リテールベーカリーの今後 - ブランスリー電子版

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特集/2017年6月号

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リテールベーカリーの今後




パンと顧客を愛せれば、リテールは生き残れる - ピーターパンの横手和彦会長
横手和彦会長
ピーターパン石窯パン工房店の外観
人気商品の「コクうまカレーパン」(税込み172円)。味わい深いカレーとともに、焼きたての温もりと香りの高さが魅力。陳列されたそばから売れて行く
「ベーカリーは楽しい場所」という印象を一目で感じさせる内装。スタッフも売り場の客をよく見て、積極的なサービスに励んでいる
 「日本のパン市場におけるリテールベーカリーのシェアは減少傾向」と見られる中、郊外店隆盛の時代を切り開き、今も発展を続ける「ピーターパン」。その会長としてリーダーシップを発揮する横手和彦氏に、日本のベーカリーのこれからを聞く。

日本のベーカリーの現状と海外のベーカリー事情

──現在のパン業界は、ホールセールがシェアを伸ばしています。まずは現在のホールセールの強みについてどう見ておられますか。
 横手 あるデータでコンビニが全体の26%程度にシェアの伸ばしていると聞きました。コンビニは我々リテールの講習会にも熱心に参加し、レシピだけでなく、リテールのパンの弾力性やそれを作り出すための成分研究などにも努めているようです。パンの味を向上させ、デフレを追い風に低価格で販売しているホールセールは、現在の消費者の消費傾向と合う部分が多いのでしょう。
 20年以上前、渡米して我々がアメリカで見たベーカリー業界は、リテールのパンがホールセールの2〜3倍の値段で売れていました。例えば、バケット1本が、ホールセールで1ドル、リテールで2〜3ドルという具合。当時の日本では、リテールのパンがホールセールのパンより高い値段で売れるとは考えられていませんでした。でも、アメリカの流行をなぞるように、日本にもそういう時代が来ました。当社でば、「焼きたて、揚げたて、作りたて」という生鮮食料品のような鮮度の提供を大事にしていますが、そういった、「付加価値を大事にする」というリテール的なパンも評価されるようになったのです。逆に今は、付加価値に重きを置くグルメなお客様の総数が減っているのかも知れません。高付加価値と安価のどちらを武器にするかが問われます。
──アメリカのパン市場は、今後も日本のベーカリーの将来予想の参考になるのでしょうか。
 横手 「アメリカは日本の10〜20年後を見通すためのベンチマーク」という見方があります。ニューヨークの「DEAN & DELUCA」のようなパンとパン以外も扱うベーカリーの在り方が日本で伸びていく可能性もあるでしょう。参考とするなら、東海岸は「流行」です。クロワッサンドーナツのような人気商品は東海岸で生まれています。
 一方、「生活様式」は西海岸です。2〜3年前に行ったロサンゼルスの視察では、ダウンタウンの回帰が進み、白人も増えていました。その中で、ベーカリーカフェが伸びてきていました。日本でも早速その様式を取り入れたベーカリーカフェが誕生しているようですね。コンセプトは、「パンとサンドイッチ、サラダやスープ、そしてお酒も提供するカフェ」です。お店もメニューもお洒落でアメリカナイズされています。
 とはいえ、日本でいつアメリカの流行を取り入れるかの見極めは難しいでしょう。早すぎると、日本のお客様の心に響かないこともあります。
 当社ではカフェ業態としてFC店「ピーターパン珈琲」が、「パンが美味しい喫茶店」というコンセプトで、船橋市三咲にオープンしました。お陰様でご好評を頂いています。

東アジア諸国への日本のベーカリーの進出

──日本のベーカリーが海外で店舗を開く動きについてはどうお考えですか。
横手 日本のお客様向けのホスピタリティーは製パン業に限らず、外国人に好評のようです。海外に新たに進出する場合の我々ベーカリーの大きな強みでしょう。特に中国の上海や東南アジアのクアラルンプールなどの都市部では、リテールベーカリーの需要の高まりを感じます。昭和40年代の日本の様子に近いイメージでしょうか。今後の発展を感じる場所です。
 海外店舗の実現の可能性は、かなり高まって来ているでしょう。私の知っている限りでも、具体的に開業を検討している日本のベーカリーはあります。
 ただ、見通しとしては、好条件ばかりではないかも知れませんね。人が集まる場所は家賃が高騰します。すると、人件費も上がりますし、固定費が高くなる事が考えられます。そうなるとリスクの高さが予想されてきますね。このリスクをどう考えていくかもポイントでしょうね。



