専門店に学ぶ(食パン編) - ブランスリー電子版

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特集/2018年4月号

2023年11月18日から、発行から1年を経過した記事は、会員の方以外にも全文が公開される仕様になりました。


専門店に学ぶ(食パン編)




ネット通販の専門店が実店舗として開業 - ブレッド コード バイ ルセット
製造責任者の関根兼人さん(中央)と、販売スタッフ
元八百屋の建物を古民家風に改装した「ブレッド コード バイ ルセット」の店舗
「山型食パン(プレーン)」(税抜800円)
「山型食パン(プレーン)」の断面
「角型食パン(プレーン)」(税抜800円)
「角型食パン(プレーン)」の断面
食パンで日本を代表するパンを目指す

 食パン専門店「ブレッド コード バイ ルセット」は、食パンを主に扱うネット通販の「最高級パン専門店 Recette(ルセット)」を運営する会社「イコールコンディション」が2015年7月、実店舗として開業した。
 「高価格帯でハレの日用の『ルセット』の食パンに対し、リーズナブルな価格で、毎日食べていただけるような食パンを提供したいという思いから、『ブレッド コード バイ ルセット』を開業しました」(広報担当者)
 同店があるのは、神奈川県鎌倉市だ。
 「日本の製パン技術は世界一という呼び声が高く、なかでも食パンは、海外でも評価の高いアイテムです。その食パンで、日本を代表するパン作りを目指しています。鎌倉に決めたのは、外国人観光客にも人気の場所である点からです。また、日本の昔の風情が感じられるような、古くから続く住宅地の立地にすることで、日本のパンということを強く打ち出していけるのではと思っています」(広報担当者)
 店舗は、最寄りの江ノ島電鉄長谷駅から徒歩5分、元八百屋の建物を古民家風に改装した。周辺の雰囲気に溶け込むような佇まいだ。
 入り口の引き戸は常に開いた状態になっており、暖簾をくぐると、レジカウンターが一台ある。客一人、販売員一人だけが入れる1坪ほどの大きさで、ここで商品と代金のやり取りをする。2番目以降の客は、店舗に沿うようにして並ぶようになっている。午後2時頃から、5時の閉店時間までが特に、客足が途切れず、並ぶ客の列が閑静な住宅地を活気付かせる。
 「季節や天候によって異なりますが、春夏は午前中からたくさんのお客様がいらっしゃいます。天候の悪いときは、客足が減りますが、鎌倉の紫陽花が見ごろの季節は、雨でも構わず多くの方が来店されます。観光地鎌倉ならではの特殊性がありますね」(製造責任者の関根兼人さん)
 土日や観光シーズンなどはハイペースで売れて行く。すべて売れてしまい、次の焼き上がりまで1時間ほど商品がない状態となり、店頭に詫び状を貼り出すこともあるという。
 「オーブンで一度に焼ける量も決まっているので、どうしようもないというのが本音です。ですが、裏手に直営カフェがあるので、そこで当店の食パンを使ったメニューを、代わりに楽しんで行かれる方もいらっしゃいます」(関根さん)



「角型食パン(リッチ)」(税抜880円)
「角型食パン(リッチ)」の断面
「鎌倉食パン」(税抜570円)
「鎌倉食パン」の断面
「ミニ食パン(プレーン)」(税抜250円)
「ミニ食パン(プレーン)」の断面
用途と路線の違う商品を開発して品目数を増やす

 商品は食パンのみで、時間限定販売のものを含めて現在7種類揃う。開業当初から販売している商品は、3種類あり、「山型食パン(プレーン)」(税抜800円)、「角型食パン(プレーン)」(税抜800円)、「角型食パン(リッチ)」(税抜880円)だ。プレーンとリッチの大きな違いは、生地にバターを練りこんでいるか否かだ。
 「最初は3種類だけだったのですが、買ってすぐその場で焼き立てを食べたいというお客様からの要望があって、食べきりの小さいサイズの『ミニ食パン』を作りました。生地量は通常サイズの約8分の1で、これを二つの山のある山型に焼き上げます。二つの山の間、ちょうど真ん中のところで手で割って食べやすい形になっています。プレーンとリッチの2種類があり、それぞれ通常サイズと同じ生地を使っています。『ミニ食パン』は、食べ歩き用として、若い世代に人気があります」(関根さん)
 午後2時からの時間限定販売の商品は2種類あり、同店が面する通りである「星の井通り」から名付けた「星の井食パン」(税抜630円)と、「鎌倉食パン」(税抜570円)だ。「山型食パン(プレーン)」などの開業当初からの商品とは、路線の違う商品だという。
 「地元の名前を付けた食パンを作りたいと開発し、開業から半年後に発売開始となりました。最初からある『山型食パン(プレーン)』などは、トーストやサンドイッチに適した味ですが、『星の井食パン』と『鎌倉食パン』は、何もしないでそのまま食べるのが向いている、ふわふわした食感と甘めな味です。対照的で、路線の違う商品ですね」(関根さん)



