石窯ベーカリーの新展開 - ブランスリー電子版

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特集/2018年3月号

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石窯ベーカリーの新展開




石窯を冠につけた戦略は成長の原動力になった - 石窯パン工房KAMEYA
石窯から焼きたてのパンが取り出される様子
「石窯パン工房KAMEYA」に設置された石窯。ツジ・キカイの「クラシカ・ポンペイ」シリーズの商品。現在のものは4年半前に入れ替えた新機種
「石窯パン工房KAMEYA」店内の様子
東京・墨田区向島にある「石窯パン工房KAMEYA」の外観
店の外から見てちょうど石窯が置かれている場所に、石窯風の装飾がされている
 東京・墨田区向島にある「石窯パン工房KAMEYA」は4年半前の2013年9月に、それまで使っていた石窯を同じメーカーのもので新しい機種へ切り替えた。


店の心臓部である石窯を交換

 それまではガス式の石窯だったが、新しいタイプは電気式だった。メーカー側の努力で、新しい機種は簡単操作でより安定した品質のパンが焼成できるものになった、とすすめられ、交換に踏み切った。
 店名に「石窯」と入れる以上、石窯は同店にとって店の心臓部のような存在。入り口を入ってすぐ右側に置かれ、客の目にも馴染み深い石窯を交換するのは、店舗を大きくリニューアルするのと同じくらい同店にとっては一大事だった。
 同店は、東京メトロ半蔵門線や都営地下鉄浅草線などが乗り入れる押上駅から徒歩5分ほどの住宅街を通る大通り沿いに位置する。駅の逆側にかの有名な東京スカイツリーがあるが、こちら側は閑静な住宅街で、地域住民を主体とした人の流れが目立つ場所だ。
 同ベーカリーは、12年前の2005年10月に、同じ墨田区内にある本店である「かめぱん」の2号店として、この地にオープンした。
 同店と本店の「かめぱん」を運営する亀屋(本社=東京・墨田区)の社長である佐伯信郎さんは「半径500メートルの商圏のお客様が中心なので地域密着ですし、何かを始める際に重要なのは、常にお客様の声に耳を傾ける事で、お客様の反響の中に答えがあると思っています」と話す。
 そのため石窯を新しい機種へ切り替えるにあたっては、3日間の改装工事の後、1日のみ無料でテスト焼成したフランスパンを配布する日を作った。
 無料配布の結果、反響には手応えがあった。確かに新しい石窯は以前と比べて上火と下火の調整がしやすく焼きムラができにくい事もわかった。
 それまでの石窯は、焼成の際の注意事項を事細かにスタッフたちに伝えなければならなかったが、新しい石窯に変えてからはその手間も省けるようになったという。
 「石窯もメーカー側の努力で進化し、より良くなってきている。そう感じました」(佐伯さん)

単純に石窯パンの味と食感に惹かれた

 そもそも佐伯さんが石窯を使ったパンづくりに目覚めたのは12年前に遡る。ある製パン機械メーカーの講習会に行き、そこでそのメーカーの石窯オーブンを使ったパンを試食した。
 「外側がパリッとしていますが、中はもっちりと保湿性を感じる。単純においしくて感動し、こんなパンをお客様に食べて喜んで頂きたいと思いました」(佐伯さん)
 当時は佐伯さんの父がまだ社長職に就いていた時期だったが、佐伯さんも次期社長として新しく2号店を開店するという責任ある役目を任され、模索している最中だった。
 遠赤外線や蒸気の効果など原理的な事も聞かされたが、ただ単純にその味が忘れられず石窯に興味を持ったという。そして驚いたのは火力が強く早く焼けるためか、水分が飛ばないので、冷めてもおいしいことだった。また蓄熱性が高いためか、ハード系のパンなどは長く焼くと中にしっとり感が出てくる。
 「パン屋にとってはやっぱり、パン自体がおいしい、と言ってもらえる事が一番嬉しく感じます。だから思い切って石窯を入れ、『石窯』を冠に入れた新店の開店に踏み切りました」(佐伯さん)
 また当時は時代的にも石窯に注目が集まる流れがあった。新しい場所で新店を出す上で人を呼び寄せるにはなんらかのインパクトが必要だった。
 「石窯のあるパン屋というのはやはりPRポイントにはなります」(佐伯さん)
 結局、予算も考慮した上で、通常のデッキオーブンを併せて揃えながら、講習会のメーカー(ツジ・キカイ)の石窯を購入・設置した。



