将来を見据えた業態変更 - 龍月堂の永田和成社長 - ブランスリー電子版

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インタビュー/2017年9月号

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将来を見据えた業態変更 - 龍月堂の永田和成社長
焼き上がった食パンを窯から出す永田和成社長
 龍月堂は、1967年(昭和42年)に横浜市内で和菓子店として創業し、その後、現在地の東京・品川区北品川に移転。これまでに和菓子店として、先代が作ったカステラ・どら焼き・蒸し羊かんが明治神宮への献上品として認定されている。技術力に優れた店だ。2014年(平成26年)4月に2代目の永田和成さん(45歳)がベーカリーとしてリニューアルオープンさせたのがブーランジェリー龍月堂(03−3472−3638)だ。約10年間の沖縄でのベーカリー経営の経験を活かして業態変更を果たした。先代の父親のアイデアも活かしながら、次の進むべき道を模索する永田さんに話を聞いた。



和菓子店と見まがう龍月堂の外観
和菓子からパンへ転換

―――3年前にリニューアルオープンしたそうですね。
永田 ええ、2014年の4月にベーカリーとして再出発しました。元々は和菓子店だったんです。1967年に神奈川県横浜市の東急線日吉駅近くで創業しました。そこで約7年間和菓子を販売した後に、1974年(昭和49年)、現在地の北品川に移転しました。和菓子店としては2013年に先代の父が亡くなるまで経営を続けました。
―――2代目として和菓子店を継ぐ気はなかったのですか。
永田 ありませんでした。父はいつも忙しく働き、大声で指示する姿を見て育ちました。それに、父は「仕事は見て覚えろ」という姿勢でしたので、自分は積極的に後を継ごうという気持ちにはなれませんでした。子供の頃、会社勤めの父親を持った友人がうらやましかったのを覚えています。
―――それでも、同じ職人といえるパンの世界を選んでいますね。
永田 パンを選んだのは偶然なんですよ。高校時代に知り合った方がベーカリーの店長でした。その方が、将来的なことが何も決まっていないのなら「パンを作ってみないか」と誘ってくれたのです。パン作りなんて簡単だろうと思って入ったら、その奥深さに驚きました。この気持ちを父に話すと「あきらめずに続けろ」と言ってくれました。それと「和菓子は嗜好品だが、パンは毎日の食事に欠かせないものだ」とも言って、応援してくれました。
―――和菓子を強制するわけでなく、理解のあるお父様ですね。学校を卒業してからパンの世界一筋ですか。
永田 19歳からです。大手ベーカリー2社で修業を積んだ後、28歳の時にある機会を得て沖縄で暮らすことになりました。地元のベーカリーに2年間勤めました。

約10年間、沖縄で奮闘

―――その後すぐに開業したんですか。
永田 31歳で那覇市にオープンしました。那覇市内でおよそ7年間営業を続けた後、県内の北大東島に渡って、そこでは2年余り経営していました。父の健康問題もあって2013年に東京に戻りました。
―――沖縄での約10年間のベーカリー経営の経験から、地元北品川と沖縄の嗜好の違いをどう思いますか。
永田 どちらも、メロンパンやカレーパンなどがよく売れます。求めるパンにそれ程の違いはないと思います。むしろ味ですね。沖縄は味のハッキリしたものが好まれるようです。甘いものは甘く、しょっぱいものはしょっぱく。全体的に味は濃いように思います。
―――パンの価格はどうでしょう。
永田 安いですよ。例えば、カレーパンは100円までですね。それ以上だと買ってもらえません。品川なら180円〜220円でも販売できます。
―――随分と価格の差があるものですね。
永田 沖縄は低所得層が多いようで、パン製造直売のベーカリーでパンを買うのは公務員とか一部の人です。パンをスーパーで買う人が多いと思います。ベーカリーは特別な場所になっています。
―――沖縄で商売は成り立ったんですか。
永田 売れない時代が長かったですね。仕事があまりないのも原因の一つかもしれません。
―――仕事が無ければ、売れないのはパンだけではないでしょう。
永田 彼らは仕事は自分で作ったほうがよいと考えるようです。例えば、繁盛しているパン屋があれば、自分も店を持とうと開業するのです。その結果競合他社が増えて、売り上げに響くという具合です。

 メモ 厚生労働省発表の地域別最低賃金の全国一覧を見ると、2016年10月1日現在の沖縄の最低賃金は714円、東京は932円。永田さんが沖縄で開業していた今から10年前の2007年の最低賃金は沖縄が618円、東京が739円。