厨房も製造スタッフが2人で作業するほどの限られたスペースとなっている
店内からガラス越しに、厨房内の棚に並ぶ食パンが見える
店内は客が一人入れるほどのスペース」
店舗沿いに裏手に進むと、同店の食パンを使用したメニューがある直営カフェ(左奥)がある
国産の材料を使うことで生まれる独自性

 7種類すべての食パンの材料は、粉が北海道産「キタノカオリ」、酵母は秋田県産白神こだま酵母、塩は大島産自然海塩、砂糖は喜界島産サトウキビ糖、バターは国産バターと決まっており、客に渡すパンフレットにも明記している。
 「通販の『ルセット』でもそうであるように、当社の特徴は、こだわりを追求することです。世界に通じる日本独自のパンを作るという当店のコンセプトに基づき、材料はすべて国産にこだわっています」(広報担当者)
 同店の食パンのレシピ開発にあたり、国産の材料を使うということが、前提としてあった。
 「レシピの開発は、まず、使う材料が決まっているという段階からのスタートでしたので、『キタノカオリ』の持ち味をどうやって活かすかを考えました。『キタノカオリ』は、うま味ともっちり感のあるパンができるという、国産小麦の特徴を強く持っている小麦です。ただ、『キタノカオリ』だけでは、引きが強くなってしまうので、通常は外国産とブレンドして使います。ですが、その引きの強さを、逆に、ストレートに出してみてはどうかと考えました」(広報担当者)
 こうして、引きの強いもっちりとした食感が特徴の「山型食パン(プレーン)」と「角型食パン(プレーン)」、「角型食パン(リッチ)」の3種類が誕生した。
 「この特徴は、今流行りの食感とは違うと思うのですが、それがかえって印象に残るような、独自性を持たせることに繋がると思います。また、引きが強いと、咀嚼回数が増えます。噛むごとに味が出てくるので、より味わっていただくことができると思います」(関根さん)
 この食感を出すために、通常2斤分の生地量を1・5斤の焼き型に入れて焼いる。
「生地量が多いので、焼き上がりも見た目より重くなります。お土産に複数購入される方はよく、持った瞬間、『重い』と驚かれますね」(関根さん)
 さらに、焼き型に塗るバターの量の多さにもこだわりがある。
 「中身のおいしさはもちろん、耳のおいしさにもこだわった食パンを作りたいという思いから、バターは、滴り落ちるほどたっぷりと、刷毛で塗っています。そうすることで、食感とバターの風味が良い耳に仕上がります」(関根さん)
 持てば重く、食べれば独自性の強い食感が楽しめるという同店の食パンは、購入した人に強い印象を残す。
 同店の開業には、「日常的に食べている食パンの価値を、底上げしていきたい」(広報担当者)という目的がある。その目的が叶うべく、同店のパンの印象の強さが、人々に、日常的に食べる食パンの魅力について改めて考えさせる機会を与えていくのだろう。

SHOP DATA
店名:ブレッド コード バイ ルセット
住所:〒248−0021 神奈川県鎌倉市坂ノ下22−3
電話番号:0467‐53‐7307
営業時間:午前10時〜午後5時
定休日:不定休
品揃え:7品目
スタッフ:製造常時1〜2人、販売常時1〜2人
店舗面積:厨房7坪、売り場1坪

食パン専門店であることは大きな魅力になる - クリスベーカリー
店長の木内雄介さん
東京都府中市の食パン専門店のベーカリー「クリスベーカリー」
「クリスベーカリー」のロゴキャラクター「C君」という可愛らしい食パンマークが描かれたドアや吊り看板
「クリスベーカリー」店内の様子。陳列棚に様々な食パンが整然と並んでいる
「クリスベーカリー」店内レジ付近の様子。白を貴重とした内装だ
厨房の様子
得意分野で喜んでもらう