石窯では、ハード系プレーン商品やフランスパン生地を使った食パンのほかにも様々なパンを焼成
石窯オーブンの前の作業台の様子。香ばしい焼きたてのパンが窯から出され次々と並べられていく
石窯オーブンの前の作業台で仕上げを行っている様子
お昼時には、多くの客が来店し、混み合う。レジには行列ができる
入口付近に貼られた求人募集の紙
活気のあるレジの様子
2種類のオーブンを併用する

 その後、新店設立から8年が経ち、石窯のあるパン屋として地元に根付いた店へと成長した後、新機種に交換。
 それから4年半経った現在も、同店の石窯はオープン時と変わらず入口を入ってすぐ右手の売場からはっきり見える場所に置かれている。
 1日に何度か決まった時間に焼き上がったパンが窯から出され、すぐ前の作業台に置かれ客の目の前で仕上げなどが行われる。
 主に「バタール」(取材当日は土曜セールで39円引きの税別205円)、「十勝バゲット」(税別241円)などのハード系プレーン商品のほか、おなじくハード系生地にチーズを練り込んだ「チーズブール」(税別500円、ハーフ税別260円)や、フランスパン生地を使った食パン「大地食パン」(税別325円)などが焼成されている。
 また場所が空けば流動的に色々な種類のパンを入れて焼く事もあるという。香ばしい焼きたてのパンが窯から出され次々と並べられていく姿は、客の視覚と嗅覚を直接刺激する。作業台のパンは場合によってはその場で小さく切られ、試食として提供される事もある。
 「火力が強いので何かあって短時間で焼成したいような時にも石窯は便利です」(佐伯さん)
 ただ1段のみのタイプを入れているので、一度の焼成で入れられる量には限りがある。その他の食パンやソフトな惣菜パン、菓子パンなどは併設する3段タイプのデッキオーブンで焼成する事が多い。
 それでも石窯から客の目の前で取り出されていくパンの姿は大きなデモンストレーション効果がある。勿論、石窯で焼いたハード系のパンには根強いリピーターも多い。
 現在同店は、多い時で1日の来店者数が800人を超える事もある繁盛店だ。ただ現在は、食パンやハード系のパンのほか惣菜パンや菓子パン、サンドイッチに至るまで幅広く様々な種類を揃え、地元住民に愛されている事、スカイツリーなどへの観光客が立ち寄る事がある事も繁盛の理由として大きくなってきている。
 「それでも石窯はオープン時にはインパクトが強いですから、初期の段階では店の成長に大きく貢献してくれたと思います」(佐伯さん)



「チーズブール」(税別500円、ハーフ260円)
「チーズブール」(税別500円、ハーフ260円)
フランスパン生地を使った食パン「大地食パン」(税別325円)
「石窯ピザ」(1カット税別182円、ホール税別1570円)
売場からオープンキッチンが見える
佐伯信郎社長
選択肢の一つとして石窯を考える

 一方で、佐伯さんは、新店を今後出そうとする人へ安易に石窯を入れる事をすすめはしないとも言う。「おいしいものを表現する形も多様化してきているから」というのがその理由だ。
 例えば、生地の発酵の方法一つをとっても今は昔に比べて様々な方法があり、またトレーサビリティーを重視した作り手の顔が見える食品作りに注目が集まるなど、20年位前であれば考えも寄らなかったような事が起きている。
 また石窯同様、通常のオーブンも改良が進み、今では部分的に石窯の機能を持つものや炉床に天然石を入れ蓄熱性が高いものも出てきている。
 佐伯さんは「確かに石窯で焼いたパンはおいしいですし、店内に置くと見栄えがし集客効果はあります」と話す。ただ設置スペースの問題や予算、小物を含めて様々な商品を出す事を考えると、通常のオーブンと併用せざるをえない事が多い。「ある程度規模のある店なら良いと思うのですが、小規模店で少量多品種の商品を揃える場合は、省コストで小回りがきく通常のオーブンでも良いかもしれません」(佐伯さん)
 そんな同店にとっての今後の課題は人材教育という。実は昨年から完全週休2日制を導入した。今は、満足度の高い商品・接客サービスを生み出すためのシステム作りがまずは先決だ。
 「石窯は店が伸びる大きなきっかけになりました。今後は引き続きお客様に喜んでもらうため、様々な取り組みに力を入れていきたいですね」(佐伯さん)。