人気商品の「塩バターロール」(税込み129円)。チベット高原の湖塩とバターのマッチングが絶妙
大ヒット商品の「元気印のメロンパン」(税込み140円)。ほんのりした甘さとさっくり、しっとりとした食感が特徴
リテールの技術力は求められ続ける

──日本のリテールベーカリーは、今後どのようなお店が生き残れるでしょう。
横手 これからのパン職人がどんな目標を持っているかにもよると思います。いわゆる「働き方改革」の時代のパン職人は私達の修業時代に比べて労働時間が短く、技術を磨く時間が少ないですね。「週休二日」「残業なし」というのも働き方のひとつですが、一日中パンの事を考え、必死になって技術を磨いて来た私にしてみたら、仕事を終えたらパンの事を忘れる生活では、いい職人になるための修業時間が足りないと思います。パン作りを一生の仕事にしたいならば、必死になって勉強し、製パン技術やサービス力を磨く事が必要です。逆に、それが出来れば、夢はぐんと近づきます。
 しかし、技術を磨いた先にもまだ壁はあります。ヨーロッパで修行を積んて高い技術力を身につけたパン職人が日本で開業したけれど、どんなにいいパンを作っても最初はあまり売れなかったそうです。しかしある時から売上が3倍に伸び、土日は製造一人の小さなお店で日商15〜20万円になりました。ブレイクのきっかけは「お客様が何に喜んでくれるか」を考えるようになったことだそうです。それを私は「マーケティング」と考えます。働き者でパンが好きで「お客様に喜んでもらう事が自分の喜び」と考えていることが、良いベーカリーを作る条件です。
 例えば、当社ではピーターパンの「私たちは一人ひとりの可能性を尊重し、共に学び共に成長しお客さまと共に幸せになります」という経営理念に基づき、会社と社員がお互いに成長し、お客様にも喜んで頂くという在り方の中での好循環があります。これはビジネスとして利益も出るベーカリーの形態です。地域の一番店を目指し、そこから2店舗、3店舗と発展させていくこともできるでしょう。
 ピーターパンでは、社員の家族との時間や有休消化も重要視しています。毎年有給休暇を利用して北海道や九州に研修旅行に行く企画があるのですが、これには交通費と1泊分の宿泊費を会社が提供しています。1日は現地のベーカリーで働く体験をしたり、勉強会に出たりして、その後は家族と共に自由に旅行することもできます。
──小規模リテールベーカリーの今後はどう思いますか。
 横手 「家族でパンを作って暮らしていく」という家族経営の小型ベーカリーも今後生き残っていけると考えます。家がお店ですから、住宅と別に店舗を構えたケースと比べてコストは3分の1程度に圧縮可能でしょう。人件費は家族で賄えるし、パン作りが大好きで一生続けたいと思ったら、老後もずっと続けていける仕事です。営業時間を短くして、残りの時間は好きな事をやってもいいでしょう。田舎だったら畑をやってみたり、海に行ったりもできます。自分達が生活できる分を稼ぐビジネスモデルですが、もしも儲けが出たらラッキーという楽しみもあるでしょう。最大のリスクは健康を害する事で、家族が倒れるとそれまでという側面はありますが、私自身もパン職人として、そういう小さなベーカリーを一生続けていけたら幸せだろうと思います。

店名:ピーターパン石窯パン工房店
住所:〒273−0021千葉県船橋市海神3−24−14
電話:047−410−1021
営業時間:午前7時〜午後8時
定休日:木曜日
品揃え:約100品目
スタッフ:製造17人、販売3人 他パートスタッフ45人
店舗面積:厨房46坪、売場20坪
日商:平均120万円



