6回連載(最終回)
橋本泰之 1956年横浜生まれ。新宿の専門学校を卒業後、銀座レストランみかわやに就職。その後センチュリーフーズ、モンタボーなどを経て、1996〜2001年、東京製菓学校教師。2001年10月、有限会社レーヴを設立、現在に至る。
売れている店は何が違うのか 最終回の今回は、冷蔵法について話していきたいと思います。
現在私は、コンサルタントとして色々な店舗に行き、メーカーでも開発の仕事をしています。
売れる要素は何か? これはたぶん永遠のテーマだと思います。しかし売れている店には共通点があります。
今ではコンビニでもホールセールのベーカリーでも、製品は本当によくなってきています。
焼きたてベーカリーでアンパンを買って食べても、コンビニやホールセールのパンの方が美味しいと感じることもあると思います。(皆さんのお店は違うと思いますが)
売れているお店は何が違うのでしょうか? もう一度ご自分のお店の製品を見直す時期に来ているのではないでしょうか。
心を込めてパンを作り、販売する今夏の暑い時期に「売れない」と言っているだけか、何か秋のために行動するのかでは、10月以降の売り上げに大きな差が出てくると思います。立地や色々な条件もありますが、売れている店は、基本的にはいかに美味しいパンを作るかを考えていると思います。
美味しいパンを作ったら、残したくないので、接客もしっかりとしてきます。お客様が楽しく買い物ができ、気分よく帰れることが大切です。暑い夏の時期、特に30℃を超える昼間に出かけてくださるお客様は、本当にありがたいと思います。お店で冷えたお水や麦茶などを、サービスしたらどうですか? 私が客の立場ならうれしくて、もう一度行こうと思います。これが顧客満足なのではないかと思っています。
こんなことは、実際に行なっている店はたくさんありますが、継続が大切です。笑顔の接客は、秋口からのお客様のリピートを、本当に増やすと思います。少し話がそれましたが、お客様のために何をしているかが大切で、しかも強制ではなく、お客様を思う心からできるかが問題だと思います。
その上で、いかに美味しい製品を作るかです。流れ作業ではなく、一品ずつ確実に作り、暑い中を来店してくれるお客様を思って心を込めて作る――そうすれば、おのずと製品もよくなってきます。
販売量が減る夏だからこそ、少ない量を頻繁に焼き上げ (細かく焼くことによりロスも減ります) 、お店をきれいにする、お客様との会話を増やして試食販売をする、パン教室などのイベントを計画する――夏の間にやることはたくさんあると思います。
おいしいパンを、客が望む時にそれでは本題に入ります。私が今店舗で行っていることは、まず美味しいパンを作ることです。言うのは簡単なことですが、意外にこれができていないことが多いようです。以前に工程や発酵について書いたときにも触れましたが、お客様優先の工程ではなく、店優先の工程になっているからです。
美味しいパンをお客様が望んでいる時間に焼き上げることが大事です。調理の具材を自家製にしたり、既製品でも少し手を加えたりすれば、オリジナリティーが出せます。
こうしたこをするだけでもお店の雰囲気は変わります。自分が愛着を持って作ると、販売も気になります。売れる要因は、これが約70%くらいです。残りの30%はお店の特徴を出すことです。そのためにも短時間で美味しいパンを作ることが大切だと考えて、冷蔵法に行き着きました。
発酵を充分とりしかも効率化発酵について書いた時に、でんぷんの酵素による分解のメカニズムについて話しました。でんぷんの分解をするには、最低でも2時間以上の発酵が必要です。これをいかに短時間で行なって焼き上げるかを考えると、冷蔵法に行き着きます。
朝の忙しい時間に仕込みの数を減らして暇な夕方の時間に、仕込みを行なうことによって、作業の分散化が可能になるので、朝から従業員が全員出勤しなくてすみ、二交代制にできます。
工程について書いたときに指摘したように、二交代制にすることにより、焼成の分散化ができ、夕方にも焼きたてが出るようになります。
中種冷蔵法が失敗が最も少ない冷蔵法には、中種法、ストレート法、成形冷蔵で行なう方法の3つがありますが、中種法が失敗もなく比較的簡単にできて、よいと思います。
普通の中種を作る要領で仕込みますが、その際にモルトを必ず配合してください。モルトエキスは精選した大麦を発芽させて糖化したもので、本来小麦粉の中に少ない、αアミラーゼが多く入っていて、これがでんぷんを分解します。そして、そのほかの酵素により、ブドウ糖へと分解されていきます。
中種は、捏上温度、イースト量、仕込む量にもよりますが、冷蔵発酵の前に、前発酵を何分とるかが重要です。私は標準の中種法で仕込んだあと、ビニールにサラダ油をひき、中種を入れて、前発酵を30分とってから、手で薄く生地を伸ばして冷凍天板の上にのせ、3℃のドウコンに入れて冷蔵発酵をとっています。翌日には20℃の低温発酵の状態になるようにしておきます。
生地を開いてグルテンを確認してください。その時にグルテンの網目構造ができていて、酸臭がなくほのかな甘い香りが出ていれば大丈夫です。
弱い酸臭がするようでは発酵が進みすぎなので、前発酵を抑えた方がいいと思います。
作業環境や冷蔵庫によっても(特に冷蔵庫は霜取りがあるので)、ご自分のお店に合った温度帯を見つけるとよいと思います。
本捏後は30分くらいで分割ができ、中種法のよさと、ストレート法のよさを合わせ持ったパンができます。長時間発酵の製品が、朝仕込んで30分くらいの発酵で作れますので、朝の出勤時間もゆっくりになります。
ストレート法はベンチタイム長めに冷蔵ストレート法は、完全に生地を作ってしまうので、前発酵はあまりとらない方がいいと思います。条件によっても違いますが、翌朝分割後のベンチタイムを長く取るのが理想的です。
配合を載せますので参考にしてください。フランスパンについても成形の段階で冷蔵庫に入れて発酵させ、翌朝焼き上げると、本当に甘い香りの製品になります。
今何が求められているかを考えて、ほかの店でできないことを行い、愛情と手間をかけて仕上げることが大切です。
今回まで半年間、書かせてもらいましたが、内容をもう一度見直して、考えてみてください。少なからずいい結果が出ると思います。
コンビニやホールセールのパンと比べるのではなく、ご自分のお店だけの価値のあるパンを作ってください。あっという間の半年間でした。ありがとうございました。