 東京都府中市のベーカリー「クリスベーカリー」は2016年6月にオープンした開店2年目の食パン専門店だ。
 JR府中駅からバスで5、6分、最寄りのバス停「学園通郵便局」で降り、3分ほど大通り沿いを歩くと、後ろがマンションにつながった形の3階建ての建物の1階部分に、「天然酵母種パン」と文字を入れたのぼりや「Chris Bakery」と書かれた立て看板が正面入り口前に置かれた店舗の姿が見えてくる。白を基調とした清潔感あふれる外装が食パンの生地を彷彿させる店舗だ。店の前には丸い形の南欧風テイストのテーブルを囲んだ小さなテラス席が設置されている。
 そして同店のロゴキャラクター「C君」という可愛らしい食パンマークが描かれた真っ白いドアを開けると、そこにはやはり白を基調とした落ち着いた雰囲気の空間が広がっていた。香ばしいパンの香りが漂う。
 「色々な人に助けてもらいながら店をオープンし、厳しい事も多いですが、自分の目標からはぶれず続けていきたいですね」と同店の店長である木内雄介さんは話す。
 売り場を見ると、若干小ぶりではあるが、美しいシルエットを描きながらこんがり焼けた食パンが何種類かバランスよく並べられている。
 まず主力商品で最もスタンダードな食パンの「角食パン」(税別352円)が扉入ってすぐ見える先の中央部にあり、その隣には口どけの良い濃厚なミルク風味が特徴のプレミアム食パン「清」(税別482円)が独特の存在感を漂わせ陳列されている。現在ではこの「清」が同店の人気ナンバー1だという。
 また、「チーズ食パン」(税別399円)や、「レーズン食パン」(税別371円)、「クランベリーくるみ食パン」(税別389円)などのバラエティー商品も売り場に並び、食パン専門店らしい品揃えとなっている。
 また、バラエティー商品の一方で「ふすま食パン」(1斤税別389円)など健康志向の商品も。食パンの余り生地で作ったという「動物パン」シリーズやちょっとした菓子パンも隣で販売されている。聞けば子連れの母親らも多く来るので、子供が喜ぶように動物の形にしたのだという。
 「専門店の良さは、自分の得意分野でお客様の喜んでもらえるものを徹底的に出せる事だと思います。当店は立地的には人通りが少ない場所で厳しい条件ですが、バス停近くの住宅街に住むシニア層や主婦の方で毎日来てくれるリピーターを増やし、理解のあるお客様に助けられているという感じですね」(木内さん)

主力商品で最もスタンダードな食パンの「角食パン」(税別352円)
「角食パン」の断面
口どけの良い濃厚なミルク風味が特徴のプレミアム食パン「清」(税別482円)
「清」の断面
「ふすま食パン」(1斤・税別389円、半斤・税別195円)
「ふすま食パン」の断面
健康に配慮したものを届けたい

 同店の食パンの食感は一口目にはふんわり、しっとりしているが、食べ続けると微妙に粘性がある。もっちりとして、腹持ちも良い。この独特の食感にほんのりとした甘みが漂う感じが地元住民を中心としたファン層の心をとらえ、開店2年目ながら府中で評判の隠れ家的食パン専門店として徐々に広く知られるようになってきた。
 「催事やイベントなどに積極的に出店した影響もありますね。立地のデメリット部分を補いたくて、何とか人に知ってもらおう、口コミを広げてもらおうと努力しました」(木内さん)。
 同店の食パンはベースとなるレーズン酵母に果実や穀物から起こした2種類の酵母を合わせた計3種類の天然酵母を混ぜ合わせ使用。また木内さんが苦心のすえ生み出した、ポーリッシュ法と中種法を組み合わせた独自の発酵法を取り入れている。
 また素材や原材料の一つ一つには木内さんならではのこだわりがあり、まず小麦粉は北海道産小麦の粉を使用。「春よ恋」をベースに3種類の小麦粉を独自にブレンドしている。国産小麦にこだわるのは木内さん好みの風味が出せるというのもあるが、ポストハーベスト農薬を使用していないことからくる安心安全への強い気持ちがあるという。さらに砂糖は白砂糖の代わりに血糖値が上がらない稀少糖と精製度の粗い有機糖を使用、マーガリン、ショートニングは一切使用していない。
 「実は体に優しく健康に配慮した食品を届けたいという気持ちが核にあって、パン屋をオープンするきっかけとなりました」と木内さんは話す。
 その理由は、木内さんが実は十年以上前から心のケアを目的とした電話相談員活動をボランティアでしている事があるという。
 「そこへ電話してくる人達の話をよく聞くと、心だけではなく体の健康も害している事が多かったのですが、さらにもっとよく話を聞くと、食生活が荒れている事が原因として大きいと感じる事が多かったんです」(木内さん)
 食べるものを変える事で体も健康になれば心も安定するのでは、と強く感じた木内さんは、いつか食に携わる仕事をしたいとその頃から漠然と思うようになったという。

