焼き色がキレイに出ないのですがコンベクションオーブンだと指1〜2本分のスペースさえあればこんなにキレイな焼き色がつくんです」とコメント。
 こうした活動を発信することで商品がさらにおいしくなっていっている事が伝わればいいと坂口さんは考えている。 

原価計算女王
原価計算女王
ブラックココアが入った黒食パン「トロクロ」もインタグラムに載せれば、強いインパクトで迫ってくる
年末のクリスマスイベントの報告。2018年は雑貨やケーキを販売する会社と3社合同でケータリングイベントを実施した
「オススメのパン」として人気の「クルミパン」を紹介。ルッコラ、生ハム、カマンベールチーズをサンドした食べ方も提案
「いちじくのカンパーニュ」は素材のドライいちじくと栗の甘露煮を紹介し、チーズや生ハムと合わせた食べ方も紹介
パン好きの人達とつながっていく

 また、年末のクリスマスイベントなど、インスタグラム上でつながる事で、より盛り上げやすい企画もある。2018年は雑貨やケーキを販売する会社と3社合同でケータリングイベントを行ったが、インスタグラム上でも報告する事でまた新たなつながりができればと考えている。
 「キーワードにどういったものを入れるかによって、検索される頻度がだいぶ変わるようですね」と坂口さん。効果的だったのは「東京パン屋」「パン好き」「パン好きと繋がりたい」など。
 「インスタグラムを見てくれた企業の開発担当者から連絡があったり、卸での受注につながったりと、思わぬ方面でつながりが広がる事もあります」(坂口さん)
 ただ忙しい中で継続していく事はそれなりに手間がかかる事でもある。
 「工場で撮った写真を家で見てコメントを入れてアップするという感じで、だいたい1更新につき30分くらいの作業ですが、なるべく肩の力を抜いてできる範囲でやると良いと思います。どれ位の効果が出ているかという事にこだわりすぎず、自分たちの興味や関心が広がる程度で続ける位がちょうど良いかも知れません」(坂口さん)
 また常に気をつけている事としては、コメントはわかりやすく伝えるため、長すぎず、写真を見ただけではわからない事、伝えきれない事に絞って入れている。
 今後については動画のアップも徐々に増やしていければと考えているが、そちらはまだ始めたばかりなので、反響を見つつ、段々進めていくつもりだという。

SHOP DATA
店名:TOLOPAN TOKYO(トロパントウキョウ)
住所:〒153−0043東京都目黒区東山3−14−3
電話:03−3794−7106
営業時間:午前7時〜午後7時
定休日:火曜、第1、3水曜
品揃え:約70品目
スタッフ:製造11人、販売9人


2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。

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