発想力から生まれるマーケティングが鍵に - ジャパンベーカリーマーケティングの岸本拓也社長
ジャパンベーカリーマーケティングの岸本拓也社長
神奈川県横浜市の東急東横線「大倉山駅」近くの「トツゼンベーカーズキッチン」
 ジャパンベーカリーマーケティングの岸本拓也社長は直営店である「トツゼンベーカーズキッチン」を繁盛させた経験を生かし、ベーカリーの開業希望者を対象に開業支援などのコンサルティング活動を行っている。今後のリテールベーカリーが目指すべきビジョンは何かについて岸本社長は「発想力」を一つのキーワードとして掲げている。

ベーカリーは人が集まる場所

──岸本さんは開業前、ホテル業界で広報やマーケティングなどの業務に携わっていたのですよね。現在のようなコンサルティング活動をされるようになった経緯を教えてください。
 岸本 ホテルベーカリーのブランディング活動をする機会があり、その際に「パン」は、商品単価は小さくても、その分、客数を集められる食べ物だと感じました。私はとにかくお祭りやパーティーなど人が集まる場所が好きなので、ベーカリーという場所に魅力を感じたのです。もともと学生の頃から飲食業に興味を持ち、いずれは自分の店を持ちたいと考えていたので、結局、一念発起し、ホテル時代に知り合った製パン技術者をよび、私が店のプロデュースを行う形で、2006年に「トツゼンベーカーズキッチン」を横浜の大倉山駅近くに開業することとなりました。その後、自分の経験を生かし、2012年に現在のジャバンベーカリーマーケティングの前身である「小さなパン屋ネットワーク」を設立し、ベーカリーへのコンサルティング業務を開始したのです。
──コンサルティング業務を開始する前に、何か転機となるような出来事があったのでしょうか?
岸本 実は2010年に「トツゼンベーカーズキッチン」をリニューアルした事が大きなターニングポイントとなっていますね。
 2006年の開業当時は、ホテルベーカリーの要素を基軸とし、デザイナーズホテルのような空間でスーツを着た接客を行うなど、話題をよぶようなものをあえて取り入れていました。しかし、リニューアルした店舗では、ホテルベーカリーを基軸とした部分も残しつつ、日常性のある「まちのパン屋」として「ちょっと高級・ちょっとおしゃれ」な感覚を大切にするような店へと変えたのです。
──もともと開業から数年後には店のコンセプトを大きく変えると予定していた事もあっての再構築とお聞きしましたが、具体的にはどのように変えたのですか?
岸本 まずは売場を対面式からセルフサービスへと変えました。それから製パン技術者の個性に合わせて、惣菜系のソフトなパンも充実させる一方で、ハード系の人気商品も変わらず販売しました。
 価格も平均的には下げて、お客様からみて幅広く選択できるようにすることで、客単価より客数を増やせる戦略にシフトしました。特に近辺の第一次商圏に絞って、より多くの方に来てもらうことで、「ハレの日のパン」を売る店から、「毎日のパン」を売る店へと変換を図ったのです。
──お店のコンセプトを変えた事が岸本さんにとっても大きな変化を起こしたのですね。
岸本 どちらが良い悪いではなく、お店それぞれの個性を表現するための「発想力」というものがより必要であると実感するようになったのです。パンという「モノ」のみに着目するのではなく、お店全体を楽しんでもらいたいと考えました。そのためにある程度理論に基づいたマーケティングやプロデュースが必要だと感じました。そしてこれを他店にも広めていきたいと考えるようになったのです。