品川区の土産認定品の「焼きドーナツ」
自信作の食パン「スペシャルブレッド」
午後3時、既に商品は残り少ない
調理パン用食材で弁当も

―――東京に戻ってから、いわゆる商圏内の市場調査は実施したのですか。
永田 いえ、していません。父が和菓子店を経営している頃から、何というか、赤飯とかおかず系もよく売れたんです。
―――今なら調理パンですか。そういえば、調理パンの品数が多いようですね。
永田 40種の品揃えですが、調理パンは半数を占めます。よく売れますよ。
―――具材は自家製ですか。
永田 カレーパンは自家製です。後は、四国から冷凍で仕入れています。なるべく国産を使うようにしています。ウインナーにベーコン、それにソーセージは沖縄産の商品です。仕入れた材料を使って、弁当も作ります。
―――弁当ですか。
永田 7月から9月までの限定販売です。昼食用に1日20個から30個作ります。父からパンだけにこだわらず、おにぎりの販売も考えろと提案されました。それならば弁当だろうと、リニューアル当初から販売しています。1個400円から550円です。ワンコインで買える手軽さを考えた価格です。

価格改定にも一工夫

―――地方から食材を仕入れるなどコストを意識しているようですね。価格の設定には満足してますか。
永田 実は4月まで、沖縄の感覚が抜けていなかったんです。
―――どういう意味ですか。
永田 さっき言いましたが、カレーパンは100円じゃないと売れないと思っていました。この3年、沖縄での10年の経験が抜けなかったということですよ。だから小型のアンパンやメロンパンなどを60円から80円で販売していました。不思議に思われるでしょうが、特に東京の価格を意識しなかったんです。
―――経営への影響は。
永田 見かねた税理士さんが、このままではいずれ経営的に苦しくなりますよと言ってくれたんです。それで、改めて適正価格を検討しました。
―――品川らしい値付けが出来ましたか。
永田 5月から、妥当と思われる価格に変更しました。お陰さまで売り上げに問題はありません。
―――材料費が上がっていることへの対応は。
永田 旧価格を単に新価格に移行する気はありません。これまで60円のバターロールなら、形を丸パンに変えて、90円に値上げします。その際、バターの量を増やすなどお客様に納得していただける工夫をしています。

焼きドーナツが区内認定品に

―――ところで、先代から受け継いだ和菓子の技術を生かした商品はありませんか。
永田 そうした物はありません。ただ、長崎カステラの配合表はもらいました。作り方は父が亡くなったので教わりませんでした。
―――カステラは販売していないんですね。
永田 配合表をもとに製造を試みたのですが、私には難しかったですね。それで、この配合をアレンジして「焼きドーナツ」(税込150円)を作りました。火曜日と土曜日のみの販売です。1日60個から90個作ります。オープン時からの商品です。当時、品川観光協会から出品を要請されました。出品後、協会の審査の結果、品川区のお土産品として認定されました。
―――人気商品のようですね。
永田 卵の風味もよく出ていますし、普通のドーナツよりも柔らかいのが特徴です。スポンジケーキのような食感で、お客様から珍しがられます。
―――よく長崎カステラから焼きドーナツに作り替えましたね。
永田 結局、私には長崎カステラを作る力が無かっただけです。和菓子とパンの違いはありますが、技術的には父にはかないません。
―――お父様を大切にされていますね。
永田 父親というより師匠です。和菓子店を継ぐ気はありませんでしたが、いつも師匠と弟子という感覚で話をしていました。

焼き菓子中心に商機拡大

―――今後はどの様な店にしたいと考えていますか。
永田 本当はロールケーキを作りたかったんです。最初は洋菓子中心の店を考えていました。だから、今使っているオーブンも洋菓子用なんです。沖縄でも洋菓子は良く売れました。
―――何故パンになったんですか。
永田 開業を手伝ってくれた方がパン職人だったんです。
―――それだけの理由でパンですか。
永田 そうです。でも、今の立地とも関連するのですが、洋菓子をやろうかとも思っています。店の前にコンビニエンスストアがあり、コンビニと勝負するには洋菓子だなと思っているんです。
―――コンビニに対抗するにはパンよりケーキですか。
永田 チャンスロスが少なくて済むのは発酵時間の長いパンより、焼き菓子です。
―――また業態変更ですか。
永田 私の中では当初の考えに戻るだけです。ロールケーキに焼き菓子、それとシュークリーム中心ですね。
―――パンは一切作らないのですか。
永田 食パン、メロンパン、クリームパン、それにカレーパンは外しません。
―――毎日2回焼き上げるパンは、いつも売り切れ状態でしょう。店の評判はいいですよね。
永田 ターゲットの幅を広げようと思っています。この地域は高齢者の方も多い場所です。その方々を念頭に商品作りもしてきました。最近、20代から40代のお客様も増えています。昔からのお客様の声にもお応えすると同時に、将来を支えてくれる若い人たちにももっと足を運んでほしいのです。



原価計算女王
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