SHOP DATA
店名:石窯パン工房KAMEYA
住所:〒131-0033 東京都墨田区向島3-39-8
電話:03-3625-2201
営業時間:午前6時30分〜午後7時
定休日:月曜、火曜
品揃え:80〜90品目
スタッフ:製造8人、販売7人
店舗面積:売場16坪、厨房34坪、テラス8席
日商:約60万円

石窯を使うことが強みになると確信していた - 石窯パン工房TAKU
オーナーシェフの高橋拓也さん(右)と製造チーフの上野歩さん(左)。窯はツジ・キカイの平窯王
クルミ入りの「カンパーニュ ノア」(税込500円)などハード系は大きめに焼かれている
「カンパーニュ ノア」(税込
500円)の断面
神奈川県西部に位置する、温泉のある観光地としても有名な湯河原町にある「石窯パン工房TAKU」は、開業して約5年半が経つベーカリー。

設置場所や看板で石窯をアピール

 同店では、開業するに当たって真っ先に決めた機械がオーブンで、オーブンを石窯にすることについては迷いがなかったという。
 オーナーシェフの高橋拓也さんは、石窯に決めた理由についてこう話す。
 「石窯を使うことは、一番の強味になると思いました。石窯でパンを焼くと、むらなく焼けるので品質が安定するからです」
 「開業前に勤めていた都内のベーカリーで、石窯は使っていなかなったのですが、その店でお付き合いのあったメーカーから石窯についての情報は入っていましたので、開業するときは石窯を使いたいという思いがいつの間にか固まっていました」(高橋さん)
 石窯を使うことのメリットは、客に対しても積極的にアピールしている。輻射熱と遠赤外線の作用によって、おいしく焼き上げることができるという内容を書いた看板を、店の前を通る人に向けて掲示している。
 また、店内に入ると、まずはじめに目線の先に石窯がくるように設置した。
 「石窯の設置場所が大事だと思いました。当店のお客様が必ず目にできる場所にして、石窯で焼いていることを知ってもらい、だから当店のパンはほかと違うということを実感していただきたいと思ったからです」(高橋さん)
 実際石窯が見えることなどから、客から石窯について聞かれることも多いという。
 「細かいことを訊ねてくる方はいらっしゃらないですが、『大きくて立派な窯ですね』とか、『高そうですね』などと、窯を見ながら褒めていただくことがあります。そういうとき、『あの窯は、石窯なんですが、炉床の石の部分が、大きな一枚の石でできているんですよ』と話すと、驚かれます。もっと興味がありそうな方には、『一枚の石だと、つなぎ目がない分、熱を逃がさず一気に焼き上げることができるんです。均等に熱が入るのでおいしく焼けるんですよ』などと説明します。でも、お客様には、こうした細かい説明をするのは、ちょっと違うかなとも思うので、滅多にすることはありません。おいしいと思っていただくことが大事ですから」(高橋さん)

「JR湯河原駅から1キロほどの場所にある「石窯パン工房TAKU」
石窯は、入店した客の目線の先にあるように設置した
食パンは、角食の「食パン〜TAKU〜」(税込250円)、山型の「食パン〜海〜」(税込280円)など6種類
角食の「食パン〜TAKU〜」(左、税込250円)と山型の「食パン〜海〜」(右、税込280円)の断面
湯河原みかんの皮を練りこんだ生地で粒あんを包んだ「湯河原あんぱん みかん」(税込160円)
「湯河原あんぱん みかん」の断面
幅広いアイテムをおいしく焼ける