「焼きたて」だけが個性ではない

──岸本さんはこれまで全国各地で、数多くの開業希望者の相談にのってきたと思います。ただし、業界全体では開業率は減ってきているとも言われ、またホールセールに押されパン市場全体のリテールベーカリーのシェアも徐々に減ってきているとも言われています。こうした環境の中、今後、個人店のベーカリーが生き残っていくためには、どのような事ができるのでしょうか?
岸本 確かにホールセールのパンも最近は商品力が高まってきていますし、粉やカスタードクリームなどは個人店と同じ素材を使っている事も多い現状で、差別化が難しくなってきているのも事実です。
 個人店の良さは、焼きたてもしくは作りたての鮮度の高い商品を出せることで、90年代後半からつい最近までにかけてはとにかく焼きたてである事を前面に出して差別化していこうという風潮が強くありました。
 ただし実際は、個人店の良さは、単に焼きたてだけではなく、例えば販売の場面でこういった具材と合わせて食べると良いと提案したり、お洒落感のある内外装で人をひきつけたり、その店を訪れたいと思わせる総合的な魅力で出していかなければなりません。
──各店の個性を出していく事は確かに必要ですよね。しかし、作る事に追われて、その余裕がないという店舗さんもあります。
岸本 やはり人手不足と、若手の人材がなかなか育ちにくい事が、一つにはあります。
 「発想力」を育てるためにも本来ある程度の余暇が必要だと思うのですが、長時間労働の問題が障害になっています。長時間労働の解消には、効率化や機械化など細かい対策も可能ですが、その前に開業時から立地条件を慎重に選ぶ事を私はおすすめしていますね。
 例えば立地条件が極めて悪くお客さんが来ないのに焼きたて、作りたてを出そうとしたら、余分な労力を発生させる事になってしまいます。基本的な店舗運営のあり方をバランス良く考えていく必要がありますね。
 「作ること」「売ること」「広めること」「管理すること」の4つをバランス良く考慮した上で、マーケティング計画をしていかなければなりません。売れてない店は作ることばかりに追われてマーケティングが不足していることが多く、逆に、おいしくて売れていると言われているところでも、何らかの形でマーケティングはしているものです。



ジャパンベーカリーマーケティングが開業支援を行った店舗で、地産地消を実践するイタリアンシェフ、奥田政行氏をプロデューサーに迎えた「yamabikoベーカリー」(大阪市中央区)。「農家サンド」や「料理パン」を提案
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ビジョンを実現するマーケティング

──マーケティングをするために必要な事は何でしょうか?
岸本 市場をよく知る事です。私はホテル業務をしていた頃から食べ歩きが好きで色々回っていたのですが、飲食業の中で一番マーケティングが進んでいて参考になるのは居酒屋だと感じました。今でも居酒屋の店舗巡りはよくしています。
──その際には主にどんなところに着目して見るのですか?
岸本 まずは客数など店の活気を感じ取ります。次に接客のスタイル、またメニューの書き方や厨房の演出の仕方、客席を中心とした空間作りなどをよく見てセンスの良いものがあればどんどん取り入れていきます。
──商品でも内外装でもセンスの良さは大切ですよね。
岸本 商品の場合は店の7割を占める「定番品」をブラッシュアップする加減が大切です。リニューアルも店のコンセプトと合わせて微妙に変化させていかなければなりません。他店でやっているものをそのまま取り入れても、その店の特徴と合わなければしっくりこないような商品になる事もあります。
 内外装のデザインに関しても、まずは開業されるオーナーの要望をキーワード的に引っ張ってきて、デザイナーと相談しながら進めていくのですが、注意しなくてはならないのは周囲の町並みとのバランスも考えなくてはならないということです。例えば依頼主が「ナチュラル」な感じを希望しても、町並み次第では逆にナチュラルすぎて埋没してしまう場合もあります。
 その際には現実的な事を伝え、厳しい事も言いますね。基本的には、ある程度目立ちながらも品が良いものを目指し、我々が「雑な丁寧さ」と呼んでいる要素を大切にする事をおすすめしているのですが。
──自分がどんなベーカリーを作りたいかというビジョンを持つ一方で、やはり市場の厳しい現実も知る必要がありますね。
岸本 そうです。例えば近くのコンビニで100円のホットコーヒーが売られているという事実を知らなければなりません。周囲の環境を常に意識した戦略を立てないと、厳しい状況に陥ることもあります。
 ただし、自分がどんなパン屋を作りたいかビジョンがしっかりあるのなら、そのためにも現実を「四方八方を向いて」見て、どんな形でそのビジョンを貫けるのか、そこを考えるべきです。
 ありとあらゆるものを見る事で、新しい発想も生まれてくるし、新しい需要を生み出すためにも、しっかりマーケティングをする必要がありますね。

社名:ジャパンベーカリーマーケティング株式会社
住所:〒227−0045神奈川県横浜市青葉区若草台10−1
電話:045−960−0655
設立:2013年8月1日(2012年に設立の「小さなパン屋ネットワーク」より組織変更)

原価計算女王
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