日常菓子としてのフランス菓子 - パティスリータツヤササキ - ブランスリー電子版

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お店拝見/2017年6月号

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日常菓子としてのフランス菓子 - パティスリータツヤササキ
オーナーシェフの佐々木達也さん
飾らない雰囲気の「パティスリータツヤササキ」の外観
焼き菓子コーナー。アーモンドやヘーゼルナッツのクッキー(各420円)や、マドレーヌ(税込180円)などが並ぶ
「ご自宅用フランス菓子」の普及を目指して

 4月末、東京・杉並区阿佐ヶ谷北に2号店を開店させた「パティスリータツヤササキ」。店内に並ぶ焼き菓子、コンフィチュール、季節のタルト、ヴィエノワズリーの品揃えは、パリの菓子店の商品構成をそっくり取り入れたもの。オーナーシェフの佐々木達也氏は、フランスの名店「ル・フュレ・タンラード・PARIS」のアラン・フュレ氏に師事し、パリ市内やノルマンディーなどフランス各地のパティスリー、ショコラトリー、レストランで修業を積み、本場の伝統的なフランス菓子を得意とする。
 「『本場の伝統的なフランス菓子』にどういうお菓子を連想しますか」と佐々木さん。「高級品」「宝石のような造形美」「高価な洋酒の香り」などのパティスリーへの一般的イメージに対し、佐々木さんは、「当店は、フランス人が日常的に食べている町のお菓子屋さんのフランス菓子を提供しています。私はそういうお菓子をフランスの『本物』と考えているのです」と話す。
 佐々木さんの師であるフュレ氏は、「高級フランス菓子のメインターゲットは観光客であり、一般の大多数のフランス人ではない。観光地で非日常的で高価なものを食べたいというニーズを満たすのが主な役割だ」と佐々木さんに説いたという。佐々木さん自身も、均一に整った美しさを重視する高級菓子よりも、フランス人が日常的に食べる菓子に魅力を見出すようになった。
 「焼き窯の中に入った菓子がどんな形で焼き上がるか、それは人の手の関与を超えています。ひとつひとつの菓子が同じようで少しずつ違う個性を咲かせて焼き上がるんです。そういう姿を好きになっていきました」(佐々木さん)
 同店は「フィナンシェ」が税込170円、「マドレーヌ」が税込180円、「サブレ」が税込160円と、本格志向のフランス伝統菓子店としては手頃な価格設定だ。
 「コーヒーとセットでワンコイン以内を想定しています。コーヒーと共に食べるのもフランス風ですから」と佐々木さん。さらに日本の洋菓子の存在について「贈答目的の比率がとても高いので、整った美しさが重視されるのも必然です。贈られる側も金額を推測しやすく、まさに『宝石』なのです。高価な贈り物や返礼として大事な役割を果たしているのですが、買った人は食べませんから味を知らないままです。贈られた側も贈った人に悪い感想を伝える事はまずありません。食べ物なのに肝心の味わいが主眼にならないんですね。これは高価な洋菓子ほどその傾向になりがちです。非常に惜しいと思います」。
 「270年の歴史を持つ本場の菓子の伝統的な味を忠実に再現し、現地のフランス人のように自分達の食べる日常菓子として楽しんでもらいたい」と佐々木さんは考えている。



各種の自家製ジャム(税込690円)も好評。クロゼイユ、マルメロなど趣向性の高い品も並ぶ。フランスのジャム職人エヂィルダ氏直伝の製法
「苺のタルト」(税込440円)。季節商品として「苺のパイ」(税込450円)、「ベリー類のタルト」(税込380円)なども。商品に合わせてタルト生地も変えている
スペシャリテの「マカロン ア ランシエンヌ 12個入」(税込880円)。紙の上に生地を絞って焼き上げ、紙ごと販売する本場サン・テミリオンのスタイルを踏襲。400年以上の歴史を持つ元祖マカロンの姿を受け継いでいる。レシピはシェフの秘伝とされ、書き残しは存在しない
「クロワッサン」(税込180円)。歯切れよくバターたっぷりのリッチな味わいは、耐油紙によって風味と食感を守られ提供される
「カヌレ・ド・ボルドー」(税込280円)(左)。硬い外層ととろりと柔らかな中身。こちらも伝統的な作り
60%のボリューム層に価値を伝えていく