 同店の主な客層は、地元の高齢の女性や学生だ。また、温泉のある湯河原町ならではのことだが、近隣の別荘地から車で買いにくる人も多いという。
 「ソフト系を好む方と、ハード系を好む方と、お客様のタイプはかなりはっきりと分かれています。別荘地から車で来店される方の中には、『ハード系はこちらのパンと決めているんですよ』とおっしゃってくださる方もいます」(高橋さん)
 ハード系は、「バゲット」(税込290円)や、クルミ入りの「カンパーニュ ノア」(税込500円)、このほかゴマ入りのものなどで、大きめに焼き上げたものが多い。
 「石窯で焼き上げると、短時間で焼き上がって水分が余分に出ず、中がしっとりと焼き上がります。固いのが苦手という方には勧めることはできませんが、保水力のあるハード系のパンは、ぱさつかないので食べやすいと思います」(高橋さん)
 食パンは、角食の「食パン〜TAKU〜」(税込250円)、山型の「食パン〜海〜」(税込280円)、地元の名産品の湯河原みかんの皮を練りこんだ角食「食パン〜山〜」(税込500円)など、6種類ほど揃う。
 「自家製酵母として、地元の酒蔵の酒粕から起こした酒種を、ハード系以外のパンに使っています。食パンは、その酒種を入れていることと、さらに石窯で焼き上げることで、よりしっとりとした食感に仕上がっていると思います。湯河原みかんの皮を練りこんだ『食パン〜山〜』の生地は、卵とバターをたくさん使っているので、ブリオッシュに似た生地なのですが、ふわふわしてかつ、しっとり感もある焼き上がりになります。みかんの皮は、知人のジャムメーカーに特注しているのですが、みかんの香りは、身よりも皮の方にあるということで、その皮を細かく加工してもらったものを、生地に練りこんでいます。石窯だと、水分を飛ばさずに済むので、みかんの風味もしっかり保持できているのではないかと思います」(高橋さん) 
 「食パン〜山〜」と同じ生地を使ったあんぱん「湯河原あんぱん みかん」(税込160円)もあり、ご当地あんぱんとして売り出している。星形の形状と黄色味のある見た目で、土産にも向きそうな商品だ。中の甘さ控えめの粒あんと、みかんの風味が爽やかで、しっとりとした食感のパンと、バランスよく融合した味わいとなっている。
 このほか、「クリームパン」(税込140円)や、「酒種あんぱん」(税込130円)などの菓子パンや、豆乳を練りこんだ生地に、サイコロ状のチーズをたっぷり巻き込んだソフトな食感の「Wにゅ〜」(税込180円)などの総菜パンなどバラエティー豊富な品揃えになっている。
 「前に働いていたベーカリーではレストランへの卸しをしており、製造量が多かったので、バゲットなどのハード系専用のフランス製の窯と、ソフト系専用の平窯を使い分けていました。今はすべて石窯で焼いています。様々な好みのお客様に合わせた商品を焼き上げるのに、不足はないですね」(高橋さん)

原価計算女王
原価計算女王
「パンプディング」(左、税込180円)と「豆腐プリン」(右、税込200円)
「クロワッサンラスク」(税込150円)
石窯の特徴を書いた看板を、店の前を通る人に向けて掲示している
パンから菓子まで一日中製造できる

 パンのほかに、「パンプディング」(税込180円)や地元の豆腐店の豆乳を使った「豆腐プリン」(税込200円)などの生菓子、「オレンジラスク」(税込150円)や「クロワッサンラスク」(税込150円)、「スコーン」(税込100円)などの焼き菓子もあり、これらは、パンを焼き上げたあとの余熱を利用する。
 「パンを焼き上げた後、火を落として、180度Cに下がったらスコーン、150度Cでプリン、100度Cでラスクという風に順番に焼いていきます。ラスクは扉を開けて乾燥焼きするのですが、一晩そのままの状態で置いておきます。火を付けていなくても蓄熱性があるので一日中利用でます」(高橋さん)
 しかし、蓄熱性があるということが、反対にデメリットに感じることもあるという。
 「温度を下げたいときは少し工夫が必要です。山食のように蓋をしないで焼くパンは、上火を低くしたいのですが、蓄熱性が高いので、なかなか下がらないんです。でも、慣れれば気にならないと思います」(高橋さん)

SHOP DATA
店名:石窯パン工房TAKU
住所:〒259‐0301 神奈川県足柄下郡湯河原町中央1‐20‐7
電話:0465‐63‐3377
営業時間:午前9時〜午後6時
定休日:日曜、第2第4月曜
品揃え:約60品目
スタッフ:製造2人、販売2人
店舗面積:厨房12坪、売り場8坪
日商:3〜4万円


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