「道具が消える境地」に収れんする - 普通のパン屋さんが普通に頑張れば繁盛出来る話 - ブランスリー電子版

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連載/2018年6月号

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「道具が消える境地」に収れんする - 普通のパン屋さんが普通に頑張れば繁盛出来る話
 今回の特集は、製パン機械とパン職人の関わり方にスポットを当てた企画で、オーブンとドウコンをとり上げた。
 リテールベーカリーの場合は、製パン機械は、「機械」というよりは、むしろ「道具」に近く、パン職人の触覚や嗅覚、視覚の延長上にあって、パン職人の思いをパン生地にしっかりと伝え、パン生地をやさしく、時には厳しく扱う役割を担っている。
 例えば、オーブンは、パンを最終的に決定付ける工程なので、多くのパン職人がこだわるところだ。今回の特集でも3人のパン職人に、オーブンとの関わり方について聞いている。
 パン職人には、「自分はこういうパンを焼きたい」という理想がある。その理想は、多くの場合、それまでに彼が見たり食べたりしたパンの数々や、出会ったパン職人たちに、触発された結果、徐々に形作られて来たものだ。
 「自分も大勢の人たちを一瞬で笑顔にするようなパンを作りたい」「自分もあの人のような魅力的なブーランジェになりたい」といった強い思いを抱いて、パン作りに向き合い続けていると、道具と一体になる瞬間がある。自分とパン生地の間に入って、自分の命令にしたがってパン生地に対して様々なアクションを起こしてくれるオーブンやミキサーなどの存在が消えるのだ。オーブンがパンを焼いているはずなのに、オーブンの存在が感じられなくなり、自分とパン生地だけが存在する世界が見えてくるのだという。
 ある講習会で、講師のパン職人は、「上と下から熱が加えられる箱さえあれば、どんなパンでも焼いてみせる」と言っていた。このパン職人はおそらく、『道具が消える境地」にまで到達している人なのかも知れない。
 様々な道具との付き合いが長く深くなってくると、新たな道具との出合いが、パン職人の新境地を開くこともある。あるパン職人は、石窯で焼く食パンの耳の薄さとその食感に驚き、ある菓子職人は、栗をまるごと包んで石窯で焼き上げる饅頭の栗のほくほく感に驚嘆したという。
 道具は、職人が操るものだが、優れた道具は、職人の感性を触発し、職人に様々な気付きをもたらす。優れた道具は、パン職人の人生そのものを劇的に変えてしまうことすらあるのだ。
 今回取材したパン職人のオーブンとの関わり方は様々だが、共通しているのはやはり、いいパンを焼きたいという強い意志だ。すべての原点はそこにある。
 一人のパン職人は、中古のオーブンから使い始め、6年間使用したあと、ドイツ製の新品のオーブンに買いかえたが、その焼成能力の違いに驚いたという。しかし、その違いが実感できたのは、それまで中古のオーブンと真摯に向き合い、理想のパンを焼くための試行錯誤を重ねてきたからに他ならない。
 別のパン職人は、開業と同時に、石窯とコンベクションオーブンを導入した。そして、それらのメリットとデメリットへの理解が深まっていくにつれ、店のオペレーションは、どんどんと理想的な形に進化し続けていった。
 それぞれに、価値観も使う道具も違うが、理想とするパンを実現するための悪戦苦闘を続けているうちに、巨大な渦巻きが中心に向かって収れんするように、中心に存在する「道具が消える境地」に向かって、同じように進んでいるのかも知れない。(RO)







原価計算女王
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