 1号店の西八王子店は盛況。固定客も獲得し、関西から「おたくほどの美味しいカヌレは大阪の高級店のどこを探してもない」と定期的に買いに来る熱心なファンもいるという。菓子の愛好家の心を掴む一方で、佐々木さんは菓子のマーケットを「菓子全般に興味を示す『菓子ファン』が20%、ショートケーキや進物の焼き菓子など決まった菓子だけを買う『ボリューム層』が60%、菓子を買わない『無関心層』が20%」と分析する。ボリューム層は菓子にこだわりはなく、気に入ったものが出来るとリピートするタイプ。これらの人の好みは定番商品と話題や流行の商品だが、流行の商品は一度買って興味が満たされると大体それで終わってしまう。佐々木さんは、「菓子ファンの方々の好奇心や高い要求水準を満たしながら、ボリューム層が定番品として当店の菓子を愛好して下さるよう努めています」と話す。
 具体的な工夫として、同店ではスペシャリテの「マカロン ア ランシエンヌ」(税込100円)と各コンフィチュールの試食を実施。「まず召し上がって頂いて、知ってもらう事から始めています」と佐々木さん。
 次に、オーナーシェフの佐々木さん自らが接客も行う体制。同店では、佐々木さんの指導の元、製造も積極的に社員に教えている。社員が育ち、製造を担える割合が増えたことで、佐々木さんは接客に出て自ら顧客に商品説明をし、コミュニケーションを取れるようになった。
 「製造をどんどん任せるのもフランス流です。レシピ開発やメニュー考案は私がやりますし、製造工程や仕上がりは厳しくチェックしますので、やると言ったスタッフには挑戦してもらっています」と、佐々木さん。
 また、それによって佐々木さんは販売を含めた店全体の把握、メニュー開発、経営や勉強に費やす時間等を確保出来ているという。
 「ショートケーキをやればもう少し楽に売上確保できるかも知れません。でも、勝ち方にこだわりたいんです。大きな利益を出す勝ち方以外に、自分の信念を貫く勝ち方もあります。私はそれを目指していきたい」と、佐々木さん。
 2015年の八王子商工会議所「お店大賞」を創業最短最年少で受賞し、インターネットの大手口コミサイトで地域のスイーツ部門1位なども記録している。「ボリューム層」へのアピールは着実に実績を作っている。

必要のない包装はできる限り抑える

 佐々木さんの店は「徹夜禁止」。仕込みを前日に終え、朝は8時半から始業し、基本の労働時間は午後6時まで。また、売上が伸びない夏には従業員に2週間の夏休みを支給し、仕事が暇な日は午後1時や午後3時で上がってもらっている。
 「仕事が終われば帰れる、となれば、従業員はダラダラ働きません。菓子店は冬がかき入れ時で忙しいので、夏は休み、冬は大いに働くようにしています」と佐々木さんは語る。
 「私が威厳を持ったシェフとして存在し皆に働いてもらう、という環境より、私も一緒に働き、皆を大事な戦力としてチーム作りをする方が、いい店を営むにはいいと考えています。目指すは『少数精鋭の特殊部隊』です」と佐々木さん。
 例えば、同店では菓子店で定番の箱詰や包装を極力省略している。
 「フランスがそうしていますし、包装は菓子製造と同じくらい時間が掛かるものです。包材も原価に含むと菓子の価格も上がりますから、私どもでは箱詰もタルト2個からです。クロワッサン用の耐油紙のように、製品の美味しさを保つために必要な包材は惜しみませんが、日常菓子に不要な装飾は最小限に抑えています」
 佐々木さんのそういった考えは、理念を共有するスタッフからも接客で顧客に伝えられる。従来の進物のための菓子店を求めて来店する顧客も多い中、新スタイルを開拓している同店は、強いチームワークを築くことで対応している。
 「お客様の声を聞き、自分のしたい菓子店と求められる菓子の間で、どうバランスをとったらいいかについて常に考えています。『売れる菓子』というカードはまだ切りたくないんです。師匠から受け継いだ伝統の味を正しく伝えながら、日本のお客様に何を提供していけるかを突き詰めていきたいと思っています」と佐々木さんはいい、強い意志で挑戦を続ける。

SHOP DATA
店名:パティスリータツヤササキ阿佐ヶ谷店
住所:〒166-0001東京都杉並区阿佐谷北1‐33‐5
電話:03−5364−9306
営業時間:午前11時〜午後8時(火曜から日曜)、午後1時〜午後5時(月曜日=乾き菓子のみの販売)
定休日:不定休
品揃え:約43品目
スタッフ:製造2名、販売1名
店舗面積:厨房5坪、売場5坪



この記事の読みどころ

●同一アイテムでも、ひとつひとつの菓子が少しずつ違う個性を咲かせて焼き上がる。
●コーヒーとセットでワンコイン以内が価格設定の基本。
●販売スタッフにも製造を積極的に教える。
●包装は実用性を重視し、できる限りシンプルに。

※あくまで編集部からの提案です。このほかにも様々な読みどころがあると思いますので、読者の皆様の視点で、エッセンスを抽出してください。





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