原価計算女王
原価計算女王
「チーズ食パン」(税別399円)
「クランベリーくるみ食パン」(税別389円)、
「レーズン食パン」(税別371円)
食パンの余り生地で作ったという「動物パン」シリーズ
サンドイッチも充実
壁に貼り出された「人気のパンTOP5」
専門店だから実現できる想い

 実は木内さんはもともと理系のシステムエンジニアで、パンも20代半ばまではほとんど食べた事がなかった。しかし、今から約10年前、友人から手作りのメロンパンをたまたまもらうことがあり、そのあまりのおいしさに感動したのだという。
 「それがきっかけでパンに興味を持ち食べるようになりました。合わせて電話相談員の活動などを通じて食に関する興味が高まっていた事もあり、約6年前に社会人をしながらパン作りの専門学校へ通い始めたんです」(木内さん)
 専門学校には1年ほど通い、そこで製パンの基本的な技術を身につける事ができたが、卒業後はシステムエンジニアの仕事を続けながら、主に自分で企画したパン教室やボランティアでの製パンの講師としての活動に励んだ。
 もともと人に教える事が好きで講師としての活動は楽しかったというが、木内さんの中にはいずれ自分の店を持ちたいという気持ちがずっとあった。意外な事に実はパンにこだわらず飲食に関連したものであれば何らかの形で店を出したいと考えたそうだが、結局、パン屋を選び、その中でも食パンの専門店を出す事にした。
 その理由について「やっぱり毎日食べられるものが健康を生み出す、とそう思ったからです。パンの中でも最も食べる頻度が高いのはやっぱり食パンですからね」と木内さん。
 そして当時たまたま、あるベーカリーの撤退跡地が居抜き物件として紹介される機会に恵まれた。中古だが設備が一式残されていて、内装費や家賃も予算内で割安に済む事がわかり2016年2月に視察、その後すぐ契約、内装工事を始め、商品の試作、開店の最終的な準備と急ピッチに進める事で、4カ月後の2016年6月には新店「クリスベーカリー」のオープンに至ったのだという。
 そして現在は開店2年目を迎え、まだ紆余曲折しながら忙しい日々を送る木内さんだが、食パン専門店に限らず「専門店」とPRする事には大きなメリットがあると話す。
 「今の世の中は情報が氾濫し過ぎて、逆に、本当に必要な情報を取捨選択する判断が難しくなっています。しかし、ある分野の専門と伝える事で、必要なものがそこにあるとはっきり示すことができます」と木内さんは考える。
 「ただ食パンはシンプルな分、味のごまかしもきかず、具材などで付加価値をつけられないため利益率は高くありません。専門店である事は厳しさもありますが、自分の中でこれだけは負けないと思うものを磨くことは大切だと感じます」(木内さん)
 事業を始める上で色々な障害があっても「大切なのは自分が何をしたいかという強い想い」だと木内さんは信じている。だからこれからもぶれず店を続けていくのだ、と熱い気持ちを語ってくれた。

壁に貼り出された「クリスベーカリー5つの特徴」
店名:クリスベーカリー
住所:〒183-0053 東京都府中市天神町3−16−2 パレススメールA1
電話:042−319−0147
営業時間:午前10時〜午後5時(売り切れ次第終了)
定休日:月曜、火曜
品揃え:約30品目
スタッフ:製造1人、販売1人(平日)、製造2人、販売2人(土日)
店舗面積:売場6坪、厨房11坪、テラス2席
日商:平均約6万円(別途催事で年間約
120万円の売上あり)


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